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40.動機【アルフレート】
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フロレンツが時間をくれるようなので、アルフレートは残った疑問についても確認することにした。
「ピラルクー伯爵家の二人がカタリーナに協力した理由は何だったのでしょう?」
「聞きたいか?」
「え、ええ」
なぜかニヤリと笑うフロレンツに、アルフレートは戸惑いながら頷いた。
「発端はユリアの我儘にある。もっと言うならば、子供の頃の私のせいかもしれないな。ユリアはクラウディアが一番大切にしているものを奪い取りたかったようだ」
「えっと、どういうことでしょう?」
アルフレートには『クラウディアが一番大切にしているもの』が分からない。フロレンツが関わっているものでクラウディアが大切にしているものがあるなら、すぐにでも王宮の彼女の私室から持ち出して渡してあげたい。だが、クラウディアが私室にあるもので望んたのは、アルフレートの恥ずかしい手紙くらいだ。
「クラウディアが『悪役令嬢』と呼ばれているのは知っているな」
「え、ええ。その件に関しては対応ができず申し訳ありません」
「それは良い。私も把握していたが対応せずに傍観していた。あれはモーリッツの婚約者であるプラニセプス侯爵令嬢の発案だったようだ」
フロレンツの側近に引き継がれて語られたのは、マリウスの供述と学園に残っていたフロレンツの手の者の話をまとめたものだった。
「え!?」
王女ユリアはアルフレートに目をつけ、クラウディアから婚約者の座を奪い取ろうとしていたらしい。元々はユリアの婚約者になるはずだったのだから、奪い返すが正しいだろうか。とにかく、クラウディアの良くない噂を流し、アルフレートが愛想を尽かすのを待っていたようだ。
「何を驚くことがある。ユリアの同世代で私の側近でない高位貴族は少ないのだぞ。使えないと切り捨てた者を望まなかっただけ、ユリアも人を見る目があったということだ」
確かに政治的なことを考えれば、ユリアとフロレンツの側近が結婚することはありえない。アルフレートならば、第二王子派に鞍替えすれば、ありえないことはないだろう。
フロレンツが色気のない説明をして、アルフレート自身に惚れた可能性についてはバッサリと切り捨てた。別にユリアに好かれたいわけではないが、本題に関係ないのだから理由を解き明かす必要もない。
「……」
カタリーナはユリアやプラニセプス侯爵令嬢に協力しているふりをしながら、ピラルクー兄弟に近づいた。マリウスに『天使のような』と形容されたカタリーナは、プラニセプス侯爵令嬢の要望に答えられず悩む兄弟に囁く。回りくどいやり方をしなくても、もっと簡単な方法があると……
「最終的にはモーリッツの暴走だな。マリウスは兄に巻き込まれた印象だ。モーリッツは婚約者の関心を自分に向けたくて必死だったのだろう」
「なるほど……」
アルフレートは呪いを使い死んでしまったモーリッツに初めて同情した。婚約者の心を繋ぎ止めたい情けない男の気持ちなら、アルフレートにもよく分かる。
「クラウディアの件にプラニセプス侯爵令嬢が関わっていたなら、一気にベンヤミンの支持者を消せたのに残念だよ」
優秀で女性に逃げられる可能性などないフロレンツは、モーリッツに同情することなく、あっさりと話を締めた。
「他に聞いておきたいことはあるか?」
「いいえ。大丈夫です」
「そうか。では」
話は終わりかと思ったが、フロレンツはここにきて護衛を部屋から追い出してしまった。側近を含めて人払いされた二人きりの部屋。その中でされる話など面倒なことに決まっている。アルフレートはゴクリと唾を飲みこんだ。
フロレンツは珍しく躊躇しているようで、中々本題に入らなかった。その時間がアルフレートをさらに緊張させる。
「……」
「……アルフレート。これから私のすることは分かっているな。私に何かあればクラウディアを女王とし、お前が王配として支えてほしいと思っている。頼むな」
アルフレートはルビー色の瞳を覗き込むように見るが、真摯にこちらを見ているだけだった。驚くべきことだが、フロレンツは本気でそう思っているようだ。
アルフレートとクラウディアにはどう考えても無理なのに、過大評価しすぎだと思う。冷静なフロレンツとは思えない。大仕事を前に弱気になっているのだろうか?
「フロレンツ殿下。それは無理な願いです。何が何でも生き残って、殿下が王位について下さい。あなたが倒れた先に、この国の未来はありませんよ」
フロレンツの瞳に怒気が混ざる。しばらく睨み合っていたが、フロレンツの方が先に折れて視線を外した。
「分かった。善処しよう」
フロレンツは先程の言葉を取り消す気はないようだ。アルフレートもそこは指摘せずにお茶を飲む。
「言われっぱなしでは癪だから、一つ助言させてくれ。クラウディアを手放したくなければ、二人でちゃんと話し合え。あれは頑固だ。言わなくても通じ合っているなどと幻想を抱いていると取り返しがつかなくなるぞ」
「……胸に刻んでおきます」
「ああ。そうしてくれ」
クラウディアの性格を分かっているからこそ話し合えない時もある。いや、それも臆病者の言い訳か?
