12 / 64
12.捜索【アルフレート】
しおりを挟む
アルフレートは学園に向かう馬車の中でため息をつく。あの孤児院については子供の頃からクラウディアとの会話によく出ていた。クラウディアがあそこにいる可能性に気づけるのは、アルフレートしかいなかっただろう。六日間も自分の助けを待っていたかと思うと心が痛む。
アルフレートはリタからクラウディアの失踪を聞いて、すぐに魔法での捜索を開始した。幸いクラウディアには居場所を感知できるピアスを贈ってある。だから、見つけるのは難しくないと思っていた。王宮の守りも通せるほどの感知魔法が弾かれる理由などない。クラウディアは大事な式典でさえピアスをつけていたので、外している可能性も少ない。
しかし、結果は芳しくなかった。だとすれば、捜索時に僅かながら必要となるクラウディアの魔力が供給されなかったとしか考えられない。魔法は自然に回復していくものなので、枯渇していて足りなかったということもないだろう。現実的に考えるなら、捜索対象者が存在していない可能性が高い。
「なぜ、居場所が分からないんだ」
アルフレートは認めたくなくて、虱潰しに足を使って捜索した。王女であるクラウディアが行きそうな場所なんて半日もせずに回ってしまえる。いつもならアルフレートに容赦なく苦言を呈すディータも、最悪の事態については触れず、一緒に捜索に加わってくれていた。
僅かな希望は、闇魔法しか使えないクラウディアが全属性持ちのアルフレートの魔法を弾くほどの防御魔法を発動していること。使用できる属性が増えるほど強力な魔法が使えることは小さな子供でも知っている。それでも、その可能性にかけるしかなかった。
『アル、助けて……』
『――……アルフレートなんて大ッ嫌いだもの』
失踪して六日目になろうとする深夜。突然感知出来た声にアルフレートは耳を疑った。最初は寝不足と疲れによる幻聴かと思ったが、落ち着いて確認するとクラウディアの居場所も感知できるようになっている。助け出した後の推測になるが、クラウディアが無意識にかけていた防御魔法が衰弱して緩んだのだろう。アルフレートの魔法に打ち勝っていた理由は見当もつかない。
アルフレートが夜明け前の街を走り回って行き着いたのは、子供の頃からよく知る孤児院だった。アルフレートはすぐに公爵らしい服装に着替えて孤児院に再び向かう。
顔馴染みの院長が驚きながらも笑顔で迎えてくれた。
「朝早くにすみません。突然お茶会が中止になったので、皆さんに食べてもらおうと思いまして」
「公爵様ならいつでも歓迎ですよ」
アルフレートは急遽屋敷で焼いてもらったお菓子を院長に手渡す。受け取る姿からは、動揺などは感じない。クラウディアが孤児院内で拘束されている可能性も考えたが、犯人に脅されていたり、犯人と共犯である可能性は低そうだ。
「ディータ、どう思う」
院長がお菓子を他の修道女に預けているのを横目に見ながら、自分より冷静そうなディータにコソコソと話しかける。
「隠し事をしているようには思えませんね」
「だよな。俺もそう思う」
クラウディアの身分を知らないまま保護しているのかもしれない。アルフレートはそう思って修道女の顔を一人一人確認していったが、少し吊り上がった可愛いルビー色の瞳は見当たらない。
「公爵様、実は保護して頂きたい子がいるんです」
アルフレートがどうやって探そうかと思案していると、院長から相談を受けた。もしかしてと思って行ってみたら、なぜか小さくなったクラウディアがいたのだ。
動揺してクラウディアの自由を奪ってしまったことは反省している。
アルフレートの部屋に飾ってある出会った頃の絵姿そっくりなクラウディアは、記憶の中の彼女より影を背負っていて儚げだった。それでも、自分に怯えるほど追い詰められているとは考えもしなかったのだ。
馬車の中で小さなクラウディアに魔法をかけて調べてみたが、クラウディアは普通の栄養失調気味な女の子に過ぎなかった。姿を偽る魔法の気配や呪いなどの痕跡もない。本の虫だったアルフレートでさえ、現状の推測すらできない。アルフレートの不安や動揺が、クラウディアに伝わっていないと信じたい。
アルフレートは険しい表情のまま、学園に降り立った。こうなったら犯人を捕まえて、クラウディアを戻す方法を吐かせるしかない。
大切なクラウディアのためだ。アルフレートはどんな卑劣な事も笑ってできるだろう。
アルフレートはリタからクラウディアの失踪を聞いて、すぐに魔法での捜索を開始した。幸いクラウディアには居場所を感知できるピアスを贈ってある。だから、見つけるのは難しくないと思っていた。王宮の守りも通せるほどの感知魔法が弾かれる理由などない。クラウディアは大事な式典でさえピアスをつけていたので、外している可能性も少ない。
しかし、結果は芳しくなかった。だとすれば、捜索時に僅かながら必要となるクラウディアの魔力が供給されなかったとしか考えられない。魔法は自然に回復していくものなので、枯渇していて足りなかったということもないだろう。現実的に考えるなら、捜索対象者が存在していない可能性が高い。
