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終章 王子様の決断
10.追跡
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ディランが謁見室を出るとハリソンだけでなくトーマスも待っていた。
「チャーリー殿下のことは聞いたか? 俺たちで必ず仇を取るぞ!」
「「……」」
トーマスの後ろにいる秘密部隊の人間たちが、ギョッとした顔でトーマスを見ている。王宮のど真ん中で『仇』だなんて不吉な言葉を叫ばないでほしい。それに『チャーリーの仇』ならここにいる。
「準備は出来てるのかな?」
「はい、大丈夫です」
「大丈夫だ」
ハリソンとトーマスが同時に返事をする。皆、街に紛れるため簡素な服装だ。ディランも儀式用に来ていた魔道士のローブを脱ぐ。
「ハリソンも行くんだね」
「今回のことは私の失策です。殿下だけに負担をかけるわけにはいきません」
「ありがとう。無理だと思ったら、すぐに離脱してね」
ハリソンは真剣な表情のまま頷く。片足を庇いながら歩いているので心配だが、いざというときに冷静な判断ができる人間は貴重だ。
「本当は闇に紛れて追跡したいところだけど、時間がないからこのまま行くよ」
「はい!」
「おう!」
ディランたちは王宮を歩きながら軽く打ち合わせをする。秘密部隊は隠れてディランたちのあとを追い、ハリソンの合図で合流するようだ。最初から大人数で動くと目立ちすぎる。
話し合いが無事に終わり王宮の裏口に着くと、馬が3頭用意されていた。ディランたちが普段から乗っている愛馬だ。
「コイツが一緒なら、敵がどこにいてもすぐに追いつけるぞ」
「トーマス、僕のことをおいて行かないでね」
気性の荒いトーマスの馬が早く走らせろとソワソワしている。今回は魔力温存のため乗馬に魔力は使えないので、本気で走るのはやめてほしい。
「追跡をはじめるよ」
「どのくらい正確なんですか?」
「どうだろう? 試してみて居場所が分からなかったらごめん」
魔道士団長が追跡を始めたら魔力を吸われ続けると忠告してくれたので、まだ試していない。ディランは首から下げたチャーリーの指輪を握りしめる。
〈〈チャーリー・シクノチェスの願いに応じ、伴侶の指輪を追跡せよ〉〉
ディランが唱えると同時に魔力が一気に吸われる。蓄積された疲れと相まってディランはふらついた。
「ディラン!」
「殿下!」
ディランはトーマスに支えられて何とか倒れずに済んだ。ポタポタと流れ落ちる汗を手で拭う。確認するとディランの魔力の半分近くが減っていた。
「ごめん、ありがとう。もう、大丈夫だよ」
「いや、ディラン。顔が真っ青だから」
ディランはトーマスの腕から逃れようとしたが、トーマスはそのままヒョイッと抱き上げて近くのベンチにディランを座らせる。
「少し休むか?」
「いや、魔力が吸われ続けてるから、早く移動したほうが良さそうだよ。シャーロットの指輪がどの方向にあるかは分かるけど距離を掴むのは難しそうだ」
ディランが握っていた指輪を離すと、指輪はふわりと浮いて、ある方角に向かおうとディランをグイグイと引っ張る。
「どのくらいの間、使用が可能ですか?」
「無理しても昼までってところかな?」
発動時に比べて魔力の減りは緩やかなのが救いだ。
「では、申し訳ありませんが、すぐに出発しましょう。トーマス、頼む」
「了解!」
「えっ、ちょっと待って!」
トーマスはディランを横抱きにして自分の愛馬にディランを乗せる。まるで深窓のお姫様であるかのような扱いに、ディランは大切な何かがゴリゴリと削られていくのを感じた。こんな紳士的な行動がトーマスに取れることに驚くが突っ込む余裕はない。
「さすがに横乗りはしないからね!」
ディランはトーマスが出発する前に正面を向くように馬に跨がりなおす。後ろに乗ったトーマスがディランの身体を片腕でガッチリ支えてくれているが、それを断ってしまう体力が残っていないことに落胆した。
「ディラン、大丈夫か?」
「大丈夫だよ」
トーマスは真面目な声で心配してくるので、ディランは気持ちを立て直して返事をする。ディランの愛馬が残念そうに見ていたが、今回は我慢してもらうしかない。
「よし、出発! ハリソン、遅れたら置いていくからな! ディラン、指示を頼むぞ」
「うん」
「了解!」
トーマスの馬は2人も乗せているとは思えないほど、グンッと加速する。
「まずは直進、方向がそれたときに声をかけるよ」
「おう!」
あまり喋ると舌を噛みそうだ。本当に深窓のお姫様だったなら気絶しているだろう。
