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〈番外編〉皇太子殿下の苦悩
16.痕跡
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ヴィクトルが戻って来たのは夕方になってからだった。
職務を放棄し出て行った事を謝ると、ヴィクトルは執務室に運びこまれていた火事の詳細を読み、ミカエルが聞き出したアメリアの護衛の特徴を聞いた。
「おそらく、アメリアは無事だと思います。ご安心下さい」
ヴィクトルはそう言うと息を吐き出して力を抜いた。
アメリアを護衛していたのは辺境伯軍の隠密行動を得意とする特殊部隊に所属しているクロとトビという人物で、特殊部隊の中でもかなり優秀な2人だと言う。
辺境伯が前にアメリアのためなら辺境伯さえも殺しかねないと言っていた護衛で、情報を遮断されてアメリアと領地にいた人物だ。
「私が現場でアメリアの痕跡を探しましたが一切見つかりませんでした。まるでアメリアなんて王都にいなかった。そう言っているような状況です」
たしかにアメリアは王都にいて指輪を王宮騎士に渡したはずだ。しかし、宿屋やその周辺、使用人の寮に向かうために通る道などで聴き込んでも誰一人アメリアらしき人物を目撃した者がいない。
「そして火事の報告書にある犯人を仕留めた人物ですが、何人で行ったのかや左利きか右利きかどんな手段が得意かなど人物像がまったく掴めません。私は辺境伯軍で犯人像を掴むための訓練も受けています。それでも手がかりを掴ませない者は辺境伯軍の特殊部隊の中でも優秀な数人しか知りません」
ジェラルドも報告書を読んだが犯人グループは30名ほどだった。警備騎士団がかけつけたときには犯人と応戦した人間は一人も残っておらず、おそらく10人以上が犯人と戦っていたと仮定して情報提供を呼びかけていた。
「アメリアの痕跡を消したのも犯人を殺したのもアメリアの護衛であるクロとトビの可能性が非常に高いでしょう」
警備騎士団は10人以上と見積もっていたのに、ヴィクトルは、応戦したのはおそらく2人のみだと考えているようだ。
「そしてアメリアは戦闘に参加していません。アメリアが戦う必要がない程度には護衛に余裕があったのだと思います」
アメリアが戦ったのなら警備騎士団は気づかなくてもヴィクトルには分かる。アメリアの癖は把握しているし見分ける事ができると断言した。
「怪我をしたり捕らえられて戦闘に参加出来なかった可能性は?」
ジェラルドもそんな想像はしたくないが確認せずにはいられない。
「ゼロではありません。ただ、もしアメリアに何かあったのなら命に替えてでも護衛は何か伝言を残したはずです」
「ヴィクトルの考えは分かった。しかし、私はアメリアが囚われていると仮定して動くつもりだ」
アメリアを心配しているはずの兄、ヴィクトルが言うのだから、ジェラルドもアメリアがどこかに避難しているのだろうとは思う。しかし、アメリアの所在が分からない現状、一番厳しい状況を想定して動いた方が後悔しないで済む。
「まずは叔父上の動きと関係する施設を隠密部隊に探らせてアメリアを探す。誰か出てこい」
どこからともなく隠密部隊が姿を現す。
「どのくらいで調べられる?」
「1週間ほど頂ければ問題ありません」
ジェラルドが頷くと隠密部隊は出ていった。
「ヴィクトルは辺境伯と連絡をとってくれ。アメリアとの連絡手段くらいあるだろ? 捕まっていないなら保護したい」
「分かりました。父に連絡をしてみます。もっとも父は辺境伯領に行ったはずなので、すでにアメリアの失踪を把握しているとは思います」
辺境伯領ではアメリアが王都に向かった事に気がついているだろうからすでに捜索が始まっている可能性が高いとヴィクトルはみているようだ。
「よろしく頼む」
「畏まりました」
ヴィクトルはまず王都の辺境伯の屋敷に行って情報を得てくると言って出ていった。
後日、辺境伯からの伝言を預かったという辺境伯軍の軍人がやってきた。
「皇太子殿下、お初にお目にかかります。辺境伯軍で伝令役をしております。フウエンと申します」
挨拶をすませたフウエンがジェラルドに渡したのは辺境伯が書いた手紙だった。ジェラルドはそれを読んでため息をつく。
「辺境伯からの手紙にはアメリアと連絡を取る手段はないと書いてあるな」
「見せて頂けますか?」
ヴィクトルに言われて手紙を渡す。ヴィクトルからは緊張した様子が伺える。辺境伯の兄妹は本当に仲が良い。アメリアが心配なのだろう。
「手紙には特殊部隊に火事の跡地を検分させるともあったがそっちの報告はいつ頃になる?」
「私が特殊部隊の隊長とともに現場に行って参りましたので報告いたします」
皇太子であるジェラルドに初めて会ったというのに、フウエンは先程から落ち着きはらって淡々としている。ただの伝令役と言ったが辺境伯軍の中でもそれなりの位置にいる人物なのだろう。
フウエンの話は先日ヴィクトルが言っていた事とほぼ同じだった。
護衛対象の痕跡を消せる人間はいるが、囚えたり殺したりした相手の痕跡を消すのはとても難しい。特殊部隊が守っている人間に対して行うのは不可能だと話した。だから、アメリアは無事でどこかに隠れているという事らしい。
ジェラルドもアメリアの護衛の上司にあたる人物が出した結論には納得するしかなかった。
