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2話 悪役令嬢マリアンヌ2

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倒れる前の記憶もちゃんと思い出せた私に、侍女のマーサは白湯を用意してくれた後「旦那様と奥様に目を覚まされた事を伝えてきますね」と一度部屋を出て行った。
マーサが部屋を出る前にカーテンも開けてくれたので、外の明るさの感じからまだ早朝だというのは分かったが、毎日侍女が起こしてくれるし、まだ5歳児である私の部屋に時計はないので正確な時間はわからない。
用意してもらった白湯をゆっくり飲んでいると、ノックも無しに扉が開き、両親が慌てて入ってきた。

「マリー、本当にもう大丈夫なのか?」
「大丈夫ですわ、お父様」
「あぁ、マリー本当に良かったわ、私の治癒魔法でも衰弱を抑える程度しか効果が無くて、新手の呪詛か何かかと生きた心地がしなかったわ」
「ご心配おかけしました、お母様」
「良いのよ、マリーが無事目を覚ましたんだもの」

そう言ってお母様はベッドで上半身を起こしていた私を抱きしめてくれた、ちなみにマリーとは私マリアンヌの愛称である。
そして、前世の記憶の読み込みによるただの知恵熱だったのだが、両親が大騒ぎしているのには理由がある。

私のお母様、アリアンナ・ティルステア・ガルディアス公爵夫人は、トワイライト王国に隣接するティルステア聖国という宗教国家で第3聖女、こちらでいう所の王女の様な立場の人だった。
宗教国家の聖女という名は伊達では無く、お母様の治癒魔法にかかれば、ちょっとやそっとの病気や怪我どころか生死に関わるような物だって治せてしまう、文字通り聖女だ。
そんなお母様の治癒魔法が私に効かなかった為、呪詛だなんて物騒な想像をしたのだろう。

そんなお母様は黄色味が強めの美しい金髪に、金色に光り輝く様な瞳、まだ身支度前だからノーメイクのはずなのに艶のあるシミひとつない陶器肌、口紅要らずのベビーピンクの唇、子持ちとは思えないその美貌、ゲームでお母様は一切描写されていないが、マリアンヌの母親である事を疑い様が無い程、ゲームのマリアンヌとそっくりである。
唯一違うのは瞳の色、ゲームの私はお父様譲りの深い海の様な青色の瞳だったんだけど、今の私は近くで見るとお母様の金色を散りばめた様な色も入っている。
まぁ、ゲームでマリアンヌの顔アップの絵なんて無かったから元々この色合いだったのだろう。

「しかしマリーが殿下の目の前で倒れた時は本当に驚いたよ、今日も目を覚まさない様だったらエリックにも観てもらおうかと思っていたんだ」

両親が想像以上に大事にしようとしていたので驚いた。
ただの知恵熱なのにこんなに心配させてしまい申し訳なく思う反面、今の両親に愛されてると実感できて嬉しく思う。

あと、お父様の言っているエリックとは攻略対象の父親で、魔法師団の団長をしているエリック・シモンズ侯爵の事だろう。
ゲームでは第1章はプロローグやチュートリアルのような仕様で、メインは第2章の学園編からなので知らなかったのだけど、何の因果かお父様ったら初期攻略対象の4人の内3人の父親と、私の推しのウィリアム様のお父様とも友人だったりする。
流石この国の宰相様と言うべきなのか何なのか。

それにしても、父親の友人の子供達に断罪され追放される私っていったい…そもそも私という婚約者が居ながら、ヒロインと逢瀬を重ねる殿下が悪いと思うんですが、ゲームでも殿下とヒロインはウィリアム様から注意を受けて…

そう、そうよ、ウィリアム様!!!何で顔合わせのお茶会に殿下のフリしてウィリアム様が居たの!?
しかも私せっかく会えたのに倒れちゃうし!!何で倒れちゃったの私、勿体無い。

「お父様、私もう大丈夫ですわ、それよりせっかくのお茶会で目の前で倒れてしまって、ウィ……殿下は何かおっしゃってましたか?」
「あぁ、殿下ならマリーが倒れた次の日にわざわざ私の執務室まで来て下さってね、マリーの容体を聞いて、良くなったら改めてお茶会をとおっしゃってたよ」
「そう、ですか…」

私が高熱で倒れたのだから呑気に話なんてする訳無いんだけど、でも次の日じゃ本物の殿下なのか、ウィリアム様の発言なのか分かんないよ、お父様。

「マリーは、殿下が気になるかい?」

んんんん?!おっとお父様、その質問は5歳児に対して余りにもアレじゃないだろうか。
良い教育を受けただけの貴族の5歳児なら、もちろん殿下は気になるだろう、しかし私は前世を思い出したのでアルベール殿下は無い!!絶対無い!!
そもそも顔合わせのお茶会なんて開く時点で、貴族社会ではほぼ婚約者確定ですって言ってる様なものなんだよね。
ゲームでは、いつから婚約者なのかとか語られて無かったけれど学園編では既に婚約者だった。

…ここはお父様が変に根回しする前に爆弾を投下しておくべきだろうか。

「私、アルベール殿下よりウィリアム様が好きですわ」
「えっ!?マ、マリー?ウィリアムってどこのウィリアムだい?怒らないから言いなさい」

あらやだ、お父様笑顔なのに圧が凄いわ、どうしよう。

「まぁあなた、そろそろ準備をしないとお仕事に遅れてしまいますわ」
「えっいやまだ大丈…ちょっ押さないでくれ」
「さぁさぁ、病み上がりの娘に詰め寄るだなんてダメよ、ほらいきましょう」
「いやでも、愛する娘がどこのウィリアムに誑かされているのか調べ「はいはい、私がちゃんと聞いておきますから」」

そんな事を言いながらお母様がお父様を連れて部屋を出ていった、部屋の扉が閉まる直前、お母様は私にウインクしていった、何ソレお母様かっこいい…。

扉が閉まるとしばらくしてから、今度はマーサがノックをして入ってきた。

「お嬢様、おかゆを作ってもらったのですが食べられそうですか?」
「食べられるわ、ありがとう」
「いえ、他に何かご入用の物はございますか?」
「そうね、まだ数日は安静にしないといけないだろうから、新しいノートとペンが欲しいわ」
「わかりました、では食べ終わる頃にお持ちしますね」
「えぇ、それでお願い」

破滅回避に情報は欠かせない、しばらく動けないなら一度前世と今世両方の情報を書き留めておこうと思い、何から書くかを食べながら考える事にした。
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