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一章 田舎育ちの令嬢

21.意外な人物

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 ディランは深呼吸してから、詳細の書かれたページを開く。ヴァランティーヌが処刑されるに至るまでの詳細は、見開き1ページに簡潔にまとめられていた。人一人が亡くなったにしては短すぎる。

(駄目だ。王女に肩入れしすぎてるな)

 ディランはヴァランティーヌを不憫に思った自分に苦笑する。いくらエミリーと境遇が似ていても、どんな人物だったかも分からないヴァランティーヌにエミリーを重ねてはいけない。ディランは気持ちを整え直して、なるべく公平な気持ちで文字を追った。

 発端は、公爵令嬢の襲撃事件だったようだ。パーティ会場からの帰り道、令嬢の乗った馬車が5人の男に襲撃された。御者と護衛2名が重傷。令嬢は護衛の一人とともに逃されて、他の馬車に保護され軽傷のみですんだ。護衛がその場で犯人を2名拘束したことから、後に逃げた残りの3名も逮捕されている。
 
 実行犯を雇った男も供述から判明し、公爵令嬢の同級生であるローワンという男が逮捕された。当初ローワンは犯行を素直に自供していたようだ。

 ところが刑が確定する直前、ローワンは人が変わったように供述を覆す。

『俺はヴァランティーヌ王女により、魅了状態にあった。犯行は俺の意思ではない』
 
 本に記載はないが、当時、この訴えを聞いた者は驚いたことだろう。相手は王族だ。ディランはよく揉み消されなかったなと思ってしまう。ローワンはすでに拘束された身。聞かなかったことにして、処刑されていてもおかしくない。
 
 ローワンに家名の記載はないが、揉み消せないほどの身分の人物だったのか、あるいは他の理由か。書かれていないので気になるが本題はそこではない。

 とにかく、ローワンの訴えは受け入れられ、ヴァランティーヌ王女の周囲に魔道士団の調査が入った。被害者の公爵令嬢も含めて3人ともシクノチェス学院の生徒だったことから、学院での調査が中心だったようだ。

 調査の結果で分かったのは、王女が学院で多くの男子生徒を侍らすように連れていたこと。そして、それを被害者である公爵令嬢が事あるごとに注意していたということだ。

(まるで、エミリーとシャーロットみたいだな)

 魔道士は、王女が連れ歩いていた男子生徒を検査し魅了状態にあると認定。王女は貴賓牢に拘束された。

 王女にとって不幸だったのは、身分が憚られて身体検査を徹底出来なかったと思われる点だろう。詳しい捜査方法についての記載はないが、証拠である『誘惑の秘宝』が見つからないまま、魔道具による魅了を行ったと推定されて処刑に至っている。捜査責任者だった魔導士団長アルビーが他に魅了状態にする方法がないと断定したことも大きかってようだ。

(魔導士団長アルビー!?)

 この事件の調査の指揮を摂った人物の名が魔道士団長のアルビーとなっている。ディランや高位貴族の子息、令嬢が一度はお世話になる魅了回避訓練を考えた人物と同じ名前だ。

 魅了事件の責任者とその事件を回避できる訓練の発案者が同じ名前。それぞれ別の人物で偶然の一致だと考える方が難しい。魅了訓練の魔導士アルビーの生きた時代は知らないが、確か魔道士団長だったと記憶している。おそらく同一人物で間違いないだろう。

 専門家だったから呼ばれたのか、この件をきっかけに専門家への道を進んだのか。どちらにしろ、関連があるとみて調べてみた方が良さそうだ。
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