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終章 王子様の決断

11.アジト

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 王都を囲う塀を出てしばらく進むと、チャーリーの指輪は街道を外れたとある森の中を指し示した。徐々に指輪の引っ張る力が弱まっているので、目的地は近いと踏んで、その中を黙ってゆっくり馬で進む。やがて、木々の隙間から古ぼけた家が遠くにチラチラと見えてきた。

「あそこかもね」

「ここからは歩いて進みましょう」

 ディランたちは乗ってきた馬を秘密部隊に預けて徒歩で向かう。抱き上げて進もうとしたトーマスの優しさは、疲れていても、さすがにディランには受け入れられなかった。

 近づいてみると想像していたより大きな屋敷だ。増築を繰り返したのか歪な形をしているが、大きさだけなら末端貴族が暮らす屋敷と遜色ない。

 ディランたちは木々に隠れながら屋敷の周りをぐるりと一周したが、チャーリーの指輪はずっとこの屋敷を指し示している。

「ここにシャーロットの指輪があるとみて間違いなさそうだね」

 ディランは確信を得て追跡の魔法を断ち切る。チャーリーなら、指輪を回収するまで続けろと言いそうだが、今は後回しだ。事件解決後に秘密部隊が探してくれることだろう。

 ディランたちは、茂みに隠れて屋敷の様子を伺う。

「アジトから人が出てきたら追跡しろ、泳がせて首謀者との接触を待つ」

 ハリソンの命令で秘密部隊が動き出す。シャーロットが作り出した手がかりだ。力が入っているようで動員数がかなり多い。

「ここからは長期戦だろうし、僕は帰っても良い?」

「殿下、予想より早く追跡が終わったので、魔力が残っているのでは?」

「まだ、働かせる気?」

 ディランは動き出そうとした足を止めて、嫌な顔を隠さずにハリソンを見つめた。

「アジト内から人が減ったタイミングで、中に潜入するつもりです。隠蔽魔法をかけて頂けますか? 得意でしょ?」

 ハリソンが平然と非情なことを言ってくる。後日にしてもらいたいが、相手に気づかれて証拠を処分される前に潜入するべきだろう。トーマスが同情の眼差しを送ってくれているが、それだけで、擁護する言葉はない。

「隠蔽が必要になったら起こして」

「畏まりました」

 ディランはトーマスの背中を利用して仮眠をとる。他の魔道士を連れてこいとか、色々思うところはあるが言い争うのが面倒だった。

 …… 

「おっと!」

 ディランは背もたれが突然なくなって目を覚ます。

「悪い、ディラン。そこで寝てたの忘れてた」

 ディランが地面に転がって見上げると、トーマスがヘラリと笑った。

「トーマス。朝から気になっていたんだが、チャーリー殿下がいらっしゃらなくても、ディラン殿下には敬語を使いなさい。一緒に遠出するたびに敬語がとれて帰ってくるようでは困ります」

「失礼いたしました」

 ハリソンの説教に、トーマスは面倒くさそうに頭を下げる。

「僕は敬語じゃないほうが話しやすいんだけど……」

「殿下まで何を言うのですか」

 ディランが擁護してみたが、ハリソンは呆れたような顔で見てくる。

「だって、もうすぐ王籍を外れて公爵になるんだし。身分的にもそんなに問題にはならないでしょ?」

 2人とも跡取りなので、ゆくゆくは侯爵家を継ぐことになる。そうなれば公爵と侯爵だ。共に王家の家臣であるし、シクノチェス王国においては、王族と侯爵子息ほど明確な上下関係はない。

「……」

 ディランは当然のことを言ったはずなのに、2人は困った様子で顔を見合わせている。トーマスが何か言いたそうにしていたが、ハリソンが静かに首を振って止めていた。

「ちょっと、なに今の?」

「殿下、お疲れはとれましたか?」 

「えっ? あ、うん」

「でしたら、そろそろ潜入しましょう。日が暮れて人が戻ってくると厄介です」

 空を見上げてみると日没までそんなに時間がないことが分かる。

「ごめん、結構寝ちゃったみたいだね」

「お気になされずに」

 ディランたちは携帯食を軽く食べながら役割分担を話し合う。隠蔽の魔法をかけて、敵の根城となっているであろう屋敷に向かった。
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