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4.安らげる場所
10.帰路
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アメリアがジェラルドと話をしている間に、数ヶ所で抵抗していた者たちも、すべて騎士団に拘束された。今は騎士たちが建物内部を確認して、証拠などを集めているようだ。ジェラルドもミカエルに呼ばれて何やら協議している。
アメリアは他の部署から派遣されている形なので、手伝えることもなく、座ってぼんやりと働く人たちを眺めていた。
(終わったのね。)
アメリアは今回の潜入が終われば、騎士団を辞めて辺境伯令嬢に戻ることになっている。つい最近まで領地でのんびり過ごしていたアメリアには、この数カ月は本当に目まぐるしかった。
「帰るぞ。」
声の方を振り返るとジェラルドが近くに立っていた。
「ほら、使え。」
ジェラルドがジャケットを脱いでアメリアの肩にかける。
「ありがとう。」
アメリアはお礼を言って袖を通した。大きすぎるそのジャケットは温かくて、アメリアはホッと息をつく。気がついてなかったが、身体が冷えてしまっていたようだ。
ジェラルドとともに建物を出るため、アメリアが歩き出すと、ジャケットを着ていても寒くて身体が震えてくる。ジェラルドがそれに気づいて、アメリアを抱き寄せながら歩いてくれた。
乗ってきた馬車に2人で戻り、アメリアが仮面を外して座ると、すぐに馬車が走り出す。ヴィクトルとミカエルは事後処理でしばらく現場に残るようだ。
「どうした?」
アメリアがなんとなく離れたくなくて、並んで座るジェラルドの腕に頬を寄せていると、心配そうにジェラルドがアメリアを見つめてくる。
「俺に甘えてくるなんて、熱でもあるのか?」
気安い仲とはいえ、他に言い方はないのだろうか。アメリアはムッとして、ジェラルドを睨みつけた。
「私だって素直になるときだってあるのに。女心が分かってない!」
アメリアはそれでも離れたくなくて、ジェラルドが逃げないように、絡めた腕に力をこめた。ジェラルドはその様子に苦笑している。
「女心はわからないが、アメリアの事はよく知っている。」
ジェラルドがアメリアのおでこに、そっと手を当てる。ジェラルドの手が冷たくて気持ちいい。
「やっぱり、熱っぽいじゃないか。」
ジェラルドが呆れたようにため息をついた。そう言われると、アメリアも何だか身体がダルい気がしてくる。ぼんやりしているアメリアを支えるように、ジェラルドが抱き寄せてくれた。
「小さい頃からアメリアが甘えてくるのは、体調が悪いときか、辛いことがあったときだけだ。」
そういえば、落ち込んでどうしても会いたくなって、ジェラルドの所に行ったときには、何も言わなくてもジェラルドは、必ず抱きしめてくれていた。
(落ち込んでいたのに、きっと気づいていたのね。)
アメリアは、そんな事をぼんやり考えながら、ジェラルドの腕の中で心地よく響く声を聞いていた。
「別にいつでも甘えていいんだぞ。」
アメリアの背中を撫でるジェラルドの手が心地よい。アメリアはジェラルドに身を任せたまま意識を手放した。
アメリアは他の部署から派遣されている形なので、手伝えることもなく、座ってぼんやりと働く人たちを眺めていた。
(終わったのね。)
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「帰るぞ。」
声の方を振り返るとジェラルドが近くに立っていた。
「ほら、使え。」
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「ありがとう。」
アメリアはお礼を言って袖を通した。大きすぎるそのジャケットは温かくて、アメリアはホッと息をつく。気がついてなかったが、身体が冷えてしまっていたようだ。
ジェラルドとともに建物を出るため、アメリアが歩き出すと、ジャケットを着ていても寒くて身体が震えてくる。ジェラルドがそれに気づいて、アメリアを抱き寄せながら歩いてくれた。
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そういえば、落ち込んでどうしても会いたくなって、ジェラルドの所に行ったときには、何も言わなくてもジェラルドは、必ず抱きしめてくれていた。
(落ち込んでいたのに、きっと気づいていたのね。)
アメリアは、そんな事をぼんやり考えながら、ジェラルドの腕の中で心地よく響く声を聞いていた。
「別にいつでも甘えていいんだぞ。」
アメリアの背中を撫でるジェラルドの手が心地よい。アメリアはジェラルドに身を任せたまま意識を手放した。
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