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第25話 お買い物
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ある日の朝、私は迎えに来たアランと共に朝市に向かっていた。自然に繋がれた手に無意識に視線がいってしまう。
この街の朝市は毎週日曜日に開かれている。数回目に行ったときにはぐれて以来、アランは手を繋いでくれるようになった。今回の目標は何食わぬ顔をして、アランと腕を組むことだ。恋人繋ぎに変えるだけでも良いが、とにかく私としては幼馴染以上の進展を望んでいる。
アランを誘惑しようと野営地で決意したのが、すでに数ヶ月前。学園に通っていれば、一学期末の試験勉強に攻略対象者の誰かを誘っている頃だろう。その頃のヒロインは、平然と攻略対象者と腕を組んでいた気がする。きっかけは何だったのだろう。肝心なことが思い出せなくて困る。
私だって好きでもない攻略対象者相手ならいくらでも腕を組めるので、攻略対象者をおとす計画を練っている段階では気にもしていなかった。
「ジャンヌ、どうかしたか?」
「何でもない……きゃっ!」
ぼんやりしていた私のすぐ横を、少年たちが走っていく。アランが硬直しているのを感じてそちらを見ると、アランの顔がりんごのように真っ赤だった。
どうしたのかと疑問に思うが、遅れて自分が無意識にしがみついたせいだと理解する。同時に私の顔にも熱が集まってきた。
なるほど、ヒロインも攻略対象者に気持ちがなかったのではなく、今の私のようにヒロインにのみ起こる幸運があったのだろう。今のときめきが薄れる気がするので、攻略対象者との間に何が起きたかは、もう思い出さないでおこうと思う。
「ジャ、ジャンヌ?」
アランに声をかけられて、しがみついたままだったことに気がついた。このまま離してしまったら、一生腕なんか組めない気がする。
私は羞恥心を隠してアランの腕にしっかり自分の腕を絡めた。アランがビクッと肩を強張らせる。
「嫌なの?」
上目遣いでアランを見上げて、これは作戦だと自分に言い聞かせる。作戦なのだから拒否されても気にすることはないと思っていても、アランが何も言わないだけで不安になって瞳が潤んだ。
「いや、俺は嫌じゃない。その方が安心なら、そうしていろ。はぐれたら困るもんな」
ん?
想像とは違う答えが帰ってきて心の中で首を傾げる。どう見ても恋人同士の距離なのに、アランの言葉は幼馴染を超えられていない。
アランって、こんなに鈍感だったかしら?
私は歩き出したアランに寄り添いながら、じーっと見つめる。いつもよりぎこちない動きを見ていると、意識していない訳ではなさそうだ。
「売り切れてたら困るから急ぎましょう」
「ああ、そうだな」
私はアランの反応に満足して、朝市の人混みの中にグイグイとアランを引っ張った。
朝市には野菜や肉などの食品を売る場所や、服や陶器などの工芸品を売る場所などいくつかのエリアに別れている。私達のお目当ては食品で、毎週お店を出している人も多いので、通っているうちに店主とも顔見知りになっていた。
「相変わらず仲が良いわね」
察しの良い世話好きのおばさんたちは、私の気持ちに気づいていて、組まれた腕をさり気なく見て笑顔で声をかけてくる。私はそのたびに思わせぶりに笑って応えた。
「林檎も買っちゃおうかな? 一籠下さい」
財布の紐が緩くなるが仕方ない。治癒薬を一瓶だけ余分に納品すれば捻出できるので良いことにする。荷物を持つアランは呆れているが、まだ余裕がありそうだ。店を離れるたびに、買ったものを異空間バッグにしまっているから当たり前だけど……
「いつもありがとう。また、二人で寄ってね」
「はい! また、来週来ますね」
朝市での買い物を終えて、私はウキウキしながら帰りの道を歩いた。腕を組むアランは、逆にグッタリしている気がする。長年の付き合いだから本当に嫌がっているなら気づけると思っていたが、浮かれて調子に乗りすぎただろうか?
