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二章 誘惑の秘宝と王女の日記
28.主君
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シクノチェス王国の宿は、一階が食堂や酒場になっていることが多い。ディランたちがいる宿も同様の作りで、階段を降りていくと旅人や地元の人たちで食堂は賑わっていた。ディランたちもその中に混ざって、店主おすすめの料理を注文する。
「ディーン、この魚うまいぞ。食べてみろよ」
トーマスはやっと食事にありつけてご機嫌だ。お金のない旅という設定だが、驚くほど安いのでお腹いっぱい食べても目立つことはないだろう。ディランもトーマスがすすめる焼き魚にかぶりつく。
「うん、美味しい。川魚みたいだね」
「兄ちゃんたち、初めて食べるのか? この町の名産品なんだよ」
近くに座っていた中年男性が声をかけてくる。その男性は店主とも親しげに話していたので地元の人間なのだろう。できれば、情報を仕入れたい。
「おう、俺たち仕事を探して、この街に今日着いてところなんだ。な、ディーン」
「うん。おじさん、僕らに向いてる仕事ってないかな? 腕には自身があるんだ。それなのに、最近平和だから仕事が見つからなくてさ」
「剣も得意なら騎士団にでも入ればいいんじゃないか? 王太子殿下が改革なさったから、今なら腕次第で雇ってもらえるかもしれないぞ」
男性は二人の護身用の剣を見て、まともな事を言う。王太子の改革が場末の酒場でも話題になることは良いことだが、ディランが求める回答ではない。
「もっと、大金が稼げる仕事がほしいんだよ。できれば、楽しくさ」
「夢のある仕事がいいよな」
ディランの言葉にトーマスがのってくる。いつもより声を張ったのでちょっと恥ずかしい。お酒を飲める年齢なら酒のせいにできるが、二人とも未成年なので当然飲んでいない。
ディランは羞恥が顔に出ないように気をつけながら、お金に困っている話をトーマスと打ち合わせた通りに続けた。この男性はまともな一般人だろうが、近くに犯人一味がいれば、後で声をかけてくる可能性もある。
「若いうちから真っ当な仕事についた方が後々苦労しないぞ。お金を貯めてから楽をすればいいんだ」
「は、はい……」
結局、この日は中年男性の説教を受けるだけで夕食は終わってしまった。初日なのでこんなものだろう。ディランたちは犯人が食いつくまで何日でも続ける必要がある。
「俺達って、悪人には見えないのかもな。怪しい仕事の誘いは来ないかも」
トーマスは部屋に戻るとゴロリとベッドに寝っ転がる。終わりがみえない状況に珍しく弱気だ。トーマスはエビネ伯爵領に入るまで毎日鍛錬を行っていた。イチに伯爵領では目立つから止めるようにと言われているので、剣を振るえない状況が苦痛なのかもしれない。
「でも、兄上の事を誘拐して利用しようと思う? 僕らみたいに無害そうな人間の方が誘われやすいと思うけどな」
犯罪を犯している人間は用心深くなる。騙されやすく明らかに自分より劣る者を標的にするだろう。知能犯はチャーリーが爽やかなふりをしていても絶対に近づかない。
「同意しにくい例えを出すなよ」
「大丈夫、ここには他に誰もいなさそうだよ」
「それでも、俺の主君なの」
トーマスはそう言って苦笑する。ディランにはトーマスのチャーリーに対する忠誠心が不思議でしょうがない。
「ねぇ、前から気になってたんだけど、どうして兄上の側近になろうと思ったの? 昔は兄上のことを怖がってたじゃない?」
「今でも怖いよ」
ディランの質問にトーマスはカラカラと笑う。小さい頃、チャーリーに隠れて2人で話していたときとは違い、本気で怖がっているようにはみえない。ディランがジーッと見つめていると、トーマスが仕方がないというように起き上がる。
「チャーリー殿下は、ほとんどの人間に興味ないし、シャーロット様だけが大切って感じだけど、ハリソンとか俺とか懐に入れた人間にも優しいぞ」
「それ、本当?」
詳細は教えてくれなかったが、トーマスはチャーリーに恩を感じているらしい。そういえば、トーマスは魅了状態を防げないのに側近を外されていない。ディランの知らないところで絆が結ばれているのだろう。
「でもなんか意外だな。ルークはすぐに追い出されたしさ。兄上は懐に入れるとかそういうのないんだと思ってた。使えるか使えないかの二択みたいな」
「ルークは……シャーロット様への態度がな。でも、チャーリー殿下はディランのことも可愛く思ってると思うぞ」
「えっ!? どこが?」
「うまく説明できない。何となくだ!」
トーマスは自信満々に言い切って、再びゴロンと横になる。本気なのだろうがなんの根拠もなさそうだ。
(野生の勘?)
