16 / 72
3.騎士団
3.試験
しおりを挟む
制限時間内に走りきれなかった者が帰されると、受験者の人数は10分の1になっていた。アメリアはジェラルドが考えた距離が正しかった事を知る。
(この距離を走れる人って少ないのね。周りが軍人ばかりだから知らなかった。)
僅かな休憩を挟んでから、試験官の騎士に数人が呼ばれ剣が配られた。いよいよ打ち合いをするようだ。現役騎士が相手のようで、剣を受け取った者から目の前の騎士との試合が始まった。
現役騎士はかなり腕のある者ばかりのようだ。辺境伯軍に入っていたとしても、何人かをまとめる立場になれる者たちだ。おそらく、勝ち負けではなく、戦い方を見られるのだろう。
「頑張れよ。」
アメリアの順番が来て、試合を終えた受験者から剣を受け取る。女性にしては背が高い方だが、小柄なアメリアを見て心配してくれているようだ。
剣は刃を潰してある長剣で、手の小さいアメリアには太すぎる。隠し持っている短剣は使えないし、フウに教わっている動きは暗殺など秘密裏に動くための特殊な技が多い。間違っても使ってスパイ容疑をかけられるわけにはいかない。かなり不利な状況にアメリアは焦った。
相手の騎士はアメリアの兄たちには到底及ばないがかなりの使い手だ。結局、アメリアは実力の半分も見せられないまま負けてしまった。これでは合格出来ないかもしれない。そう思うとアメリアは落ち込んでしまう。
「その動き、辺境伯軍に所属していたのか?」
相手をしていた青い髪の騎士が睨みつけるようにアメリアを見ている。アメリアはヒヤリとしたが事実多めの嘘をついた。
「兄が辺境伯軍に所属しているんです。動きは兄に教わりました。僕は王都に憧れていたので出てきたんです。」
想定された質問だったのでアメリアは答える事ができた。青い髪の男はまだ納得していないようだ。言葉を重ねると怪しまれる恐れがあるのでアメリアは黙って男の反応を待った。
「兄の名前は?」
「クロードです。」
流石に兄の、辺境伯軍のトップや近衛騎士の名前を出すわけにはいかないのでクロが城下に出たときに使っている名前を出した。
クロの本名はアメリアも知らないがクロードの名で女の子を口説いていたことは知っている。辺境伯軍を名乗っていたので辺境伯領で調べられても問題ないだろう。それに、騎士団が辺境伯領に入ることは辺境伯が許さないから、調べることすらほぼ不可能だ。
辺境伯軍が管理している軍人の名簿に関しても、皇帝陛下の命令があっても開示されないので載っていなくても問題ない。
なんだか目をつけられてしまった気がするが、開放されたので、とりあえず大丈夫そうだ。後でクロとトビに報告しなくてはいけないだろう。スパイ容疑で投獄され、辺境伯令嬢であることがバレてしまったら、殺されるより大ごとになる。そう思ってアメリアは心の中で頭を抱えた。
…
次は筆記試験だった。アメリアは問題を見てあまりに簡単すぎる内容にあ然とした。
アメリアは10年間皇太子の婚約者だったため、妃になるための教育を受けている。それは皇帝となったジェラルドに必要ならば意見するための国内最高の教育だ。
平民の中には日常生活に必要な簡単な読み書きしかできない者も多い。そのため、この試験内容になったのだろう。アメリアの勉強不足だと言われればそれまでだが、どの分野が平民にとっても一般常識なのかが把握できていなかった。
(これって何問できれば普通なの? どの問題が難問でどれができて当たり前なの? 全部解いちゃってもいいのかな?)
わざと間違えたと思われたら大問題だ。それこそスパイ容疑が…。
アメリアは時間いっぱいかけてどれを解くべきかという難問を解いた。
…
結局、合格者はアメリアを含めて3人だけだった。20日間続く試験なので合わせるとそれなりの人数になるのだろう。
案内された寮の部屋に入ってやっとホッとして息を吐く。ベッドがあるだけの狭い部屋ではあるが一人部屋なので安心だ。
『待遇が良ければ真面目に働きたくなるだろ。誰かと同じ部屋ってやっぱりストレスたまるからな。』
ジェラルドの言葉を思い出す。騎士団の寮が増やされたのは5年ほど前のことだ。ジェラルドが騎士団のレベルを上げたくて行った政策の一つでもある。
王都にいるとジェラルドを思い出す事が多い。それだけアメリアはジェラルドと長い時間を過ごしてきたのだ。
アメリアは久しぶりの安全な部屋でゆっくり眠った。
(この距離を走れる人って少ないのね。周りが軍人ばかりだから知らなかった。)
僅かな休憩を挟んでから、試験官の騎士に数人が呼ばれ剣が配られた。いよいよ打ち合いをするようだ。現役騎士が相手のようで、剣を受け取った者から目の前の騎士との試合が始まった。
現役騎士はかなり腕のある者ばかりのようだ。辺境伯軍に入っていたとしても、何人かをまとめる立場になれる者たちだ。おそらく、勝ち負けではなく、戦い方を見られるのだろう。
「頑張れよ。」
アメリアの順番が来て、試合を終えた受験者から剣を受け取る。女性にしては背が高い方だが、小柄なアメリアを見て心配してくれているようだ。
剣は刃を潰してある長剣で、手の小さいアメリアには太すぎる。隠し持っている短剣は使えないし、フウに教わっている動きは暗殺など秘密裏に動くための特殊な技が多い。間違っても使ってスパイ容疑をかけられるわけにはいかない。かなり不利な状況にアメリアは焦った。
相手の騎士はアメリアの兄たちには到底及ばないがかなりの使い手だ。結局、アメリアは実力の半分も見せられないまま負けてしまった。これでは合格出来ないかもしれない。そう思うとアメリアは落ち込んでしまう。
「その動き、辺境伯軍に所属していたのか?」
相手をしていた青い髪の騎士が睨みつけるようにアメリアを見ている。アメリアはヒヤリとしたが事実多めの嘘をついた。
「兄が辺境伯軍に所属しているんです。動きは兄に教わりました。僕は王都に憧れていたので出てきたんです。」
想定された質問だったのでアメリアは答える事ができた。青い髪の男はまだ納得していないようだ。言葉を重ねると怪しまれる恐れがあるのでアメリアは黙って男の反応を待った。
「兄の名前は?」
「クロードです。」
流石に兄の、辺境伯軍のトップや近衛騎士の名前を出すわけにはいかないのでクロが城下に出たときに使っている名前を出した。
クロの本名はアメリアも知らないがクロードの名で女の子を口説いていたことは知っている。辺境伯軍を名乗っていたので辺境伯領で調べられても問題ないだろう。それに、騎士団が辺境伯領に入ることは辺境伯が許さないから、調べることすらほぼ不可能だ。
辺境伯軍が管理している軍人の名簿に関しても、皇帝陛下の命令があっても開示されないので載っていなくても問題ない。
なんだか目をつけられてしまった気がするが、開放されたので、とりあえず大丈夫そうだ。後でクロとトビに報告しなくてはいけないだろう。スパイ容疑で投獄され、辺境伯令嬢であることがバレてしまったら、殺されるより大ごとになる。そう思ってアメリアは心の中で頭を抱えた。
…
次は筆記試験だった。アメリアは問題を見てあまりに簡単すぎる内容にあ然とした。
アメリアは10年間皇太子の婚約者だったため、妃になるための教育を受けている。それは皇帝となったジェラルドに必要ならば意見するための国内最高の教育だ。
平民の中には日常生活に必要な簡単な読み書きしかできない者も多い。そのため、この試験内容になったのだろう。アメリアの勉強不足だと言われればそれまでだが、どの分野が平民にとっても一般常識なのかが把握できていなかった。
(これって何問できれば普通なの? どの問題が難問でどれができて当たり前なの? 全部解いちゃってもいいのかな?)
わざと間違えたと思われたら大問題だ。それこそスパイ容疑が…。
アメリアは時間いっぱいかけてどれを解くべきかという難問を解いた。
…
結局、合格者はアメリアを含めて3人だけだった。20日間続く試験なので合わせるとそれなりの人数になるのだろう。
案内された寮の部屋に入ってやっとホッとして息を吐く。ベッドがあるだけの狭い部屋ではあるが一人部屋なので安心だ。
『待遇が良ければ真面目に働きたくなるだろ。誰かと同じ部屋ってやっぱりストレスたまるからな。』
ジェラルドの言葉を思い出す。騎士団の寮が増やされたのは5年ほど前のことだ。ジェラルドが騎士団のレベルを上げたくて行った政策の一つでもある。
王都にいるとジェラルドを思い出す事が多い。それだけアメリアはジェラルドと長い時間を過ごしてきたのだ。
アメリアは久しぶりの安全な部屋でゆっくり眠った。
0
お気に入りに追加
354
あなたにおすすめの小説
没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしてきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!
日之影ソラ
ファンタジー
かつては騎士の名門と呼ばれたブレイブ公爵家は、代々王族の専属護衛を任されていた。
しかし数世代前から優秀な騎士が生まれず、ついに専属護衛の任を解かれてしまう。それ以降も目立った活躍はなく、貴族としての地位や立場は薄れて行く。
ブレイブ家の長女として生まれたミスティアは、才能がないながらも剣士として研鑽をつみ、騎士となった父の背中を見て育った。彼女は父を尊敬していたが、周囲の目は冷ややかであり、落ちぶれた騎士の一族と馬鹿にされてしまう。
そんなある日、父が戦場で命を落としてしまった。残されたのは母も病に倒れ、ついにはミスティア一人になってしまう。土地、お金、人、多くを失ってしまったミスティアは、亡き両親の想いを受け継ぎ、再びブレイブ家を最高の騎士の名家にするため、第一王子の護衛騎士になることを決意する。
こちらの作品の連載版です。
https://ncode.syosetu.com/n8177jc/
婚約破棄された公爵令嬢は、真実の愛を証明したい
香月文香
恋愛
「リリィ、僕は真実の愛を見つけたんだ!」
王太子エリックの婚約者であるリリアーナ・ミュラーは、舞踏会で婚約破棄される。エリックは男爵令嬢を愛してしまい、彼女以外考えられないというのだ。
リリアーナの脳裏をよぎったのは、十年前、借金のかたに商人に嫁いだ姉の言葉。
『リリィ、私は真実の愛を見つけたわ。どんなことがあったって大丈夫よ』
そう笑って消えた姉は、五年前、首なし死体となって娼館で見つかった。
真実の愛に浮かれる王太子と男爵令嬢を前に、リリアーナは決意する。
——私はこの二人を利用する。
ありとあらゆる苦難を与え、そして、二人が愛によって結ばれるハッピーエンドを見届けてやる。
——それこそが真実の愛の証明になるから。
これは、婚約破棄された公爵令嬢が真実の愛を見つけるお話。
※6/15 20:37に一部改稿しました。
【完結】婚約破棄された傷もの令嬢は王太子の側妃になりました
金峯蓮華
恋愛
公爵令嬢のロゼッタは王立学園の卒業パーティーで婚約者から婚約破棄を言い渡された。どうやら真実の愛を見つけたらしい。
しかし、相手の男爵令嬢を虐めたと身に覚えのない罪を着せられた。
婚約者の事は別に好きじゃないから婚約破棄はありがたいけど冤罪は嫌だわ。
結婚もなくなり、退屈していたところに王家から王太子の側妃にと打診が来た。
側妃なら気楽かも? と思い了承したが、気楽どころか、大変な毎日が待っていた。
*ご都合主義のファンタジーです。見守ってくださいませ*
【完結】ある日、前世で大好きだった人と運命の再会をしました───私の婚約者様が。
Rohdea
恋愛
───幸せな花嫁になる……はずだったのに。
侯爵令嬢のナターリエは、結婚式を控えて慌ただしい日々を過ごしていた。
しかし、婚約者でもあるハインリヒの様子がある日を境によそよそしくなっていく。
これはまさか浮気……?
怪しんでいるところに、どこかの令嬢とデートしている姿まで目撃してしまう。
悩んだ結果、ナターリエはハインリヒを問い詰めることを決意。
しかし、そこでハインリヒから語られたのは、
───前世の記憶を思い出して大好きだった女性と再会をした。
という、にわかには信じがたい話だった。
ハインリヒによると彼の前世は、とある国のお姫様の護衛騎士。
主である姫にずっと恋をしていたのだという。
また、どうやら元お姫様の女性側にも前世の記憶があるようで……
幸せな花嫁になるはずが、一気にお邪魔虫となったナターリエは婚約破棄を決意する。
けれど、ハインリヒは───
本物の恋、見つけましたⅡ ~今の私は地味だけど素敵な彼に夢中です~
日之影ソラ
恋愛
本物の恋を見つけたエミリアは、ゆっくり時間をかけユートと心を通わていく。
そうして念願が叶い、ユートと相思相愛になることが出来た。
ユートからプロポーズされ浮かれるエミリアだったが、二人にはまだまだ超えなくてはならない壁がたくさんある。
身分の違い、生きてきた環境の違い、価値観の違い。
様々な違いを抱えながら、一歩ずつ幸せに向かって前進していく。
何があっても関係ありません!
私とユートの恋は本物だってことを証明してみせます!
『本物の恋、見つけました』の続編です。
二章から読んでも楽しめるようになっています。
異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~
水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート!
***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!
冷徹女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女に呪われ国を奪われた私ですが、復讐とか面倒なのでのんびりセカンドライフを目指します~
日之影ソラ
ファンタジー
タイトル統一しました!
小説家になろうにて先行公開中
https://ncode.syosetu.com/n5925iz/
残虐非道の鬼女王。若くして女王になったアリエルは、自国を導き反映させるため、あらゆる手段を尽くした。時に非道とも言える手段を使ったことから、一部の人間からは情の通じない王として恐れられている。しかし彼女のおかげで王国は繁栄し、王国の人々に支持されていた。
だが、そんな彼女の内心は、女王になんてなりたくなかったと嘆いている。前世では一般人だった彼女は、ぐーたらと自由に生きることが夢だった。そんな夢は叶わず、人々に求められるまま女王として振る舞う。
そんなある日、目が覚めると彼女は少女になっていた。
実の姉が魔女と結託し、アリエルを陥れようとしたのだ。女王の地位を奪われたアリエルは復讐を決意……なーんてするわけもなく!
ちょうどいい機会だし、このままセカンドライフを送ろう!
彼女はむしろ喜んだ。
呪いをかけられ婚約破棄をされた伯爵令嬢は仕事に生きます!なのに運命がグイグイ来る。
音無野ウサギ
恋愛
社交界デビューの園遊会から妖精に攫われ姿を消した伯爵令嬢リリー。
婚約者をわがままな妹に奪われ、伯爵家から追い出されるはずが妖精にかけられた呪いを利用して王宮で仕事をすることに。
真面目なリリーは仕事にやる気を燃やすのだが、名前も知らない男性に『運命』だと抱きつかれる。
リリーを運命だといいはる男のことをリリーは頭のおかしい「お気の毒な方」だと思っているのだがどうやら彼にも秘密があるようで……
この作品は小説家になろうでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる