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37話 攻略対象者の暴走

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昨日の放課後、ウィルに指先を舐められたシーンが何度も脳裏に浮かぶのであまり眠れなかった、本当にアレは何だったんだろう、あまりにも光景が扇情的だったから、そういう意味で私を見てるのかとも思ったけど、3年後ならともかく現状私はまだまだお子様体型なので、それは無い。
もう何度考えても分からないので、いつもみたいに私の反応を面白がっただけなんだろうと思う事にした。

「にゃあ」
「メーネスおはよう、起こしちゃったかしら」

私が名前をつけた猫のメーネスは、相変わらず寝る時になると必ず私の布団にいる。
侍女のマーサに聞くと昼間はいないし、エサもあげてないので、私の部屋は寝床としてだけ使ってるようだ、相変わらず毛並みは綺麗だし、足も綺麗だから、謎だらけである、普段この猫何してるのかしら。

私が朝の支度を終わらせ寮を出ると、今日もウィルが待っていた。

「マリーおはよう」
「ウィル、ごめんなさいお待たせしましたか?」
「待ってないよ」
「でもいつもウィルの方が先に居ます」
「俺転移魔法が使えるんだよ、だからマリーが寮を出る直前に玄関前に来てるだけ」

私が「そうだったんですね」と言うと、ウィルが何やらジッと私の顔を見つめてきた。

「あの、私の顔に何か?」
「いや、もしかして眠れなかったのかなぁって思って」
「うぅ、何で分かるんですか」
「マリーの事だからね、分かるよ」

そもそも寝れなかったのはウィルのせいなのだが、それを言うとまた昨日の出来事を思い出すので止めておいた。
ウィルと校舎に向かう途中、他に生徒で誰が転移魔法を使えるのか聞くと「マリーが知ってる人ならカイン様とセスは使えるよ、後は魔法師団入りが決まっている上級生が使えるくらいかなぁ」と教えてもらった。

私とウィルが玄関ホールに着くと、そこにクリスが居たので私は話しかけた。

「クリス?今日は早いのね、おはよう」
「あ、マリーちゃんおはよう!それとウィリアム様、昨日はありがとうございました、私マリーちゃんと同じクラスでキャンベル伯爵家のクリスティーナと申します」
「あぁ、あのくらい当然だから気にしないでいいよ、マリーの婚約者でクレメント辺境伯家のウィリアムです、よろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします」

私が「それで、何でクリスはこんな所に居るの?」と聞くと、クリスがサイモン様と待ち合わせていたのがこの玄関ホールだったらしく、今日は昨日言っていた通り「サイモンとは距離を置きたい」と言う為、早めに来て待っているらしい。
私はクリスから距離を置きたいと告げられたサイモン様が、逆上してクリスに危害を加えないか心配になった為、ウィルにクリスと一緒に居ていいか聞こうとしたら、ウィルも同じ事を思っていたらしく「クリスティーナ嬢、私とマリーも一緒にサイモンを待っても良いかな?」と言ってくれた。

「え?どうしてですか?」
「君は彼がマリーを威嚇してるのは分かってる?」
「はい、私がマリーちゃんと仲良くしようとすると、マリーちゃんに酷い事を言って邪魔してくるので」
「そうだね、そこまでして君と離れようとしないサイモンが、君に離れたいと告げられて、どうすると思う?」
「えっと…」
「マリーが何かしたんだと勘違いしてマリーに危害を加えるか、離れるなんて許さないと逆上し君に掴みかかるか、どっちかだと思うんだよね」
「そんな」

クリスもそこまでは考えていなかったらしく、少し青い顔をして私を見たので「残念ながら私もウィルと同意見よ」と言ってクリスの手を握った。

正直私はサイモン様に威嚇しかされた事がないので、あんな人とサシで話そうとするクリスのメンタルの強さに驚きだ、だってあんなのストーカーを自分で説得するようなもんでしょ?無理無理。
でも不思議なのは、サイモン様ってゲームでも確かに一途でヒロインに妄信的な所のあるキャラだったけど、あそこまで思い込みが激しくて、独り善がりな感じでは無かったんだけどなぁ、やっぱり現実だとどこかでクリスへの思いを拗らせちゃったのかな。
そんな事を思っていると入口の方から「お前!クリスに何をしてるんだ、離れろ」と、聞き覚えのある威嚇が飛んできたのでそちらを見ると、案の定サイモン様がそこに居た。

サイモン様は、クリスの手を握っている私を睨みつけこちらに向かってきたが、ウィルが私を背に庇うように間に入ってきたので立ち止まった。
流石のサイモン様も、3つ年上になるウィルにいきなり威嚇するつもりはないらしく「何ですか?僕そこの女に用があるんですけど」と言った。

「悪いんだけど、彼女は私の婚約者だからね、明らかに敵意を持ってる奴を近付けるつもりはないよ」
「なら、僕のクリスに近付かないようちゃんと言っておいて下さい!ほら、クリス僕と行こう」
「嫌よ」
「え?クリス?」
「ねぇサイモン、貴方何を言ってるの?私はマリーちゃんと仲良くしたいってずっと言ってるのに、どうして邪魔をするの?」
「クリスこそ何言ってるの?昨日僕が居なかったから寂しかったりしたんじゃないの?」
「いいえ、マリーちゃんとリリちゃんと話せて楽しかったわ、だから、もう私を放っておいてくれないかしら、私サイモンがいなくても大丈夫だから」

クリスから言われた言葉にショックを受けたのか、サイモン様はしばし呆然としていたのだが、我に返ると、私をまた睨みつけ「お前のせいか!」と怒鳴り散らした。
いや、だから何故私なのか、サイモン様の思考回路が謎過ぎる、まぁたぶんだけど、クリスの好意が私に向いてるから嫉妬してるのかなぁ、八つ当たりとか困るんだけど。

私が標的にされた為、クリスが私を庇おうと抱き締めてきて、サイモン様は更に激昂した。
「やっぱりお前が!」と言いながら私に掴みかかろうとしたサイモン様は、気付いたらウィルに取り押さえられていた。

「だから近付かせないって言っただろ?だいたいお前彼女が公爵家の人間だってちゃんと分かってる?」
「分かってますよ、だからクリスを守らなきゃいけないんだ、クリス!聞いてくれ、君は騙されてるんだ、その女、バージルさんに圧力をかけて僕とクリスを引き離そうとしてるんだ」

サイモン様が凄い斜め上の発言をし始めた。
私がサイモン様からの威嚇に困ってバージル様に説得してもらった件が、私が公爵家の圧力を使って無理やりやらせた事になっている。
この言い分には流石のクリスもドン引きしたようで「サイモン、貴方大丈夫?マリーちゃんにそんな事する理由なんて無いわ」と信じられないといった顔でサイモン様を見ている。

「クリス、何で分かってくれないんだ!」
「いや、お前こそ分かれよ、マリーは何もしていない」
「うるさい!だいたい貴方だってあの女の被害者じゃないんですか?権力で無理やり婚約者にさせられたとかじゃないんですか?そうだ、だからあの女の味方しか出来ないのでしょう」
「こいつ…」

何を言っても私を悪役にしたいらしいサイモン様に、ウィルが不穏な空気を発し出したその時「サイモン君、そんな大声でご令嬢を侮辱するのは流石に駄目ですよ」とヴィンス先生が現れた。
そして先生が「ちょっと失礼」と取り押さえられていたサイモン様の頭に触れると、サイモン様は意識を失った。
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