上 下
22 / 28

出陣。

しおりを挟む
外の闘争は丸二日間、死傷者を増やしながらも続いた。
この時点で、ブレアは普通に歩けるまでに回復し、病室に次々となだれ込む負傷兵に
ベットを奪われていた。
気付けば、手当を待つ負傷兵は廊下にもあふれていた。

「ストレイ卿!」

「ブレア殿・・・。こ、こんな見苦しい姿を晒してしまうとは。」

「かなりの深手じゃないか・・・。外はそんなにも激しい戦いに?」

「城門の突破は何とか防いでおりますが、城外では戦地が広がり乱戦状態です。」

「なんと・・・。」

「大量のインプに用心棒の様に張り付くオーガ、そしてそれを統率するガーゴイル。外は台風一過です。」

「ガーゴイルだと!」

ガーゴイル。
これまで、姿が確認されていた魔族の中でも、比較的、人間に近い知能を持つ。
よく「ずる賢い」と評価される魔物であるが、その実、争いなどは好まない種族である。
自身のテリトリーに多くの仕掛けをつくり、侵略者を拒む事でその高い知能を発揮している。
それ故に、ガーゴイルが侵略側に回る事の方が、珍しいのだ。
ましてや、同族ではなく他種族を。それも複数の種族を連れて来るなど本来であれば考えられない。
ガーゴイルの知能が加わっているとなれば、外の乱戦も頷ける。

「あんな下賤な奴らにッ・・・!私たちの故郷であるこの国を、奪われてたまるか!」

「よせ、ストレイ卿。動くな。傷に響くぞ。」

「この国は!我々が守って来たのです!我々が育ってきた土地なのです!それを・・・。」

「分かっている。落ち着くんだ。・・・あとは任せて置け。」

「ブレア殿・・・貴方一人が加わったとて戦況は変わらない。何をする気なのですか。」

「安心しろ。すぐに終わる。」

「王国最弱の騎士が!何を出来るっていうんですか!!」

「・・・弱者には弱者の戦い方があるさ。ストレイ卿、この国は守って見せるさ。」

「無茶だ・・・。」

「友よ、ゆっくり休めよ・・・。」

病室から、愛用の刀を持ち出し、ストレイ卿の体を気遣いながら
ブレアは穏やかな声で、興奮状態の彼を宥める。
涙を流しながら国の事を叫ぶストレイ卿は最後の一言を捻り出し、意識を失った。

ブレアは、腰帯に刀を差し、悠然と歩き出す。
負傷者が、タンカーや人力で運ばれる中、誰の邪魔にもならぬよう
まるで、霧や残像の如く人の波をすり抜けていく。

これが東洋に古くから伝わるという、俗にいう「縮地法」という足法。である。
本来、武器を構え合っている相手との間合いを一気に詰める為に編み出された足法であり
袴で隠した足捌きによって、360度どの角度にどれだけ進むのか、相手からは見当が付かない。
袴が足に触れ、揺れ動いた時には既に、相手との距離が縮まっている事から
その名が付いた。とされている。

ブレアの場合
この縮地法を応用する事で、人ごみの中を無駄な動きなく、抜けていく事が出来るのである。
いつか見せた、ジュナと出会い去っていく彼の素早さもこれに当たる。

揺れる霞が如く、彼は行く。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

処理中です...