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41.別れ
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学園が長期休暇に入り、クラウディアたちは魔女を訪ねる旅に出発することとなった。長期休暇を待ったのは、地方に帰る生徒たちに紛れるためと、アルフレートが学園を休むと目立つからだ。
さらに安全を期すため出発は深夜となった。クラウディアが準備を終えて玄関に向かうと、変装をしたフロレンツが待っていた。
「アルフレート、少し時間をもらえるかな?」
「もちろんです」
クラウディアのそばにいたアルフレートは、フロレンツに頭を下げて先に馬車へと向かう。フロレンツに視線を戻すと、なぜかクラウディアを真剣な表情で眺めていた。目に焼き付けるような、そんな必死さを感じで戸惑う。
「お兄様?」
「しばらく会えなくなる。見送りぐらいはしようと思ってね」
フロレンツが爽やか笑顔を作ってクラウディアの頭を撫でる。先程の雰囲気が幻だったかのようだ。
「お兄様。どうか、ご無事で……」
クラウディアはフロレンツの危うさを感じとって、言わずにはいられなかった。屋敷から出ていないクラウディアには何も分からない。でも、フロレンツの言動からは嫌でもこれから起きることが想像できた。
「気づいていたのか……最後に父上に会いたかったか? それなら……」
「いいえ。わたくしの家族はお兄様だけですわ。わたくしもお手伝い出来れば良かったのですが……お兄様お一人にお任せしてしまって申し訳ありません」
クラウディアが安全な場所にいる間に国が変わる。フロレンツは王になるつもりなのだ。手伝うことが出来ないのは不甲斐ないが、今まで何も学んでこなかったクラウディアの責任だ。
「気にすることはない。お前にはお前の役目がある。これはアルフレートにも話したのだが、私にもしもの事が……」
「お兄様。わたくしはお馬鹿な悪役令嬢のクラウディアですよ。その先を聞いてもお役に立てることはありません。再び会える日を楽しみに待っておりますわ」
「ふっ……同じようなことを言うのだな」
「お兄様?」
フロレンツはチラリと後方の馬車に視線を送った。アルフレートも同じようなことを言ったのだろう。
誰に聞いても同じ答えだと思うが、珍しく弱気なのは重圧を感じているからだろうか?
その荷を代わりに背負うことは、クラウディアには難しい。クラウディアが心配で見つめていると、フロレンツが視線に気がついて柔らかく微笑む。
「分かった、また会おう」
「はい! 行ってまいります」
フロレンツから前向きな言葉が出てクラウディアはホッとする。フロレンツにはいつでも強く靭やかでいて欲しい。妹の理想を押し付けて悪いが、それができる人だ。
クラウディアが馬車に乗り込むと、フロレンツは笑顔で見送ってくれた。
これがクラウディアの見たフロレンツの最後の姿になる……わけもなく、さらにふてぶてしくなったフロレンツと一年後に再会することになる。ただ、こんなにも感情を表に出したフロレンツを見るのは、これが最後だったかもしれない。
さらに安全を期すため出発は深夜となった。クラウディアが準備を終えて玄関に向かうと、変装をしたフロレンツが待っていた。
「アルフレート、少し時間をもらえるかな?」
「もちろんです」
クラウディアのそばにいたアルフレートは、フロレンツに頭を下げて先に馬車へと向かう。フロレンツに視線を戻すと、なぜかクラウディアを真剣な表情で眺めていた。目に焼き付けるような、そんな必死さを感じで戸惑う。
「お兄様?」
「しばらく会えなくなる。見送りぐらいはしようと思ってね」
フロレンツが爽やか笑顔を作ってクラウディアの頭を撫でる。先程の雰囲気が幻だったかのようだ。
「お兄様。どうか、ご無事で……」
クラウディアはフロレンツの危うさを感じとって、言わずにはいられなかった。屋敷から出ていないクラウディアには何も分からない。でも、フロレンツの言動からは嫌でもこれから起きることが想像できた。
「気づいていたのか……最後に父上に会いたかったか? それなら……」
「いいえ。わたくしの家族はお兄様だけですわ。わたくしもお手伝い出来れば良かったのですが……お兄様お一人にお任せしてしまって申し訳ありません」
クラウディアが安全な場所にいる間に国が変わる。フロレンツは王になるつもりなのだ。手伝うことが出来ないのは不甲斐ないが、今まで何も学んでこなかったクラウディアの責任だ。
「気にすることはない。お前にはお前の役目がある。これはアルフレートにも話したのだが、私にもしもの事が……」
「お兄様。わたくしはお馬鹿な悪役令嬢のクラウディアですよ。その先を聞いてもお役に立てることはありません。再び会える日を楽しみに待っておりますわ」
「ふっ……同じようなことを言うのだな」
「お兄様?」
フロレンツはチラリと後方の馬車に視線を送った。アルフレートも同じようなことを言ったのだろう。
誰に聞いても同じ答えだと思うが、珍しく弱気なのは重圧を感じているからだろうか?
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これがクラウディアの見たフロレンツの最後の姿になる……わけもなく、さらにふてぶてしくなったフロレンツと一年後に再会することになる。ただ、こんなにも感情を表に出したフロレンツを見るのは、これが最後だったかもしれない。
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