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ブレアの秘密

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「居たぞ、曲者めぇ!騎士ブレア殿に続けぇ!」

「手出し無用!」

「な!」

「これよりは、騎士の特権。決闘を言い渡す!何人もこの者には触れるな!」

曲者を捕えるべく集まった衛兵達。だが、ブレアは「決闘」を言い渡す。
「決闘」とは、騎士以上の階級の者が行使できる特権であり
1体1の試合を指す。しかし、明確なルールは存在せず、相手が負けを認めるか
戦闘不能または絶命した場合に決着を迎える。

「フン、小賢しい。騎士最弱の貴様が、私と決闘だと!己惚れるなよ!」

「御託は良い。貴殿は拙者の恩人と主人に刃を向けた。・・・万死に値する。」

「ブレア!」

「落ち着きなさい、ジュナ。」

「で、でも!あの人弱いんでしょ!?」

この決闘を見ている誰もが、勝敗が見えたと唾を飲む。
決闘を言い渡すは、王国最弱と揶揄された騎士。方や、馬に跨り機動力を持ちランスによるリーチもある。
高々、レイピア程度の細さしかない得物では、ランスの攻撃は受けきれない。

ブレアは、足を前後に開き、刀を鞘に納め目を閉じた。

「・・・貴様!決闘と言いながら得物を治めるとは!ふざけているのか!」

「ん!?アレは・・・。」

「父上?」

「・・・ジュナ、ジャンセ。良く見て置きなさい・・・。決着は一瞬で着くだろう。」

「どういう事ですか?」

「あの構え・・・東洋に古来から伝わるモノだ。その名を・・・。」

「やはり、貴様は騎士の面汚しか!死ねぇ!」

「抜刀術。蝉時雨。」

バチンという大きな金属音と共に、庭園は静寂に包まれる。
だが、歴戦の衛兵達は見逃してはいない。
王国最弱と呼ばれた彼が、騎兵のランスを刃の中ほどから悉く叩き割る一瞬を。

「・・・な・・・に。」

「ブ、ブレア様が・・・ウエポンブレイクなさったぞ!」

「すごい!早すぎて正確には追えなかったぞ!」

一瞬にして、庭園が歓喜に満ちる。
「ウエポンブレイク」
相手の武装を破壊し、戦意を削ぐ一種の芸当である。
卓越したセンスと武器に対する豊富な知識からなる極めて難しい芸当である。

「貴様、何処までも私を侮辱する気か!」

「仕切り直しても同じだ。・・・もう止めて置け。」

「ブレア、見事である。衛兵。かの者を捕えよ。」

「っは!」

「父上、ブレアの技について、何か存じているのですね!?」

「あぁ、ジュナ。彼を連れて王室まで来なさい。私の知っている事を彼にも教えよう。」

「・・・はい。」

・・・・・。

「遥か東、極東に伝わる古来からの技。抜刀術。得物を治め間合いに入ったものを目にもとまらぬ速さで
切り伏せる。それがブレアの使いし技。そして、その技が伝えられていたのが
『侍』という我々の国で言う騎士のような者達だ。言い伝えの風貌から、私はブレアがその『侍』であると
確信していた。故に、騎士に相応しい。と徴用したのだ。」

「であるならば、彼が王国最弱というのは納得が行きません。その『侍』とはかように弱き兵なのですか?」

「いや、違う。『侍』の中には鬼神の如きツワモノも居たという。」

「ならば・・・なぜ。。。、」

「そこよ。抜刀術というものは『侍』だけに伝承された物にあらず。」

「え?」

「且つて『侍』と対を成す様に『忍』という特殊な訓練を受けた者が居たという。
その忍もまた、抜刀術の使い手だったのだ。その者たちの働きは、主君を持ち命に代えて守護し
闇夜に紛れ要人暗殺や諜報活動にあったという。故に、一撃必殺を心情とし、『侍』や『騎士』の様に
面と向かって切り合う事が少なかったという。」

「つまり、ブレアは『侍』ではなく『忍』なるものである。と?」

「その通りだ。しかも、武術大会が行われた際には、ブレアは記憶を失っていた。
体に戦い方が染みついているとはいえ、記憶の無い者が経験の浅い眼前試合など出来る訳もない。」

「では、先の曲者との決闘は?」

「恐らく、我々二人の危機に対し、日々鍛錬を重ねたその技が想起されたのだろう。」

「なるほど・・・。」

「しかし・・・ブレアが忍だとはな。ジュナ、良い世話役をつけた物だな。」

「彼を寄越したのは、国王様ではありませんか。」

「そうだったか?わははは。」

この晩の出来事がきっかけになり、一夜にしてブレアは「最弱騎士」の名を返上する事となった。
しかし、長きに渡り使われた、この名称が後に多くの者を震え上がらせる事になった。
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