241 / 257
第四章-⑶ ラスボスとの直接対決
事件は終わると思っていた
しおりを挟む
「国民の皆々様、見てますか~?」
とうとう床に膝をついたマイルズのことを置いて、ゾーイは楽しそうに、画面の向こうの何十億という人間に、語りかけ始める。
けど、カメラは変わらずゾーイの頭にあるから、その整った容姿が決して画面に映らないのがもったいないが……
それでも、君の声は空の上でもよく響くもので、君の存在を示すのにはそれだけでも十分だった。
「すでにおわかりだとは思いますが、ナサニエル墜落事件について、ここにきての速報です! あれは不幸な事故などではなく、何と……こちらの空島の首相である、マイルズ・ローレンさんによって仕組まれたことだったので~す!」
「ヒ、ヒイ……ッ!!」
今にも愉快な効果音がつきそうなテンションで話すゾーイだが、その内容はまったくもって笑えないもの……
映し出されたマイルズは、小さく悲鳴を上げたかと思えば、ガタガタと部屋の隅で震えてるしな。
「動機については、まあ、これからニュースで嫌ってほど目にすると思うので、続報をお待ちくださいませ! あ、警察の方々は、おそらくすでに向かっているとは思いますが、急ぎで頼みます!」
そのうち、スキップでもし始めるのではないかと思うほど、今のゾーイはご機嫌だ。
そんな様子に、目が合った俺と望はため息と苦笑いが止まらないよ。
「それと、ナサニエル墜落の被害者生徒の、ご家族の皆様。ご安心を、生徒達は全員、生きています!」
けど、次の瞬間、瞬く間にゾーイを包む空気が変わるのがわかった。
そして、ゾーイはまっすぐに画面の向こうの国民にそう告げる。
振り向くと、ゾーイの瞳はいつになく真剣なものであり……思わず、見惚れてしまうほどだ。
そのまま、一瞬気を抜けば、吸い込まれてしまうのではないかと思った。
「現在、空島には、自分を含めた計十五名の生徒が帰還してますが、この十五名以外の生徒も全員、地上で十か月間、生き延びてきました! 今は、それだけをお伝えします。中継を終わります」
独特の動くことも、口を挟むことも許されないような空気は、ゾーイの中継終了宣言と、その髪飾りを外し、ポニーテールの髪を解いたことによって、終わりを告げた。
ゾーイの背中まで伸びた長い髪は、その拘束を解いたことで、重力のままにサラリと落ちていく。
その姿が、目の前に存在してるはずなのに、なぜかとても遠くのことのように感じられて、とてつもなく苦しくなる。
その感覚を払うように、俺はテレビに目を逸らした。
テレビの画面には、緊急で流したのであろう同じコマーシャルが、繰り返し流れていた。
おそらく今の空島は全体が、想像もできない騒ぎになっているだろう……
「大根役者の孫娘とは違って、あんたの演技は最高級品だったわね。けど、その華麗なるショーも幕引きの時間よ」
「そ、そんな……わた、しが、こんなところで……!! ああああああああああああああああああああッッ!!!!」
そして、ゾーイからマイルズへ、トドメの言葉が送られる。
最後までよく煽るよ……もう、こんな茶番も終わりだ。
執務室には、さっきまで空島の頂点に君臨して、一瞬にして地の果てに堕ちた哀れな老人の叫びが響いていた。
それは断末魔にも似たものであり、耳を塞ぎたくなるものだった。
「シャノン。あたしを恨んでる?」
すると、トドメを刺した途端に興味が失せたのであろう……哀れなマイルズを気にすることもなくなったゾーイは、ローレンさんに歩み寄り、そう問う。
「……正直、思うところはたくさんあるわ。けど、ゾーイ・エマーソン。あなたは間違いなく、私達一族に対して一番正しい選択をしてくれたわ」
「別に、そこまで考えてないわよ」
「ローレン家を代表して、心からの謝罪を送るわ」
「よく出来た孫娘だこと」
二人の作り出す空気は、二人しかそこに入ることを許されないもの。
そんな二人を、俺と望は空気に押し潰されそうになりながらも、黙って成り行きを見守った。
何かあればすぐに止める……望と頷き合って、暗黙の了解で、飛び出す覚悟をしていたのだが、それは杞憂だった。
ローレンさんはすごく冷静で、ゾーイは言わずもがな通常運転。
その会話に、俺は少し淡白すぎないかとすら思ったほどだ。
「許してくれなんて、おこがましいことは言わないわ。けど……最後に一言、発言をしても?」
「どうぞ、ご自由に?」
けど、ローレンさんが頭を下げたままのその言葉は、声が震えていた。
「……ありがとう。私のことを、空島を救ってくれて」
「さあ、何のことだか?」
そして、ゾーイの言葉を受け、ゆっくりと顔を上げたローレンさんは緊張したような、泣きそうな表情で……
その表情のまま、静かにゾーイにそう告げたのだ。
ローレンさんはこれから、死ぬまで罪を背負っていかなきゃいけないが、少なくともゾーイは、これからの決して短くはない人生の中で、その罪と向き合う勇気を、最後にローレンさんに与えたのではないだろうか。
まあ、ゾーイはいつも通りに惚けた返事を返していたが、俺の中では不思議と何かがストンと抜け落ちた気がした。
こういうのを、肩の重荷がなくなったと言うのだろうか……
「ちょっと? いつまで、そんなとこに突っ立ってる気よ?」
「え? あ、ごめん……」
そんなボンヤリしてる俺に、ゾーイは呆れたように指摘する。
「終わったのよ? 綺麗さっぱりと」
ゾーイは、大きく伸びをしながら淡々と告げた――そうか、終わったのか。
これで全部が、俺達の旅は、本当に終わったのだろうか?
