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38.カタリーナの正体【アルフレート】
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微弱な魔力を失う理由には不明な点も多く、現在分かっている条件を満たしても聖女になれなかった者もいるようだ。
「分かっている条件は3つ。『大切な者の非業の死』『膨大な魔力への長期間の曝露』『本人が死を予感するような出来事』だ」
アルフレートは条件を聞いて身体が強張るのを感じた。
『大切な者の非業の死』
これはクラウディアの母の死と考えて良いだろう。幼いクラウディアとフロレンツの目の前で亡くなったと聞いている。
そして、3つ目の条件については言うまでもない。問題は……
『膨大な魔力への長期間の曝露』
膨大な魔力を持っていた者などクラウディアの近くには一人しかいない。クラウディアはアルフレートのそばに長時間いたせいで……
「アルのおかげでカタリーナの光魔法を跳ね返せたのかしら? 光の魔力を持っていれば聖女になれたのに、ちょっと残念ね」
クラウディアは本当に残念そうに言った。注意深く観察しても、それ以外の感情はなさそうだ。魔力の高すぎる者にある未知の危険が発覚したというのに、六属性持ちであるアルフレートのそばを恐れる様子はどこにもない。
「クラウディア、ありがとう」
「なんで、アルがお礼を言うのかしら? お礼を言うならわたくしの方でしょ?」
「分からないなら、それで良いよ」
アルフレートが恐る恐る頭を撫でても、クラウディアは首を傾げるだけだった。フロレンツも気にする様子もなく、お茶を飲んでいる。そして、あっさりと話を戻した。
「本題はここからだ。オキシドラス王国の前国王は優しい王として有名だった。ただ、現国王の言葉を借りるなら『視野が狭かった』らしい。聖女研究により、多くの一族性持ちが犠牲になったことを知り、研究の打ち切りを命じた」
仕事を失った研究者には別の仕事が与えられたようだが、聖女研究に全てを捧げてきた者の中にはオキシドラス王国離れた者もいるらしい。研究内容の流出をゆるしては、研究を打ち切った意味がない。
「現国王がその危険性に気がつき研究者を探したときには、消息が掴めなくなっている者がいた。カタリーナにはバルバード帝国の訛があるとのことだったな」
「はい……もしかして」
フロレンツが静かに頷く。
「異世界から来たカタリーナ・ピンタード。父上が毒に倒れ、手の施しようがないと言われた直後に現れた。最初から怪しいと思っていたが、異世界人ですらなかったようだ」
消息を断った研究者はバルバード帝国に渡って研究を続けていたと思われる。そして被験者の一人だったのが、おそらくカタリーナだ。
「研究所については未だ調査中だ。私の密偵とオキシドラス王国の密偵が協力して帝国内を探している。この件に関して得た情報をオキシドラスに流すことが、聖女研究について知るための条件だった」
研究者側の情報は掴めていないが、カタリーナについては報告が上がって来ているらしい。本名はターナと言い、バルバード帝国の男爵令嬢だったようだ。
「あの喋り方で男爵令嬢なんですね……」
「貧乏な家だったようで、平民同然に暮らしていたそうだよ」
光属性一属性持ちだったターナは、十年前に馬車の事故にあって弟と共に亡くなったことになっていた。元々は貧乏な家だったようだが、自損事故にも関わらずターナたちが亡くなった直後から父である男爵の羽振りが良くなったらしい。酔ったときに『我が家に金のなる木が生まれた』と言っていたようだ。
「もしかして、弟さんは……」
クラウディアが消え入りそうな声で言う。聖女になるためには『大切な者の非業の死』が必要だ。
「生きていないだろうな。だが、勘違いするな。カタリーナが被害者だったのは、クラウディアを襲うまでだ」
「分かっていますわ」
その男爵もカタリーナがピンタード侯爵家に引き取られる少し前に亡くなっている。屋敷の火事だったようで夫人も使用人たちも同時に亡くなったようだ。
「我が国に送り込む前に証拠隠滅を計ったのだろうな。ただ、男爵家があった領都の民をすべて殺すことは出来なかった。ターナは生きていれば十七歳、髪や瞳の特徴から、おそらくカタリーナ・ピンタードで間違いない」
「カタリーナが人工的に作られた聖女だったなら、今後も帝国でカタリーナのような聖女が生まれる可能性があるということですね」
「そうだな。オキシドラスに残っていた研究を見る限りは成功率が低かったようだが、カタリーナが唯一の成功例だったのなら我が国に送り込むような事はしないだろう。その辺りも今後の報告待ちだな」
もうすでに数人の聖女がいる可能性がある。関係の悪い国だけに要注意だ。色々な角度から調査しているようなので、そのうち研究所についての情報も出てくることだろう。
「お前たちに直接関係のある話でもないが、気になるようなら報告が来たら知らせよう。この件の功労者はアルフレートだからな」
そう言ってフロレンツは話を締めた。アルフレートにフロレンツ自ら丁寧に説明してくれたのは、不在時に大きな事件の処理をさせた詫びの意味もあるのだろう。兄妹揃って素直でない。
「よろしくお願い致します」
