上 下
43 / 44

最終話 バッドエンド?

しおりを挟む
 私が先を促すように見つめていると、アランが躊躇いがちに語り始めた。

「『一学期のバッドエンド』で『ヒロイン』が結婚する相手はたぶん俺だ。他に該当する相手なんていないだろう?」

 アランは恥ずかしそうな顔をして、そんなふうに言った。戸惑いながら見つめていると、再びギュッと抱きしめられる。

「だって、年齢が……」

 ヒロインは一学期のバッドエンドを迎えると、孤児院に逃げ帰って幼馴染の男性と結婚する。申し訳ないがアランであるはずがない。

「よ~く、小さい頃のことを思い出せ。俺はジャンヌより二つくらい年上だ」

「へ? だって、私より半年後に生まれてるわよね? 孤児院の名簿を見たわよ。そんなすぐにバレる嘘をつかなくても良いわ」

 私やアランは院長に見込まれて、悪巧み……仕事を手伝うことも多かった。その関係で孤児院にいた子供の情報にも詳しい。

「俺が生まれた日は、はっきりとは分かっていない。名簿に書かれていたのは院長が補助金申請のために決めた日だよ。まぁ、全部俺が悪いんだ。ちゃんと説明する」

 祖国では増えすぎた孤児に対策が行われていた。十歳未満の孤児の数に応じて孤児院に僅かだがお金が払われていたのだ。そのため、院長は生まれのはっきりしない子が引き取られて来た際には若く申告していた。そういった子は育児放棄を経験している場合も多く、成長が他の子より遅いため気づかれにくい。

「ジャンヌが孤児院に引き取られて来た頃は、卒業間近だった年長の義姉ねえさんと一緒に、俺が小さなジャンヌの食事の手伝いをしていたんだ。他の子の世話もあって忙しい義姉さんより一緒にいる時間が長かったから、ジャンヌは『アラン、アラン』って呼んで俺について回ってて可愛かったよ」

 私達の育った孤児院では、年上のことを義兄にいさん義姉さんと呼んでいる。それは子供同士で助け合って暮らす中で、助けてもらうことの多い年上を敬う意味で生まれたルールだったのだが……

「俺は敢えて訂正しなかった」

 アランは気づいていて私の呼び方を放置していたが、誰が教えたのか、私はある日突然『アラン義兄ちゃん』と呼んだらしい。

『俺はお前の兄ちゃんなんかじゃない!』

「ジャンヌが泣き出したときには焦ったけど、理由を説明して謝ることもできなかった。分かるだろう?」

「えっと?」

「俺はあの頃からジャンヌを妹だなんて思ってなかったってことだ」

 それはつまり……

「……ぜ、全然覚えてないわ」

 私は恥ずかしくなって距離を取ろうとしたが、アランは離してくれなかった。諦めて力を抜くと、アランが宥めるように私の髪をゆっくりとく。

「忘れてても仕方ないよ。ジャンヌは小さかったし、仲良くしていた分ショックだったんだと思う。俺は義姉さんたちにかなり叱られたし、ジャンヌはしばらく俺を見つけると逃げてた」

 アランはかなり落ち込んだらしい。見かねた義姉さんたちが仲裁に入ってくれたようだ。

『アラン、ごめんね。アランはお義兄にいちゃんじゃないって、お義姉ちゃんたちが教えてくれたの』

「遠回しに説明したんだろうな。ジャンヌが勘違いしたのは分かっていたけど、訂正はしなかった」

 その後、文字が読めるようになった私は、孤児院の名簿を見て間違った知識を補強してしまった。

「冒険者を始めるときに、院長先生がアランと一緒なら良いって言ったのも、アランが年上だったからなのね」

「いや、それは年齢関係なくジャンヌが危なっかしいからだろう? 今も一人にしておくのは不安しかない」

「一人で二年も暮らしてたのに……」

「俺はずっと心配していたよ」

 アランの優しい声からは本気で心配してくれていたことが伝わってくる。信用していないと言われたのに嬉しく感じて怒れなかった。一人ぼっちだと感じていたあの頃も、私は一人ではなかったのだ。

