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二章 誘惑の秘宝と王女の日記
23.やってきたのは、
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それは、ディランたちが帰り支度をしているときに起こった。不穏な気配を感じて、エミリー以外の4人が同時に表情を引き締める。皆が同じ方向を見ているので、確かめるまでもなく同じものに反応したのだと分かった。
「エミリー、動かないでね」
「は、はい」
ディランは嫌な予感の原因がつかめないまま、エミリーを隠すように移動する。
「殿下、大丈夫です。我軍の者のようです」
カランセ伯爵家の騎士たちがそう言って緊張を解く。やがて見えてきたのは、馬に乗ったレジーを含む5人の若い騎士だった。
「殿下、突然やってきて申し訳ありません」
レジーは謝罪を口にしながら、馬から飛び降りて駆け寄ってくる。
「実は……」
「ルーク、エミリーたちをお願い!」
ディランはそれだけ言って、レジーたちの後を音もなく追ってきていた男に魔法を使って飛びかかる。気配を消して隠れていた男は、手練の密偵のようだが、応戦もせずにディランに大人しく拘束された。
どこにでもいそうな特徴のない男だが、装備している武器や服装には既視感がある。
「兄上の秘密部隊の人間かな? ルーク、分かる?」
ディランは男を拘束したまま乱暴に引きずって、ルークの前まで連れて行く。
「チャーリー殿下の所にいた男で間違いないようです……そんなことより、護衛対象者が飛び出さないで下さい。私はあなたを守るためにいるんですよ。このようなことをされては困ります」
「僕はエミリーを守ってほしいって王都を出る前にも言ったよね? ルークの護衛対象者はエミリーだよ。間違えないで」
ディランがルークを睨みつけると、ルークは呆れたようにため息をつく。
「そういうことを言ってるんじゃないんだけどな」
ルークは呟くように言って、ディランが魔法で拘束していた男を縄で縛り直す。ディランに説教を続けるのは諦めたようだ。
ディランもルークの言いたいことは分かっている。それでもディランは、エミリーを護るためなら次も同じ行動を取るし、その考えを変えるつもりはない。
「ルーク殿。我々はディラン殿下に危害を加えるつもりはない。拘束を解いてくれないか?」
「我々って他にもいるの?」
ディランは男の言葉に殺気立つ。魔法を強めて周囲を検索するが小動物すら検知されなかった。
「殿下、この辺りに気配はなさそうです」
「そう。ありがとう」
ルークにも言われて、ディランは緊張を解くために息をゆっくり吐き出す。エミリーが心配そうにこちらを見ているのに気がついて、無理やり笑顔を作った。
「お前も殿下の様子で近づいたら不味いって気づかないかね? 可愛い婚約者が一緒にいるんだぞ。チャーリー殿下だったら躊躇せずにお前を殺してる。命は大切にしろよ」
「すみません。ディラン殿下は、いつも我々の存在を気にされないので油断してました」
「いや、俺に謝られても困るけどね」
ルークはのんびりとした口調で縛り上げた男と会話している。チャーリーのもとにいた頃に面識があるのかもしれない。男は上司に叱られたように落ち込んでいる。
ディランもそんな会話を聞いているうちに気持ちが落ち着いてきた。
「それで、レジー殿。先程言いかけたことですが……」
「そうでした。まずは尾行に気づかず申し訳ありません」
レジーが悔しそうに言う。
「仕方ないですよ。兄上が集めた人間は特別なんです。僕も魔法で警戒していないと見落とします。対応に慣れているだけですよ」
「そう言っていただけると有り難いです。今後、精進します」
「うん、それで?」
「はい、伯爵家にトーマス・ゴンゴラ様が来ています。お見かけした事があるので、本人に間違いありません。ただ、一緒に連れていたのがこういう方達ばかりだったので……父が殿下とエミリーを心配して、私をこちらに寄越した次第です」
レジーは『こういう方』と言うときに縛られた男を視線で示した。レジーは王都に暮らしていた事もあるので、トーマスの顔を知っていたようだ。騎士団長の息子であるトーマスは有名だ。やってきたのが確実にトーマスであると分かって、ディランは肩の力を抜く。
「トーマスがいるなら心配ないよ。裏工作とか秘密とかに一番向かないタイプだ」
「その……失礼ながら、ディラン殿下のそういった油断を誘うために選ばれたということはありませんか?」
「うーん、どうだろう。トーマスに限ってないと思いたいけどな」
トーマスはチャーリーの部下である前にディランの幼馴染みだ。トーマスがディランの大切な者を傷つけるとはとても思えない。しかし、ディランを真正面から殺しにくるなら、ディランが油断してしまう相手なので適任であることも確かだ。
(兄上に限って真正面からくるなんてありえないけど……万が一に備えて置いた方がいいのかな?)