アルフレートはその事には触れずに頭を下げた。フロレンツのそんな部分が見れるのは、気を許された一部の人間だけだとよく知っている。
「分かっている条件は3つ。『大切な者の非業の死』『膨大な魔力への長期間の曝露』『本人が死を予感するような出来事』だ」
アルフレートは条件を聞いて身体が強張るのを感じた。
『大切な者の非業の死』
これはクラウディアの母の死と考えて良いだろう。幼いクラウディアとフロレンツの目の前で亡くなったと聞いている。
そして、3つ目の条件については言うまでもない。問題は……
『膨大な魔力への長期間の曝露』
膨大な魔力を持っていた者などクラウディアの近くには一人しかいない。クラウディアはアルフレートのそばに長時間いたせいで……
「アルのおかげでカタリーナの光魔法を跳ね返せたのかしら? 光の魔力を持っていれば聖女になれたのに、ちょっと残念ね」
クラウディアは本当に残念そうに言った。注意深く観察しても、それ以外の感情はなさそうだ。魔力の高すぎる者にある未知の危険が発覚したというのに、六属性持ちであるアルフレートのそばを恐れる様子はどこにもない。
「クラウディア、ありがとう」
「なんで、アルがお礼を言うのかしら? お礼を言うならわたくしの方でしょ?」
「分からないなら、それで良いよ」
アルフレートが恐る恐る頭を撫でても、クラウディアは首を傾げるだけだった。フロレンツも気にする様子もなく、お茶を飲んでいる。そして、あっさりと話を戻した。
「本題はここからだ。オキシドラス王国の前国王は優しい王として有名だった。ただ、現国王の言葉を借りるなら『視野が狭かった』らしい。聖女研究により、多くの一族性持ちが犠牲になったことを知り、研究の打ち切りを命じた」
仕事を失った研究者には別の仕事が与えられたようだが、聖女研究に全てを捧げてきた者の中にはオキシドラス王国離れた者もいるらしい。研究内容の流出をゆるしては、研究を打ち切った意味がない。
「現国王がその危険性に気がつき研究者を探したときには、消息が掴めなくなっている者がいた。カタリーナにはバルバード帝国の訛があるとのことだったな」
「はい……もしかして」
フロレンツが静かに頷く。
「異世界から来たカタリーナ・ピンタード。父上が毒に倒れ、手の施しようがないと言われた直後に現れた。最初から怪しいと思っていたが、異世界人ですらなかったようだ」
消息を断った研究者はバルバード帝国に渡って研究を続けていたと思われる。そして被験者の一人だったのが、おそらくカタリーナだ。
「研究所については未だ調査中だ。私の密偵とオキシドラス王国の密偵が協力して帝国内を探している。この件に関して得た情報をオキシドラスに流すことが、聖女研究について知るための条件だった」
研究者側の情報は掴めていないが、カタリーナについては報告が上がって来ているらしい。本名はターナと言い、バルバード帝国の男爵令嬢だったようだ。
「あの喋り方で男爵令嬢なんですね……」
「貧乏な家だったようで、平民同然に暮らしていたそうだよ」
光属性一属性持ちだったターナは、十年前に馬車の事故にあって弟と共に亡くなったことになっていた。元々は貧乏な家だったようだが、自損事故にも関わらずターナたちが亡くなった直後から父である男爵の羽振りが良くなったらしい。酔ったときに『我が家に金のなる木が生まれた』と言っていたようだ。
「もしかして、弟さんは……」
クラウディアが消え入りそうな声で言う。聖女になるためには『大切な者の非業の死』が必要だ。
「生きていないだろうな。だが、勘違いするな。カタリーナが被害者だったのは、クラウディアを襲うまでだ」
「分かっていますわ」
その男爵もカタリーナがピンタード侯爵家に引き取られる少し前に亡くなっている。屋敷の火事だったようで夫人も使用人たちも同時に亡くなったようだ。
「我が国に送り込む前に証拠隠滅を計ったのだろうな。ただ、男爵家があった領都の民をすべて殺すことは出来なかった。ターナは生きていれば十七歳、髪や瞳の特徴から、おそらくカタリーナ・ピンタードで間違いない」
「カタリーナが人工的に作られた聖女だったなら、今後も帝国でカタリーナのような聖女が生まれる可能性があるということですね」
「そうだな。オキシドラスに残っていた研究を見る限りは成功率が低かったようだが、カタリーナが唯一の成功例だったのなら我が国に送り込むような事はしないだろう。その辺りも今後の報告待ちだな」
もうすでに数人の聖女がいる可能性がある。関係の悪い国だけに要注意だ。色々な角度から調査しているようなので、そのうち研究所についての情報も出てくることだろう。
「お前たちに直接関係のある話でもないが、気になるようなら報告が来たら知らせよう。この件の功労者はアルフレートだからな」
そう言ってフロレンツは話を締めた。アルフレートにフロレンツ自ら丁寧に説明してくれたのは、不在時に大きな事件の処理をさせた詫びの意味もあるのだろう。兄妹揃って素直でない。
「よろしくお願い致します」
アルフレートはその事には触れずに頭を下げた。フロレンツのそんな部分が見れるのは、気を許された一部の人間だけだとよく知っている。
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