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47.使用人たち
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クラウディアは秘密裏に王都へ帰還すると、そのまま王宮内の離宮に戻った。長年暮らしてきた屋敷だが、久しぶりなので懐かしい。
アルフレートは迎えに来ると言っていたのに、ギーゼラの屋敷には現れなかった。国が大変なときだ。タライロン公爵家の立場を盤石にするためにも、再び王都を離れる事は難しかったのだろう。ディータを代わりに寄越してくれただけでもありがたいと思う。
「アルフレート様は公爵邸に戻られることを望んでおられます」
「では、ディータから王宮に帰ったと伝えてちょうだい」
ディータは道中何度も説得してきたが、クラウディアは応じなかった。王都で無事に再会したリタも、ディータに説得を頼まれて板挟みになっていたが仕方ない。
フロレンツは、どちらでも良いように離宮も整えてくれていた。クラウディアが王宮に戻るのは当然のことだ。
クラウディアが自分の部屋で寛いでいると、フロレンツが使用人たちを連れてやってきた。ユリアの息のかかった者はもういない。クラウディアに心から仕えてくれる者たちを連れてきてくれると言っていた。
しかし、目の前にずらりと並んだ使用人たちは見覚えのある顔ばかりだ。
「お兄様が連れてきたのは、わたくしにボソボソのオムレツを作っていた者と、それを見ても知らぬ振りをしていた者たちですが、どういうことでしょう?」
「だからこそ、忙しいのに私が直々に説明しに来てやったんだ。黙って話を聞け。彼らはお前を側妃から守っていた者たちだ」
フロレンツの言葉を受けて、使用人たちが一斉に頭を下げる。同じ者たちなのによく似た別人のように礼儀が正しい。クラウディアがぐるりと視線を送っても、怯える者は一人もいなかった。
「どういうことでしょう?」
「彼らはユリアに嫌がらせをするスキを与え、側妃の関心をクラウディアから反らしていた。ユリアはいろんな意味で小物だ。お前を殺すような度胸はない。側妃もユリアの楽しみを奪ってまでクラウディアに手を出そうとはしなかった」
フロレンツが自分のいない王宮で動かせる人数は限られていた。王宮内の状況を把握し続ける必要もあり、クラウディアに人員を割くわけにもいかなかったようだ。そのため、少ない人数でクラウディアの命を守れる方法をとっていた。合理的なフロレンツらしい采配だ。
「わたくしの楽しみは守られていませんでしたわ」
「学食でオムライスを食べていただろう? お前が卵を美味しそうに食べるから、卵料理に嫌がらせを仕掛けられていたんだぞ」
「だって、それは……」
好物を目の前に不味そうに食べてみせるなんて器用な事は出来ない。そんな方法でオムレツを守れるなんて考えてもみなかった。
「私もお前が精神的に追い詰められているようなら方法を変えていた。自分の精神力を恨め。針のむしろになっている学園の食堂で、平然と一人で食事をするような奴には十分すぎる配慮だった。私は学園に避難部屋を提供していたはずだ」
「分かっていませんわね。オムライスは作ってすぐに食べなければならないのですよ。北棟なんかに運ばせては冷えてしまうではないですか。お兄様も食べでみれば分かりますわ。ふわっととろっとした……」
「そんなことはどうでも良い」
クラウディアは話を遮られてムスッとする。フロレンツにはオムライスの美味しさが分からないらしい。
「……」
「そんなことで拗ねるな。まぁ、今回はカタリーナの行動を予想できず、私の計算が狂ってしまった。その点は謝罪しよう。お前に怖い思いをさせて悪かったな。アルフレートと連携を取るべきだった」
「アルと連携?」
「あいつから聞いていないのか? 王宮がクラウディアの失踪を隠していたのは私の部下の采配だ。私もその行動を支持している」
アルフレートはクラウディアの周囲にいたフロレンツの手の者について伝えられていなかった。クラウディアやリタ同様、味方だと知っていて知らぬふりは出来ないと判断されたようだ。
「私の部下もクラウディアの失踪を知って探していた。クラウディアが離宮にいることにしたのは、騎士団を動かさないためだ」
騎士団は当時からフロレンツが掌握していた。しかし、末端の人間まで全て把握しているわけもなく、クラウディアの失踪に関わった者が混ざっている可能性もあった。失踪を公にするべきかフロレンツの判断を仰いでいる間に、クラウディアがアルフレートに保護されたようだ。
その後については、公爵邸に滞在していることを公にして良いことなどないので、そのままにしていたらしい。
「それで、どうするんだ? 新しい者を雇っても構わんぞ。しかし、その者たちが信頼できるかは、また長い年月をかけて見極めていく必要があるだろうな。私への恨みがクラウディアに向かうことは十分にあり得る。だが、人を入れ替えるのはお前の我儘だ。今度は自分で……」
「ここにいる方々に今後もお願いしたいと思います。皆さん、またよろしくね」
今度はクラウディアがフロレンツの言葉を遮る。使用人たちに視線を移すと、主人に対する礼をきちんととってくれた。
「では、そのようにしよう。皆、不本意だろうが我慢してクラウディアに仕えてやってくれ」
「お兄様!」
「間違った事を言ったか?」
