上 下
66 / 106

65話 王誕祭1

しおりを挟む
王誕祭当日、事前に外出許可は取っておいたので、今日は私服でウィルと街に出かけた。

そもそもウィルをデートに誘ったのは、ニコラス様にウィルに何かご褒美をあげてと言われたからだったのだが、変態教皇のせいで最早デートというより私を使って諜報員を誘き寄せるミッションの様になっている。
しかも驚いたのは教皇側の本気度で、学園から出た瞬間少し寒気がした。
ウィルが居るからなのか寒気を感じたのは一瞬だったのだが、ブレスレットでウィルもそれが分かるようにしたので「あ~…これがマリーの言ってた精霊の警告ってやつ?」と聞かれた。

「そうですね、まさか学園から出た瞬間から来るとは思ってませんでしたが」
「向こうも本気って事か、いっそ尾行してる奴らに俺とマリーの仲の良さを教皇に報告してもらう?」

ウィルがそんな事を言うので、冗談だと思った私は「それもいいかもしれませんね」と言ったのだが、言った瞬間腰を抱かれてキスされる事になった。
まさか本気だと思ってなかった私は真っ赤になったのだが、ウィルは何事もなかったかのように私の腰に手を回したまま歩き出した。

「さっきの本気だったんですね」
「冗談かと思った?」
「はい、その、一応狙われてる身なので」
「大丈夫だよ、今日マリーを守ってるのは俺だけじゃないから」
「そうなんですか?」
「うん、カイン様が父さんにマリーが狙われてる事を言ったらしくてね、今朝部屋に父さんと兄さんが来たから驚いたよ」
「カルロス様ですか?」
「あ、そっちじゃないよ、1番上の兄さんのフレッドの方、王都の警備や影は使えないから辺境伯領から引っ張ってきたんだって、全部片付いたら紹介するね」
「分かりました、でも良かったんですか?そんなわざわざ来て頂いて」
「マリーが狙われてるのに何もしなかったとなると、後で母さんがキレるからこれでいいんだよ」
「そういえばお義母さんと最近お会いしてないので、久しぶりに会いたいです」
「夏休みに辺境伯領行くでしょ、その時会えるよ」
「あ、そうですね!楽しみにしてます」

そんな話をしながら歩いていると、ウィルに「出店もあるけどどうする?行ってみる?」と聞かれたので「はい、行ってみたいです」と答えると、出店が並んでいる通りへ連れて行ってくれた。

「ウィルはこの辺りに何度か来た事があるのですか?」
「うんあるよ、カイン様割と出歩くし、ニコラスの新店調査に付き合わされた事とかもあるからね」
「カイン様って外ウロウロするんですね、意外です」
「本人曰く「城の中が一番危険だよ」らしい」
「前から不思議だったんですが、カイン様ばかり狙われるのってなぜですか?」
「優秀過ぎるからじゃないかな、傀儡になんて絶対出来ないタイプの人だし、逆にアルはチョロいから生かされてるよね」

ウィルのそんな話を聞いていると急にウィルが私の頭を抱き寄せたので何事かと思ったら、前にいた人が倒れた。

「えっ!?」
「神経毒か、マリーを狙うなんて手段選ばなくなってきたなぁ」
「はい!?え、じゃああの人私の代わ「移動するから捕まってね」」

私の言葉に被せてウィルはそう言うと、私を横に抱きかかえて路地に入り、建物の屋根の上まで跳躍した。
屋根の上から先程の路地を見下ろすと、2人組の男性が通過していき、ウィルが「まだ2人も残ってたか」と呟いた。

「あの、ウィル今のって…」
「あれがマリーを狙ってるティルステアの諜報員だよ、ここに来るまでに兄さんが6人も捕まえてるのに、まだ2人も残ってたんだね」
「いつの間に…あっ!私の前にいた人はどうするんですか?」
「治してあげたいかもしれないけど、ティルステアがこの国で騒ぎを起こした大事な証拠だから我慢してね、あれは動けなくなるだけでしばらくすれば元に戻るから命の危険は無いよ」
「そうなんですか…分かりました」

私がそう言うとウィルは「じゃあこのまま屋根の上使って移動しようか」と言って私を抱きかかえたまま移動し始めた。
その事に、最初こそお姫様抱っこされてると浮かれていた私だが、ウィルの身体能力だと普通に絶叫マシーンくらいの怖さがあり、特に結構な高さから飛び降りられた時は宙に浮く感覚がしたので、思わず全力でしがみついてしまった。
暫くしてウィルが移動するのをやめて立ち止まったので、顔を上げるとウィルが「ふふっ…ごめんマリー怖かった?」と言いながら笑いをこらえていた。

「わざとあんな移動したんですか?」
「必死でしがみついてくるマリーが可愛くてつい、ごめんね」
「ぐぅっ…許します、ところでここどこですか?」
「あぁ、あっちの広い道に出たら分かると思うよ」

ウィルはそう言うと私を下ろし、手を引いて広い道に出た。
するとそこは数年前に第1章のイベントが起きた広場のそばの道で、私達は手を繋いだまま広場へと足を踏み入れた。

