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二章 誘惑の秘宝と王女の日記
29.誘い
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ディランたちは毎日夕食をとる店を変えながら聞き込みをしたが、中々情報を得ることはできなかった。日中は日雇いの仕事が見つかれば、どんな仕事でもこなした。犯罪スレスレの行為に関しては、ときとぎ現れるイチやシーに報告しておく。
そろそろ別の町に移るべきか。ディランがそう考え始めた頃に変化が起こった。
その日も、ディランたちは肉体労働を終えて町中の酒場で食事をし、宿に戻るところだった。暗くなった道を歩いていると若い男が後をつけてくる。
「トーマス、声をかけられても剣を抜かないでね」
「どうした? あー、あれか」
ディランがコソコソとトーマスに伝えると、トーマスは振り返りもせずに納得する。気配を察知したのだろう。それなら、カランセ伯爵家でも殺気を気にしてほしかったと、ディランは内心ため息をつく。
尾行を撒くべきか悩んだが、結局気づかないふりをして宿に向かった。男はディランたちが宿に入ると、そのまま何もせずに去っていく。ディランたちはその姿を宿の扉に隠れて見届けた。
「後を追うか?」
「うーん。今日は良いかな」
もし、先程の男がお目当ての犯人グループなら、ディランたちが尾行に気づく人間だと知られないほうが良い。ここにイチが居ればやらせただろうが、素人が馴染みのない街で尾行をするのは危険だ。
ディランは宿の部屋に落ち着いてから、念の為イチに報告を送っておいた。動き出すなら、トーマスと二人きりでは難しい。
翌日、昨日と同じ店で食事をしていると、若い男が近寄ってくる。
「君たち、仕事を探しているんだって?」
「はい! 何かいい仕事があるんですか?」
「こら、大きな声を出すな」
ディランは無害な青年を装って返事をしながら男を観察した。男は粗雑な態度に見合わない高価な服や靴を身に着けている。昨日は暗くて顔を把握できなかったが、体格や歩き方の特徴から十中八九同じ人間だろう。ディランは昨日の報告を受けて近くで待機していたイチに、さり気なく合図を送る。
「お前たちに見込みがあるから特別に声をかけているんだ。他の奴に聞かれたら、仕事を取られるぞ」
「すみません。詳しく話を聞かせていただけますか?」
「まぁ、いいだろう」
「ありがとうございます」
ディランはトーマスと笑顔で頷きあう。やっと動き出せそうだ。男もディランたちが仕事をもらえることを喜んでいると勘違いして、嬉しそうな顔をした。
「……ここから南東にあるキシスという街に行って、これと同じ看板の店に行け」
男は店の看板らしき絵の書かれたコインのような物を、ディランとトーマスに一枚ずつ渡す。
「これは金でできているからそれなりに値打ちがある。でも、これを店の主人に見せて簡単な仕事をすれば、10倍になって返ってくるぞ」
「10倍!?」
ディランはわざとらしくならないよう気をつけながら驚きの声を上げる。男が金だと言ったものは、金も入っているが混ぜものが多すぎて10倍にしても大した金額にはならないだろう。そういう意味でディランは少しだけ本当に驚いた。
このコインの価値に気づく者を弾く目的か、コインを持ち逃げされたときの損害を減らすためか。おそらく後者だろうが、男は得意気な顔をしているので、コインの価値を知らされていないのかもしれない。
とりあえず、ディランは驚いたり疑ったり普通ならしそうな反応を返して、男から信用を勝ち取った。途中でトイレに行くふりをして、店の中や外を魔法で確認したが敵に仲間がいる気配はない。目当ての犯人グループだとしても、この街には勧誘のための末端の人間しかいないとみてよさそうだ。
「じゃあ、お前たち頑張れよ」
「はい! ありがとうございます」
ディランの返事に、男はニヤリと笑って店を出ていく。目視では分からなかったが、魔法を使うと男の後ろを数人が追っていくのを確認できた。イチの方に視線を移すと小さく頷かれたので秘密部隊の人間だろう。
チャーリーが関わっていると人員が贅沢に使えて良い。それなら、ディランは必要ないのではという疑問は、思考の端に追いやった。
そろそろ別の町に移るべきか。ディランがそう考え始めた頃に変化が起こった。
その日も、ディランたちは肉体労働を終えて町中の酒場で食事をし、宿に戻るところだった。暗くなった道を歩いていると若い男が後をつけてくる。
「トーマス、声をかけられても剣を抜かないでね」
「どうした? あー、あれか」
ディランがコソコソとトーマスに伝えると、トーマスは振り返りもせずに納得する。気配を察知したのだろう。それなら、カランセ伯爵家でも殺気を気にしてほしかったと、ディランは内心ため息をつく。
尾行を撒くべきか悩んだが、結局気づかないふりをして宿に向かった。男はディランたちが宿に入ると、そのまま何もせずに去っていく。ディランたちはその姿を宿の扉に隠れて見届けた。
「後を追うか?」
「うーん。今日は良いかな」
もし、先程の男がお目当ての犯人グループなら、ディランたちが尾行に気づく人間だと知られないほうが良い。ここにイチが居ればやらせただろうが、素人が馴染みのない街で尾行をするのは危険だ。
ディランは宿の部屋に落ち着いてから、念の為イチに報告を送っておいた。動き出すなら、トーマスと二人きりでは難しい。
翌日、昨日と同じ店で食事をしていると、若い男が近寄ってくる。
「君たち、仕事を探しているんだって?」
「はい! 何かいい仕事があるんですか?」
「こら、大きな声を出すな」
ディランは無害な青年を装って返事をしながら男を観察した。男は粗雑な態度に見合わない高価な服や靴を身に着けている。昨日は暗くて顔を把握できなかったが、体格や歩き方の特徴から十中八九同じ人間だろう。ディランは昨日の報告を受けて近くで待機していたイチに、さり気なく合図を送る。
「お前たちに見込みがあるから特別に声をかけているんだ。他の奴に聞かれたら、仕事を取られるぞ」
「すみません。詳しく話を聞かせていただけますか?」
「まぁ、いいだろう」
「ありがとうございます」
ディランはトーマスと笑顔で頷きあう。やっと動き出せそうだ。男もディランたちが仕事をもらえることを喜んでいると勘違いして、嬉しそうな顔をした。
「……ここから南東にあるキシスという街に行って、これと同じ看板の店に行け」
男は店の看板らしき絵の書かれたコインのような物を、ディランとトーマスに一枚ずつ渡す。
「これは金でできているからそれなりに値打ちがある。でも、これを店の主人に見せて簡単な仕事をすれば、10倍になって返ってくるぞ」
「10倍!?」
ディランはわざとらしくならないよう気をつけながら驚きの声を上げる。男が金だと言ったものは、金も入っているが混ぜものが多すぎて10倍にしても大した金額にはならないだろう。そういう意味でディランは少しだけ本当に驚いた。
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「はい! ありがとうございます」
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