ディランには、トーマスの意見を否定するような事例がいくつも思いつくが、話したところで議論にはならないだろう。ディランは話を切り上げることにして、宿の店主に身体を拭くためのお湯をもらいに行った。実際は魔法で清めるが、しばらくお風呂はお預けなので辛い。
「ディーン、この魚うまいぞ。食べてみろよ」
トーマスはやっと食事にありつけてご機嫌だ。お金のない旅という設定だが、驚くほど安いのでお腹いっぱい食べても目立つことはないだろう。ディランもトーマスがすすめる焼き魚にかぶりつく。
「うん、美味しい。川魚みたいだね」
「兄ちゃんたち、初めて食べるのか? この町の名産品なんだよ」
近くに座っていた中年男性が声をかけてくる。その男性は店主とも親しげに話していたので地元の人間なのだろう。できれば、情報を仕入れたい。
「おう、俺たち仕事を探して、この街に今日着いてところなんだ。な、ディーン」
「うん。おじさん、僕らに向いてる仕事ってないかな? 腕には自身があるんだ。それなのに、最近平和だから仕事が見つからなくてさ」
「剣も得意なら騎士団にでも入ればいいんじゃないか? 王太子殿下が改革なさったから、今なら腕次第で雇ってもらえるかもしれないぞ」
男性は二人の護身用の剣を見て、まともな事を言う。王太子の改革が場末の酒場でも話題になることは良いことだが、ディランが求める回答ではない。
「もっと、大金が稼げる仕事がほしいんだよ。できれば、楽しくさ」
「夢のある仕事がいいよな」
ディランの言葉にトーマスがのってくる。いつもより声を張ったのでちょっと恥ずかしい。お酒を飲める年齢なら酒のせいにできるが、二人とも未成年なので当然飲んでいない。
ディランは羞恥が顔に出ないように気をつけながら、お金に困っている話をトーマスと打ち合わせた通りに続けた。この男性はまともな一般人だろうが、近くに犯人一味がいれば、後で声をかけてくる可能性もある。
「若いうちから真っ当な仕事についた方が後々苦労しないぞ。お金を貯めてから楽をすればいいんだ」
「は、はい……」
結局、この日は中年男性の説教を受けるだけで夕食は終わってしまった。初日なのでこんなものだろう。ディランたちは犯人が食いつくまで何日でも続ける必要がある。
「俺達って、悪人には見えないのかもな。怪しい仕事の誘いは来ないかも」
トーマスは部屋に戻るとゴロリとベッドに寝っ転がる。終わりがみえない状況に珍しく弱気だ。トーマスはエビネ伯爵領に入るまで毎日鍛錬を行っていた。イチに伯爵領では目立つから止めるようにと言われているので、剣を振るえない状況が苦痛なのかもしれない。
「でも、兄上の事を誘拐して利用しようと思う? 僕らみたいに無害そうな人間の方が誘われやすいと思うけどな」
犯罪を犯している人間は用心深くなる。騙されやすく明らかに自分より劣る者を標的にするだろう。知能犯はチャーリーが爽やかなふりをしていても絶対に近づかない。
「同意しにくい例えを出すなよ」
「大丈夫、ここには他に誰もいなさそうだよ」
「それでも、俺の主君なの」
トーマスはそう言って苦笑する。ディランにはトーマスのチャーリーに対する忠誠心が不思議でしょうがない。
「ねぇ、前から気になってたんだけど、どうして兄上の側近になろうと思ったの? 昔は兄上のことを怖がってたじゃない?」
「今でも怖いよ」
ディランの質問にトーマスはカラカラと笑う。小さい頃、チャーリーに隠れて2人で話していたときとは違い、本気で怖がっているようにはみえない。ディランがジーッと見つめていると、トーマスが仕方がないというように起き上がる。
「チャーリー殿下は、ほとんどの人間に興味ないし、シャーロット様だけが大切って感じだけど、ハリソンとか俺とか懐に入れた人間にも優しいぞ」
「それ、本当?」
詳細は教えてくれなかったが、トーマスはチャーリーに恩を感じているらしい。そういえば、トーマスは魅了状態を防げないのに側近を外されていない。ディランの知らないところで絆が結ばれているのだろう。
「でもなんか意外だな。ルークはすぐに追い出されたしさ。兄上は懐に入れるとかそういうのないんだと思ってた。使えるか使えないかの二択みたいな」
「ルークは……シャーロット様への態度がな。でも、チャーリー殿下はディランのことも可愛く思ってると思うぞ」
「えっ!? どこが?」
「うまく説明できない。何となくだ!」
トーマスは自信満々に言い切って、再びゴロンと横になる。本気なのだろうがなんの根拠もなさそうだ。
(野生の勘?)
ディランには、トーマスの意見を否定するような事例がいくつも思いつくが、話したところで議論にはならないだろう。ディランは話を切り上げることにして、宿の店主に身体を拭くためのお湯をもらいに行った。実際は魔法で清めるが、しばらくお風呂はお預けなので辛い。
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