37 / 64
37.聖女の秘密【アルフレート】
しおりを挟む
フロレンツは際どい話をサラリとしたあと、聖女の話に移った。アルフレートは、クラウディアに聞かせたくないと思ったが、四つのルビー色の瞳に同時に睨まれて早々に諦める。
「オキシドラス王国は我が国より歴史が古い。王家の書庫には異世界からいらっしゃった聖女様の記述も残されていた」
フロレンツはオキシドラスに情報があると分かっていたものの、一度は閲覧を許されず婚約だけ結んで国に戻ってきたようだ。しかし、クラウディアの襲撃の報告を受けオキシドラスに再び出向いた。カタリーナの放った魔法やそれを防いだクラウディアの魔法の詳細と引き換えに情報を得たようだ。
「それ以外にも条件をつけられたがね。まぁ、こちらも無理を言っている自覚はあったから、かなり譲歩したよ。アルフレートに話す許可は得ていない。その事を肝に銘じた上で聞いてくれ」
アルフレートはその言葉に息を呑む。おそらく、オキシドラス王国の王家にのみ伝わる極秘事項だ。知らない方が身のためかもしれない。
隣を見るとクラウディアは小さく震えていた。それでも出ていく気がない強い意志を感じて、アルフレートもその場に留まった。
「この部屋の守りは完璧だな?」
「はい。ご安心下さい」
アルフレートは額の汗を拭いて、フロレンツの話に耳を傾ける。
フロレンツが閲覧を許されたのは聖女の力を研究したときの記録だったようだ。オキシドラス王国は聖女の力の源が何なのかを知ろうと、聖女の協力を得て検査などを行っていた。異世界から突然得るしかない力を、この世界で生み出し自由に使う方法を模索していたようだ。
「我々が一属性持ちと呼ぶ者たちが、本当の意味で『一属性持ち』でないことは知っているな」
「はい、もちろんです。例えば水属性一属性持ちでも水火風土の四属性魔力を僅かながらに持っているのが一般的です。水属性しか使用できない者というのが正確なところでしょうか」
属性魔力は一定量以上保有していないと自身で制御し使うことができない。一属性持ちとは、残りの三属性の魔力が微弱で制御できない者をいう。その三属性が魔法発動時に勝手に混ざり込み邪魔をするので、一属性持ちは強い魔法が使えないというのが定説だ。二属性持ちは制御できない属性が二つ、三属性持ちは一つ。四属性持ちのディータには制御できない属性がない。
「わたくしも水や風の魔力を持っているのかしら?」
「そうだ……ですね。闇魔力一属性持ちのクラウディア殿下は特殊ですから、水火風土の他に光の属性魔力も微弱ですがお持ちのはずです」
アルフレートはいつも通りクラウディアと喋りそうになって敬語に直す。フロレンツは気にしないだろうが、けじめは大事だ。
今言った通り、光と闇の二属性を持つ者は例外だ。通常は四つの器しか持っていないが、この二属性を持つ者だけが六つの器を持っていると言えば分かりやすいだろうか。
「それがクラウディアは違うんだよ」
「えっ?」
フロレンツがアルフレートの言葉をあっさり否定する。
「半年ほど前までは、クラウディアも六属性それぞれの魔力を保持していたのだろう。だが、今のクラウディアはおそらく闇属性の魔力しか持っていない。襲撃時に他の五属性の魔力を失ったのだよ」
「失った? どういうことでしょう?」
アルフレートは驚いてフロレンツを見る。そんな話は今までどこからも聞いたことがない。フロレンツは焦らすようにお茶を飲んでからゆったりと話し始めた。
「聖女の研究に話を戻そう。異世界から来た聖女は、自分の世界にいる頃は魔法をほとんど使えなかったようなのだ。光属性の一属性持ち。昔のクラウディアと似たような状況だな」
しかし、世界を渡ったことにより元々持っていた光魔法が活性化された。
「研究者が聖女様を調べているうちに、光属性以外の魔力を全く持っていない事が判明したようだ。世界を渡ったことにより、本当の意味での一属性持ちになったということだな」
そして、研究は次の段階に移る。聖女は特別な人間ではなかった。それなら、この世界の人間でも聖女になれるのではないか?
研究者たちは、世界を渡る過程で聖女に何らかの力が加わったと仮定した。そして、この世界に居ながらにして同じ状況を再現しようとしたのだ。ゆっくりと長い歴史の中で、密かに研究が行われてきたらしい。
この世界の光属性一属性持ちに聖女と同じ経験をさせたりしたようだが、人を助ける聖女を生み出す研究だ。中々非人道的なところに手を出すことが出来なかったようだ。
「数百年も研究が続いていれば一人くらいは傲慢な権力者が現れる。大きな発見とはそんな人物が絡んでいることが多いんじゃないかな?」
「ど、どんなことをしたのでしょう? 今のお話からすると、クラウディア殿下にも同じことが起きたということですよね?」
アルフレートはフロレンツに問いかけながら、クラウディアの方を見る。クラウディアは以外にも落ち着いているように見えた。
「大丈夫よ。これから何か起こるわけではないもの。お兄様。そうですわよね」
「ああ。そうだな。すでに起こったことを説明するだけだ。わざと経験させるには危険だが、クラウディアはここに無事でいる。アルフレートも良いか? 聞きたくなければ退室しても構わない」
「いいえ。きちんと最後までお聞きします」
なぜ、フロレンツがアルフレートに念を押ししたか? その答えは、一属性持ちの魔力が変化する条件の中にあった。
「オキシドラス王国は我が国より歴史が古い。王家の書庫には異世界からいらっしゃった聖女様の記述も残されていた」
フロレンツはオキシドラスに情報があると分かっていたものの、一度は閲覧を許されず婚約だけ結んで国に戻ってきたようだ。しかし、クラウディアの襲撃の報告を受けオキシドラスに再び出向いた。カタリーナの放った魔法やそれを防いだクラウディアの魔法の詳細と引き換えに情報を得たようだ。
「それ以外にも条件をつけられたがね。まぁ、こちらも無理を言っている自覚はあったから、かなり譲歩したよ。アルフレートに話す許可は得ていない。その事を肝に銘じた上で聞いてくれ」
アルフレートはその言葉に息を呑む。おそらく、オキシドラス王国の王家にのみ伝わる極秘事項だ。知らない方が身のためかもしれない。
隣を見るとクラウディアは小さく震えていた。それでも出ていく気がない強い意志を感じて、アルフレートもその場に留まった。
「この部屋の守りは完璧だな?」
「はい。ご安心下さい」
アルフレートは額の汗を拭いて、フロレンツの話に耳を傾ける。
フロレンツが閲覧を許されたのは聖女の力を研究したときの記録だったようだ。オキシドラス王国は聖女の力の源が何なのかを知ろうと、聖女の協力を得て検査などを行っていた。異世界から突然得るしかない力を、この世界で生み出し自由に使う方法を模索していたようだ。
「我々が一属性持ちと呼ぶ者たちが、本当の意味で『一属性持ち』でないことは知っているな」
「はい、もちろんです。例えば水属性一属性持ちでも水火風土の四属性魔力を僅かながらに持っているのが一般的です。水属性しか使用できない者というのが正確なところでしょうか」
属性魔力は一定量以上保有していないと自身で制御し使うことができない。一属性持ちとは、残りの三属性の魔力が微弱で制御できない者をいう。その三属性が魔法発動時に勝手に混ざり込み邪魔をするので、一属性持ちは強い魔法が使えないというのが定説だ。二属性持ちは制御できない属性が二つ、三属性持ちは一つ。四属性持ちのディータには制御できない属性がない。
「わたくしも水や風の魔力を持っているのかしら?」
「そうだ……ですね。闇魔力一属性持ちのクラウディア殿下は特殊ですから、水火風土の他に光の属性魔力も微弱ですがお持ちのはずです」
アルフレートはいつも通りクラウディアと喋りそうになって敬語に直す。フロレンツは気にしないだろうが、けじめは大事だ。
今言った通り、光と闇の二属性を持つ者は例外だ。通常は四つの器しか持っていないが、この二属性を持つ者だけが六つの器を持っていると言えば分かりやすいだろうか。
「それがクラウディアは違うんだよ」
「えっ?」
フロレンツがアルフレートの言葉をあっさり否定する。
「半年ほど前までは、クラウディアも六属性それぞれの魔力を保持していたのだろう。だが、今のクラウディアはおそらく闇属性の魔力しか持っていない。襲撃時に他の五属性の魔力を失ったのだよ」
「失った? どういうことでしょう?」
アルフレートは驚いてフロレンツを見る。そんな話は今までどこからも聞いたことがない。フロレンツは焦らすようにお茶を飲んでからゆったりと話し始めた。
「聖女の研究に話を戻そう。異世界から来た聖女は、自分の世界にいる頃は魔法をほとんど使えなかったようなのだ。光属性の一属性持ち。昔のクラウディアと似たような状況だな」
しかし、世界を渡ったことにより元々持っていた光魔法が活性化された。
「研究者が聖女様を調べているうちに、光属性以外の魔力を全く持っていない事が判明したようだ。世界を渡ったことにより、本当の意味での一属性持ちになったということだな」
そして、研究は次の段階に移る。聖女は特別な人間ではなかった。それなら、この世界の人間でも聖女になれるのではないか?
