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37.聖女の秘密【アルフレート】

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 フロレンツは際どい話をサラリとしたあと、聖女の話に移った。アルフレートは、クラウディアに聞かせたくないと思ったが、四つのルビー色の瞳に同時に睨まれて早々に諦める。

「オキシドラス王国は我が国より歴史が古い。王家の書庫には異世界からいらっしゃった聖女様の記述も残されていた」

 フロレンツはオキシドラスに情報があると分かっていたものの、一度は閲覧を許されず婚約だけ結んで国に戻ってきたようだ。しかし、クラウディアの襲撃の報告を受けオキシドラスに再び出向いた。カタリーナの放った魔法やそれを防いだクラウディアの魔法の詳細と引き換えに情報を得たようだ。

「それ以外にも条件をつけられたがね。まぁ、こちらも無理を言っている自覚はあったから、かなり譲歩したよ。アルフレートに話す許可は得ていない。その事を肝に銘じた上で聞いてくれ」

 アルフレートはその言葉に息を呑む。おそらく、オキシドラス王国の王家にのみ伝わる極秘事項だ。知らない方が身のためかもしれない。

 隣を見るとクラウディアは小さく震えていた。それでも出ていく気がない強い意志を感じて、アルフレートもその場に留まった。


「この部屋の守りは完璧だな?」 

「はい。ご安心下さい」

 アルフレートは額の汗を拭いて、フロレンツの話に耳を傾ける。

 フロレンツが閲覧を許されたのは聖女の力を研究したときの記録だったようだ。オキシドラス王国は聖女の力の源が何なのかを知ろうと、聖女の協力を得て検査などを行っていた。異世界から突然得るしかない力を、この世界で生み出し自由に使う方法を模索していたようだ。

「我々が一属性持ちと呼ぶ者たちが、本当の意味で『一属性持ち』でないことは知っているな」

「はい、もちろんです。例えば水属性一属性持ちでも水火風土の四属性魔力を僅かながらに持っているのが一般的です。水属性しか使用できない者というのが正確なところでしょうか」

 属性魔力は一定量以上保有していないと自身で制御し使うことができない。一属性持ちとは、残りの三属性の魔力が微弱で制御できない者をいう。その三属性が魔法発動時に勝手に混ざり込み邪魔をするので、一属性持ちは強い魔法が使えないというのが定説だ。二属性持ちは制御できない属性が二つ、三属性持ちは一つ。四属性持ちのディータには制御できない属性がない。

「わたくしも水や風の魔力を持っているのかしら?」

「そうだ……ですね。闇魔力一属性持ちのクラウディア殿下は特殊ですから、水火風土の他に光の属性魔力も微弱ですがお持ちのはずです」

 アルフレートはいつも通りクラウディアと喋りそうになって敬語に直す。フロレンツは気にしないだろうが、けじめは大事だ。

 今言った通り、光と闇の二属性を持つ者は例外だ。通常は四つの器しか持っていないが、この二属性を持つ者だけが六つの器を持っていると言えば分かりやすいだろうか。

「それがクラウディアは違うんだよ」

「えっ?」

 フロレンツがアルフレートの言葉をあっさり否定する。

「半年ほど前までは、クラウディアも六属性それぞれの魔力を保持していたのだろう。だが、今のクラウディアはおそらく闇属性の魔力しか持っていない。襲撃時に他の五属性の魔力を失ったのだよ」

「失った? どういうことでしょう?」

 アルフレートは驚いてフロレンツを見る。そんな話は今までどこからも聞いたことがない。フロレンツは焦らすようにお茶を飲んでからゆったりと話し始めた。

「聖女の研究に話を戻そう。異世界から来た聖女は、自分の世界にいる頃は魔法をほとんど使えなかったようなのだ。光属性の一属性持ち。昔のクラウディアと似たような状況だな」

 しかし、世界を渡ったことにより元々持っていた光魔法が活性化された。

「研究者が聖女様を調べているうちに、光属性以外の魔力を全く持っていない事が判明したようだ。世界を渡ったことにより、本当の意味での一属性持ちになったということだな」

 そして、研究は次の段階に移る。聖女は特別な人間ではなかった。それなら、この世界の人間でも聖女になれるのではないか? 

 研究者たちは、世界を渡る過程で聖女に何らかの力が加わったと仮定した。そして、この世界に居ながらにして同じ状況を再現しようとしたのだ。ゆっくりと長い歴史の中で、密かに研究が行われてきたらしい。

 この世界の光属性一属性持ちに聖女と同じ経験をさせたりしたようだが、人を助ける聖女を生み出す研究だ。中々非人道的なところに手を出すことが出来なかったようだ。

「数百年も研究が続いていれば一人くらいは傲慢な権力者が現れる。大きな発見とはそんな人物が絡んでいることが多いんじゃないかな?」

「ど、どんなことをしたのでしょう? 今のお話からすると、クラウディア殿下にも同じことが起きたということですよね?」

 アルフレートはフロレンツに問いかけながら、クラウディアの方を見る。クラウディアは以外にも落ち着いているように見えた。

「大丈夫よ。これから何か起こるわけではないもの。お兄様。そうですわよね」

「ああ。そうだな。すでに起こったことを説明するだけだ。わざと経験させるには危険だが、クラウディアはここに無事でいる。アルフレートも良いか? 聞きたくなければ退室しても構わない」

「いいえ。きちんと最後までお聞きします」

 なぜ、フロレンツがアルフレートに念を押ししたか? その答えは、一属性持ちの魔力が変化する条件の中にあった。
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