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終章 王子様の決断

29.光

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 ディランは触れ合うだけの口づけをして、エミリーと微笑み合う。ディランが笑顔が眩しいと思いながら見つめていると、エミリーが本当に輝き出した。

「え……、えっ! なに!?」

 ディランは思わず叫んでしまう。エミリーがディランから離れようとするので、しっかり抱き込んだ。大広間からも見えていることに気がついて、ニ人の姿を魔法で消し去る。そんな対応をしているうちに、光は消えてしまった。

「なんだったんだろう?」

 大広間の方からざわめきが聞こえ、視線が集まってきているのを感じる。扉の近くにいた者が見ていたのだろう。

「エミリー、おかしい所はある? 痛いとか苦しいとかはない?」

「私は大丈夫です。ディラン様は?」

「僕も平気だよ。とりあえず、この場を離れた方が良さそうだね」

 好奇心旺盛な男子生徒が数人、こちらに向かって来るのがみえる。近衛騎士も集まって来ているようだし、皆からは見えていない状態でも、この場に留まるのは危険だ。

「ど、どうしましょう?」

「ちょっと、ごめんね」

 ディランは慌てているエミリーをヒョイッと横抱きにした。エミリーには内緒だが、少しだけ魔法で補助している。軟弱で申し訳ない。

「デ、ディラン様……。自分で歩きます」

「ドレスだと動きにくいでしょ。大丈夫、少しの間だけだから我慢してね」

 エミリーは重いからとか、アワアワと喋っていたが笑顔で受け流す。ディランは庭にやってきた人たちを避けながら、大広間に戻った。  

 エミリーから発せられた光は、明るい大広間からも目立っていたようだ。パーティは中断し、不安が広がっていた。チャーリーが近衛騎士に指示を出しているのが目に入るが、人が多すぎて姿を消したままでは近づけそうにない。

「控室に向かうね」

 ディランはエミリーに声をかけてから大広間を出ると、控室のソファにエミリーを降ろして隠蔽の魔法を解いた。

「エミリー、体調は大丈夫?」

「大丈夫です」

 エミリーは真っ赤になってボーッとしているが、あの光のせいではないだろう。ディランは一先ず安心して、チャーリーに宛てた伝言魔法を作り出す。

『兄上、パーティを続けていただいて構いません。問題はこちらで解決します』

 ボードゥアンの伝言魔法は綺麗な蝶だったが、ディランは習ったばかりなので、不格好な紙のような物が蝶のように飛んでいくのを見届ける。

「原因はゆっくり調べるとして、お茶でも飲んで落ち着こうか」

「は、はい」

 エミリーはまだ真っ赤な顔をしている。ディランは使用人に見せたくなくて、置いてあった道具と魔法を使って自分で冷たいお茶を用意した。

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」

 エミリーは火照った顔を冷やしながら、ゆっくりと飲み干した。ディランが様子を見守っていると、エミリーが表情を引き締めて見つめてくる。

「……ディラン様、確認して頂きたいことがあるんですけどよろしいですか?」

「うん」

 エミリーはゆっくりと息を吐き出してから、魅了の魔法を抑えていた腕輪に触れる。ディランはその動作にハッとした。

 エミリーが確認するように再び見上げてくるのでディランははっきりと頷く。エミリーは躊躇いがちにゆっくりと腕輪を外した。

「どうでしょう」

 ディランは腕輪の影響が減少するまで待って、エミリーの周囲の魔力を探す。出会った頃には感知しようとしなくても感じ取っていた異様な魔力はどこにも存在しなかった。

 念の為、エミリーにディランを魅了してみてもらったが、魔法の影響は感じない。

「魅了の魔法が消えてるみたいだね」

 ディランは驚きながら伝えるが、エミリーは、さほど驚いた様子もなく、ホッとしたように力を抜く。

「ヴァランティーヌ王女の日記にも書いてあったのかな?」

「はい、そのとおりです」

 エミリーは自分が光ったことに対して、ディランほど驚いた様子はなかった。むしろ、ディランが抱き上げたときの動揺の方が大きかった気がする。そう思って尋ねたのだが、ディランの予想は間違っていなかったようだ。
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