研究者たちは、世界を渡る過程で聖女に何らかの力が加わったと仮定した。そして、この世界に居ながらにして同じ状況を再現しようとしたのだ。ゆっくりと長い歴史の中で、密かに研究が行われてきたらしい。
この世界の光属性一属性持ちに聖女と同じ経験をさせたりしたようだが、人を助ける聖女を生み出す研究だ。中々非人道的なところに手を出すことが出来なかったようだ。
「数百年も研究が続いていれば一人くらいは傲慢な権力者が現れる。大きな発見とはそんな人物が絡んでいることが多いんじゃないかな?」
「ど、どんなことをしたのでしょう? 今のお話からすると、クラウディア殿下にも同じことが起きたということですよね?」
アルフレートはフロレンツに問いかけながら、クラウディアの方を見る。クラウディアは以外にも落ち着いているように見えた。
「大丈夫よ。これから何か起こるわけではないもの。お兄様。そうですわよね」
「ああ。そうだな。すでに起こったことを説明するだけだ。わざと経験させるには危険だが、クラウディアはここに無事でいる。アルフレートも良いか? 聞きたくなければ退室しても構わない」
「いいえ。きちんと最後までお聞きします」
なぜ、フロレンツがアルフレートに念を押ししたか? その答えは、一属性持ちの魔力が変化する条件の中にあった。
0
お気に入りに追加
222
あなたにおすすめの小説
婚約者の幼馴染に階段から突き落とされたら夢から覚めました。今度は私が落とす番です
桃瀬さら
恋愛
マリベルは婚約者の幼馴染に階段から突き落とされた。
マリベルのことを守ると言った婚約者はもういない。
今は幼馴染を守るのに忙しいらしい。
突き落とされた衝撃で意識を失って目が覚めたマリベルは、婚約者を突き落とすことにした。
ヴィスタリア帝国の花嫁 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜
夕凪ゆな@コミカライズ連載中
恋愛
大陸の西の果てにあるスフィア王国。
その国の公爵家令嬢エリスは、王太子の婚約者だった。
だがある日、エリスは姦通の罪を着せられ婚約破棄されてしまう。
そんなエリスに追い打ちをかけるように、王宮からとある命が下る。
それはなんと、ヴィスタリア帝国の悪名高き第三皇子アレクシスの元に嫁げという内容だった。
結婚式も終わり、その日の初夜、エリスはアレクシスから告げられる。
「お前を抱くのはそれが果たすべき義務だからだ。俺はこの先もずっと、お前を愛するつもりはない」と。
だがその宣言とは違い、アレクシスの様子は何だか優しくて――?
【アルファポリス先行公開】
婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。
夢草 蝶
恋愛
侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。
そのため、当然婚約者もいない。
なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。
差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。
すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?
初恋の幼馴染に再会しましたが、嫌われてしまったようなので、恋心を魔法で封印しようと思います【完結】
皇 翼
恋愛
「昔からそうだ。……お前を見ているとイライラする。俺はそんなお前が……嫌いだ」
幼馴染で私の初恋の彼――ゼルク=ディートヘルムから放たれたその言葉。元々彼から好かれているなんていう希望は捨てていたはずなのに、自分は彼の隣に居続けることが出来ないと分かっていた筈なのに、その言葉にこれ以上ない程の衝撃を受けている自分がいることに驚いた。
「な、によ……それ」
声が自然と震えるのが分かる。目頭も火が出そうなくらいに熱くて、今にも泣き出してしまいそうだ。でも絶対に泣きたくなんてない。それは私の意地もあるし、なによりもここで泣いたら、自分が今まで貫いてきたものが崩れてしまいそうで……。だから言ってしまった。
「私だって貴方なんて、――――嫌いよ。大っ嫌い」
******
以前この作品を書いていましたが、更新しない内に展開が自分で納得できなくなったため、大幅に内容を変えています。
タイトルの回収までは時間がかかります。
【完結】似て非なる双子の結婚
野村にれ
恋愛
ウェーブ王国のグラーフ伯爵家のメルベールとユーリ、トスター侯爵家のキリアムとオーランド兄弟は共に双子だった。メルベールとユーリは一卵性で、キリアムとオーランドは二卵性で、兄弟という程度に似ていた。
隣り合った領地で、伯爵家と侯爵家爵位ということもあり、親同士も仲が良かった。幼い頃から、親たちはよく集まっては、双子同士が結婚すれば面白い、どちらが継いでもいいななどと、集まっては話していた。
そして、図らずも両家の願いは叶い、メルベールとキリアムは婚約をした。
ユーリもオーランドとの婚約を迫られるが、二組の双子は幸せになれるのだろうか。
いいですよ、離婚しましょう。だって、あなたはその女性が好きなのでしょう?
水垣するめ
恋愛
アリシアとロバートが結婚したのは一年前。
貴族にありがちな親と親との政略結婚だった。
二人は婚約した後、何事も無く結婚して、ロバートは婿養子としてこの家に来た。
しかし結婚してから一ヶ月経った頃、「出かけてくる」と言って週に一度、朝から晩まで出かけるようになった。
アリシアはすぐに、ロバートは幼馴染のサラに会いに行っているのだと分かった。
彼が昔から幼馴染を好意を寄せていたのは分かっていたからだ。
しかし、アリシアは私以外の女性と一切関わるな、と言うつもりもなかったし、幼馴染とも関係を切れ、なんて狭量なことを言うつもりも無かった。
だから、毎週一度会うぐらいなら、それくらいは情けとして良いだろう、と思っていた。
ずっと愛していたのだからしょうがない、とも思っていた。
一日中家を空けることは無かったし、結婚している以上ある程度の節度は守っていると思っていた。
しかし、ロバートはアリシアの信頼を裏切っていた。
そしてアリシアは家からロバートを追放しようと決意する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる