上 下
49 / 72
〈番外編〉皇太子殿下の苦悩

14.理由

しおりを挟む
「どういう事ですか? 皇太子殿下。説明して下さい」

 当時の事を知らないエドガーが真剣な表情でジェラルドに聞いてくる。

「兄上、冷静に考えればアメリアの事じゃないと分かるでしょ。木には自分から登るし、殿下がアメリアにカエルを仕掛けるわけないし、ロープで降りる事もアメリアは平気でする」

「じゃあ?」

 エドガーが心底不思議そうに3人の顔を見回す。

「たぶん宰相の息子が弱いと思われたくなくて父が少し噂を捻じ曲げたんだと思う……」

 ミカエルが恥ずかしそうに言う。

「いや、うちの父もアメリアの事を普通の令嬢にしたがっていたから……」

 ヴィクトルも言葉を重ねるがミカエルへのフォローにはなっていない。

(宰相たぬき辺境伯きつねが協力したっていうのが正解だろ。辺境伯の目論見がアメリアを令嬢らしく見せるためかどうかは疑問だけどな)

 ジェラルドは余計な事は言わずに息を吐く。辺境伯が噂を曲げたのだとしたら、ジェラルドとアメリアの相性が悪いと周囲に思わせるためだった可能性が高い。やはり、ジェラルドとは結婚させたくないのだろう。

 ジェラルドが皇弟にアメリアとの事を相談したときに決まって、令嬢には優しくしろとかジェラルドと同じ事ができると思っては可愛そうだとか言われたのもこういう噂が原因だったのかもしれない。

(俺の事より噂を信じてたってことだよな)

 ジェラルドは皇弟を信じていた3年前の自分が馬鹿らしくなった。

(今後、俺が噂に手を加えるときはこういう可能性にも考慮しなくてはいけないな)

 宰相と辺境伯にもさり気なく釘をささなくてはならない。面倒な仕事が増えたジェラルドは静かにため息をついた。





 エドガーは囚えた者たちと辺境伯軍の大半を連れてペンブローク辺境伯領に帰っていった。サモエド侯爵が言っていた皇弟のアメリアに対する執着も少し気になる。侯爵の話が本当ならばアメリアとの偽装婚約破棄が逆効果になる可能性も考えられる。辺境伯領には簡単に入る事は出来ないが、念の為アメリアの警護を強化するようにとエドガーに頼んでおいた。

 残りの辺境伯軍は侯爵たちが変わらず領地にいるかのように偽装してくれる予定だ。辺境伯軍の特殊部隊が中心になって行うようだが、見た目だけでいうならとても軍人には見えない者が多い。

 ジェラルドを含む王都から来た者は侯爵を捜索した3ヶ所について今度は書類などの証拠品の捜索を行っていった。しかし、武器密輸入や皇弟とのつながりになる物的証拠はまったく出てこなかった。かなりきちんと処分していたのだろう。

 逆に思いもよらぬ成果もあった。サモエド侯爵は領内の収入を大幅に低く王国に報告していた事がわかったのだ。

 近年、侯爵領では鉄が採掘されていたようなのだ。すべて秘密裏に進めていて国に税金を納めていない。この事に関しては今の時点でも罪に問える。他の件が片付く前に万が一侯爵拘束が世間に露呈してしまったときには納税違反で捕まえたと公表する事になるだろう。

 おそらく、採掘された鉄鉱石をそのまま外国に流して武器購入に充てていたものと思われる。

 賭博場だけで資金を賄うのは難しいとは思っていたが、侯爵領の監視も山の中までは出来ていなかった。

 思わぬ成果で採掘現場などにも行ったジェラルドたちは、侯爵領で予定を大幅に超える日数過ごすことになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしてきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!

日之影ソラ
ファンタジー
 かつては騎士の名門と呼ばれたブレイブ公爵家は、代々王族の専属護衛を任されていた。 しかし数世代前から優秀な騎士が生まれず、ついに専属護衛の任を解かれてしまう。それ以降も目立った活躍はなく、貴族としての地位や立場は薄れて行く。  ブレイブ家の長女として生まれたミスティアは、才能がないながらも剣士として研鑽をつみ、騎士となった父の背中を見て育った。彼女は父を尊敬していたが、周囲の目は冷ややかであり、落ちぶれた騎士の一族と馬鹿にされてしまう。  そんなある日、父が戦場で命を落としてしまった。残されたのは母も病に倒れ、ついにはミスティア一人になってしまう。土地、お金、人、多くを失ってしまったミスティアは、亡き両親の想いを受け継ぎ、再びブレイブ家を最高の騎士の名家にするため、第一王子の護衛騎士になることを決意する。 こちらの作品の連載版です。 https://ncode.syosetu.com/n8177jc/

婚約破棄された公爵令嬢は、真実の愛を証明したい

香月文香
恋愛
「リリィ、僕は真実の愛を見つけたんだ!」 王太子エリックの婚約者であるリリアーナ・ミュラーは、舞踏会で婚約破棄される。エリックは男爵令嬢を愛してしまい、彼女以外考えられないというのだ。 リリアーナの脳裏をよぎったのは、十年前、借金のかたに商人に嫁いだ姉の言葉。 『リリィ、私は真実の愛を見つけたわ。どんなことがあったって大丈夫よ』 そう笑って消えた姉は、五年前、首なし死体となって娼館で見つかった。 真実の愛に浮かれる王太子と男爵令嬢を前に、リリアーナは決意する。 ——私はこの二人を利用する。 ありとあらゆる苦難を与え、そして、二人が愛によって結ばれるハッピーエンドを見届けてやる。 ——それこそが真実の愛の証明になるから。 これは、婚約破棄された公爵令嬢が真実の愛を見つけるお話。 ※6/15 20:37に一部改稿しました。

【完結】婚約破棄された傷もの令嬢は王太子の側妃になりました

金峯蓮華
恋愛
公爵令嬢のロゼッタは王立学園の卒業パーティーで婚約者から婚約破棄を言い渡された。どうやら真実の愛を見つけたらしい。 しかし、相手の男爵令嬢を虐めたと身に覚えのない罪を着せられた。 婚約者の事は別に好きじゃないから婚約破棄はありがたいけど冤罪は嫌だわ。 結婚もなくなり、退屈していたところに王家から王太子の側妃にと打診が来た。 側妃なら気楽かも? と思い了承したが、気楽どころか、大変な毎日が待っていた。 *ご都合主義のファンタジーです。見守ってくださいませ*

【完結】ある日、前世で大好きだった人と運命の再会をしました───私の婚約者様が。

Rohdea
恋愛
───幸せな花嫁になる……はずだったのに。 侯爵令嬢のナターリエは、結婚式を控えて慌ただしい日々を過ごしていた。 しかし、婚約者でもあるハインリヒの様子がある日を境によそよそしくなっていく。 これはまさか浮気……? 怪しんでいるところに、どこかの令嬢とデートしている姿まで目撃してしまう。 悩んだ結果、ナターリエはハインリヒを問い詰めることを決意。 しかし、そこでハインリヒから語られたのは、 ───前世の記憶を思い出して大好きだった女性と再会をした。 という、にわかには信じがたい話だった。 ハインリヒによると彼の前世は、とある国のお姫様の護衛騎士。 主である姫にずっと恋をしていたのだという。 また、どうやら元お姫様の女性側にも前世の記憶があるようで…… 幸せな花嫁になるはずが、一気にお邪魔虫となったナターリエは婚約破棄を決意する。 けれど、ハインリヒは───

本物の恋、見つけましたⅡ ~今の私は地味だけど素敵な彼に夢中です~

日之影ソラ
恋愛
本物の恋を見つけたエミリアは、ゆっくり時間をかけユートと心を通わていく。 そうして念願が叶い、ユートと相思相愛になることが出来た。 ユートからプロポーズされ浮かれるエミリアだったが、二人にはまだまだ超えなくてはならない壁がたくさんある。 身分の違い、生きてきた環境の違い、価値観の違い。 様々な違いを抱えながら、一歩ずつ幸せに向かって前進していく。 何があっても関係ありません! 私とユートの恋は本物だってことを証明してみせます! 『本物の恋、見つけました』の続編です。 二章から読んでも楽しめるようになっています。

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート! ***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!

冷徹女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女に呪われ国を奪われた私ですが、復讐とか面倒なのでのんびりセカンドライフを目指します~

日之影ソラ
ファンタジー
タイトル統一しました! 小説家になろうにて先行公開中 https://ncode.syosetu.com/n5925iz/ 残虐非道の鬼女王。若くして女王になったアリエルは、自国を導き反映させるため、あらゆる手段を尽くした。時に非道とも言える手段を使ったことから、一部の人間からは情の通じない王として恐れられている。しかし彼女のおかげで王国は繁栄し、王国の人々に支持されていた。 だが、そんな彼女の内心は、女王になんてなりたくなかったと嘆いている。前世では一般人だった彼女は、ぐーたらと自由に生きることが夢だった。そんな夢は叶わず、人々に求められるまま女王として振る舞う。 そんなある日、目が覚めると彼女は少女になっていた。 実の姉が魔女と結託し、アリエルを陥れようとしたのだ。女王の地位を奪われたアリエルは復讐を決意……なーんてするわけもなく! ちょうどいい機会だし、このままセカンドライフを送ろう! 彼女はむしろ喜んだ。

呪いをかけられ婚約破棄をされた伯爵令嬢は仕事に生きます!なのに運命がグイグイ来る。

音無野ウサギ
恋愛
社交界デビューの園遊会から妖精に攫われ姿を消した伯爵令嬢リリー。 婚約者をわがままな妹に奪われ、伯爵家から追い出されるはずが妖精にかけられた呪いを利用して王宮で仕事をすることに。 真面目なリリーは仕事にやる気を燃やすのだが、名前も知らない男性に『運命』だと抱きつかれる。 リリーを運命だといいはる男のことをリリーは頭のおかしい「お気の毒な方」だと思っているのだがどうやら彼にも秘密があるようで…… この作品は小説家になろうでも掲載しています。

処理中です...