ディランはハリソンが必死で追いかけてくるのを横目に、矜持を捨ててトーマスに身体を預ける。エミリーには絶対に見られたくないと自分の姿を確認してため息をついた。
「チャーリー殿下のことは聞いたか? 俺たちで必ず仇を取るぞ!」
「「……」」
トーマスの後ろにいる秘密部隊の人間たちが、ギョッとした顔でトーマスを見ている。王宮のど真ん中で『仇』だなんて不吉な言葉を叫ばないでほしい。それに『チャーリーの仇』ならここにいる。
「準備は出来てるのかな?」
「はい、大丈夫です」
「大丈夫だ」
ハリソンとトーマスが同時に返事をする。皆、街に紛れるため簡素な服装だ。ディランも儀式用に来ていた魔道士のローブを脱ぐ。
「ハリソンも行くんだね」
「今回のことは私の失策です。殿下だけに負担をかけるわけにはいきません」
「ありがとう。無理だと思ったら、すぐに離脱してね」
ハリソンは真剣な表情のまま頷く。片足を庇いながら歩いているので心配だが、いざというときに冷静な判断ができる人間は貴重だ。
「本当は闇に紛れて追跡したいところだけど、時間がないからこのまま行くよ」
「はい!」
「おう!」
ディランたちは王宮を歩きながら軽く打ち合わせをする。秘密部隊は隠れてディランたちのあとを追い、ハリソンの合図で合流するようだ。最初から大人数で動くと目立ちすぎる。
話し合いが無事に終わり王宮の裏口に着くと、馬が3頭用意されていた。ディランたちが普段から乗っている愛馬だ。
「コイツが一緒なら、敵がどこにいてもすぐに追いつけるぞ」
「トーマス、僕のことをおいて行かないでね」
気性の荒いトーマスの馬が早く走らせろとソワソワしている。今回は魔力温存のため乗馬に魔力は使えないので、本気で走るのはやめてほしい。
「追跡をはじめるよ」
「どのくらい正確なんですか?」
「どうだろう? 試してみて居場所が分からなかったらごめん」
魔道士団長が追跡を始めたら魔力を吸われ続けると忠告してくれたので、まだ試していない。ディランは首から下げたチャーリーの指輪を握りしめる。
〈〈チャーリー・シクノチェスの願いに応じ、伴侶の指輪を追跡せよ〉〉
ディランが唱えると同時に魔力が一気に吸われる。蓄積された疲れと相まってディランはふらついた。
「ディラン!」
「殿下!」
ディランはトーマスに支えられて何とか倒れずに済んだ。ポタポタと流れ落ちる汗を手で拭う。確認するとディランの魔力の半分近くが減っていた。
「ごめん、ありがとう。もう、大丈夫だよ」
「いや、ディラン。顔が真っ青だから」
ディランはトーマスの腕から逃れようとしたが、トーマスはそのままヒョイッと抱き上げて近くのベンチにディランを座らせる。
「少し休むか?」
「いや、魔力が吸われ続けてるから、早く移動したほうが良さそうだよ。シャーロットの指輪がどの方向にあるかは分かるけど距離を掴むのは難しそうだ」
ディランが握っていた指輪を離すと、指輪はふわりと浮いて、ある方角に向かおうとディランをグイグイと引っ張る。
「どのくらいの間、使用が可能ですか?」
「無理しても昼までってところかな?」
発動時に比べて魔力の減りは緩やかなのが救いだ。
「では、申し訳ありませんが、すぐに出発しましょう。トーマス、頼む」
「了解!」
「えっ、ちょっと待って!」
トーマスはディランを横抱きにして自分の愛馬にディランを乗せる。まるで深窓のお姫様であるかのような扱いに、ディランは大切な何かがゴリゴリと削られていくのを感じた。こんな紳士的な行動がトーマスに取れることに驚くが突っ込む余裕はない。
「さすがに横乗りはしないからね!」
ディランはトーマスが出発する前に正面を向くように馬に跨がりなおす。後ろに乗ったトーマスがディランの身体を片腕でガッチリ支えてくれているが、それを断ってしまう体力が残っていないことに落胆した。
「ディラン、大丈夫か?」
「大丈夫だよ」
トーマスは真面目な声で心配してくるので、ディランは気持ちを立て直して返事をする。ディランの愛馬が残念そうに見ていたが、今回は我慢してもらうしかない。
「よし、出発! ハリソン、遅れたら置いていくからな! ディラン、指示を頼むぞ」
「うん」
「了解!」
トーマスの馬は2人も乗せているとは思えないほど、グンッと加速する。
「まずは直進、方向がそれたときに声をかけるよ」
「おう!」
あまり喋ると舌を噛みそうだ。本当に深窓のお姫様だったなら気絶しているだろう。
ディランはハリソンが必死で追いかけてくるのを横目に、矜持を捨ててトーマスに身体を預ける。エミリーには絶対に見られたくないと自分の姿を確認してため息をついた。
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