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25.修復魔法
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クラウディアは屋敷に戻ってからもアルフレートのそばで過ごした。
『確認するべきことが出てくるかもしれないから近くにいろ』
そう言ったはずなのに、アルフレートは書斎で事件とは関係ない仕事をしている。確認することなんてないのではないか? ソファで仕事をするのは大変ではないか? クラウディアが寄りかかっていて邪魔ではないか?
アルフレートのためには書斎を出ていくべきだと分かっているのに、クラウディアは動くことが出来なかった。心の中でお礼を言って、クラウディアを気遣うアルフレートの優しさに黙って甘えた。
ただ……
「一人で、眠れそうか?」
「あ、当たり前でしょ。わたくしを子供扱いしないで下さる?」
流石に夜も一緒にいてほしいとは言えなくて、クラウディアは自分の寝室のベッドに入る。隣の部屋から洩れる薄明かりだけがクラウディアを支えてくれていた。
今日はどうせ眠れない。
そう思っていたのに、いつの間に眠っていたのだろう?
クラウディアは気がつくと学園の北棟にいた。二つの人影がクラウディアにせまる。逃げたいと思うのに足が床から離れない。こちらに向かう殺気とともに眩しくおぞましい光がクラウディアを……
「アル、助けて!」
クラウディアは叫びながら飛びを起きた。
ドカン! バリン!!
現実に戻ったはずなのに、恐ろしい爆発音が部屋に轟く。驚いて握りしめた左手のブレスレットがほのかに温かい。
「クラウディア、大丈夫か?」
クラウディアが周囲の状況を確認する前に、耳元でアルフレートの声がした。よく知る温もりに包まれてホッと息を吐く。
「クラウディア?」
「ごめんなさい。夢を見ただけなの。心配ないわ」
公爵家に来てからは夢に魘されることなどなかったのに、現場に行ったことが引き金になったのだろうか。
「それなら良かった」
クラウディアの額に手をあてていたアルフレートも安心したように笑う。あれだけ魘されたのに孤児院にいた頃のような吐き気はない。それが不思議でもあり、包み込む温もりを感じていれば当たり前だとも思う。
「危ないから、動くなよ」
クラウディアがベッドから出ようとしたら、アルフレートに止められた。クラウディアは寝間着を見られたのが恥ずかしくて、ソファにおいてあるはずのカーディガンを取りたかっただけだ。まるで危険地帯にいるかのように抱き寄せられて、動くことも出来ない。
「危ない?」
理由を聞く前に焦ったような足音がいくつも近づいてきた。ノックもなく部屋の扉が開け放たれる。
「クラウディア様、ご無事ですか!?」
リタが息を切らしながら入ってきた。それと同時に暗かった部屋に明かりが灯る。リタは寝間着でカーディガンを握りしめていて、慌てて来てくれたことが分かった。
「ええ、平気よ」
魘されて叫んだ声が使用人部屋まで聞こえたのかと思うと恥ずかしい。確かリタの部屋は三階の奥だったはずだ。
あれ? そんなことってあり得るかしら?