しかし、この後1ヶ月がたってもアメリアに関する手がかりは一切掴めなかった。
職務を放棄し出て行った事を謝ると、ヴィクトルは執務室に運びこまれていた火事の詳細を読み、ミカエルが聞き出したアメリアの護衛の特徴を聞いた。
「おそらく、アメリアは無事だと思います。ご安心下さい」
ヴィクトルはそう言うと息を吐き出して力を抜いた。
アメリアを護衛していたのは辺境伯軍の隠密行動を得意とする特殊部隊に所属しているクロとトビという人物で、特殊部隊の中でもかなり優秀な2人だと言う。
辺境伯が前にアメリアのためなら辺境伯さえも殺しかねないと言っていた護衛で、情報を遮断されてアメリアと領地にいた人物だ。
「私が現場でアメリアの痕跡を探しましたが一切見つかりませんでした。まるでアメリアなんて王都にいなかった。そう言っているような状況です」
たしかにアメリアは王都にいて指輪を王宮騎士に渡したはずだ。しかし、宿屋やその周辺、使用人の寮に向かうために通る道などで聴き込んでも誰一人アメリアらしき人物を目撃した者がいない。
「そして火事の報告書にある犯人を仕留めた人物ですが、何人で行ったのかや左利きか右利きかどんな手段が得意かなど人物像がまったく掴めません。私は辺境伯軍で犯人像を掴むための訓練も受けています。それでも手がかりを掴ませない者は辺境伯軍の特殊部隊の中でも優秀な数人しか知りません」
ジェラルドも報告書を読んだが犯人グループは30名ほどだった。警備騎士団がかけつけたときには犯人と応戦した人間は一人も残っておらず、おそらく10人以上が犯人と戦っていたと仮定して情報提供を呼びかけていた。
「アメリアの痕跡を消したのも犯人を殺したのもアメリアの護衛であるクロとトビの可能性が非常に高いでしょう」
警備騎士団は10人以上と見積もっていたのに、ヴィクトルは、応戦したのはおそらく2人のみだと考えているようだ。
「そしてアメリアは戦闘に参加していません。アメリアが戦う必要がない程度には護衛に余裕があったのだと思います」
アメリアが戦ったのなら警備騎士団は気づかなくてもヴィクトルには分かる。アメリアの癖は把握しているし見分ける事ができると断言した。
「怪我をしたり捕らえられて戦闘に参加出来なかった可能性は?」
ジェラルドもそんな想像はしたくないが確認せずにはいられない。
「ゼロではありません。ただ、もしアメリアに何かあったのなら命に替えてでも護衛は何か伝言を残したはずです」
「ヴィクトルの考えは分かった。しかし、私はアメリアが囚われていると仮定して動くつもりだ」
アメリアを心配しているはずの兄、ヴィクトルが言うのだから、ジェラルドもアメリアがどこかに避難しているのだろうとは思う。しかし、アメリアの所在が分からない現状、一番厳しい状況を想定して動いた方が後悔しないで済む。
「まずは叔父上の動きと関係する施設を隠密部隊に探らせてアメリアを探す。誰か出てこい」
どこからともなく隠密部隊が姿を現す。
「どのくらいで調べられる?」
「1週間ほど頂ければ問題ありません」
ジェラルドが頷くと隠密部隊は出ていった。
「ヴィクトルは辺境伯と連絡をとってくれ。アメリアとの連絡手段くらいあるだろ? 捕まっていないなら保護したい」
「分かりました。父に連絡をしてみます。もっとも父は辺境伯領に行ったはずなので、すでにアメリアの失踪を把握しているとは思います」
辺境伯領ではアメリアが王都に向かった事に気がついているだろうからすでに捜索が始まっている可能性が高いとヴィクトルはみているようだ。
「よろしく頼む」
「畏まりました」
ヴィクトルはまず王都の辺境伯の屋敷に行って情報を得てくると言って出ていった。
後日、辺境伯からの伝言を預かったという辺境伯軍の軍人がやってきた。
「皇太子殿下、お初にお目にかかります。辺境伯軍で伝令役をしております。フウエンと申します」
挨拶をすませたフウエンがジェラルドに渡したのは辺境伯が書いた手紙だった。ジェラルドはそれを読んでため息をつく。
「辺境伯からの手紙にはアメリアと連絡を取る手段はないと書いてあるな」
「見せて頂けますか?」
ヴィクトルに言われて手紙を渡す。ヴィクトルからは緊張した様子が伺える。辺境伯の兄妹は本当に仲が良い。アメリアが心配なのだろう。
「手紙には特殊部隊に火事の跡地を検分させるともあったがそっちの報告はいつ頃になる?」
「私が特殊部隊の隊長とともに現場に行って参りましたので報告いたします」
皇太子であるジェラルドに初めて会ったというのに、フウエンは先程から落ち着きはらって淡々としている。ただの伝令役と言ったが辺境伯軍の中でもそれなりの位置にいる人物なのだろう。
フウエンの話は先日ヴィクトルが言っていた事とほぼ同じだった。
護衛対象の痕跡を消せる人間はいるが、囚えたり殺したりした相手の痕跡を消すのはとても難しい。特殊部隊が守っている人間に対して行うのは不可能だと話した。だから、アメリアは無事でどこかに隠れているという事らしい。
ジェラルドもアメリアの護衛の上司にあたる人物が出した結論には納得するしかなかった。
しかし、この後1ヶ月がたってもアメリアに関する手がかりは一切掴めなかった。
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