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二章 誘惑の秘宝と王女の日記
8.意外な意見
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ディランはエミリーが泣き止むのを待って、近くにいた侍女にお茶を頼む。エミリーは泣き顔を人に見られたくないと言うので、話しているうちに解けていた隠蔽をエミリーにだけかけ直した。
侍女たちはテーブルをセッティングして、指示通り2人分のティーセットを用意してくれた。ディランは一人で座っているようにしか見えないのに顔色一つ変えない。さすがプロだと思う。
「やっぱり、王子様なんですね」
エミリーが侍女の後ろ姿を見送りながら、感心したように言う。
「偽物だと思ってた?」
「違いますよ」
「分かってるよ」
エミリーが頬を膨らますので、ディランは笑いながらエミリーの頭を撫でる。
エミリーには、学院やボードゥアンの洋館での姿しか見せていない。ディランの王宮での王子らしい扱いに驚くのも無理がない。ディランもさすがに使用人たちが困ってしまうので、王宮では自分の部屋にいるときにしか、自分でお茶を用意したりはしない。
「本当の事を言うとさ、プロポーズも王子らしくしたかったんだ。兄上が余計な事をするからさ……って、半分は八つ当たりかな? 僕の勇気がなかったせいだ」
「十分、王子様らしかったですよ。素敵なお庭で殿下に頂いたプロポーズの言葉。私、一生の思い出にします」
エミリーがディランの瞳を見上げてニッコリと笑う。
「ありがとう。エミリーは優しいな」
ディランはホッとして、エミリーに微笑み返した。チャーリーのせいで荒れていたディランの心が、エミリーのおかげで癒やされていくようだ。
ディランはいつもの雰囲気に戻ったエミリーと、花の香を楽しみながらお茶を飲む。しばらくのんびり過ごしてから、今日の呼び出しについて話した。
「もし、また兄上から呼び出されたら、僕か、いなければ師匠かシャーロットに必ず相談してね。僕かシャーロットが同席すればいくらか安全だし、師匠なら僕に連絡してくれるからさ。知ってると思うけど、兄上は一筋縄ではいかない人なんだ」
エミリーも今日の事が怖かったのか真剣に頷く。ディランにチャーリーを抑えきれるとも思えないが、エミリーを護るためなら何でもするつもりだ。
「あの……チャーリー殿下はなんであんなに婚約を急いでいらしたのでしょうか。私はディラン殿下が知らないとは思っていなくて……やっぱり、私の魅了の魔法の関係ですか?」
「うーん、どうだろう。もしかしたら、それも少しあるのかな? でも、一番は僕とシャーロットの関係を誤解しているからだと思う。兄上は、僕がシャーロットを口説いてるって言うんだ。笑っちゃうでしょ?」
「……」
「エミリー?」
ディランは笑い話のつもりで話したのに、エミリーは神妙な顔をしてお茶を飲んでいる。ディランは不安になって、エミリーの顔を覗き込んだ。
「私……ちょっとだけ、チャーリー殿下の気持ちが分かります」
「えっ、うそ! 僕とシャーロットだよ?」
エミリーはニコリともせずにコクンと頷く。
「だって、お二人は名前を呼び捨てし合っていらっしゃいますし……仲がとっても良さそうで……」
「いやいやいや、シャーロットは僕の事を舎弟くらいにしか思ってないよ。僕だって、エミリーみたいに純粋で可愛くって守ってあげたいなって思う感じの子が好みで……」
ディランは告白めいた言葉だと気づいて、徐々に声が小さくなる。隣に座るエミリーにはバッチリ聞こえていたようで顔が真っ赤だ。たぶん、ディランもエミリーと同じような顔色になっている気がする。
「「……」」
夏の虫の声が煩いくらいに響いている。なんとなく、場を繋いでくれているようで、ディランは感謝した。
「……そ、そうだ! エミリーも『ディラン』って呼んでよ。敬語もいらないよ」
「えっ、え!?」
「今までは周りに勘違いされたらエミリーが可愛そうだと思って、そのままにしてたけど、婚約者なんだしさ。ね、呼んでみて?」
エミリーはオロオロと目を泳がせていたが、ディランがジッと待っていると深呼吸してディランを見上げる。
「えっと……デ、ディラン……様」
エミリーは恥ずかしくなったのか、ポフンとディランの胸に顔をうずめて表情を隠す。思わぬエミリーの行動に、ディランは慌てながら抱きとめた。
「やっぱり、私には無理です」
エミリーは顔を隠しているのに、耳まで赤くなっている。