どちらにしろフロレンツと言い合いをしても意味がないので、アルフレートは静かに部屋を辞した。
「ピラルクー伯爵家の二人がカタリーナに協力した理由は何だったのでしょう?」
「聞きたいか?」
「え、ええ」
なぜかニヤリと笑うフロレンツに、アルフレートは戸惑いながら頷いた。
「発端はユリアの我儘にある。もっと言うならば、子供の頃の私のせいかもしれないな。ユリアはクラウディアが一番大切にしているものを奪い取りたかったようだ」
「えっと、どういうことでしょう?」
アルフレートには『クラウディアが一番大切にしているもの』が分からない。フロレンツが関わっているものでクラウディアが大切にしているものがあるなら、すぐにでも王宮の彼女の私室から持ち出して渡してあげたい。だが、クラウディアが私室にあるもので望んたのは、アルフレートの恥ずかしい手紙くらいだ。
「クラウディアが『悪役令嬢』と呼ばれているのは知っているな」
「え、ええ。その件に関しては対応ができず申し訳ありません」
「それは良い。私も把握していたが対応せずに傍観していた。あれはモーリッツの婚約者であるプラニセプス侯爵令嬢の発案だったようだ」
フロレンツの側近に引き継がれて語られたのは、マリウスの供述と学園に残っていたフロレンツの手の者の話をまとめたものだった。
「え!?」
王女ユリアはアルフレートに目をつけ、クラウディアから婚約者の座を奪い取ろうとしていたらしい。元々はユリアの婚約者になるはずだったのだから、奪い返すが正しいだろうか。とにかく、クラウディアの良くない噂を流し、アルフレートが愛想を尽かすのを待っていたようだ。
「何を驚くことがある。ユリアの同世代で私の側近でない高位貴族は少ないのだぞ。使えないと切り捨てた者を望まなかっただけ、ユリアも人を見る目があったということだ」
確かに政治的なことを考えれば、ユリアとフロレンツの側近が結婚することはありえない。アルフレートならば、第二王子派に鞍替えすれば、ありえないことはないだろう。
フロレンツが色気のない説明をして、アルフレート自身に惚れた可能性についてはバッサリと切り捨てた。別にユリアに好かれたいわけではないが、本題に関係ないのだから理由を解き明かす必要もない。
「……」
カタリーナはユリアやプラニセプス侯爵令嬢に協力しているふりをしながら、ピラルクー兄弟に近づいた。マリウスに『天使のような』と形容されたカタリーナは、プラニセプス侯爵令嬢の要望に答えられず悩む兄弟に囁く。回りくどいやり方をしなくても、もっと簡単な方法があると……
「最終的にはモーリッツの暴走だな。マリウスは兄に巻き込まれた印象だ。モーリッツは婚約者の関心を自分に向けたくて必死だったのだろう」
「なるほど……」
アルフレートは呪いを使い死んでしまったモーリッツに初めて同情した。婚約者の心を繋ぎ止めたい情けない男の気持ちなら、アルフレートにもよく分かる。
「クラウディアの件にプラニセプス侯爵令嬢が関わっていたなら、一気にベンヤミンの支持者を消せたのに残念だよ」
優秀で女性に逃げられる可能性などないフロレンツは、モーリッツに同情することなく、あっさりと話を締めた。
「他に聞いておきたいことはあるか?」
「いいえ。大丈夫です」
「そうか。では」
話は終わりかと思ったが、フロレンツはここにきて護衛を部屋から追い出してしまった。側近を含めて人払いされた二人きりの部屋。その中でされる話など面倒なことに決まっている。アルフレートはゴクリと唾を飲みこんだ。
フロレンツは珍しく躊躇しているようで、中々本題に入らなかった。その時間がアルフレートをさらに緊張させる。
「……」
「……アルフレート。これから私のすることは分かっているな。私に何かあればクラウディアを女王とし、お前が王配として支えてほしいと思っている。頼むな」
アルフレートはルビー色の瞳を覗き込むように見るが、真摯にこちらを見ているだけだった。驚くべきことだが、フロレンツは本気でそう思っているようだ。
アルフレートとクラウディアにはどう考えても無理なのに、過大評価しすぎだと思う。冷静なフロレンツとは思えない。大仕事を前に弱気になっているのだろうか?
「フロレンツ殿下。それは無理な願いです。何が何でも生き残って、殿下が王位について下さい。あなたが倒れた先に、この国の未来はありませんよ」
フロレンツの瞳に怒気が混ざる。しばらく睨み合っていたが、フロレンツの方が先に折れて視線を外した。
「分かった。善処しよう」
フロレンツは先程の言葉を取り消す気はないようだ。アルフレートもそこは指摘せずにお茶を飲む。
「言われっぱなしでは癪だから、一つ助言させてくれ。クラウディアを手放したくなければ、二人でちゃんと話し合え。あれは頑固だ。言わなくても通じ合っているなどと幻想を抱いていると取り返しがつかなくなるぞ」
「……胸に刻んでおきます」
「ああ。そうしてくれ」
クラウディアの性格を分かっているからこそ話し合えない時もある。いや、それも臆病者の言い訳か?
どちらにしろフロレンツと言い合いをしても意味がないので、アルフレートは静かに部屋を辞した。
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