続・骸行進（裏怪談）

家事業「葛西（仮名）」と相談員「内村（仮名）」の話

ヤバい女 １

その日、内村の元に一本の通報が入る。

「隣の家で、虐待が行われているかもしれない。」

通報者は独り暮らしの社会人男性。
通報のきっかけとなったのは、仕事帰りに
隣の家の玄関前でランドセルを抱えて、しゃがみこむ子供を見た事がきっかけだった。

「君、どうした？」

思わず声を掛けたそうだ。
だって、21時を裕に超えた暗闇の中
玄関前のか細い灯りの中、座り込んでいたのだから。

「・・・。」

「おい、君。家に入らないのか？」

「・・・。」

「困ったな・・・。君、ここの○○君だろ？俺は隣のオッチャンだよ。」

「！」

子供は終始うつむき黙り込んでいたそうだが
男が隣の住人である事を聞くと、驚いたように顔を上げた。
ずっと泣いていたのか、子供の目は赤く腫れ服も所々濡れていたそうだ。

「お母さんはどうした？・・・お父さんは？」

その一言をきっかけに、子供は再び静かに涙を流し始めたという。
必死に嗚咽を堪える子供を見て、男は只事ではない。と
家のインターホンを鳴らした。

若い女が応答に出て来た。

「何ですか？」

見るからに不機嫌そうな女。その姿は既に寝間着だった。

『こいつ、子供を外に出して寝てたのか！？』

「あの、この子が玄関前で座っていたもので、心配になって。」

「あぁ・・・。ほら入んな。さっさと着替えて寝るよ！」

「え？それだけ？」

「はい？」

「あ・・・いえ。良かったな、坊主。・・・では。」

男はつい声を出してしまった。
しかし、深入りすべきではないと次の一言を押し殺した。

・・・だが。
男は最近の異変に気付いていた。

「そういや、ここ数ヶ月・・・旦那の顔見てねぇな・・・。」

この時、隣の家庭は完全に離婚を果たしていた様だ。
いわば、シングルマザーの状態である。

暫く観察を続けた結果
その結論に至り、そして「ネグレクト」を疑った男によって
通報が入ったのだ。

役所の内村から、然るべき場への連絡が行く。

数日後、警察立会いの下
児相の職員と共に、聞き取り調査が行われたそうだ。

抜き打ちで行われた聞き取り調査で分かったのは
離婚の理由と、ネグレクトの真意だった。

女は元々、再婚だった。

離婚の理由は「夫が子供を嫌がったから」だそうだ。
結婚当初、子供好きを公言していた夫。
しかし、懐かなかった子供に対してあからさまに態度が変わったという。

手が出る事はなかったものの、日に日に言動は辛辣になっていき
ある日、別の女と共に出て行ったという。

それ以降、母親も「夫が逃げたのはお前のせいだ」と子供に当たる様になったそうだ。

状況に混乱した母親は、一部ネグレクトがあった事を認め
児相による子供の一時預かりにも承諾を得たという。

だが・・・
その後、女が暴走する事となったのだ・・・。