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9.実戦
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次の日からも、ブルクハルトは二人を交互に乗せて安全な土地を飛んだ。クリスティーナとばかり行動していても、竜騎士を選ぶことはできない。ジュリアンを乗せているときには、クリスティーナが赤龍に乗ることも涙をのんで許した。クリスティーナの練習時間を奪うわけにもいかない。
「赤龍さん、いつも兄がお世話になっています。練習に付き合って下さって、ありがとうございます。よろしくお願いします」
【こちらこそ、ガスパールにはお世話になっています。今日からよろしくね】
クリスティーナは赤龍に対しては緊張気味に挨拶していて、慣れてきても抱きついたりはしなかった。子供の頃の出会いが青龍であるブルクハルトへの気安い態度に出ているのかもしれない。なお、エッカルトの律儀な返事はガスパールがかなり短く意訳して伝えていた。
二人の竜騎士候補が空の上で自由に剣を振れるようになった頃、ヴェロキラ辺境伯の助言で魔獣との実践に赴くことになった。ブルクハルトにはクリスティーナを辺境の魔獣と戦わせる心の準備に時間がほしかったが、辺境伯はのんびり待っていてはくれない。
しかも、辺境伯が最初に指名したのはクリスティーナだ。その方がブルクハルトのためになると言われたが、父の助言にブルクハルトは首を傾げるしかない。
「今日もよろしくね」
クリスティーナの言葉に青龍になったブルクハルトは大きく頷く。手を差し伸べて背中まで運ぶと大空に飛び立った。
「今日は実践なのに、喋ってくれないのね」
【……】
クリスティーナの寂しそうな声に胸が痛む。子供の頃に小竜として会ったときには、ブルクハルトも慌てていて、つい会話をしてしまった。しかし、今は婚約者として共に時間を過ごしているので、言葉を発したならブルクハルトの声だとすぐに分かってしまうだろう。気づかれなかったら、それはそれで悲しい。
「ティナ、無理はするなよ。あくまでお前は仮の竜騎士だ。戦力に入ってない」
ガスパールがエッカルトに乗って近くを飛びながら、険しい表情で釘を刺す。正式に竜騎士が決まるまでは、戦闘には先輩の竜騎士の同行が義務付けられている。青龍をいざとなれば止められる存在として、次に強い赤龍が今回は選ばれた。ガスパールなら、次期長であるブルクハルトに対して、遠慮なく苦言を呈する事ができるというのも理由だろう。
【『いつでも助けるから安心しろ』とか言ってあげなよ。素直じゃないな】
「うるさい」
ガスパールはいつも以上にイライラしている気がするが、妹が心配なだけだろう。ガスパールがクリスティーナの事を気にして、チラチラ見ているのでよく分かる。
「お兄さま、心配しないで大丈夫よ。私は青龍に保護魔法をかけることも出来ないんだし、無理はしないわ」
「……そうだな」
本当は番なので正式な竜騎士契約を結ばなくても竜に魔法をかけられるが、ガスパールはもちろん伝えなかった。ブルクハルトもクリスティーナの安全のために伝えたい気持ちをグッと堪える。
【ブルクハルトも無理しないでね。ガスパールがピリピリしてて怖いからさ】
エッカルトの言葉に、ブルクハルトは視線で了解を伝えた。ガスパールがどうしようとブルクハルトには関係ないが、無理するとクリスティーナに危険が及ぶ。
もっとも、今日は無理するような場面はないと思っている。危険に陥るほど多くの魔獣と対峙する予定がそもそもないのだ。
建国史で語られているように、人類は魔獣をヴェロキラ辺境伯領にある山脈に追い込むことに成功した。当初は魔獣との戦闘が毎日のように繰り返されていたようだが、今は魔導師による結界がしかれている。人間が食料にしているような狩人でも倒せる魔獣は国内中の森に生息しているが、竜人の力が必要となるような強い魔獣は辺境伯領にある結界の外側に押し留められているのだ。
「あれが、辺境の結界なのね。初めて見るわ」
クリスティーナが結界を見下ろして、警戒するように口を開く。ブルクハルトたちは、これから結界の見回りに同行する。
結界は万能ではなく、一度に多くの魔獣が押し寄せ、それを跳ね返そうとすると破れてしまう。一応区画ごとに分けて管理しており、全部が一度に破れることはないが、それでも頻繁に破れていては安心して暮らすことができない。そのため、魔獣が同時に押し寄せて来た場合には、ある一定の割合で魔獣が結界を通過するようにできているのだ。
「とりあえず、結界の手前を飛びながら連絡を待つ。質問があれば戦闘になる前に聞いておけよ」
「うん!」