「じゃあ、ゆっくり慣れていけばいいよ」
エミリーはディランの腕の中で小さく頷く。恥ずかしがるエミリーが愛おしくて、ディランはピンクブロンドの髪をゆっくり撫でた。
侍女たちはテーブルをセッティングして、指示通り2人分のティーセットを用意してくれた。ディランは一人で座っているようにしか見えないのに顔色一つ変えない。さすがプロだと思う。
「やっぱり、王子様なんですね」
エミリーが侍女の後ろ姿を見送りながら、感心したように言う。
「偽物だと思ってた?」
「違いますよ」
「分かってるよ」
エミリーが頬を膨らますので、ディランは笑いながらエミリーの頭を撫でる。
エミリーには、学院やボードゥアンの洋館での姿しか見せていない。ディランの王宮での王子らしい扱いに驚くのも無理がない。ディランもさすがに使用人たちが困ってしまうので、王宮では自分の部屋にいるときにしか、自分でお茶を用意したりはしない。
「本当の事を言うとさ、プロポーズも王子らしくしたかったんだ。兄上が余計な事をするからさ……って、半分は八つ当たりかな? 僕の勇気がなかったせいだ」
「十分、王子様らしかったですよ。素敵なお庭で殿下に頂いたプロポーズの言葉。私、一生の思い出にします」
エミリーがディランの瞳を見上げてニッコリと笑う。
「ありがとう。エミリーは優しいな」
ディランはホッとして、エミリーに微笑み返した。チャーリーのせいで荒れていたディランの心が、エミリーのおかげで癒やされていくようだ。
ディランはいつもの雰囲気に戻ったエミリーと、花の香を楽しみながらお茶を飲む。しばらくのんびり過ごしてから、今日の呼び出しについて話した。
「もし、また兄上から呼び出されたら、僕か、いなければ師匠かシャーロットに必ず相談してね。僕かシャーロットが同席すればいくらか安全だし、師匠なら僕に連絡してくれるからさ。知ってると思うけど、兄上は一筋縄ではいかない人なんだ」
エミリーも今日の事が怖かったのか真剣に頷く。ディランにチャーリーを抑えきれるとも思えないが、エミリーを護るためなら何でもするつもりだ。
「あの……チャーリー殿下はなんであんなに婚約を急いでいらしたのでしょうか。私はディラン殿下が知らないとは思っていなくて……やっぱり、私の魅了の魔法の関係ですか?」
「うーん、どうだろう。もしかしたら、それも少しあるのかな? でも、一番は僕とシャーロットの関係を誤解しているからだと思う。兄上は、僕がシャーロットを口説いてるって言うんだ。笑っちゃうでしょ?」
「……」
「エミリー?」
ディランは笑い話のつもりで話したのに、エミリーは神妙な顔をしてお茶を飲んでいる。ディランは不安になって、エミリーの顔を覗き込んだ。
「私……ちょっとだけ、チャーリー殿下の気持ちが分かります」
「えっ、うそ! 僕とシャーロットだよ?」
エミリーはニコリともせずにコクンと頷く。
「だって、お二人は名前を呼び捨てし合っていらっしゃいますし……仲がとっても良さそうで……」
「いやいやいや、シャーロットは僕の事を舎弟くらいにしか思ってないよ。僕だって、エミリーみたいに純粋で可愛くって守ってあげたいなって思う感じの子が好みで……」
ディランは告白めいた言葉だと気づいて、徐々に声が小さくなる。隣に座るエミリーにはバッチリ聞こえていたようで顔が真っ赤だ。たぶん、ディランもエミリーと同じような顔色になっている気がする。
「「……」」
夏の虫の声が煩いくらいに響いている。なんとなく、場を繋いでくれているようで、ディランは感謝した。
「……そ、そうだ! エミリーも『ディラン』って呼んでよ。敬語もいらないよ」
「えっ、え!?」
「今までは周りに勘違いされたらエミリーが可愛そうだと思って、そのままにしてたけど、婚約者なんだしさ。ね、呼んでみて?」
エミリーはオロオロと目を泳がせていたが、ディランがジッと待っていると深呼吸してディランを見上げる。
「えっと……デ、ディラン……様」
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「やっぱり、私には無理です」
エミリーは顔を隠しているのに、耳まで赤くなっている。
「じゃあ、ゆっくり慣れていけばいいよ」
エミリーはディランの腕の中で小さく頷く。恥ずかしがるエミリーが愛おしくて、ディランはピンクブロンドの髪をゆっくり撫でた。
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