「アルフレート様、派手にやりましたね。敵の気配はないようですが、どういうことでしょう?」
ディータがアルフレートの部屋から顔を出す。ディータの冷たい声より、彼の周囲の状況がクラウディアを絶句させた。
アルフレートの部屋との間にある扉は閉まったままだ。アルフレートがちょうど通れるくらいの細長い穴が空いているが……
「アルフレート、扉を開けなかったの?」
「ああ。ちょっと急いでたからな」
「どんな会話ですか。クラウディア様、寝ぼけてます?」
ディータが疲れた様子で言う。周囲をよく見ると、扉の破片がそこら中に散らばっていて窓ガラスも割れていた。聞こえた爆発音は夢ではなかったらしい。
「ちょっと力を入れすぎて、爆風でガラスが割れたようだな」
クラウディアがアルフレートを見上げると、恥ずかしそうに笑った。
「修理代はご自分の個人資産から出してくださいね。公爵家の予算からは出せませんよ」
「お前が決めることじゃないだろう……」
「ついでに言えば、割れたガラスは今直してください」
「分かったよ」
アルフレートが言いながら立ち上がる。クラウディアがぼんやりしたまま見ていると、アルフレートがクラウディアのカーディガンを持ってきてくれた。
「今から直すの? いくらなんでも職人が可愛そうだわ」
「だよな。もう少し俺に優しくしてほしい」
アルフレートはクラウディアの頭を撫でると、割れたガラスの方に近づいていく。アルフレートが念じると、ふわりとガラスが宙に浮いた。
「何してるの?」
「傷を手当する光魔法の応用です」
ディータが、集中しているアルフレートの代わりに説明してくれる。
「人間の身体は傷を治そう、言い換えれば元に戻ろうとする力があるので、光魔法はそれを利用して怪我の前まで身体の時間を戻すことで治療します。ガラスには自分で直そうとする力がないので、代わりに魔法で補助するんです」
「なるほど……?」
アルフレートの様子を見ていると、さらに別の魔法を重ねて使用しているようだ。
「風魔法で浮かせたガラスを水魔法で覆う事で元の形に近づけます。それを火魔法でくっつけると完成です。いずれの魔法にも光魔法を混ぜる必要があるので、光、風、水、火の四属性を使いこなせるアルフレート様ならではの荒技です」
「本当はそんな簡単な話じゃないけどな」
アルフレートがハンカチで汗を拭きながら言う。ディータはクラウディアに分かるように噛み砕いて説明してくれたらしい。それでも理解しきれなかったが、ガラスは近くで見てもひび割れさえなく綺麗に直っていた。
「不思議ね」
「まぁ、再利用できるような素材しか直せないんだけどな。ガラスは作れる者が少ないから喜ばれる」
扉は木が粉々になっているので直せないようだ。アルフレートは魔法で散らばった扉のパーツを集めて、ディータが持ってきた箱に収める。穴の開いた扉も魔法で蝶番を外して取り払ってしまった。
「今日は危険だから俺の部屋に来い」
「うん」
クラウディアには危険かどうかは分からないが、一人で居たくなくてアルフレートの言葉に素直に頷いた。
『確認するべきことが出てくるかもしれないから近くにいろ』
そう言ったはずなのに、アルフレートは書斎で事件とは関係ない仕事をしている。確認することなんてないのではないか? ソファで仕事をするのは大変ではないか? クラウディアが寄りかかっていて邪魔ではないか?
アルフレートのためには書斎を出ていくべきだと分かっているのに、クラウディアは動くことが出来なかった。心の中でお礼を言って、クラウディアを気遣うアルフレートの優しさに黙って甘えた。
ただ……
「一人で、眠れそうか?」
「あ、当たり前でしょ。わたくしを子供扱いしないで下さる?」
流石に夜も一緒にいてほしいとは言えなくて、クラウディアは自分の寝室のベッドに入る。隣の部屋から洩れる薄明かりだけがクラウディアを支えてくれていた。
今日はどうせ眠れない。
そう思っていたのに、いつの間に眠っていたのだろう?
クラウディアは気がつくと学園の北棟にいた。二つの人影がクラウディアにせまる。逃げたいと思うのに足が床から離れない。こちらに向かう殺気とともに眩しくおぞましい光がクラウディアを……
「アル、助けて!」
クラウディアは叫びながら飛びを起きた。
ドカン! バリン!!