結界は魔導師が交代しながら監視しているので、魔獣が通過した場合には見回りの竜に魔導師から連絡が入る。ブルクハルトたちは、そこに赴き討伐すれば良い。通常ならこの時間は、見回り当番のガスパールとエッカルトだけで行っているので、戦力に余剰があり危険は少ないのだ。
【お、さっそく連絡が来たみたいだよ】
エッカルトが陽気に言って移動をはじめる。魔導師が連絡用に結界から出す音は竜の声に似せていて人間には聞こえにくいが、竜人なら遠い場所からも音が発せられた区画を認識することができる。ブルクハルトも自分たちだけだった時を想定して、音だけを頼りに結界を出てきた魔獣のもとへ向かった。
「赤龍さん、いつも兄がお世話になっています。練習に付き合って下さって、ありがとうございます。よろしくお願いします」
【こちらこそ、ガスパールにはお世話になっています。今日からよろしくね】
クリスティーナは赤龍に対しては緊張気味に挨拶していて、慣れてきても抱きついたりはしなかった。子供の頃の出会いが青龍であるブルクハルトへの気安い態度に出ているのかもしれない。なお、エッカルトの律儀な返事はガスパールがかなり短く意訳して伝えていた。
二人の竜騎士候補が空の上で自由に剣を振れるようになった頃、ヴェロキラ辺境伯の助言で魔獣との実践に赴くことになった。ブルクハルトにはクリスティーナを辺境の魔獣と戦わせる心の準備に時間がほしかったが、辺境伯はのんびり待っていてはくれない。
しかも、辺境伯が最初に指名したのはクリスティーナだ。その方がブルクハルトのためになると言われたが、父の助言にブルクハルトは首を傾げるしかない。
「今日もよろしくね」
クリスティーナの言葉に青龍になったブルクハルトは大きく頷く。手を差し伸べて背中まで運ぶと大空に飛び立った。
「今日は実践なのに、喋ってくれないのね」
【……】
クリスティーナの寂しそうな声に胸が痛む。子供の頃に小竜として会ったときには、ブルクハルトも慌てていて、つい会話をしてしまった。しかし、今は婚約者として共に時間を過ごしているので、言葉を発したならブルクハルトの声だとすぐに分かってしまうだろう。気づかれなかったら、それはそれで悲しい。
「ティナ、無理はするなよ。あくまでお前は仮の竜騎士だ。戦力に入ってない」
ガスパールがエッカルトに乗って近くを飛びながら、険しい表情で釘を刺す。正式に竜騎士が決まるまでは、戦闘には先輩の竜騎士の同行が義務付けられている。青龍をいざとなれば止められる存在として、次に強い赤龍が今回は選ばれた。ガスパールなら、次期長であるブルクハルトに対して、遠慮なく苦言を呈する事ができるというのも理由だろう。
【『いつでも助けるから安心しろ』とか言ってあげなよ。素直じゃないな】
「うるさい」
ガスパールはいつも以上にイライラしている気がするが、妹が心配なだけだろう。ガスパールがクリスティーナの事を気にして、チラチラ見ているのでよく分かる。
「お兄さま、心配しないで大丈夫よ。私は青龍に保護魔法をかけることも出来ないんだし、無理はしないわ」
「……そうだな」
本当は番なので正式な竜騎士契約を結ばなくても竜に魔法をかけられるが、ガスパールはもちろん伝えなかった。ブルクハルトもクリスティーナの安全のために伝えたい気持ちをグッと堪える。
【ブルクハルトも無理しないでね。ガスパールがピリピリしてて怖いからさ】
エッカルトの言葉に、ブルクハルトは視線で了解を伝えた。ガスパールがどうしようとブルクハルトには関係ないが、無理するとクリスティーナに危険が及ぶ。
もっとも、今日は無理するような場面はないと思っている。危険に陥るほど多くの魔獣と対峙する予定がそもそもないのだ。
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「あれが、辺境の結界なのね。初めて見るわ」
クリスティーナが結界を見下ろして、警戒するように口を開く。ブルクハルトたちは、これから結界の見回りに同行する。
結界は万能ではなく、一度に多くの魔獣が押し寄せ、それを跳ね返そうとすると破れてしまう。一応区画ごとに分けて管理しており、全部が一度に破れることはないが、それでも頻繁に破れていては安心して暮らすことができない。そのため、魔獣が同時に押し寄せて来た場合には、ある一定の割合で魔獣が結界を通過するようにできているのだ。
「とりあえず、結界の手前を飛びながら連絡を待つ。質問があれば戦闘になる前に聞いておけよ」
「うん!」
結界は魔導師が交代しながら監視しているので、魔獣が通過した場合には見回りの竜に魔導師から連絡が入る。ブルクハルトたちは、そこに赴き討伐すれば良い。通常ならこの時間は、見回り当番のガスパールとエッカルトだけで行っているので、戦力に余剰があり危険は少ないのだ。
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