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89話 不憫1

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※ウィリアム視点※

パトリシア男爵令嬢が生徒会室に突撃してきた数日後、マークがカイン様への面会を希望してきたとセスが報告した。

「マークが私に面会ね、例の男爵令嬢も一緒かな?」
「はい、確認しましたら同席させると言ってました」
「うわぁ、マーク完全に手玉に取られちゃってるじゃん」

ニコラスがそう言うと、カイン様は「そうだね、それでニコラスの方はどうだった?」と話を振った。

「あ~…俺の方はいまいちですね、彼女を男爵家に養子縁組させたのは確かに親父だったんですけど、何か指示したり、連絡を取り合った形跡はありませんでしたよ」
「そうか、だとすると彼女をこちらの人間にする事が帝国とのパイプを手に入れる条件だったのかな、そうだとすれば、彼女は帝国の諜報員として行動してるって事になるんだけど」
「次々と貴族の令息達を手玉に取ってるだけで、何がしたいのか全然分からないですよね~」
「そうなんだよね、容姿を偽ってるから嫁ぎ先探しって訳でもないだろうし、1度会うしかないかな」

そうしてカイン様はマークと面会する事を決め、セスが予定の調整を始めた。
俺がカイン様に「マークと面会する時は俺も居た方がいいですか?」と聞くと「うん、そうしてもらえる?」と言われたので「分かりました」と答えた。
暫くいつも通りカイン様の仕事を手伝っていると、カイン様が「そろそろバージルの事も何とかしておいた方がいいかな」と呟いたので、俺は「何かあったんですか?」と質問した。

「いや、まだ何も無いけど、アルもバージルもそろそろ夜会に参加するでしょ、バージルが陛下の子だとバレても問題が無いように手を回しておいた方が良い気がしてね」
「ユフィ様に陛下と顔が似てるって事でバレるくらいですもんね~」
「うん、ニコラスの言う通りバージルは兄弟で1番陛下に似てるからね、夜会なんて出られたらすぐ噂になるよ」

「そしたらまた面倒な事になりそうですね」と俺が言うと、カイン様は「私に何かある分には構わないんだけど、もう卒業後にアリスと式を挙げる事が決まってるから、狙われるとしたらアリスなんだよね」と言うと考え込んでしまった。
俺はカイン様の思考の邪魔をしないよう仕事に戻ろうとすると、ニコラスに「ウィルって最近マリーちゃんと何かあった?」と聞かれた。

「は?どういう意味だ」
「クリスに最近マリーちゃんの様子が変だから、ウィルが関係してるか聞いて欲しいって言われたんだよ」
「その事か、確かに最近上の空だったりするから俺も理由を聞いたけど「何かモヤモヤするんです」としか言ってくれないんだよね」
「モヤモヤねぇ~、それやっぱりウィルのせいじゃない?」
「何でそうなるんだ」
「だってさ~マリーちゃんだよ?お前以外の誰にモヤモヤするんだよ」
「…いや、ん~…まぁそうなんだけど、俺は心当たりがないし、マリー自身もよく分かってないみたいだったんだよな」

ニコラスとそんな話をしていると、急にカイン様が「ウィルがパトリシア男爵令嬢に狙われないか心配なんじゃないの?」と言ってきた。

「カイン様、何でそう思うんですか?」
「私がアリスに聞かれたからね、あの男爵令嬢に何かされたりしてないか?って」
「アリス様が?何でまたそんな事を」
「私もそう思ったから理由を聞いたら、言い寄ってきそうな令嬢が私の周囲をうろついてたら面白くないらしいよ」
「そういうもんですか?」
「あれ?分かりにくかった?じゃあもしだけど、マリアンヌの近くに色んなご令嬢に言い寄ったり、触ったりする男がいたらウィルはどうする?」
「そんな奴いたらマリーに目を付ける前に処分します」
「うん、それは流石にちょっと過激だけどそういう事だよ」

カイン様のその発言に、ニコラスが「カイン様、ウィルの答えはちょっとどころじゃなく過激ですよ~」と突っ込んだが、カイン様が「じゃあニコラスならどうするの?」と聞いたら黙ったので、俺が「お前俺の事言えないんじゃないの?」と言うと、ニコラスは「ごめん、ちょっと思った以上に過激な発想をした自分に驚いてる」と言ったので、クリスティーナ嬢の効果は絶大だなと思った。
そして「まぁ、マリアンヌがアリスと同じ理由とは限らないから、ウィルはちゃんと話してみた方がいいと思うよ」とカイン様に言われたので、俺は「そうですね」と返事をした。

その後セスがマークとの面会が来週の午後になると報告し、それを聞いたカイン様は「じゃあ私もそれまでに色々終わらせておこうかな」と楽しそうにしていたので、俺はこの人また何かするつもりだなと思ったが触れない事にした。

その日の夜、俺はマリーと話をしようと思って、女子寮にあるマリーの部屋のルーフバルコニーに侵入した。
しかし、最近忙しくてこんな時間じゃないとゆっくり話が出来ないからって、夜にマリーの部屋に入るのはまずいよなぁ、と今更ながらに思い部屋への扉をノックしようか迷っていると、扉の向こうに妙な気配を感じた。
この時間マリーしかいないはずなのにと不審に思っていると、閉められていたカーテンをマリーが開け、俺と目が合ったのでもの凄く驚かしてしまった。

「っ…!!!」

マリーは悲鳴をあげる事は無かったものの固まってしまったので、申し訳ないと思いつつ待っていると、暫くして我に返ったのか扉を開けてバルコニーに出てきた。
その時、マリーの足元から1匹の猫も出てきて、俺を一瞥すると屋根に上ってどこかへ行ってしまった。
すると、猫と一緒に妙な気配も移動したので原因はあいつかと思っていると、マリーに「ウィル…?」と話しかけられたので「驚かしてごめんね」とまず謝っておいた。

「私まさかウィルが居るなんて思ってなくて、心臓が止まるかと思いました」
「うん、そうだよね、本当にごめん、猫も逃げちゃったけど良かったの?」
「あ、はい、あの猫は飼ってるわけではないので、いつもフラッと来ては気付いたらいませんし」
「そうなんだ」
「あの、それでウィルはどうしてここに?」
「あ~…実はマリーと話したい事があったんだけど…」

俺はそこまで言ったところで今のマリーの姿をちゃんと見てみると、胸元ががっつり開いたVネックのネグリジェを着ており、これはマズイやっぱり別の日にしようと思ったのに、マリーに「そうだったんですね、じゃあ中で話しましょうか」と言われてしまった。

「…えっ、マリーは俺を部屋の中に入れて大丈夫なの?」
「はい、大丈夫ですけど?」
「何で!?」
「えっ、だって今更じゃないですか?私達辺境伯領では一緒に寝てましたし」
「ソウダネー…」

マリーが全然分かってないので俺は諦めたが、辺境伯領とか2年前の話だし、あの頃に比べて出るとこ出ちゃってるマリーに、俺が日々どんなに悩まされてるかも分かってないんだろうなぁと思いながら、マリーの部屋で話をする事になった。
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