とうとう床に膝をついたマイルズのことを置いて、ゾーイは楽しそうに、画面の向こうの何十億という人間に、語りかけ始める。
けど、カメラは変わらずゾーイの頭にあるから、その整った容姿が決して画面に映らないのがもったいないが……
それでも、君の声は空の上でもよく響くもので、君の存在を示すのにはそれだけでも十分だった。
「すでにおわかりだとは思いますが、ナサニエル墜落事件について、ここにきての速報です! あれは不幸な事故などではなく、何と……こちらの空島の首相である、マイルズ・ローレンさんによって仕組まれたことだったので~す!」
「ヒ、ヒイ……ッ!!」
今にも愉快な効果音がつきそうなテンションで話すゾーイだが、その内容はまったくもって笑えないもの……
映し出されたマイルズは、小さく悲鳴を上げたかと思えば、ガタガタと部屋の隅で震えてるしな。
「動機については、まあ、これからニュースで嫌ってほど目にすると思うので、続報をお待ちくださいませ! あ、警察の方々は、おそらくすでに向かっているとは思いますが、急ぎで頼みます!」
そのうち、スキップでもし始めるのではないかと思うほど、今のゾーイはご機嫌だ。
そんな様子に、目が合った俺と望はため息と苦笑いが止まらないよ。
「それと、ナサニエル墜落の被害者生徒の、ご家族の皆様。ご安心を、生徒達は全員、生きています!」
けど、次の瞬間、瞬く間にゾーイを包む空気が変わるのがわかった。
そして、ゾーイはまっすぐに画面の向こうの国民にそう告げる。
振り向くと、ゾーイの瞳はいつになく真剣なものであり……思わず、見惚れてしまうほどだ。
そのまま、一瞬気を抜けば、吸い込まれてしまうのではないかと思った。
「現在、空島には、自分を含めた計十五名の生徒が帰還してますが、この十五名以外の生徒も全員、地上で十か月間、生き延びてきました! 今は、それだけをお伝えします。中継を終わります」
独特の動くことも、口を挟むことも許されないような空気は、ゾーイの中継終了宣言と、その髪飾りを外し、ポニーテールの髪を解いたことによって、終わりを告げた。
ゾーイの背中まで伸びた長い髪は、その拘束を解いたことで、重力のままにサラリと落ちていく。
その姿が、目の前に存在してるはずなのに、なぜかとても遠くのことのように感じられて、とてつもなく苦しくなる。
その感覚を払うように、俺はテレビに目を逸らした。
テレビの画面には、緊急で流したのであろう同じコマーシャルが、繰り返し流れていた。
おそらく今の空島は全体が、想像もできない騒ぎになっているだろう……
「大根役者の孫娘とは違って、あんたの演技は最高級品だったわね。けど、その華麗なるショーも幕引きの時間よ」
「そ、そんな……わた、しが、こんなところで……!! ああああああああああああああああああああッッ!!!!」
そして、ゾーイからマイルズへ、トドメの言葉が送られる。
最後までよく煽るよ……もう、こんな茶番も終わりだ。
執務室には、さっきまで空島の頂点に君臨して、一瞬にして地の果てに堕ちた哀れな老人の叫びが響いていた。
それは断末魔にも似たものであり、耳を塞ぎたくなるものだった。
「シャノン。あたしを恨んでる?」
すると、トドメを刺した途端に興味が失せたのであろう……哀れなマイルズを気にすることもなくなったゾーイは、ローレンさんに歩み寄り、そう問う。
「……正直、思うところはたくさんあるわ。けど、ゾーイ・エマーソン。あなたは間違いなく、私達一族に対して一番正しい選択をしてくれたわ」
「別に、そこまで考えてないわよ」
「ローレン家を代表して、心からの謝罪を送るわ」
「よく出来た孫娘だこと」
二人の作り出す空気は、二人しかそこに入ることを許されないもの。
そんな二人を、俺と望は空気に押し潰されそうになりながらも、黙って成り行きを見守った。
何かあればすぐに止める……望と頷き合って、暗黙の了解で、飛び出す覚悟をしていたのだが、それは杞憂だった。
ローレンさんはすごく冷静で、ゾーイは言わずもがな通常運転。
その会話に、俺は少し淡白すぎないかとすら思ったほどだ。
「許してくれなんて、おこがましいことは言わないわ。けど……最後に一言、発言をしても?」
「どうぞ、ご自由に?」
けど、ローレンさんが頭を下げたままのその言葉は、声が震えていた。
「……ありがとう。私のことを、空島を救ってくれて」
「さあ、何のことだか?」
そして、ゾーイの言葉を受け、ゆっくりと顔を上げたローレンさんは緊張したような、泣きそうな表情で……
その表情のまま、静かにゾーイにそう告げたのだ。
ローレンさんはこれから、死ぬまで罪を背負っていかなきゃいけないが、少なくともゾーイは、これからの決して短くはない人生の中で、その罪と向き合う勇気を、最後にローレンさんに与えたのではないだろうか。
まあ、ゾーイはいつも通りに惚けた返事を返していたが、俺の中では不思議と何かがストンと抜け落ちた気がした。
こういうのを、肩の重荷がなくなったと言うのだろうか……
「ちょっと? いつまで、そんなとこに突っ立ってる気よ?」
「え? あ、ごめん……」
そんなボンヤリしてる俺に、ゾーイは呆れたように指摘する。
「終わったのよ? 綺麗さっぱりと」
ゾーイは、大きく伸びをしながら淡々と告げた――そうか、終わったのか。
これで全部が、俺達の旅は、本当に終わったのだろうか?
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる