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99話 フェアリード領1

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馬車乗り場にはフェアリード公爵家の紋章の入った白く綺麗な馬車があり、2頭の白馬に繋がれていた。

カイン様が「叔父上の馬車を見るのは初めてですね、てっきり転移魔法で移動すると思っていたのですが」と質問すると、アルヴィン様は「一応視察なんだろ?ちゃんと領地も見せてやろうと思ってな」と答えた。
それにウィルが「馬車移動でしたらやはり護衛の騎士が必要ではないですか?」と質問したのだが、アルヴィン様の「これは空を移動するんだが、ついてこれるような奴がいるのか?」という返答に、皆言葉に詰まってしまった。

「ちょっと待って下さい叔父上、この馬車空を飛ぶんですか?」
「そうだ」
「…ちなみにどういった仕組みで飛ぶんでしょうか」
「まずあの馬は精霊だから飛べる、馬車は魔道具だから浮くそれだけだ」

アルヴィン様の説明を聞いてカイン様は頭を押さえ、ウィルは考えるのをやめたのか遠い目をしていた。
私とアリスは前世の記憶もあり、空飛ぶ馬車なんて素敵ねとはしゃいでいた。
中に入ると外から見た時より明らかに広く、10人位なら座れそうな広さがあった。
私達が全員座ると馬車が動き出したのだが、ほぼ揺れを感じることなく走り出し、あっという間にお城が遠くなった。
私が「この世界に来て空飛ぶ乗り物なんて初めてだわ」と言うと、アルヴィン様に「マリアンヌとアリスは空を飛ぶのに抵抗がないのか?」と質問された。

「私とアリスの前世の世界では空を飛ぶ乗り物が普通にありましたから」
「へぇ、それは凄いな」
「ところで叔父上、この馬車の製作者は誰ですか?」
「知らん」
「…は?」
「これを作ったのはヴィンスの知り合いの魔道具師なんだ、誰なのか知りたいならあいつに聞くんだな」
「そうですか、ヴィンス先生は叔父上と知り合いだったりと顔が広いようですね」
「あいつは国外を旅してた時期があるからな」
「なるほど、ちなみに叔父上はヴィンス先生についてどの位知っているんですか?」

カイン様がそう尋ねるとアルヴィン様は少し不機嫌そうに「どういう意味だ?」と聞き返した。
「気を悪くしたのならすみません、しかし先生は何か隠してらっしゃるようなので」とカイン様が言うと、アルヴィン様は少し考えた後「ヴィンスが自分から顔を見せたんだ、別に隠すつもりは無いと思うぞ、そう感じるのはお前の質問の仕方が悪いか何か勘違いしてるんじゃないか?」と答えた。

「分かりました、ではご本人に直接伺います、ヴィンス先生もフェアリード領にいらっしゃるんですよね?」
「あぁ、今頃引きこもりの爺さんをお前達と会わす為に連れ出してるんじゃないか?」

そんな話をしていたらあっという間にフェアリード領に着いたらしく、アルヴィン様が領地の説明をし始めた。
以前ウィルが話していた通り、広大な農場がいくつもあり自然豊かで、だからといって田舎というには環境整備が整っており、領民の生活水準は王都の一般家庭よりかなり裕福そうだった。
これには私達全員が驚き、カイン様に至っては直に視察したいと言い出したので、途中役所に寄ってカイン様とウィルは視察、アリスと私は予定通りアルヴィン様の邸宅へと向かう事になった。

役所に寄った際、王太子夫妻が領地に来ることは知っていたが、まさか目の前に現れると思ってなかった役所の人々がかなり動揺していたので、少し申し訳なく思った。
すると「閣下!!」と叫んで1人の青年がアルヴィン様に話しかけた。

「ここに来る際は事前にご連絡下さいといつも言っているじゃないですか!」
「連絡はしただろ?」
「「今役所にいるからすぐに来い」っていうのは連絡じゃありません!!」
「相変わらず細かいなぁ、会えたんだから別にいいだろ?それよりカインが領を視察したいって言うから案内してやってくれ」

アルヴィン様が相変わらずの傍若無人ぶりで青年にカイン様の案内役をさせようとすると「私も暇ではないのですが…」と言いつつカイン様の顔を見て「おっ!!王太子殿下ぁっ!?ちょっ…閣下、冗談ですよね?」と怯え始めた。
急に呼び出されたと思ったら王太子殿下の案内役を任されるなんて、こういう反応にもなるだろうと思っていると、カイン様がフォローに入った。

「叔父上、いくらなんでも説明不足過ぎますよ、君もごめんね、私が予定を変更して領内を見て回りたいと言ったんだ」
「いえ、そんな、私こそ取り乱してしまい申し訳ありません、私はここの統括責任者をしておりますケントと申します」
「フェアリード領内の環境整備や運営諸々全部に関与してんのはこいつだから案内にはもってこいだろ」
「関与だなんて俺が進んで関わったような言い方やめて下さい、閣下がいつも押し付けてくるんでしょう」
「せっかく知識と技術と才能があるんだから使った方が良いだろ」

ケントさんとアルヴィン様が言い争っていると、カイン様が「ところで、フェアリード領の資料や報告書を毎年提出していたのはコンラート子爵だったと思うのですが、彼は今どこに?」と質問すると、2人は言い争いを止め、ケントさんが気まずそうにアルヴィン様に視線を送った。
するとアルヴィン様がしれっと「あいつならここに来て早々横領しやがったから、俺が始末した」とのたまった為、その場が凍りついた。
カイン様は深いため息を吐いた後「そうですか…では毎年王都に来ていたコンラート子爵は誰ですか?」と尋ね、それにアルヴィン様は「こいつだけど?」とケントさんを指差した。
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