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40話 作為の跡3

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ヴィンス先生の講義が終わると、ウィル、カイン様、セス様の3人は何とも言えない表情をしていた。
アルヴィン様が「理解出来たか?」と聞くと、カイン様は「理解は出来ましたが知らなかった事が多すぎて驚いてます」と言っていた。

「精霊について多少理解出来たんなら、今回の思考誘導について話すぞ」
「あ、申し訳ないんですが、私は用があるのでここで失礼します」
「ヴィンス先生、どちらへ行かれるのですか?」
「例の件ですよマリアンヌさん、パトリック君と約束しましたから」
「あぁ、アレですか、分かりました」

以前、歴史学の授業でパトリック様に古代魔法を教える約束をしていたので、その件だろう、ヴィンス先生が出て行った後、アルヴィン様が「そうだカイン、どうせだからお前の婚約者も呼んでもらえるか?」と言い出した。

「丁度授業が終わった頃でしょうし構いませんよ、セス悪いんだけどアリスを連れてきてくれる?」
「はい、行ってまいります」

セス様が出ていくとカイン様が「それで、セスを外させた理由は何ですか?」とアルヴィン様に聞いたので驚いた。
え、アレ意図的に頼んだの!?分からなかった。

「今回の思考誘導、マリアンヌやカインの婚約者が転生者である事と関係がありそうだからな、それともその事をセスの前で言っても良かったか?」
「いえ、お気遣いありがとうございます、でも何故ご存じで?」
「ヴィンスも言ってただろ、精霊の寵愛者ってのはそういうものだ」
「叔父上には隠すだけ無駄という事ですね、分かりました」

そんな話をしていたら、セス様がアリスを連れて生徒会室に戻ってきた。

「アリス様をお連れしました」
「ありがとうセス、あと帰ってきたところ悪いんだけど、今日は生徒会は無いと皆に伝えてくれるかな」
「分かりました、伝えたらそのまま席を外しておきますね」
「うん、よろしく」

セス様がまた部屋を出て行くと、今まで黙っていたアリスがカイン様に「ねぇカイン、何があったの?」とアルヴィン様を見ながら聞いていた。
アルヴィン様はそれを聞いて立ち上がると、アリスに近付き「初めまして、私はフェアリード大公爵アルヴィン、カインの叔父にあたるんだが、君を呼ぶようカインに頼んだのは私なんだ」と外面仕様で話しかけた。
アリスは慌てて挨拶をすると、カイン様と一緒に席についた。
アルヴィン様も私の隣に座り直し「では今回の件についてだけど」と話し始めた。

「アリス嬢は今朝の出来事は知っているのかな?」
「あ、はい、カインから聞きましたわ」
「ならそこは説明しなくていいね、彼があんな行動をとった理由なんだが、彼の思慕とマリアンヌへの敵対心が思考誘導で強化されていた為の行動だ、元がどんな人間かは興味無いから知らないが、本来の彼の意思ではないのは間違い無いよ」
「思考誘導は叔父上が解除されたと言われてましたが、サイモンは今後どうなるんですか?」
「そろそろ目を覚ますとは思うが、今日明日は意識が混濁してるから話せないだろうな、意識がはっきりし出したら、今度は自分のした事を後悔し始めるだろうから、そこをどうするかはカインに任せるよ」
「そうですか、分かりました、ちなみに叔父上は、誰がサイモンに思考誘導をかけたか知っているんですか?」
「もちろん知っているよ、彼に思考誘導をかけたのは、エレナ・スメラギ・ティルステアなんて名乗っている異世界人だ、君達はあのエレナとかいう異世界人とどういう関係だ?」

サイモン様に思考誘導をかけたのがエレナ様だと聞いて驚いたが、思考誘導は精霊魔法だ、加護持ちのエレナ様なら使える事には納得だ。
私がそんな事を考えていると、カイン様が「どういうと聞かれましても、知り合い程度としか言えないのですが、叔父上は何を聞きたいのですか?」

「あぁ、質問の仕方が悪かったな、今回の思考誘導は、敵対心をマリアンヌ個人に限定していた、この事から考えるに、エレナはマリアンヌに何かしたいか、させたいんだと思うんだが、その目的に心当たりは?」
「え!?私ですか?」
「そんな、マリーはまだエレナ様と会った事すらないのに、何がしたいのかしら」
「エレナ嬢か、去年下見のような行動をとって以降、不審な行動は無かったから監視を外したんだけど、マリアンヌやクリスティーナ嬢が入学してきたから動き始めたのかな」
「でもカイン、目的が見当もつかないわ、サイモン様がマリーともめた所でサイモン様の立場は悪くなったとしても、マリーに影響は特にないはずよ」
「そうなんだよね、叔父上申し訳ない、我々も目的に関してはまだ分からないです」
「そうか、ちなみに私がその気になればエレナから加護を取り上げる事も可能だがどうする?」

アルヴィン様からの提案にカイン様は暫く考えた後「いえ、今はまだ泳がせます」と言ったのだが、それにウィルが異議を唱えた。

「カイン様、それはつまりエレナ様の目的が判明するまでマリーを餌にするって事ですよね」
「そうだね」
「私は反対です」
「ウィル、気持ちは分かるけど、彼女は一応ティルステア聖国の第1聖女という肩書きでこの国に来てる、学園では留学生だけど要人でもあるんだ、動機も分からない現状での下手な手出しは国際問題になるから、今は泳がすしか無いんだよ」
「それは分かりますが…」

理解はしているが納得しないウィルに、カイン様は自分では無理だと判断したのか私に視線を向けてきた。
これは私に説得しろと言っているのよね、流石の私もこれは分かる。

「ねぇウィル、私を心配してくれるのは嬉しいのですが、今回は大丈夫ですから」
「でもマリー、また今日みたいな事があったらどうするの?」
「その時はまたウィルが助けて下さるのでしょう」
「…分かったよ、マリーがそう言うならそれでいいよ」

ウィルが納得すると、カイン様は「叔父上も手伝って下さるだろうから、ウィルもそんなに心配しなくていいと思うよ」と言い出した。
それを聞いたアルヴィン様は「ん?私か?そうだなぁ」と少し悩んだ後、私を一瞥すると「まぁマリアンヌの事は気に入ってるから出来る範囲で協力はしよう」と言った。

「では叔父上はエレナ嬢の監視、よろしくお願いしますね」
「あぁ、分かった」
「それと叔父上との連絡の取り方を教えてもらえますか?」
「私を思い浮かべて名を呼べば分かるようになっているから、それで呼んでくれ」
「何でもありですね」
「寵愛者だからな」

思考誘導事件については、犯人であるエレナ様の次の行動待ちという事で話がついた為、アルヴィン様は帰ろうとしたのだが「そういえばまだ感想を聞いてなかったな」とカイン様に話しかけた。

「俺が作った紅茶はどうだった?」
「大変美味しかったですよ、おかげで珍しくよく眠れました」
「お前その歳で…いや、無くなったら言えよ」
「えぇ、ありがとうございます」

アルヴィン様は最後にカイン様の頭をやや豪快に撫でると「じゃあな」と言って転移魔法で帰ってしまった。
カイン様を子供扱いする人を初めて見たので少し驚いたが、カイン様本人は少し嬉しそうに笑っていた。

「マリアンヌ」
「あ、はい、何でしょうカイン様」
「叔父上に会わせてくれてありがとう」
「え?いえ、私何もしてませんが」
「何となくだけど、叔父上が私に会う気になったのは君のおかげな気がするんだよね」

そう言ったカイン様の指ではアルヴィン様が送った指輪が光っていた。
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