ディランは、心配そうな顔をするレジーのため、エミリーの隠蔽用のイヤリングに魔力を補給し、いざとなれば2人で逃げるようにと伝えた。姿を消せるのはエミリーだけだが、レジーはエミリーの安全さえ確保できるなら、それで良いようだ。
レジーはエミリーを避難させるために来たのだろうが、ディランとしてはエミリーから目を離すほうが不安だ。レジーはディランの気持ちを汲んで、イヤリングで納得してくれた。
「じゃあ、お城に戻ろうか」
「はい」
縛った男と相乗りするルークを先頭に、伯爵家の騎士数人に挟まれる形でディランとレジーが進む。エミリーは行きと同じようにディランの馬に同乗しているが、表情は朝と違い暗い。
「エミリー、心配しなくても大丈夫だよ」
「でも……」
「何かあっても、僕が守るよ。だから、安心して」
「はい。でも……私よりディラン様の事が心配です」
「それなら、なおさら心配ないよ」
ディランが大丈夫だと伝えても、エミリーは疑うような眼差しを向けてくる。ルークとの言い合いを見せてしまったので、説得力がないのはディランにも分かる。エミリーがしがみつくようにディランの背中に手を回してくるので、ディランはエミリーを抱きしめる腕に力を込めた。
「エミリー、動かないでね」
「は、はい」
ディランは嫌な予感の原因がつかめないまま、エミリーを隠すように移動する。
「殿下、大丈夫です。我軍の者のようです」
カランセ伯爵家の騎士たちがそう言って緊張を解く。やがて見えてきたのは、馬に乗ったレジーを含む5人の若い騎士だった。
「殿下、突然やってきて申し訳ありません」
レジーは謝罪を口にしながら、馬から飛び降りて駆け寄ってくる。
「実は……」
「ルーク、エミリーたちをお願い!」
ディランはそれだけ言って、レジーたちの後を音もなく追ってきていた男に魔法を使って飛びかかる。気配を消して隠れていた男は、手練の密偵のようだが、応戦もせずにディランに大人しく拘束された。
どこにでもいそうな特徴のない男だが、装備している武器や服装には既視感がある。
「兄上の秘密部隊の人間かな? ルーク、分かる?」
ディランは男を拘束したまま乱暴に引きずって、ルークの前まで連れて行く。
「チャーリー殿下の所にいた男で間違いないようです……そんなことより、護衛対象者が飛び出さないで下さい。私はあなたを守るためにいるんですよ。このようなことをされては困ります」
「僕はエミリーを守ってほしいって王都を出る前にも言ったよね? ルークの護衛対象者はエミリーだよ。間違えないで」
ディランがルークを睨みつけると、ルークは呆れたようにため息をつく。
「そういうことを言ってるんじゃないんだけどな」
ルークは呟くように言って、ディランが魔法で拘束していた男を縄で縛り直す。ディランに説教を続けるのは諦めたようだ。
ディランもルークの言いたいことは分かっている。それでもディランは、エミリーを護るためなら次も同じ行動を取るし、その考えを変えるつもりはない。
「ルーク殿。我々はディラン殿下に危害を加えるつもりはない。拘束を解いてくれないか?」
「我々って他にもいるの?」
ディランは男の言葉に殺気立つ。魔法を強めて周囲を検索するが小動物すら検知されなかった。
「殿下、この辺りに気配はなさそうです」
「そう。ありがとう」
ルークにも言われて、ディランは緊張を解くために息をゆっくり吐き出す。エミリーが心配そうにこちらを見ているのに気がついて、無理やり笑顔を作った。
「お前も殿下の様子で近づいたら不味いって気づかないかね? 可愛い婚約者が一緒にいるんだぞ。チャーリー殿下だったら躊躇せずにお前を殺してる。命は大切にしろよ」
「すみません。ディラン殿下は、いつも我々の存在を気にされないので油断してました」
「いや、俺に謝られても困るけどね」
ルークはのんびりとした口調で縛り上げた男と会話している。チャーリーのもとにいた頃に面識があるのかもしれない。男は上司に叱られたように落ち込んでいる。
ディランもそんな会話を聞いているうちに気持ちが落ち着いてきた。
「それで、レジー殿。先程言いかけたことですが……」
「そうでした。まずは尾行に気づかず申し訳ありません」
レジーが悔しそうに言う。
「仕方ないですよ。兄上が集めた人間は特別なんです。僕も魔法で警戒していないと見落とします。対応に慣れているだけですよ」
「そう言っていただけると有り難いです。今後、精進します」
「うん、それで?」
「はい、伯爵家にトーマス・ゴンゴラ様が来ています。お見かけした事があるので、本人に間違いありません。ただ、一緒に連れていたのがこういう方達ばかりだったので……父が殿下とエミリーを心配して、私をこちらに寄越した次第です」
レジーは『こういう方』と言うときに縛られた男を視線で示した。レジーは王都に暮らしていた事もあるので、トーマスの顔を知っていたようだ。騎士団長の息子であるトーマスは有名だ。やってきたのが確実にトーマスであると分かって、ディランは肩の力を抜く。
「トーマスがいるなら心配ないよ。裏工作とか秘密とかに一番向かないタイプだ」
「その……失礼ながら、ディラン殿下のそういった油断を誘うために選ばれたということはありませんか?」
「うーん、どうだろう。トーマスに限ってないと思いたいけどな」
トーマスはチャーリーの部下である前にディランの幼馴染みだ。トーマスがディランの大切な者を傷つけるとはとても思えない。しかし、ディランを真正面から殺しにくるなら、ディランが油断してしまう相手なので適任であることも確かだ。
(兄上に限って真正面からくるなんてありえないけど……万が一に備えて置いた方がいいのかな?)
ディランは、心配そうな顔をするレジーのため、エミリーの隠蔽用のイヤリングに魔力を補給し、いざとなれば2人で逃げるようにと伝えた。姿を消せるのはエミリーだけだが、レジーはエミリーの安全さえ確保できるなら、それで良いようだ。
レジーはエミリーを避難させるために来たのだろうが、ディランとしてはエミリーから目を離すほうが不安だ。レジーはディランの気持ちを汲んで、イヤリングで納得してくれた。
「じゃあ、お城に戻ろうか」
「はい」
縛った男と相乗りするルークを先頭に、伯爵家の騎士数人に挟まれる形でディランとレジーが進む。エミリーは行きと同じようにディランの馬に同乗しているが、表情は朝と違い暗い。
「エミリー、心配しなくても大丈夫だよ」
「でも……」
「何かあっても、僕が守るよ。だから、安心して」
「はい。でも……私よりディラン様の事が心配です」
「それなら、なおさら心配ないよ」
ディランが大丈夫だと伝えても、エミリーは疑うような眼差しを向けてくる。ルークとの言い合いを見せてしまったので、説得力がないのはディランにも分かる。エミリーがしがみつくようにディランの背中に手を回してくるので、ディランはエミリーを抱きしめる腕に力を込めた。
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