「いいえ。皆さん、よろしくお願いね」
クラウディアは納得いかなかったが、自分の今までの行いを思い出して反論を諦めた。
アルフレートは迎えに来ると言っていたのに、ギーゼラの屋敷には現れなかった。国が大変なときだ。タライロン公爵家の立場を盤石にするためにも、再び王都を離れる事は難しかったのだろう。ディータを代わりに寄越してくれただけでもありがたいと思う。
「アルフレート様は公爵邸に戻られることを望んでおられます」
「では、ディータから王宮に帰ったと伝えてちょうだい」
ディータは道中何度も説得してきたが、クラウディアは応じなかった。王都で無事に再会したリタも、ディータに説得を頼まれて板挟みになっていたが仕方ない。
フロレンツは、どちらでも良いように離宮も整えてくれていた。クラウディアが王宮に戻るのは当然のことだ。
クラウディアが自分の部屋で寛いでいると、フロレンツが使用人たちを連れてやってきた。ユリアの息のかかった者はもういない。クラウディアに心から仕えてくれる者たちを連れてきてくれると言っていた。
しかし、目の前にずらりと並んだ使用人たちは見覚えのある顔ばかりだ。
「お兄様が連れてきたのは、わたくしにボソボソのオムレツを作っていた者と、それを見ても知らぬ振りをしていた者たちですが、どういうことでしょう?」
「だからこそ、忙しいのに私が直々に説明しに来てやったんだ。黙って話を聞け。彼らはお前を側妃から守っていた者たちだ」
フロレンツの言葉を受けて、使用人たちが一斉に頭を下げる。同じ者たちなのによく似た別人のように礼儀が正しい。クラウディアがぐるりと視線を送っても、怯える者は一人もいなかった。
「どういうことでしょう?」
「彼らはユリアに嫌がらせをするスキを与え、側妃の関心をクラウディアから反らしていた。ユリアはいろんな意味で小物だ。お前を殺すような度胸はない。側妃もユリアの楽しみを奪ってまでクラウディアに手を出そうとはしなかった」
フロレンツが自分のいない王宮で動かせる人数は限られていた。王宮内の状況を把握し続ける必要もあり、クラウディアに人員を割くわけにもいかなかったようだ。そのため、少ない人数でクラウディアの命を守れる方法をとっていた。合理的なフロレンツらしい采配だ。
「わたくしの楽しみは守られていませんでしたわ」
「学食でオムライスを食べていただろう? お前が卵を美味しそうに食べるから、卵料理に嫌がらせを仕掛けられていたんだぞ」
「だって、それは……」
好物を目の前に不味そうに食べてみせるなんて器用な事は出来ない。そんな方法でオムレツを守れるなんて考えてもみなかった。
「私もお前が精神的に追い詰められているようなら方法を変えていた。自分の精神力を恨め。針のむしろになっている学園の食堂で、平然と一人で食事をするような奴には十分すぎる配慮だった。私は学園に避難部屋を提供していたはずだ」
「分かっていませんわね。オムライスは作ってすぐに食べなければならないのですよ。北棟なんかに運ばせては冷えてしまうではないですか。お兄様も食べでみれば分かりますわ。ふわっととろっとした……」
「そんなことはどうでも良い」
クラウディアは話を遮られてムスッとする。フロレンツにはオムライスの美味しさが分からないらしい。
「……」
「そんなことで拗ねるな。まぁ、今回はカタリーナの行動を予想できず、私の計算が狂ってしまった。その点は謝罪しよう。お前に怖い思いをさせて悪かったな。アルフレートと連携を取るべきだった」
「アルと連携?」
「あいつから聞いていないのか? 王宮がクラウディアの失踪を隠していたのは私の部下の采配だ。私もその行動を支持している」
アルフレートはクラウディアの周囲にいたフロレンツの手の者について伝えられていなかった。クラウディアやリタ同様、味方だと知っていて知らぬふりは出来ないと判断されたようだ。
「私の部下もクラウディアの失踪を知って探していた。クラウディアが離宮にいることにしたのは、騎士団を動かさないためだ」
騎士団は当時からフロレンツが掌握していた。しかし、末端の人間まで全て把握しているわけもなく、クラウディアの失踪に関わった者が混ざっている可能性もあった。失踪を公にするべきかフロレンツの判断を仰いでいる間に、クラウディアがアルフレートに保護されたようだ。
その後については、公爵邸に滞在していることを公にして良いことなどないので、そのままにしていたらしい。
「それで、どうするんだ? 新しい者を雇っても構わんぞ。しかし、その者たちが信頼できるかは、また長い年月をかけて見極めていく必要があるだろうな。私への恨みがクラウディアに向かうことは十分にあり得る。だが、人を入れ替えるのはお前の我儘だ。今度は自分で……」
「ここにいる方々に今後もお願いしたいと思います。皆さん、またよろしくね」
今度はクラウディアがフロレンツの言葉を遮る。使用人たちに視線を移すと、主人に対する礼をきちんととってくれた。
「では、そのようにしよう。皆、不本意だろうが我慢してクラウディアに仕えてやってくれ」
「お兄様!」
「間違った事を言ったか?」
「いいえ。皆さん、よろしくお願いね」
クラウディアは納得いかなかったが、自分の今までの行いを思い出して反論を諦めた。
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