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〈番外編〉皇太子殿下の苦悩

30.同士

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 武器の密輸に始まった謀反未遂事件を片付けたジェラルドに最後に残った問題は、辺境伯が結婚に反対していることだった。

「殿下が側についていながら、アメリアは熱を出したらしいじゃないですか」

 押収した武器の数を報告しに来た日、辺境伯はこちらが本題だとばかりにグチグチと言ってきた。

「アメリアは過労で倒れるような弱い娘なので、皇太子妃なんていう大役は務まらないですよ。アメリアを大切に想ってくださるなら、婚約を解消してやって下さい」

 そんな事まで言い出した辺境伯に対して、アメリア失踪中の連絡手段をジェラルドに黙っていた事を持ち出して、その場は黙らせた。

 アメリアが過労で倒れたことを理由にされるとジェラルドも強く言いづらい。あのとき、なぜもっと早く気づいてあげられなかったのだろうか。アメリアの苦しそうな顔を思い出すと辛くなる。

 アメリアも父親の結婚反対を心配しているようで、それとなく聞かれた。

 婚約破棄させるための作戦が辺境伯にはまだあるのかもしれない。しかし、ジェラルドも負けるわけにはいかない。辺境伯が取りうるあらゆる可能性を想定して対策を練り、油断しなければ出し抜かれる事はない。そう思っていた。

 しかし……

 散々ジェラルドとアメリアの結婚に反対していた辺境伯が突然結婚を認めた。

「ジェラルド皇太子殿下にお任せすれば、アメリアもきっと幸せに暮らしていけるでしょう。娘をよろしくお願いします」

 見たこともない笑顔を貼り付けた辺境伯が、ジェラルドの目の前にいる。

 ジェラルドは何も返す言葉がみつからず本心を探るように観察していると、辺境伯はチラチラと隣を気にしているようだ。辺境伯の視線の先には辺境伯夫人がいる。

 今日は珍しく辺境伯夫人も参加し、アメリアを含めて4人でお茶会をしているのだ。

 辺境伯夫人は髪や瞳の色は異なるがそれ以外はアメリアにそっくりだ。おっとりと辺境伯をいつでもたてる夫人の様子が今日はちょっと違う。夫人のあの瞳にはジェラルドも見覚えがあった。

(アメリアが絶対に譲らないと決めたときの目だ)

 隣のアメリアをちらりと見るとうまくいったと書いてあるような顔をしている。母親に結婚を承諾してもらえるようにと頼んだのだろう。

 ジェラルドとしてはありがたい事だが、同じ瞳にいつも押し切られる者としてはいたたまれない。

 あんなに苦手だった目の前の辺境伯がものすごく親しみやすい人間に見える。

 こんな事を思う日が来るとはジェラルドも想像していなかった。感慨深く思いながら、なおも繰り広げられている辺境伯家の攻防に気づかないふりをしてジェラルドは静かにお茶を飲んだ。
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