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最終話 バッドエンド?
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私が先を促すように見つめていると、アランが躊躇いがちに語り始めた。
「『一学期のバッドエンド』で『ヒロイン』が結婚する相手はたぶん俺だ。他に該当する相手なんていないだろう?」
アランは恥ずかしそうな顔をして、そんなふうに言った。戸惑いながら見つめていると、再びギュッと抱きしめられる。
「だって、年齢が……」
ヒロインは一学期のバッドエンドを迎えると、孤児院に逃げ帰って幼馴染の年上男性と結婚する。申し訳ないがアランであるはずがない。
「よ~く、小さい頃のことを思い出せ。俺はジャンヌより二つくらい年上だ」
「へ? だって、私より半年後に生まれてるわよね? 孤児院の名簿を見たわよ。そんなすぐにバレる嘘をつかなくても良いわ」
私やアランは院長に見込まれて、悪巧み……仕事を手伝うことも多かった。その関係で孤児院にいた子供の情報にも詳しい。
「俺が生まれた日は、はっきりとは分かっていない。名簿に書かれていたのは院長が補助金申請のために決めた日だよ。まぁ、全部俺が悪いんだ。ちゃんと説明する」
祖国では増えすぎた孤児に対策が行われていた。十歳未満の孤児の数に応じて孤児院に僅かだがお金が払われていたのだ。そのため、院長は生まれのはっきりしない子が引き取られて来た際には若く申告していた。そういった子は育児放棄を経験している場合も多く、成長が他の子より遅いため気づかれにくい。
「ジャンヌが孤児院に引き取られて来た頃は、卒業間近だった年長の義姉さんと一緒に、俺が小さなジャンヌの食事の手伝いをしていたんだ。他の子の世話もあって忙しい義姉さんより一緒にいる時間が長かったから、ジャンヌは『アラン、アラン』って呼んで俺について回ってて可愛かったよ」
私達の育った孤児院では、年上のことを義兄さん義姉さんと呼んでいる。それは子供同士で助け合って暮らす中で、助けてもらうことの多い年上を敬う意味で生まれたルールだったのだが……
「俺は敢えて訂正しなかった」
アランは気づいていて私の呼び方を放置していたが、誰が教えたのか、私はある日突然『アラン義兄ちゃん』と呼んだらしい。
『俺はお前の兄ちゃんなんかじゃない!』
「ジャンヌが泣き出したときには焦ったけど、理由を説明して謝ることもできなかった。分かるだろう?」
「えっと?」
「俺はあの頃からジャンヌを妹だなんて思ってなかったってことだ」
それはつまり……
「……ぜ、全然覚えてないわ」
私は恥ずかしくなって距離を取ろうとしたが、アランは離してくれなかった。諦めて力を抜くと、アランが宥めるように私の髪をゆっくりと梳く。
「忘れてても仕方ないよ。ジャンヌは小さかったし、仲良くしていた分ショックだったんだと思う。俺は義姉さんたちにかなり叱られたし、ジャンヌはしばらく俺を見つけると逃げてた」
アランはかなり落ち込んだらしい。見かねた義姉さんたちが仲裁に入ってくれたようだ。
『アラン、ごめんね。アランはお義兄ちゃんじゃないって、お義姉ちゃんたちが教えてくれたの』
「遠回しに説明したんだろうな。ジャンヌが勘違いしたのは分かっていたけど、訂正はしなかった」
その後、文字が読めるようになった私は、孤児院の名簿を見て間違った知識を補強してしまった。
「冒険者を始めるときに、院長先生がアランと一緒なら良いって言ったのも、アランが年上だったからなのね」
「いや、それは年齢関係なくジャンヌが危なっかしいからだろう? 今も一人にしておくのは不安しかない」
「一人で二年も暮らしてたのに……」
「俺はずっと心配していたよ」
アランの優しい声からは本気で心配してくれていたことが伝わってくる。信用していないと言われたのに嬉しく感じて怒れなかった。一人ぼっちだと感じていたあの頃も、私は一人ではなかったのだ。
「『ヒロイン』が結婚したら、本当に『ゲーム』は終わりなんだろう? 街に帰ったら届けを出しに行くか?」
「うん。その方が安心だけど……アランはそれで良いの?」
庶民は式を挙げる者の方が少ない。届けを出して、両家の家族で食事をするのが一般的だ。私達の場合は、二人が決めた日に届け出れば良いわけだが……
「俺は一緒に暮らし始めた半年前から、そうしたいと思っていたよ」
私が驚いて顔を見ると、アランが恥ずかしそうに笑う。思った以上にアランは結婚に前向きのようだ。それが分かって素直に嬉しい。
「じゃあ、そうしよっか?」
「ああ」
翌日、街に戻った私達は晴れて夫婦となった。居合わせた人々に祝福され、幸せな気持ちで二人の家に帰る。
「院長にも報告に行かないといけないな」
「そうね。久しぶりに皆にも会いたいわ」
突然別れることになった孤児院の仲間たちの顔が頭に浮かぶ。事件が解決した今なら、里帰りも難しくない。結婚の報告をしたら、きっと、みんな喜んでくれるだろう。
終
「『一学期のバッドエンド』で『ヒロイン』が結婚する相手はたぶん俺だ。他に該当する相手なんていないだろう?」
アランは恥ずかしそうな顔をして、そんなふうに言った。戸惑いながら見つめていると、再びギュッと抱きしめられる。
「だって、年齢が……」
ヒロインは一学期のバッドエンドを迎えると、孤児院に逃げ帰って幼馴染の年上男性と結婚する。申し訳ないがアランであるはずがない。
「よ~く、小さい頃のことを思い出せ。俺はジャンヌより二つくらい年上だ」
「へ? だって、私より半年後に生まれてるわよね? 孤児院の名簿を見たわよ。そんなすぐにバレる嘘をつかなくても良いわ」
私やアランは院長に見込まれて、悪巧み……仕事を手伝うことも多かった。その関係で孤児院にいた子供の情報にも詳しい。
「俺が生まれた日は、はっきりとは分かっていない。名簿に書かれていたのは院長が補助金申請のために決めた日だよ。まぁ、全部俺が悪いんだ。ちゃんと説明する」
祖国では増えすぎた孤児に対策が行われていた。十歳未満の孤児の数に応じて孤児院に僅かだがお金が払われていたのだ。そのため、院長は生まれのはっきりしない子が引き取られて来た際には若く申告していた。そういった子は育児放棄を経験している場合も多く、成長が他の子より遅いため気づかれにくい。
「ジャンヌが孤児院に引き取られて来た頃は、卒業間近だった年長の義姉さんと一緒に、俺が小さなジャンヌの食事の手伝いをしていたんだ。他の子の世話もあって忙しい義姉さんより一緒にいる時間が長かったから、ジャンヌは『アラン、アラン』って呼んで俺について回ってて可愛かったよ」
私達の育った孤児院では、年上のことを義兄さん義姉さんと呼んでいる。それは子供同士で助け合って暮らす中で、助けてもらうことの多い年上を敬う意味で生まれたルールだったのだが……
「俺は敢えて訂正しなかった」
アランは気づいていて私の呼び方を放置していたが、誰が教えたのか、私はある日突然『アラン義兄ちゃん』と呼んだらしい。
『俺はお前の兄ちゃんなんかじゃない!』
「ジャンヌが泣き出したときには焦ったけど、理由を説明して謝ることもできなかった。分かるだろう?」
「えっと?」
「俺はあの頃からジャンヌを妹だなんて思ってなかったってことだ」
それはつまり……
「……ぜ、全然覚えてないわ」
私は恥ずかしくなって距離を取ろうとしたが、アランは離してくれなかった。諦めて力を抜くと、アランが宥めるように私の髪をゆっくりと梳く。
「忘れてても仕方ないよ。ジャンヌは小さかったし、仲良くしていた分ショックだったんだと思う。俺は義姉さんたちにかなり叱られたし、ジャンヌはしばらく俺を見つけると逃げてた」
アランはかなり落ち込んだらしい。見かねた義姉さんたちが仲裁に入ってくれたようだ。
『アラン、ごめんね。アランはお義兄ちゃんじゃないって、お義姉ちゃんたちが教えてくれたの』
「遠回しに説明したんだろうな。ジャンヌが勘違いしたのは分かっていたけど、訂正はしなかった」
その後、文字が読めるようになった私は、孤児院の名簿を見て間違った知識を補強してしまった。
「冒険者を始めるときに、院長先生がアランと一緒なら良いって言ったのも、アランが年上だったからなのね」
「いや、それは年齢関係なくジャンヌが危なっかしいからだろう? 今も一人にしておくのは不安しかない」
「一人で二年も暮らしてたのに……」
「俺はずっと心配していたよ」
アランの優しい声からは本気で心配してくれていたことが伝わってくる。信用していないと言われたのに嬉しく感じて怒れなかった。一人ぼっちだと感じていたあの頃も、私は一人ではなかったのだ。
「『ヒロイン』が結婚したら、本当に『ゲーム』は終わりなんだろう? 街に帰ったら届けを出しに行くか?」
「うん。その方が安心だけど……アランはそれで良いの?」
庶民は式を挙げる者の方が少ない。届けを出して、両家の家族で食事をするのが一般的だ。私達の場合は、二人が決めた日に届け出れば良いわけだが……
「俺は一緒に暮らし始めた半年前から、そうしたいと思っていたよ」
私が驚いて顔を見ると、アランが恥ずかしそうに笑う。思った以上にアランは結婚に前向きのようだ。それが分かって素直に嬉しい。
「じゃあ、そうしよっか?」
「ああ」
翌日、街に戻った私達は晴れて夫婦となった。居合わせた人々に祝福され、幸せな気持ちで二人の家に帰る。
「院長にも報告に行かないといけないな」
「そうね。久しぶりに皆にも会いたいわ」
突然別れることになった孤児院の仲間たちの顔が頭に浮かぶ。事件が解決した今なら、里帰りも難しくない。結婚の報告をしたら、きっと、みんな喜んでくれるだろう。
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