「『ヒロイン』が結婚したら、本当に『ゲーム』は終わりなんだろう? 街に帰ったら届けを出しに行くか?」

「うん。その方が安心だけど……アランはそれで良いの?」

 庶民は式を挙げる者の方が少ない。届けを出して、両家の家族で食事をするのが一般的だ。私達の場合は、二人が決めた日に届け出れば良いわけだが……

「俺は一緒に暮らし始めた半年前から、そうしたいと思っていたよ」

 私が驚いて顔を見ると、アランが恥ずかしそうに笑う。思った以上にアランは結婚に前向きのようだ。それが分かって素直に嬉しい。

「じゃあ、そうしよっか?」

「ああ」


 翌日、街に戻った私達は晴れて夫婦となった。居合わせた人々に祝福され、幸せな気持ちで二人の家に帰る。

「院長にも報告に行かないといけないな」

「そうね。久しぶりに皆にも会いたいわ」

 突然別れることになった孤児院の仲間たちの顔が頭に浮かぶ。事件が解決した今なら、里帰りも難しくない。結婚の報告をしたら、きっと、みんな喜んでくれるだろう。


 終
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢のトゥルーロマンスは断罪から☆

白雨 音
恋愛
『生まれ変る順番を待つか、断罪直前の悪役令嬢の人生を代わって生きるか』 女神に選択を迫られた時、迷わずに悪役令嬢の人生を選んだ。 それは、その世界が、前世のお気に入り乙女ゲームの世界観にあり、 愛すべき推し…ヒロインの義兄、イレールが居たからだ! 彼に会いたい一心で、途中転生させて貰った人生、あなたへの愛に生きます! 異世界に途中転生した悪役令嬢ヴィオレットがハッピーエンドを目指します☆  《完結しました》

完 さぁ、悪役令嬢のお役目の時間よ。

水鳥楓椛
恋愛
 わたくし、エリザベート・ラ・ツェリーナは今日愛しの婚約者である王太子レオンハルト・フォン・アイゼンハーツに婚約破棄をされる。  なんでそんなことが分かるかって?  それはわたくしに前世の記憶があるから。  婚約破棄されるって分かっているならば逃げればいいって思うでしょう?  でも、わたくしは愛しの婚約者さまの役に立ちたい。  だから、どんなに惨めなめに遭うとしても、わたくしは彼の前に立つ。  さぁ、悪役令嬢のお役目の時間よ。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

悪役令嬢の居場所。

葉叶
恋愛
私だけの居場所。 他の誰かの代わりとかじゃなく 私だけの場所 私はそんな居場所が欲しい。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ※誤字脱字等あれば遠慮なく言ってください。 ※感想はしっかりニヤニヤしながら読ませて頂いています。 ※こんな話が見たいよ!等のリクエストも歓迎してます。 ※完結しました!番外編執筆中です。

悪役令嬢は婚約破棄したいのに王子から溺愛されています。

白雪みなと
恋愛
この世界は乙女ゲームであると気づいた悪役令嬢ポジションのクリスタル・フェアリィ。 筋書き通りにやらないとどうなるか分かったもんじゃない。それに、貴族社会で生きていける気もしない。 ということで、悪役令嬢として候補に嫌われ、国外追放されるよう頑張るのだったが……。 王子さま、なぜ私を溺愛してらっしゃるのですか?

悪役令嬢ってこれでよかったかしら?

砂山一座
恋愛
第二王子の婚約者、テレジアは、悪役令嬢役を任されたようだ。 場に合わせるのが得意な令嬢は、婚約者の王子に、場の流れに、ヒロインの要求に、流されまくっていく。 全11部 完結しました。 サクッと読める悪役令嬢(役)。

平和的に婚約破棄したい悪役令嬢 vs 絶対に婚約破棄したくない攻略対象王子

深見アキ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢・シェリルに転生した主人公は平和的に婚約破棄しようと目論むものの、何故かお相手の王子はすんなり婚約破棄してくれそうになくて……? タイトルそのままのお話。 (4/1おまけSS追加しました) ※小説家になろうにも掲載してます。 ※表紙素材お借りしてます。

【完結】悪役令嬢になるはずだった令嬢の観察日記 

かのん
恋愛
 こちらの小説は、皇女は当て馬令息に恋をする、の、とある令嬢が記す、観察日記となります。  作者が書きたくなってしまった物語なので、お時間があれば読んでいただけたら幸いです。

処理中です...