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召還

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「ジュナ~!もうお迎えが来てるんですよ!?早く下りてらっしゃいな。」

「分かっているわ!お母さん。」

少女は鏡の前で髪を結い直し、大きな荷物を手に階段へと歩を進める。
その姿は田舎の町娘そのものだ。

「よいっしょっと。・・・まだ皆起きてないの?」

「もう皆外で待っていますよ。相変わらずの御寝坊さんは改善点ね。」

「もう、子供扱いしないでよ。お母さん。」

優しく髪を撫でられた少女は、恥ずかし気に抵抗して見せた。

「貴女はまだまだ可愛い子供よ。今度会う時は立派になっていらっしゃいね。」

「・・・お母さん・・・。」

「ほらぁ、泣かないの。きれいな顔が台無しじゃないの。・・・それと、もう『お母さん』じゃなく
マザーと呼んで頂戴。」

「・・・うん。」

「さ、皆に挨拶を済ませて。お客様を待たせちゃ悪いわ。」

今日、私は王族になる。
事の始まりは二か月前。一通の手紙だった。
それは、この大陸きっての大国「アムネリス」の国王直々の手紙であった。
その手紙には
私が王族に連なる者である事、そして王の後継者の第一候補である事
市民の生活を学ばせるため、孤児院に預けられた事など、様々な内容が書かれていた。

そして、今日
王国からの迎えが、この孤児院までやって来た。という訳だ。

この18年を共に生きてきた孤児院の仲間に別れを告げ、馬車の前に立つと
馬車から初老の男性が下りてきた。

「姫様、お迎えに上がりました。お荷物は護衛の騎士に運ばせますので、姫様は馬車にお乗りください。」

そういうと初老の男性は馬車の扉を開け、こちらへと誘導をした。

直ぐに足を動かす事が出来なかった。
姫という重責が恐ろしいからではない。
後ろから静かに聞こえてくる仲間たちのすすり泣く声に後ろ髪を引かれたからだ。
本当は今すぐにでも振り返り、今起きている出来事を全てなかった事にしてしまいたい。
共に育った兄弟たちと慎ましく暮らしていたい。

でもマザーは言った。
今度会う時は立派な姿で。と
今振り返ってしまったら、それとは真逆の姿を見せる事になってしまう。

「マザー、皆・・・いままで・・・あ。ありがとうね。」

「ジュナお姉ちゃん!うわぁぁぁーーーん。」

「げ、元気でな!ジュナ・・・。」

「ほら、ポウ。立って。最後までジュナをお見送りしてあげて。」

「エドモンド・・・マリー、ポウ!・・・元気でね!」

直後、馬の嘶きと共に馬車は動き出した。
ガラガラと音を立て、私の育った家を遠ざけていく。
ポウの泣き声だけが、家が見えなくなっても響いていた。
だが、その声も次第に聞こえなくなった。

今日、私は王族になる・・・。
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