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終章 王子様の決断
15.久しぶりの日常
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エミリーはレジーの過保護すぎる態度に怒った話をしてくれていたが、ボードゥアンからの手紙が届けられて途中で切り上げることになった。ディランもレジーと同じ行動を取って叱られないよう、気をつけようと思う。
手紙を届けに来た騎士が部屋を出ていくと、ディランはその場で手紙を開いた。
『魔道士団長の件、了解。明日の午後には王都に着くよ』
手紙に添えられていた日付は昨日のものなので、ボードゥアンは今日のうちに帰ってくるようだ。思っていたより早い到着なので、ボードゥアンもチャーリーの指示を受けて引き返して来ていたのだろう。
「エミリー、師匠が帰ってくるみたい。午後から会いに行くけど、エミリーも一緒に来る?」
「はい。お邪魔でなければ、ご一緒させて下さい」
「じゃあ、後で迎えに来るよ」
ディランはとりあえずエミリーを病室に残して王宮に戻った。王太子から渡された追跡用のチェーンを返却してから私室に戻る。
ディランは久しぶりの自室で、ゆっくり浴槽に浸かって身体をほぐした。浴槽を出て身体を洗っているときに新たな問題に気づいたが、それはとりあえず棚上げすることにする。
ディランは昼前に再びエミリーのもとを訪れ、二人で病院を出た。病院で騎士に見守られながら暮らすのは気を使うようなので、このままエミリーがボードゥアンの屋敷で暮らせるよう頼むつもりだ。ボードゥアンなら、二人を快く受け入れてくれるだろう。
ルークの部下たちは護衛を続けようとしてくれたが、行き先を告げると安心した様子で送り出してくれた。魔道士団ほどディランたちにとって安全な場所はない。
ディランは2人の姿を隠したまま、ボードゥアンの屋敷に移動する。早すぎたようで、ボードゥアンはまだ戻ってきていなかった。エミリーが自分の部屋を整えている間に、ディランは弟子としての仕事に取り掛かる。
掃除などを終えて台所に移動すると、エミリーもやってきた。冷蔵庫の中身と相談して、夕食は簡単にシチューを作ることにする。2人で台所に立つのは久しぶりだ。
「ディラン様、お野菜切り終えました。ここに、おいておきますね」
「あ、入れちゃっていいよ」
「じゃあ、入れちゃいます」
ディランがお肉を炒めている鍋に、エミリーが順番に野菜を投入していく。鍋がジュウジュウと美味しそうな音を立てている。こんなに穏やかな時間は久しぶりだ。
「エミリーと料理をしてると、普段の生活に戻れたんだって実感してくるよ」
「私もです」
すぐ近くで満面の笑みを浮かべるので、ディランはエミリーの頬に口づけする。ディランがエミリーを見つめると分かりやすく真っ赤になった。昨日は抱きついて来たので踏み込んでみたが、これでもやりすぎだったらしい。
「あまりに可愛かったから……ごめんね」
「だ、大丈夫です!」
「あとは煮込むだけだから、座ってゆっくりしてて」
「は、はい。お言葉に甘えさせて頂きます」
エミリーはビュンと音がしそうな勢いでディランから離れていく。冷蔵室からお茶を取り出してグビグビッと飲んだ。本人は必死なんだと思うが、小動物のようで可愛らしい。
ディランが鍋をかき混ぜながらエミリーの様子を目で追っていると、落ち着いてきたのか、エミリーがディランに一番近い椅子に座る。
「仕込みも済んだしお昼にしよう。王宮の料理人が作ったから美味しいと思うよ」
「はい、楽しみです」
ディランはエミリーの表情を気にしながら、エミリーの髪に手を伸ばす。エミリーはディランの手をぼんやり眺めていたが、頭を撫でると、くすぐったそうに笑った。このくらいの方がエミリーには心地いいのかもしれない。
(当分はこれで我慢したほうが良いかな?)
ディランはエミリーの笑顔を見て、自分の欲をしまい込んだ。
手紙を届けに来た騎士が部屋を出ていくと、ディランはその場で手紙を開いた。
『魔道士団長の件、了解。明日の午後には王都に着くよ』
手紙に添えられていた日付は昨日のものなので、ボードゥアンは今日のうちに帰ってくるようだ。思っていたより早い到着なので、ボードゥアンもチャーリーの指示を受けて引き返して来ていたのだろう。
「エミリー、師匠が帰ってくるみたい。午後から会いに行くけど、エミリーも一緒に来る?」
「はい。お邪魔でなければ、ご一緒させて下さい」
「じゃあ、後で迎えに来るよ」
ディランはとりあえずエミリーを病室に残して王宮に戻った。王太子から渡された追跡用のチェーンを返却してから私室に戻る。
ディランは久しぶりの自室で、ゆっくり浴槽に浸かって身体をほぐした。浴槽を出て身体を洗っているときに新たな問題に気づいたが、それはとりあえず棚上げすることにする。
ディランは昼前に再びエミリーのもとを訪れ、二人で病院を出た。病院で騎士に見守られながら暮らすのは気を使うようなので、このままエミリーがボードゥアンの屋敷で暮らせるよう頼むつもりだ。ボードゥアンなら、二人を快く受け入れてくれるだろう。
ルークの部下たちは護衛を続けようとしてくれたが、行き先を告げると安心した様子で送り出してくれた。魔道士団ほどディランたちにとって安全な場所はない。
ディランは2人の姿を隠したまま、ボードゥアンの屋敷に移動する。早すぎたようで、ボードゥアンはまだ戻ってきていなかった。エミリーが自分の部屋を整えている間に、ディランは弟子としての仕事に取り掛かる。
掃除などを終えて台所に移動すると、エミリーもやってきた。冷蔵庫の中身と相談して、夕食は簡単にシチューを作ることにする。2人で台所に立つのは久しぶりだ。
「ディラン様、お野菜切り終えました。ここに、おいておきますね」
「あ、入れちゃっていいよ」
「じゃあ、入れちゃいます」
ディランがお肉を炒めている鍋に、エミリーが順番に野菜を投入していく。鍋がジュウジュウと美味しそうな音を立てている。こんなに穏やかな時間は久しぶりだ。
「エミリーと料理をしてると、普段の生活に戻れたんだって実感してくるよ」
「私もです」
すぐ近くで満面の笑みを浮かべるので、ディランはエミリーの頬に口づけする。ディランがエミリーを見つめると分かりやすく真っ赤になった。昨日は抱きついて来たので踏み込んでみたが、これでもやりすぎだったらしい。
「あまりに可愛かったから……ごめんね」
「だ、大丈夫です!」
「あとは煮込むだけだから、座ってゆっくりしてて」
「は、はい。お言葉に甘えさせて頂きます」
エミリーはビュンと音がしそうな勢いでディランから離れていく。冷蔵室からお茶を取り出してグビグビッと飲んだ。本人は必死なんだと思うが、小動物のようで可愛らしい。
ディランが鍋をかき混ぜながらエミリーの様子を目で追っていると、落ち着いてきたのか、エミリーがディランに一番近い椅子に座る。
「仕込みも済んだしお昼にしよう。王宮の料理人が作ったから美味しいと思うよ」
「はい、楽しみです」
ディランはエミリーの表情を気にしながら、エミリーの髪に手を伸ばす。エミリーはディランの手をぼんやり眺めていたが、頭を撫でると、くすぐったそうに笑った。このくらいの方がエミリーには心地いいのかもしれない。
(当分はこれで我慢したほうが良いかな?)
ディランはエミリーの笑顔を見て、自分の欲をしまい込んだ。
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