「林檎は焼きリンゴで良い?」
私は心配になってきて、関係ないことを言いながら腕をそっと離す。
「ああ、林檎をくり抜くのは俺がやるよ」
一瞬寂しそうな顔をしたアランがすぐに手を繋いでくれたので、杞憂にすぎなかったようだ。
「ありがとう」
私は安心して、そのまま慣れた道を歩いた。
この街の朝市は毎週日曜日に開かれている。数回目に行ったときにはぐれて以来、アランは手を繋いでくれるようになった。今回の目標は何食わぬ顔をして、アランと腕を組むことだ。恋人繋ぎに変えるだけでも良いが、とにかく私としては幼馴染以上の進展を望んでいる。
アランを誘惑しようと野営地で決意したのが、すでに数ヶ月前。学園に通っていれば、一学期末の試験勉強に攻略対象者の誰かを誘っている頃だろう。その頃のヒロインは、平然と攻略対象者と腕を組んでいた気がする。きっかけは何だったのだろう。肝心なことが思い出せなくて困る。
私だって好きでもない攻略対象者相手ならいくらでも腕を組めるので、攻略対象者をおとす計画を練っている段階では気にもしていなかった。
「ジャンヌ、どうかしたか?」
「何でもない……きゃっ!」
ぼんやりしていた私のすぐ横を、少年たちが走っていく。アランが硬直しているのを感じてそちらを見ると、アランの顔がりんごのように真っ赤だった。
どうしたのかと疑問に思うが、遅れて自分が無意識にしがみついたせいだと理解する。同時に私の顔にも熱が集まってきた。
なるほど、ヒロインも攻略対象者に気持ちがなかったのではなく、今の私のようにヒロインにのみ起こる幸運があったのだろう。今のときめきが薄れる気がするので、攻略対象者との間に何が起きたかは、もう思い出さないでおこうと思う。
「ジャ、ジャンヌ?」
アランに声をかけられて、しがみついたままだったことに気がついた。このまま離してしまったら、一生腕なんか組めない気がする。
私は羞恥心を隠してアランの腕にしっかり自分の腕を絡めた。アランがビクッと肩を強張らせる。
「嫌なの?」
上目遣いでアランを見上げて、これは作戦だと自分に言い聞かせる。作戦なのだから拒否されても気にすることはないと思っていても、アランが何も言わないだけで不安になって瞳が潤んだ。
「いや、俺は嫌じゃない。その方が安心なら、そうしていろ。はぐれたら困るもんな」
ん?
想像とは違う答えが帰ってきて心の中で首を傾げる。どう見ても恋人同士の距離なのに、アランの言葉は幼馴染を超えられていない。
アランって、こんなに鈍感だったかしら?
私は歩き出したアランに寄り添いながら、じーっと見つめる。いつもよりぎこちない動きを見ていると、意識していない訳ではなさそうだ。
「売り切れてたら困るから急ぎましょう」
「ああ、そうだな」
私はアランの反応に満足して、朝市の人混みの中にグイグイとアランを引っ張った。
朝市には野菜や肉などの食品を売る場所や、服や陶器などの工芸品を売る場所などいくつかのエリアに別れている。私達のお目当ては食品で、毎週お店を出している人も多いので、通っているうちに店主とも顔見知りになっていた。
「相変わらず仲が良いわね」
察しの良い世話好きのおばさんたちは、私の気持ちに気づいていて、組まれた腕をさり気なく見て笑顔で声をかけてくる。私はそのたびに思わせぶりに笑って応えた。
「林檎も買っちゃおうかな? 一籠下さい」
財布の紐が緩くなるが仕方ない。治癒薬を一瓶だけ余分に納品すれば捻出できるので良いことにする。荷物を持つアランは呆れているが、まだ余裕がありそうだ。店を離れるたびに、買ったものを異空間バッグにしまっているから当たり前だけど……
「いつもありがとう。また、二人で寄ってね」
「はい! また、来週来ますね」
朝市での買い物を終えて、私はウキウキしながら帰りの道を歩いた。腕を組むアランは、逆にグッタリしている気がする。長年の付き合いだから本当に嫌がっているなら気づけると思っていたが、浮かれて調子に乗りすぎただろうか?
「林檎は焼きリンゴで良い?」
私は心配になってきて、関係ないことを言いながら腕をそっと離す。
「ああ、林檎をくり抜くのは俺がやるよ」
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「ありがとう」
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