現実に戻ったはずなのに、恐ろしい爆発音が部屋に轟く。驚いて握りしめた左手のブレスレットがほのかに温かい。
「クラウディア、大丈夫か?」
クラウディアが周囲の状況を確認する前に、耳元でアルフレートの声がした。よく知る温もりに包まれてホッと息を吐く。
「クラウディア?」
「ごめんなさい。夢を見ただけなの。心配ないわ」
公爵家に来てからは夢に魘されることなどなかったのに、現場に行ったことが引き金になったのだろうか。
「それなら良かった」
クラウディアの額に手をあてていたアルフレートも安心したように笑う。あれだけ魘されたのに孤児院にいた頃のような吐き気はない。それが不思議でもあり、包み込む温もりを感じていれば当たり前だとも思う。
「危ないから、動くなよ」
クラウディアがベッドから出ようとしたら、アルフレートに止められた。クラウディアは寝間着を見られたのが恥ずかしくて、ソファにおいてあるはずのカーディガンを取りたかっただけだ。まるで危険地帯にいるかのように抱き寄せられて、動くことも出来ない。
「危ない?」
理由を聞く前に焦ったような足音がいくつも近づいてきた。ノックもなく部屋の扉が開け放たれる。
「クラウディア様、ご無事ですか!?」
リタが息を切らしながら入ってきた。それと同時に暗かった部屋に明かりが灯る。リタは寝間着でカーディガンを握りしめていて、慌てて来てくれたことが分かった。
「ええ、平気よ」
魘されて叫んだ声が使用人部屋まで聞こえたのかと思うと恥ずかしい。確かリタの部屋は三階の奥だったはずだ。
あれ? そんなことってあり得るかしら?
「アルフレート様、派手にやりましたね。敵の気配はないようですが、どういうことでしょう?」
ディータがアルフレートの部屋から顔を出す。ディータの冷たい声より、彼の周囲の状況がクラウディアを絶句させた。
アルフレートの部屋との間にある扉は閉まったままだ。アルフレートがちょうど通れるくらいの細長い穴が空いているが……
「アルフレート、扉を開けなかったの?」
「ああ。ちょっと急いでたからな」
「どんな会話ですか。クラウディア様、寝ぼけてます?」
ディータが疲れた様子で言う。周囲をよく見ると、扉の破片がそこら中に散らばっていて窓ガラスも割れていた。聞こえた爆発音は夢ではなかったらしい。
「ちょっと力を入れすぎて、爆風でガラスが割れたようだな」
クラウディアがアルフレートを見上げると、恥ずかしそうに笑った。
「修理代はご自分の個人資産から出してくださいね。公爵家の予算からは出せませんよ」
「お前が決めることじゃないだろう……」
「ついでに言えば、割れたガラスは今直してください」
「分かったよ」
アルフレートが言いながら立ち上がる。クラウディアがぼんやりしたまま見ていると、アルフレートがクラウディアのカーディガンを持ってきてくれた。
「今から直すの? いくらなんでも職人が可愛そうだわ」
「だよな。もう少し俺に優しくしてほしい」
アルフレートはクラウディアの頭を撫でると、割れたガラスの方に近づいていく。アルフレートが念じると、ふわりとガラスが宙に浮いた。
「何してるの?」
「傷を手当する光魔法の応用です」
ディータが、集中しているアルフレートの代わりに説明してくれる。
「人間の身体は傷を治そう、言い換えれば元に戻ろうとする力があるので、光魔法はそれを利用して怪我の前まで身体の時間を戻すことで治療します。ガラスには自分で直そうとする力がないので、代わりに魔法で補助するんです」
「なるほど……?」
アルフレートの様子を見ていると、さらに別の魔法を重ねて使用しているようだ。
「風魔法で浮かせたガラスを水魔法で覆う事で元の形に近づけます。それを火魔法でくっつけると完成です。いずれの魔法にも光魔法を混ぜる必要があるので、光、風、水、火の四属性を使いこなせるアルフレート様ならではの荒技です」
「本当はそんな簡単な話じゃないけどな」
アルフレートがハンカチで汗を拭きながら言う。ディータはクラウディアに分かるように噛み砕いて説明してくれたらしい。それでも理解しきれなかったが、ガラスは近くで見てもひび割れさえなく綺麗に直っていた。
「不思議ね」
「まぁ、再利用できるような素材しか直せないんだけどな。ガラスは作れる者が少ないから喜ばれる」
扉は木が粉々になっているので直せないようだ。アルフレートは魔法で散らばった扉のパーツを集めて、ディータが持ってきた箱に収める。穴の開いた扉も魔法で蝶番を外して取り払ってしまった。
「今日は危険だから俺の部屋に来い」
「うん」
クラウディアには危険かどうかは分からないが、一人で居たくなくてアルフレートの言葉に素直に頷いた。
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