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61話 雨

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実技大会の翌日は雨だった。

そういえばウィルと、雨の日の登下校はどうするか話してなかったなぁと思いつつ、ウィルなら待っている気がしたので寮を出ると、傘をさしたウィルが待っていた。
ウィルは玄関ポーチまで来ると「今日は雨だから腕組んで歩こうか」と言って、傘を持っている方の腕を差し出してきたので、私はその腕に手を回した。

そうして、2人で1つの傘を使って歩いていたのだが、何か違和感を感じた。
ウィルを見ると、見た感じの表情も会話もいつも通りなんだけど、少し落ち込んでいる気がする、私の勘がそう言うのだからそうなんだろうけど、勘を疑うくらいウィルは隠すのが上手かった。
これ私が精霊の祝福持ちだから気付いたけど、そうじゃなかったら分かったかなぁ?ちょっと自信ないかも…精霊さんに今日も感謝しておこう、いつもありがとう。
私は精霊に感謝した後、ウィルに聞くべきか少し迷ったが、落ち込んでるなら励ましたいので聞く事にした。

「ウィル、何かあった?」
「…何で?」
「少し落ち込んでる気がするから」
「ん~…俺結構上手く隠してたと思うんだけど?」
「私も祝福持ちの勘がなければ分からなかったと思います」
「マリーの勘の範囲っていまいちよく分かんないね(俺の下心には全然働かないのになぁ)」
「私もよく分かりません、精霊基準なんですかね、それでウィルは何で元気ないんですか?」
「あぁ…俺昨日兄さんに負けたでしょ、それが思ってたより悔しかったのと、マリーがあの後不審者に会ってたのに、分からなかった自分が嫌でちょっとね」
「えっ、でもあれは仕方ないかと」
「分かってるよ、分かってはいるんだけどね」

ウィルはそう言うと黙ってしまったので、私はどうしたものかと考えた。
まず私がティルステアから狙われてるのは事実なのだけれど、ウィルが四六時中ついてないといけない程危険なわけではないし、いつもしてるブレスレットを使えば監視も可能だけど、ウィルはそんな事しないだろう。
1番いいのは防犯ブザーみたいに、私に害意を持つ人と出会ったらウィルが分かるように出来ればいいのだけれど、出来ないのだろうか?

「ねぇ、ウィル、私が今着けてるこのブレスレット、私がまた狙われた時にウィルに分かるようにする事って出来ますか?」
「あー…う~んどうかな、マリーは相手に害意があれば分かるんだっけ」
「はい、昨日初めて知りましたけど、精霊が警告してくれるらしいです」
「そっか、精霊は俺ちょっと分からないから、先生に聞いてみて出来そうだったらそうしようか」
「そうですね」

ウィルが少し元気になったみたいだったので、私はあの話をしてみる事にした。

「そういえば来週は王誕祭ですね」
「そうだね、カイン様とアリス様は今年から式典に強制参加だし、俺も呼ばれるかもしれないから気が重いよ」
「えっ、そうなんですか…」
「まだ決定じゃないけど特に用もないし、俺一応カイン様の護衛だしね、でもそれがどうかした?」
「あ、いや、その、王誕祭の日は学園も休みだと聞いたので、ウィルと街に行けたらなんて」
「うん、分かった行こう」
「えっ!?いやでも今式典「断るから」…それ大丈夫なんですか?」
「問題ないよ、元々用があるなら来なくていいって言われてるし」
「誰にですか?」
「カイン様」
「なら大丈夫…かなぁ、一応今日確認取って下さいね」
「もちろん」

こうして私はウィルとデートの約束を取り付けたのだが、ウィルが無理やり許可を取ってこないか少し心配した。

その後私はウィルに教室まで送ってもらい、午前の授業を受け、お昼休みになった。
ニコラス様は夏休みまでリリとクリスと一緒なので、今のお昼のメンバーはカイン様、アリス、セス様、ウィル、私の5人だ。
今日は雨だったからか食堂内も人が多く、いつもは誰もいない私達の隣の席にも生徒がいた。
すると、アルベール殿下が1人でこちらに来て「兄上、ご一緒しても?」と聞くと、カイン様は「構わないよ」と言い、空いていた自分の向かいの席を勧めた。

アルベール殿下が席に着くと、ウィルが私に「防音魔法使ってもらえる?」と耳打ちしてきたので、私はそっと使っておいた。
キャシーが学園からいなくなったこの時期に、王子殿下2人が一緒に食事とか会話の内容気になるよね、周囲の生徒がこちらは見ないものの、聞き耳を立てているのが私でも分かる。
カイン様が「それで、アルは何か話があってきたの?」と聞くとアルベール殿下は「いや、今日は雨だから席が埋まってたんだ」と言った。
私はそれが嘘だと分かったが、何か理由があるんだろうと思い何も言わなかった。
それから私達は世間話をしながら食事をしていたのだが、アルベール殿下が急にウィルに話しかけた。

「ウィル」
「何?」
「お前、どうして兄上付きになったんだ?」
「俺が異動希望を出したからだけど」
「それは知ってる、俺じゃ駄目な理由は何だ?」

アルベール殿下がそう言うと、ウィルはカイン様の方に視線を向け、それに気付いたカイン様が頷くとウィルは話し出した。

「別にアルが嫌いだとかではないよ、アルなりに頑張ってたとは思うし、でも俺は将来ガルディアス家に婿入りして宰相になるつもりだから、お前の友達ではあるけれど、部下にはなれないと判断した」
「俺では力不足か?」
「そうだな、そもそも食堂なんて目立つ場所で俺にそんな話題を振るなよ」
「確かにそうだな、すまない」

アルベール殿下が俯いて黙ってしまうと、カイン様が「アル、場所を変えようか」と言ってアルベール殿下とセス様を連れて食堂を後にした。
残された私は、ウィルに「アルベール殿下どうしたの?」と聞いてみた。

「昨日、アルとキャサリン嬢の婚約解消が決定したんだ、正式発表は王誕祭の後だけどね」
「理由は何と?」
「キャサリン嬢の体調不良で婚約の継続が困難って事になってる」
「そうですか、ウィルにあんな質問をしたのは?」
「昨日の実技大会でのウィリアム様の強さを見た陛下に色々言われたのよ」
「アリス、それどういう事?」
「私は婚約解消の件を昨日の昼食の時に聞いたんだけど、その時陛下が、ウィリアム様が側近だったらこうはならなかっただろう、って仰ってたの」
「そんな事言われても俺困るんだけどね」
「それであんな質問を」
「まぁ、アルも今はあんなだけど、そのうち何とかなるんじゃないかな」
「そうなんですか?」
「少なくともアルのキャサリン嬢への好きは普通の好きだと思うよ」
「普通ですか」
「俺なら婚約解消なんてされたらマリー拉致して逃げちゃうし」
「ウィル、その場合拉致ではなく駆け落ちです」
「マリーのそういうところ好きだよ」
「あなた達は駆け落ちですむからいいわね、私カインに聞いたら「王子を辞めてどこかの領地でアリスを監禁しようかな」って笑顔で言われたわ」
「「あー⋯」」

そんな話をしていたらお昼休みが終わったので、私は午後の授業の教室に向かった。
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