上 下
235 / 257
第四章-⑶ ラスボスとの直接対決

季節外れのサンタ気取り

しおりを挟む
「は、はあ……!? そ、そんな、急に何を言い出すんだよ、真由!」


 そう俺は真由の背中に叫んだが、真由は俺を振り返ることはなかった。


「何を言っているとは、むしろ君へのセリフだぞ? 昴くん」


 それどころか、妙に落ち着いた口調のハロルドの言葉に振り返ると、俺、ゾーイ、望、ローレンさんを囲むように、他のみんなが立ち塞がっていたのだ。
 待てよ、この展開って、まさか……


「下がって別ルートを探すなど、そんな選択肢は初めからないのだよ」
「後戻りは許されないと、あなたは身に染みてわかっているでしょう」


 大人びた笑いを零すハロルドと、眼鏡を外して深く息を吐いたモーリスは、俺の右方向へ。


「そもそもさ、僕達はもうここで離れることが最善なんだよ!」
「そうね……私達はもう、あまり体力が残っていないわ。一緒に行っても足でまといになるのは目に見えてる」


 まったく場にそぐわない明るい声を出したジェームズと、覚悟を決めたように言い放ったクレアは、俺の左方向へ。
 それぞれが、向かってくる追っ手と対峙するようにそこにいた。
 ああ、さっきと同じになる、みんなはここで……


「わかった。じゃあ、ゆっくり休みな」


 君はどうして、そんな強いのか……俺はまだ覚悟ができていないのに。


「ゾーイ、待っ……!!」
「昴、行くぞ!」
「待てって、望……!! 真由! 残るとか言うなよ! 一緒に行こう!」


 往生際が悪い俺を他所に、もうゾーイは前を向いていた。
 ゾーイを引き止めようと伸ばした俺の手を握り、望は俺のことを連れて行こうと声を荒らげた。
 けど、どこまでも情けない俺は、その手を振り切り、せめて真由だけでもと手を伸ばしたのだが……
 

「昴、ごめん……私は残る」


 当たり前だが、その俺の手は真由に受け取ってもらえるはずもなかった。


「何でだよ……!?」
「昴! ゾーイとの約束忘れたの!?」


 それでも叫ぶ俺の両肩を掴んで、俺を留まらせたのは菜々美だった。


「離れても、止まらないで……それが恋人だとしても! 昴は先に進まなきゃダメなのよ!? 今、真由がどんな思いで送り出してるかわからないの!?」


 俺を叱って説得している菜々美の顔は真っ赤で、そこには怒りとか、悲しみだとかの感情が溢れていた。
 わかってる、もうみんなは俺達四人のことを庇ってボロボロだ。
 とっくに足が限界で走ることだってままならないだろうし、人数が多くなるほどスピードは落ちていく。
 俺達四人だけで、このまま目的地まで突っ切るのが最善ってわかってる、頭ではわかってるんだよ、けど……


「昴、行ってくれ……!!」


 そんないつまでも踏み出せない俺に声を上げたのは……


「サトル……」
「真由のことは、僕の命よりも優先して守るって約束する! だから、昴! お前は、俺達の希望を……ゾーイを届けてくれ! そして、見届けろ!」


 サトルはいつもの余裕のある笑みはどこに置いてきたやら、立っているのが奇跡のように膝が笑っている。
 それでもサトルは、俺にまっすぐと手を伸ばすんだ。
 ごめんな、サトル? こんなに弱くて頼りない親友で、強くなりたいな……


「それと、バカみたいなこの場の空気に酔っているようなこと言うけどさ……僕の魂、お前に預けるよ!」


 泣きたかった……けど、泣くのはここじゃないと思った。
 じゃあ、その魂は、俺が全力で届けなきゃいけないよな……青春ドラマかよ。
 ありがとう、みんな……俺はもう、振り返るのはやめるよ。
 俺はサトルから伸ばされた手を取って立ち上がり、この世で一番大好きな子に告げる。


「真由、また後でな! 行ってくる!」


 真由は頷くだけだった……それだけでよかった、伝わった。
 背中が震えていたのがわかったから。


「バカじゃん? 今生の別れじゃないでしょうが」
「……ごめん、もう大丈夫だ」


 ようやく決心がついた俺を、ゾーイは呆れた顔で待っていた。
 けど、特に俺の謝罪の後に言葉が続くことはなく、俺に目を合わせると、君は深いため息をついて、無言で走り出す。
 慌てて、俺、望、ローレンさんは、その背中を必死に追いかけた。


「はあ、はあ……あー、もう足が……!!」
「限界だああ! 使いもんならねえ、完全にこれは……」


 とにかく、俺達は目の前のことに対処していくのに必死だったんだ。
 ひたすら走り続けて、最短ルートで最上階に駆け上って、しつこい追っ手をゾーイが先陣を切って迎え撃つのを、俺と望がサポートして、ローレンさんのことを守って……
 だから、ほとんど思考が動いてない状態で、俺と望はゾーイの言われるままにそこに突っ込んでと言われて、どこかの部屋の扉に体当たりをしたんだ。
 そして、そのまま力尽きた俺と望は床に倒れ込んだから、わからなかった。


「これは、これは……噂の元気のいいお客人というのは、君達のことかな?」


 空島にいる時に、何度となく画面の向こうで聞いていた心地よい声。
 不思議な安心感があると評判で、その人気の一つの大きな要因となったとまで言われたその声だが、今の俺は張り付くような恐怖に体が動かなかった。


「少し、元気が良すぎましたか?」


 そんな時に響いた、俺達の希望となるその淡々として、堂々としたソプラノ。


「おや、君は?」
「ただの通りすがりです。騒がしくしてしまって、申し訳ありません。実はあたし達、今日はあなたへの贈り物を届けに来たんです」


 ゾーイは臆することなく、むしろ対等に張り合って、相手と話をしていた。
 贈り物……君の言葉のチョイスは、普段と変わらないね。
 それ、とんでもない皮肉だと思うよ?


「……お久しぶりです、おじい様」


 ゾーイの手を挙げて紹介をするような仕草とともに、後ろから現れたローレンさんは、そう震えながら告げた。
 俺達はついに、ラストステージへと足を踏み入れたのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

元カノ

奈落
SF
TSFの短い話です 他愛もないお話です

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

彼女(ガールフレンド)

奈落
SF
TSFの短い話です ミドリと僕は一応は公認のカップルである。 しかし、ミドリがある病気に罹患してしまった。 その後の僕とミドリの関係は…変わらざるを得なかった…

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...