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15.ブレスレット【アルフレート】
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アルフレートはブレスレットから摘みとった金属を制服のポケットに突っ込んだ。クラウディアを元の姿に戻した後に必要になるものだ。願掛けの意味も込めて大切に保管したい。
「アル、ありがとう」
「お守りなんだから、ずっとつけてるんだぞ?」
「うん!」
クラウディアはアルフレートの作った腕輪を見て嬉しそうに笑った。高等魔法の使用で襲ってきた疲労も、この笑顔を見れば心地よく感じる。外しにくい大きさにまで縮めてしまったが、問題ないだろう。これで、もう一つの懸念であるクラウディアの安全も同時に解決できて満足だ。
「これをつけていれば、どこに居ても助けに行けるから安心しろ。困ったときは俺を呼べば良い」
「本当? すごい腕輪なのね」
クラウディアはクスクスと笑う。たぶんクラウディアを安心させるための嘘だと思ったのだろう。
ディータは完成時にこのブレスレットを『呪いの腕輪』と呼んでいた。アルフレートはちゃんと効果を隠さず説明したのだ。クラウディアが喜んでいるのだから問題ない。
これは今年の誕生日に贈ろうとしていた最高傑作であり、失敗作でもある。クラウディアに対する魔法、物理、呪いからの攻撃を退け、居場所をアルフレートに教えてくれる。
ちょっとだけ追跡効果が強かったせいでディータに変な名前をつけられてしまったが、クラウディアを守る魔法しか入っていない。
『アルフレート様が感知魔法を使えば瞬時に居場所が分かるなんて、恐ろしい以外の感想なんてありますか?』
『そうか? 便利だと思うがな』
『しかも『アルフレート』という言葉に反応して声を拾うとか、想像しただけでゾッとします』
アルフレートはディータの真剣すぎる表情に泣く泣く誕生日に贈るのを諦めた。代わりに今まで贈ったものと効果が被らない追跡だけを入れたピアスを贈ったのだ。
ディータが『小型化しただけだ』とうるさかったので効果も下げている。そのせいで、感知できてからも孤児院で発見するまでに時間がかかってしまった。ディータがクラウディアのブレスレットを見つけても、今なら文句も言えないだろう。これならどの部屋にいるかも正確に把握できる。ピアスの役目はもう終わりだ。
「そういえば、ピアスが盗まれなくて良かったよな。手紙を盗んだ犯人も誕生日の贈り物にまでは手が出せなかったらしい」
もし盗まれていたら、孤児院までの追跡が出来なかっただろう。助けを呼ぶ声は聞こえず、慰問に行く余裕が出来るまで気づけなかった。
ただ、アルフレートはこのピアスをクラウディアが身につけていたせいで、手紙も届いていると勘違いしてしまった。犯行に早く気づくためには、盗んでくれたほうが良かっただろうか? しかし……
「……」
クラウディアにジロリと睨みつけられて、アルフレートは思考から抜け出した。理由が分からず困っていると、押し付けるようにピアスを渡してくる。
「クラウディア? 何を怒ってる? 手紙のことなら説明しただろう?」
「誰に準備させたのか知らないけど、プレゼントに添える手紙くらいは自分で書きなさいよ。わたくしの事を馬鹿にしているの?」
クラウディアはぷっくりと頬を膨らませる。アルフレートは見当違いの言葉に困惑するしかない。
「俺が書いたに決まってるだろう?」
アルフレートがクラウディアに関わることで、人任せにしたことなどない。クラウディアが別の者の選んだ品を身につけていると想像するだけで吐き気がしそうだ。
「アルフレートは内容も確認していないのね。読んだら『俺じゃない』って白状するはずよ。えっと……『毎日つけてほしいから小さな宝石にしたんだ。君はこのサファイアを見る度に俺の瞳を思い出してくれるだろうか。俺は真っ赤な薔薇を見ながらこの手紙を書いています。君の瞳の輝きには敵わないけれど……』」
「もう良い! 馬鹿か! なんで暗記してるんだよ!」
アルフレートは得意げに暗唱するクラウディアの口を手で塞いだ。クラウディアは勉強を苦手としているが記憶力は良い。特にアルフレートに関わる事はきちんと覚えてくれている。今回は忘れてほしかった気がするが……
「半年も手紙が来なかったのよ。偽物だと疑っても暗記くらいはしちゃうわよ。まさか、アルが書いたの?」
「だから、そう言っただろう!?」
「『君』なんて言われたことあったかしら?」
「忘れてくれ……」
言い訳になってしまうが、聖女のせいで疲れていたのだ。どうでも良い相手のせいで、愛しい婚約者を放置せざる負えなかった者の気持ちを想像してほしい。誰でも同じような文になると思う。
アルフレートは怒鳴ってしまったのに、クラウディアは膝の上でコロコロと笑っている。幸せそうな笑顔にいろいろな感情が浄化されていく。
「一度王宮に戻って、あの手紙を回収して来ようかしら?」
「え?」
クラウディアの願いは何でもすぐに叶えてあげたいが、アルフレートはどうしても頷くことが出来ない。王宮は危険だという事実を伝え、クラウディアの行動をさり気なく止めた。
「アル、ありがとう」
「お守りなんだから、ずっとつけてるんだぞ?」
「うん!」
クラウディアはアルフレートの作った腕輪を見て嬉しそうに笑った。高等魔法の使用で襲ってきた疲労も、この笑顔を見れば心地よく感じる。外しにくい大きさにまで縮めてしまったが、問題ないだろう。これで、もう一つの懸念であるクラウディアの安全も同時に解決できて満足だ。
「これをつけていれば、どこに居ても助けに行けるから安心しろ。困ったときは俺を呼べば良い」
「本当? すごい腕輪なのね」
クラウディアはクスクスと笑う。たぶんクラウディアを安心させるための嘘だと思ったのだろう。
ディータは完成時にこのブレスレットを『呪いの腕輪』と呼んでいた。アルフレートはちゃんと効果を隠さず説明したのだ。クラウディアが喜んでいるのだから問題ない。
これは今年の誕生日に贈ろうとしていた最高傑作であり、失敗作でもある。クラウディアに対する魔法、物理、呪いからの攻撃を退け、居場所をアルフレートに教えてくれる。
ちょっとだけ追跡効果が強かったせいでディータに変な名前をつけられてしまったが、クラウディアを守る魔法しか入っていない。
『アルフレート様が感知魔法を使えば瞬時に居場所が分かるなんて、恐ろしい以外の感想なんてありますか?』
『そうか? 便利だと思うがな』
『しかも『アルフレート』という言葉に反応して声を拾うとか、想像しただけでゾッとします』
アルフレートはディータの真剣すぎる表情に泣く泣く誕生日に贈るのを諦めた。代わりに今まで贈ったものと効果が被らない追跡だけを入れたピアスを贈ったのだ。
ディータが『小型化しただけだ』とうるさかったので効果も下げている。そのせいで、感知できてからも孤児院で発見するまでに時間がかかってしまった。ディータがクラウディアのブレスレットを見つけても、今なら文句も言えないだろう。これならどの部屋にいるかも正確に把握できる。ピアスの役目はもう終わりだ。
「そういえば、ピアスが盗まれなくて良かったよな。手紙を盗んだ犯人も誕生日の贈り物にまでは手が出せなかったらしい」
もし盗まれていたら、孤児院までの追跡が出来なかっただろう。助けを呼ぶ声は聞こえず、慰問に行く余裕が出来るまで気づけなかった。
ただ、アルフレートはこのピアスをクラウディアが身につけていたせいで、手紙も届いていると勘違いしてしまった。犯行に早く気づくためには、盗んでくれたほうが良かっただろうか? しかし……
「……」
クラウディアにジロリと睨みつけられて、アルフレートは思考から抜け出した。理由が分からず困っていると、押し付けるようにピアスを渡してくる。
「クラウディア? 何を怒ってる? 手紙のことなら説明しただろう?」
「誰に準備させたのか知らないけど、プレゼントに添える手紙くらいは自分で書きなさいよ。わたくしの事を馬鹿にしているの?」
クラウディアはぷっくりと頬を膨らませる。アルフレートは見当違いの言葉に困惑するしかない。
「俺が書いたに決まってるだろう?」
アルフレートがクラウディアに関わることで、人任せにしたことなどない。クラウディアが別の者の選んだ品を身につけていると想像するだけで吐き気がしそうだ。
「アルフレートは内容も確認していないのね。読んだら『俺じゃない』って白状するはずよ。えっと……『毎日つけてほしいから小さな宝石にしたんだ。君はこのサファイアを見る度に俺の瞳を思い出してくれるだろうか。俺は真っ赤な薔薇を見ながらこの手紙を書いています。君の瞳の輝きには敵わないけれど……』」
「もう良い! 馬鹿か! なんで暗記してるんだよ!」
アルフレートは得意げに暗唱するクラウディアの口を手で塞いだ。クラウディアは勉強を苦手としているが記憶力は良い。特にアルフレートに関わる事はきちんと覚えてくれている。今回は忘れてほしかった気がするが……
「半年も手紙が来なかったのよ。偽物だと疑っても暗記くらいはしちゃうわよ。まさか、アルが書いたの?」
「だから、そう言っただろう!?」
「『君』なんて言われたことあったかしら?」
「忘れてくれ……」
言い訳になってしまうが、聖女のせいで疲れていたのだ。どうでも良い相手のせいで、愛しい婚約者を放置せざる負えなかった者の気持ちを想像してほしい。誰でも同じような文になると思う。
アルフレートは怒鳴ってしまったのに、クラウディアは膝の上でコロコロと笑っている。幸せそうな笑顔にいろいろな感情が浄化されていく。
「一度王宮に戻って、あの手紙を回収して来ようかしら?」
「え?」
クラウディアの願いは何でもすぐに叶えてあげたいが、アルフレートはどうしても頷くことが出来ない。王宮は危険だという事実を伝え、クラウディアの行動をさり気なく止めた。
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