「ここはあの時と変わらないんですね」
「あの時も王誕祭だったからね」
「どうしてここに?」
「2人で夕日を見に来ようって約束したでしょ」
「覚えてたんですね」
「もちろん、マリーとの約束は忘れないよ」

ウィルと一緒にそんな話をしながら、夕日の見える高台の方へ歩いていると、ウィルが急に立ち止まり、振り返ったので、私もウィルの見ている方を向くと、息を切らした男性が1人立っていた。
その男性が1歩こちらに近付いたのを見たウィルは、私を背に庇うと「俺らに何か用?」と問いかけた。
男性は怯えたような目で私達を見ると「お前らいったい何なんだ!」と喚き出した。

「いやいや、そっちこそ何なんだよ」
「1人の少女を攫うだけの簡単な任務のはずだったのに、仲間は次々に意識を失うし、神聖魔法も効かないし何なんだ!魔女か?お前魔女なのか!?」
「失礼な奴だな、マリーはどこからどう見ても天使だろうが」
「ちょっ!ウィル、今ふざけてる場合じゃないですよ」

そんな事を言っていると、男性が短剣を取り出し、こちらに襲い掛かろうとしたのだが、突然白い大きな狼が男性の首に噛みつき、気付けば男性は意識を失っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます

葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。 しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。 お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。 二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。 「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」 アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。 「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」 「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」 「どんな約束でも守るわ」 「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」 これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。 ※タイトル通りのご都合主義なお話です。 ※他サイトにも投稿しています。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

転生悪役令嬢の前途多難な没落計画

一花八華
恋愛
斬首、幽閉、没落endの悪役令嬢に転生しましたわ。 私、ヴィクトリア・アクヤック。金髪ドリルの碧眼美少女ですの。 攻略対象とヒロインには、関わりませんわ。恋愛でも逆ハーでもお好きになさって? 私は、執事攻略に勤しみますわ!! っといいつつもなんだかんだでガッツリ攻略対象とヒロインに囲まれ、持ち前の暴走と妄想と、斜め上を行き過ぎるネジ曲がった思考回路で突き進む猪突猛進型ドリル系主人公の(読者様からの)突っ込み待ち(ラブ)コメディです。 ※全話に挿絵が入る予定です。作者絵が苦手な方は、ご注意ください。ファンアートいただけると、泣いて喜びます。掲載させて下さい。お願いします。

おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 サロン勤めで拘束時間は長く、休みもなかなか取れずに働きに働いた結果。 貯金残高はビックリするほど貯まってたけど、使う時間もないまま転生してた。 そして通勤の電車の中で暇つぶしに、ちょろーっとだけ遊んでいた乙女ゲームの世界に転生したっぽい? あんまり内容覚えてないけど… 悪役令嬢がムチムチしてたのだけは許せなかった! さぁ、お嬢様。 私のゴットハンドを堪能してくださいませ? ******************** 初投稿です。 転生侍女シリーズ第一弾。 短編全4話で、投稿予約済みです。

私の恋が消えた春

豆狸
恋愛
「愛しているのは、今も昔も君だけだ……」 ──え? 風が運んできた夫の声が耳朶を打ち、私は凍りつきました。 彼の前にいるのは私ではありません。 なろう様でも公開中です。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!

蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」 「「……は?」」 どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。 しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。 前世での最期の記憶から、男性が苦手。 初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。 リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。 当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。 おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……? 攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。 ファンタジー要素も多めです。 ※なろう様にも掲載中 ※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。

ヤンデレ王子とだけは結婚したくない

小倉みち
恋愛
 公爵令嬢ハリエットは、5歳のある日、未来の婚約者だと紹介された少年を見てすべてを思い出し、気づいてしまった。  前世で好きだった乙女ゲームのキャラクター、しかも悪役令嬢ハリエットに転生してしまったことに。  そのゲームの隠し攻略対象である第一王子の婚約者として選ばれた彼女は、社交界の華と呼ばれる自分よりもぽっと出の庶民である主人公がちやほやされるのが気に食わず、徹底的に虐めるという凄まじい性格をした少女であるが。  彼女は、第一王子の歪んだ性格の形成者でもあった。  幼いころから高飛車で苛烈な性格だったハリエットは、大人しい少年であった第一王子に繰り返し虐めを行う。  そのせいで自分の殻に閉じこもってしまった彼は、自分を唯一愛してくれると信じてやまない主人公に対し、恐ろしいほどのヤンデレ属性を発揮する。  彼ルートに入れば、第一王子は自分を狂わせた女、悪役令嬢ハリエットを自らの手で始末するのだったが――。  それは嫌だ。  死にたくない。  ということで、ストーリーに反して彼に優しくし始めるハリエット。  王子とはうまいこと良い関係を結びつつ、将来のために結婚しない方向性で――。  そんなことを考えていた彼女は、第一王子のヤンデレ属性が自分の方を向き始めていることに、全く気づいていなかった。

処理中です...