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第四章-⑶ ラスボスとの直接対決

事件は終わると思っていた

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「国民の皆々様、見てますか~?」


 とうとう床に膝をついたマイルズのことを置いて、ゾーイは楽しそうに、画面の向こうの何十億という人間に、語りかけ始める。
 けど、カメラは変わらずゾーイの頭にあるから、その整った容姿が決して画面に映らないのがもったいないが……
 それでも、君の声は空の上でもよく響くもので、君の存在を示すのにはそれだけでも十分だった。


「すでにおわかりだとは思いますが、ナサニエル墜落事件について、ここにきての速報です! あれは不幸な事故などではなく、何と……こちらの空島の首相である、マイルズ・ローレンさんによって仕組まれたことだったので~す!」
「ヒ、ヒイ……ッ!!」


 今にも愉快な効果音がつきそうなテンションで話すゾーイだが、その内容はまったくもって笑えないもの……
 映し出されたマイルズは、小さく悲鳴を上げたかと思えば、ガタガタと部屋の隅で震えてるしな。


「動機については、まあ、これからニュースで嫌ってほど目にすると思うので、続報をお待ちくださいませ! あ、警察の方々は、おそらくすでに向かっているとは思いますが、急ぎで頼みます!」


 そのうち、スキップでもし始めるのではないかと思うほど、今のゾーイはご機嫌だ。
 そんな様子に、目が合った俺と望はため息と苦笑いが止まらないよ。


「それと、ナサニエル墜落の被害者生徒の、ご家族の皆様。ご安心を、生徒達は全員、生きています!」


 けど、次の瞬間、瞬く間にゾーイを包む空気が変わるのがわかった。
 そして、ゾーイはまっすぐに画面の向こうの国民にそう告げる。
 振り向くと、ゾーイの瞳はいつになく真剣なものであり……思わず、見惚れてしまうほどだ。
 そのまま、一瞬気を抜けば、吸い込まれてしまうのではないかと思った。


「現在、空島には、自分を含めた計十五名の生徒が帰還してますが、この十五名以外の生徒も全員、地上で十か月間、生き延びてきました! 今は、それだけをお伝えします。中継を終わります」


 独特の動くことも、口を挟むことも許されないような空気は、ゾーイの中継終了宣言と、その髪飾りを外し、ポニーテールの髪を解いたことによって、終わりを告げた。
 ゾーイの背中まで伸びた長い髪は、その拘束を解いたことで、重力のままにサラリと落ちていく。
 その姿が、目の前に存在してるはずなのに、なぜかとても遠くのことのように感じられて、とてつもなく苦しくなる。
 その感覚を払うように、俺はテレビに目を逸らした。
 テレビの画面には、緊急で流したのであろう同じコマーシャルが、繰り返し流れていた。
 おそらく今の空島は全体が、想像もできない騒ぎになっているだろう……


「大根役者の孫娘とは違って、あんたの演技は最高級品だったわね。けど、その華麗なるショーも幕引きの時間よ」
「そ、そんな……わた、しが、こんなところで……!! ああああああああああああああああああああッッ!!!!」


 そして、ゾーイからマイルズへ、トドメの言葉が送られる。
 最後までよく煽るよ……もう、こんな茶番も終わりだ。
 執務室には、さっきまで空島の頂点に君臨して、一瞬にして地の果てに堕ちた哀れな老人の叫びが響いていた。
 それは断末魔にも似たものであり、耳を塞ぎたくなるものだった。


「シャノン。あたしを恨んでる?」


 すると、トドメを刺した途端に興味が失せたのであろう……哀れなマイルズを気にすることもなくなったゾーイは、ローレンさんに歩み寄り、そう問う。


「……正直、思うところはたくさんあるわ。けど、ゾーイ・エマーソン。あなたは間違いなく、私達一族に対して一番正しい選択をしてくれたわ」
「別に、そこまで考えてないわよ」
「ローレン家を代表して、心からの謝罪を送るわ」
「よく出来た孫娘だこと」


 二人の作り出す空気は、二人しかそこに入ることを許されないもの。
 そんな二人を、俺と望は空気に押し潰されそうになりながらも、黙って成り行きを見守った。
 何かあればすぐに止める……望と頷き合って、暗黙の了解で、飛び出す覚悟をしていたのだが、それは杞憂だった。
 ローレンさんはすごく冷静で、ゾーイは言わずもがな通常運転。
 その会話に、俺は少し淡白すぎないかとすら思ったほどだ。


「許してくれなんて、おこがましいことは言わないわ。けど……最後に一言、発言をしても?」
「どうぞ、ご自由に?」


 けど、ローレンさんが頭を下げたままのその言葉は、声が震えていた。


「……ありがとう。私のことを、空島を救ってくれて」
「さあ、何のことだか?」


 そして、ゾーイの言葉を受け、ゆっくりと顔を上げたローレンさんは緊張したような、泣きそうな表情で……
 その表情のまま、静かにゾーイにそう告げたのだ。
 ローレンさんはこれから、死ぬまで罪を背負っていかなきゃいけないが、少なくともゾーイは、これからの決して短くはない人生の中で、その罪と向き合う勇気を、最後にローレンさんに与えたのではないだろうか。
 まあ、ゾーイはいつも通りに惚けた返事を返していたが、俺の中では不思議と何かがストンと抜け落ちた気がした。
 こういうのを、肩の重荷がなくなったと言うのだろうか……


「ちょっと? いつまで、そんなとこに突っ立ってる気よ?」
「え? あ、ごめん……」


 そんなボンヤリしてる俺に、ゾーイは呆れたように指摘する。


「終わったのよ? 綺麗さっぱりと」


 ゾーイは、大きく伸びをしながら淡々と告げた――そうか、終わったのか。
 これで全部が、俺達の旅は、本当に終わったのだろうか?
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