「なぜ、居場所が分からないんだ」
アルフレートは認めたくなくて、虱潰しに足を使って捜索した。王女であるクラウディアが行きそうな場所なんて半日もせずに回ってしまえる。いつもならアルフレートに容赦なく苦言を呈すディータも、最悪の事態については触れず、一緒に捜索に加わってくれていた。
僅かな希望は、闇魔法しか使えないクラウディアが全属性持ちのアルフレートの魔法を弾くほどの防御魔法を発動していること。使用できる属性が増えるほど強力な魔法が使えることは小さな子供でも知っている。それでも、その可能性にかけるしかなかった。
『アル、助けて……』
『――……アルフレートなんて大ッ嫌いだもの』
失踪して六日目になろうとする深夜。突然感知出来た声にアルフレートは耳を疑った。最初は寝不足と疲れによる幻聴かと思ったが、落ち着いて確認するとクラウディアの居場所も感知できるようになっている。助け出した後の推測になるが、クラウディアが無意識にかけていた防御魔法が衰弱して緩んだのだろう。アルフレートの魔法に打ち勝っていた理由は見当もつかない。
アルフレートが夜明け前の街を走り回って行き着いたのは、子供の頃からよく知る孤児院だった。アルフレートはすぐに公爵らしい服装に着替えて孤児院に再び向かう。
顔馴染みの院長が驚きながらも笑顔で迎えてくれた。
「朝早くにすみません。突然お茶会が中止になったので、皆さんに食べてもらおうと思いまして」
「公爵様ならいつでも歓迎ですよ」
アルフレートは急遽屋敷で焼いてもらったお菓子を院長に手渡す。受け取る姿からは、動揺などは感じない。クラウディアが孤児院内で拘束されている可能性も考えたが、犯人に脅されていたり、犯人と共犯である可能性は低そうだ。
「ディータ、どう思う」
院長がお菓子を他の修道女に預けているのを横目に見ながら、自分より冷静そうなディータにコソコソと話しかける。
「隠し事をしているようには思えませんね」
「だよな。俺もそう思う」
クラウディアの身分を知らないまま保護しているのかもしれない。アルフレートはそう思って修道女の顔を一人一人確認していったが、少し吊り上がった可愛いルビー色の瞳は見当たらない。
「公爵様、実は保護して頂きたい子がいるんです」
アルフレートがどうやって探そうかと思案していると、院長から相談を受けた。もしかしてと思って行ってみたら、なぜか小さくなったクラウディアがいたのだ。
動揺してクラウディアの自由を奪ってしまったことは反省している。
アルフレートの部屋に飾ってある出会った頃の絵姿そっくりなクラウディアは、記憶の中の彼女より影を背負っていて儚げだった。それでも、自分に怯えるほど追い詰められているとは考えもしなかったのだ。
馬車の中で小さなクラウディアに魔法をかけて調べてみたが、クラウディアは普通の栄養失調気味な女の子に過ぎなかった。姿を偽る魔法の気配や呪いなどの痕跡もない。本の虫だったアルフレートでさえ、現状の推測すらできない。アルフレートの不安や動揺が、クラウディアに伝わっていないと信じたい。
アルフレートは険しい表情のまま、学園に降り立った。こうなったら犯人を捕まえて、クラウディアを戻す方法を吐かせるしかない。
大切なクラウディアのためだ。アルフレートはどんな卑劣な事も笑ってできるだろう。
0
お気に入りに追加
222
あなたにおすすめの小説
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!
近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。
「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」
声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。
※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です!
※「カクヨム」にも掲載しています。
選ばれたのは私以外でした 白い結婚、上等です!
凛蓮月
恋愛
【第16回恋愛小説大賞特別賞を頂き、書籍化されました。
紙、電子にて好評発売中です。よろしくお願いします(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾】
婚約者だった王太子は、聖女を選んだ。
王命で結婚した相手には、愛する人がいた。
お飾りの妻としている間に出会った人は、そもそも女を否定した。
──私は選ばれない。
って思っていたら。
「改めてきみに求婚するよ」
そう言ってきたのは騎士団長。
きみの力が必要だ? 王都が不穏だから守らせてくれ?
でもしばらくは白い結婚?
……分かりました、白い結婚、上等です!
【恋愛大賞(最終日確認)大賞pt別二位で終了できました。投票頂いた皆様、ありがとうございます(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾応援ありがとうございました!
ホトラン入り、エール、投票もありがとうございました!】
※なんてあらすじですが、作者の脳内の魔法のある異世界のお話です。
※ヒーローとの本格的な恋愛は、中盤くらいからです。
※恋愛大賞参加作品なので、感想欄を開きます。
よろしければお寄せ下さい。当作品への感想は全て承認します。
※登場人物への口撃は可ですが、他の読者様への口撃は作者からの吹き矢が飛んできます。ご注意下さい。
※鋭い感想ありがとうございます。返信はネタバレしないよう気を付けます。すぐネタバレペロリーナが発動しそうになります(汗)
【完結】余命三年ですが、怖いと評判の宰相様と契約結婚します
佐倉えび
恋愛
断罪→偽装結婚(離婚)→契約結婚
不遇の人生を繰り返してきた令嬢の物語。
私はきっとまた、二十歳を越えられないーー
一周目、王立学園にて、第二王子ヴィヴィアン殿下の婚約者である公爵令嬢マイナに罪を被せたという、身に覚えのない罪で断罪され、修道院へ。
二周目、学園卒業後、夜会で助けてくれた公爵令息レイと結婚するも「あなたを愛することはない」と初夜を拒否された偽装結婚だった。後に離婚。
三周目、学園への入学は回避。しかし評判の悪い王太子の妾にされる。その後、下賜されることになったが、手渡された契約書を見て、契約結婚だと理解する。そうして、怖いと評判の宰相との結婚生活が始まったのだが――?
*ムーンライトノベルズにも掲載
婚約者のいる側近と婚約させられた私は悪の聖女と呼ばれています。
鈴木べにこ
恋愛
幼い頃から一緒に育ってきた婚約者の王子ギルフォードから婚約破棄を言い渡された聖女マリーベル。
突然の出来事に困惑するマリーベルをよそに、王子は自身の代わりに側近である宰相の息子ロイドとマリーベルを王命で強制的に婚約させたと言い出したのであった。
ロイドに愛する婚約者がいるの事を知っていたマリーベルはギルフォードに王命を取り下げるように訴えるが聞いてもらえず・・・。
カクヨム、小説家になろうでも連載中。
※最初の数話はイジメ表現のようなキツイ描写が出てくるので注意。
初投稿です。
勢いで書いてるので誤字脱字や変な表現が多いし、余裕で気付かないの時があるのでお気軽に教えてくださるとありがたいです٩( 'ω' )و
気分転換もかねて、他の作品と同時連載をしています。
【書庫の幽霊王妃は、貴方を愛することができない。】
という作品も同時に書いているので、この作品が気に入りましたら是非読んでみてください。
異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。
黒ハット
ファンタジー
前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。
婚約者に見殺しにされた愚かな傀儡令嬢、時を逆行する
蓮恭
恋愛
父親が自分を呼ぶ声が聞こえたその刹那、熱いものが全身を巡ったような、そんな感覚に陥った令嬢レティシアは、短く唸って冷たい石造りの床へと平伏した。
視界は徐々に赤く染まり、せっかく身を挺して庇った侯爵も、次の瞬間にはリュシアンによって屠られるのを見た。
「リュシ……アン……さ、ま」
せめて愛するリュシアンへと手を伸ばそうとするが、無情にも嘲笑を浮かべた女騎士イリナによって叩き落とされる。
「安心して死になさい。愚かな傀儡令嬢レティシア。これから殿下の事は私がお支えするから心配いらなくてよ」
お願い、最後に一目だけ、リュシアンの表情が見たいとレティシアは願った。
けれどそれは自分を見下ろすイリナによって阻まれる。しかし自分がこうなってもリュシアンが駆け寄ってくる気配すらない事から、本当に嫌われていたのだと実感し、痛みと悲しみで次々に涙を零した。
両親から「愚かであれ、傀儡として役立て」と育てられた侯爵令嬢レティシアは、徐々に最愛の婚約者、皇太子リュシアンの愛を失っていく。
民の信頼を失いつつある帝国の改革のため立ち上がった皇太子は、女騎士イリナと共に謀反を起こした。
その時レティシアはイリナによって刺殺される。
悲しみに包まれたレティシアは何らかの力によって時を越え、まだリュシアンと仲が良かった幼い頃に逆行し、やり直しの機会を与えられる。
二度目の人生では傀儡令嬢であったレティシアがどのように生きていくのか?
婚約者リュシアンとの仲は?
二度目の人生で出会う人物達との交流でレティシアが得たものとは……?
※逆行、回帰、婚約破棄、悪役令嬢、やり直し、愛人、暴力的な描写、死産、シリアス、の要素があります。
ヒーローについて……読者様からの感想を見ていただくと分かる通り、完璧なヒーローをお求めの方にはかなりヤキモキさせてしまうと思います。
どこか人間味があって、空回りしたり、過ちも犯す、そんなヒーローを支えていく不憫で健気なヒロインを応援していただければ、作者としては嬉しい限りです。
必ずヒロインにとってハッピーエンドになるよう書き切る予定ですので、宜しければどうか最後までお付き合いくださいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる