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〈番外編〉皇太子殿下の苦悩

7.賭博

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 時は少し戻って秋、ジェラルドは学園の食堂で寛いでいた。

「殿下、今日の放課後俺に付き合いませんか? ご紹介したい場所があるんですよ。たまには息抜きも必要でしょ」

 ヘラヘラとジェラルドの所にやってきたのは王宮騎士団長の息子ルイスだった。ジェラルドと一緒にいたミカエルが少し怯えた顔をしている。遊び人として有名なルイスは王宮騎士団長にも見放されているともっぱらの噂だ。ミカエルはいつまでも苦手としている。

「たまには付き合おう。ミカエルはどうする?」

 ミカエルはルイスを警戒しているが、ジェラルドが行くなら断ることはしないだろう。

「ジェラルドが行くなら僕も行くよ」

「お、坊っちゃんも来るのか。では、殿下。放課後馬車で迎えに行きます」

「坊っちゃんじゃないよ」

 ミカエルの抗議を受け流してルイスが去っていく。ルイスに女子生徒が数名近づいていきルイスがそのうちの一人の肩を抱きながら食堂を出ていくのをジェラルドはなんとなく眺めていた。

 ルイスは軽薄な演技をしているがかなり使える男だ。父親との確執も自ら流しているものだろう。すでに学園内の小さな揉め事をジェラルドとともに解決した実績もある。ただ、ミカエルとは相性が悪い。

 放課後、ジェラルドに時間を作らせたのも何か理由があるのだろう。

「今日の予定の調整を頼む」

「うん、分かった」

 ジェラルドはミカエルにそれだけ伝えると午後の授業に向かった。





「で、ルイス。まさかこれが目的だったとは言わないよな」

 放課後、ジェラルドとミカエルをルイスが連れて行ったのは、女性が接待する飲み屋のVIPルームだった。それぞれ、露出度の高い服を着た女性が隣にしなだれかかっていて、とても大事な話をするような場ではない。

 ミカエルは心細そうに大きな身体を縮ませているが両側の女性は可愛い可愛いと言ってミカエルをベタベタ触っている。男を助けてやるほど優しくないジェラルドはミカエルについてはどうでもよかったが、アメリアに知られたときの事を想像すると嫌な汗が流れる。

「殿下とアメリア様は淡泊な関係みたいだし、殿下もこういう場所に来たいのかと思ってたんですけど違うんですか?」

 ルイスは両側の女性を平等に可愛がっている。顔見知りのようなのでよく通っているのかもしれない。

「私はアメリアが居てくれればそれでいい」

「そうなんですか? 辺境伯軍の姫君は一見すると人懐っこいのに少し人と距離を置くような所があるじゃないですか。不思議な魅力のある方ですが、殿下はもっと分かりやすく可愛らしい反応をする女性が好みかと思ってました」

「な!? 私の好みを勝手に決めるな」

 なんとなく、本物のアメリアを思い浮かべてジェラルドは一瞬動揺する。賢明にもミカエルは何も言わなかった。

「違ったんですね。失礼しました」

 ルイスは女性たちを下がらせると楽しそうに笑ってワインを飲んだ。


「では、ご希望通り本題に入りますね」

 ルイスの言葉にミカエルがホッとした顔をした。

「なるほど、賭博場か」

 ルイスは悪い遊びをしている友人から賭博場に誘われたのだという。シャルト王国では賭け事は一部の国が経営する施設を除いては許されていない。それも何らかの競技の勝者を当てるような賭けのみで合法の賭博場は存在しない。

「大掛かりな施設でした。かなりの金が動いてますよ」

「行ったのか?」

 ルイスはにっこり笑うだけだったが聞くまでもないことだろう。

「経営者は誰か分かる? ルイスの友人は誰から誘われたの?」

 さっきまで怯えていたミカエルがきちんと側近らしく仕事を始めた。

「それはこれから探ろうと思ってます。ただ、単独で動きすぎると賭博場に出入りしている人間として捕まる恐れもあるので先にお伝えしました」

 確かにルイスは学園では秘密裏にジェラルドの側近のような事もしているが肩書はただの学生だ。捕まればジェラルドが裏から手を回すしか助ける方法がない。

「こっちで建物の権利関係からも辿って見るから無理はするな。必要なら隠密部隊を貸すがどうする?」

「いえ、しばらくは単独で動きます」

 ルイスが少し考えてから言った。




※日本ではお酒は二十歳になってから。
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