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第四章-⑵ ナサニエル墜落事件の真相
お別れパーティーだよ
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「今日でこの景色も、見納めか……」
気が付いた時には口に出していて、俺はしまったと思ったけど、一度言ったことを取り消すことはできなくて……
あっという間にその場は、重い空気に包まれてしまった。
あの処刑台での演説から十日の時が過ぎた、一瞬のように感じたそれも今日で終わりだ。
俺達は明日の朝、空島に帰るんだ――
本当に、あの処刑台での演説から瞬く間にことは進んでいった。
整備し直した飛行機の安全確認のためのテスト飛行、目的地の中心島にたどり着くまでの航路の確認、他にも様々な準備が一通り終わって、三日前にようやくゾーイからの実行許可が下りたのだ。
そのため、今日は王国全体で俺達のお別れパーティーを開いてくれた。
昼から始まって散々どんちゃん騒ぎをしたパーティーも日が沈んで、そろそろお開きかなという頃……
目まぐるしくて考える余裕もなかったせいもあるが、こうしてあの日処刑台に立った……様々なことを乗り越えてきた仲間と火を囲んでいると、なぜだか妙に実感が湧いてきた。
そして、同時にその現実が信じられなくて、暗黙の了解でそれだけは禁句だとされてたことなのに、俺は口を滑らせてしまった。
そのせいで、右からは真由、左からは望に、それは強く小突かれる始末。
まあ、これは俺が悪いから自業自得だけど……結構痛いぞ、お前ら。
「まったく、もう! さすがに今じゃなくない!?」
けど、やっぱり、すぐに俺の胸の中は罪悪感でいっぱいになった……その、ソニアの明るく響いた声に。
「あの、ごめん……本当に」
「本当だよ~! あんなにうるさかったのに、しんみりしちゃったじゃん!」
「うん、空気読めてなかった……」
「昴って変なとこ抜けてるよね? これどうするのよ、お葬式だよ!?」
ソニアは笑う、いつもの何倍も、何十倍も笑う、大げさなほど笑う……自分の気持ちを誤魔化すように笑うのだ。
手を叩いて、大声を出し、ずっとソニアは笑い続ける。
俺は情けないけれど、俯いて謝ることしかできなかった。
自分がまいた種なのに、ソニアの顔を見ることができなかった……どんな顔をしてるか想像できてしまったから。
「ソニア……!!」
けど、隣からの真由の悲痛にソニアを呼ぶ声に、俺は迷わず顔を上げた。
本当に俺は、何てバカなことを考えなしに言ってしまったのだろうか。
無理かもしれないけど、できるだけ笑っていたかったのに……
「すば……るの、バカァ……!! 何で、今そういう、ことを……言うかなあ!」
ソニアの、大きくて丸くて、綺麗な緑の瞳から、揺らめく火の光に照らされてそれらは……儚い涙は、零れ落ちる。
「うあああ……ああ……!! レ、オ……コタロ、ウ……!! モカアアア!」
すると、ソニアは、もうこれ以上は耐えられないとばかりに、決壊したダムのごとく涙を流し、レオ、コタロウ、モカの名前を呼びながら、ほとんど突進するような勢いで抱き着いたのだ。
「ヤダア……ヤダよ! あたし、まだ離れたくないよお……!! 空島に、一緒に行こうよ! 一緒に、生き……ようよ!」
そして、さらにソニアは、三人のことを離さないとばかりに抱き締めて、泣き叫んだ。
それはきっと、紛れもなく、我慢してきて、俺のせいで溢れてしまった、ソニアの本音だ。
「ソニア……そう言ってもらえて、すごく光栄だよ」
「本当にね? それが叶ったら、どんなに素敵かしらね」
そんなソニアのことを大切そうに、優しく抱き締めながら、レオとモカは切なそうに笑う。
「悪いな。俺達には、地上でやることがある」
そして、一方で、コタロウはソニアの頭を不慣れな手つきで撫でながら、そう告げるのだ。
それを聞いた瞬間に俺は上を……光り輝く、少し滲んだ星の空を仰いだ。
ソニアも、本当に変わったと思う。
第一印象は菜々美と似て、天真爛漫な子なのかと思ったが、それは仮の姿。
兄のデルタとともに、暗くて汚い世界を知っているからこその自己防衛の一つとして、そう演じていたのだ。
子どもの頃に子どもらしくいられなかったからか、どこかソニアはひねくれており、残酷だった。
けど、今のソニアは違う……子どものように純粋に別れを慈しむことができるまでになった。
そんなことを、俺はこの状況で不謹慎にも考えていた……そうしなきゃ、涙が零れそうだったから。
「無理なこと言って、あんまり三人のこと困らせるなよ? ソニア?」
すっかりしんみりして、挙句の果てに誰かの鼻をすする音すらも聞こえてきた時に、場の空気を変えたのは、意外なことにデルタだった。
「何が、よ! 兄貴は、黙って……」
「みんな、本当に悪いな。妹がせっかくのパーティーを、さらに耐え難い空気にしちまって」
「はあ!? 元はと言えば、昴が……!!」
「そこで、兄としてお詫びに、俺から重大な報告をさせてもらう!」
指摘されたソニアはすぐさまデルタに食ってかかるが、それを兄として華麗にスルーするデルタ。
その見事なスルーっぷりに、ソニアが言う通り、元はと言えば俺が作り出した空気だけに、申し訳なさしかなかった。
けど、デルタにしては珍しく、そんなソニアをお構いなしに、力強く立ち上がってまで、俺達にそう告げるのだ。
「報告? 何だよ、それ?」
俺達を代表し、デルタにはシンがそう尋ねていた。
突然の報告だったけど、どうもみんなの顔を見渡す限りでは、誰もデルタの言葉に検討もついてないようだったが……
「ずっと考えててさ、それでようやく決心したんだよ……俺は将来、自分の店を持つ! 絶対に!」
そう言ったデルタは、照れ臭そうに顔を赤くしてたけど、すごく誇らしそうだった。
そりゃ、検討もつかないか、そんな最高すぎる夢、想像もできなかったよ。
気が付いた時には口に出していて、俺はしまったと思ったけど、一度言ったことを取り消すことはできなくて……
あっという間にその場は、重い空気に包まれてしまった。
あの処刑台での演説から十日の時が過ぎた、一瞬のように感じたそれも今日で終わりだ。
俺達は明日の朝、空島に帰るんだ――
本当に、あの処刑台での演説から瞬く間にことは進んでいった。
整備し直した飛行機の安全確認のためのテスト飛行、目的地の中心島にたどり着くまでの航路の確認、他にも様々な準備が一通り終わって、三日前にようやくゾーイからの実行許可が下りたのだ。
そのため、今日は王国全体で俺達のお別れパーティーを開いてくれた。
昼から始まって散々どんちゃん騒ぎをしたパーティーも日が沈んで、そろそろお開きかなという頃……
目まぐるしくて考える余裕もなかったせいもあるが、こうしてあの日処刑台に立った……様々なことを乗り越えてきた仲間と火を囲んでいると、なぜだか妙に実感が湧いてきた。
そして、同時にその現実が信じられなくて、暗黙の了解でそれだけは禁句だとされてたことなのに、俺は口を滑らせてしまった。
そのせいで、右からは真由、左からは望に、それは強く小突かれる始末。
まあ、これは俺が悪いから自業自得だけど……結構痛いぞ、お前ら。
「まったく、もう! さすがに今じゃなくない!?」
けど、やっぱり、すぐに俺の胸の中は罪悪感でいっぱいになった……その、ソニアの明るく響いた声に。
「あの、ごめん……本当に」
「本当だよ~! あんなにうるさかったのに、しんみりしちゃったじゃん!」
「うん、空気読めてなかった……」
「昴って変なとこ抜けてるよね? これどうするのよ、お葬式だよ!?」
ソニアは笑う、いつもの何倍も、何十倍も笑う、大げさなほど笑う……自分の気持ちを誤魔化すように笑うのだ。
手を叩いて、大声を出し、ずっとソニアは笑い続ける。
俺は情けないけれど、俯いて謝ることしかできなかった。
自分がまいた種なのに、ソニアの顔を見ることができなかった……どんな顔をしてるか想像できてしまったから。
「ソニア……!!」
けど、隣からの真由の悲痛にソニアを呼ぶ声に、俺は迷わず顔を上げた。
本当に俺は、何てバカなことを考えなしに言ってしまったのだろうか。
無理かもしれないけど、できるだけ笑っていたかったのに……
「すば……るの、バカァ……!! 何で、今そういう、ことを……言うかなあ!」
ソニアの、大きくて丸くて、綺麗な緑の瞳から、揺らめく火の光に照らされてそれらは……儚い涙は、零れ落ちる。
「うあああ……ああ……!! レ、オ……コタロ、ウ……!! モカアアア!」
すると、ソニアは、もうこれ以上は耐えられないとばかりに、決壊したダムのごとく涙を流し、レオ、コタロウ、モカの名前を呼びながら、ほとんど突進するような勢いで抱き着いたのだ。
「ヤダア……ヤダよ! あたし、まだ離れたくないよお……!! 空島に、一緒に行こうよ! 一緒に、生き……ようよ!」
そして、さらにソニアは、三人のことを離さないとばかりに抱き締めて、泣き叫んだ。
それはきっと、紛れもなく、我慢してきて、俺のせいで溢れてしまった、ソニアの本音だ。
「ソニア……そう言ってもらえて、すごく光栄だよ」
「本当にね? それが叶ったら、どんなに素敵かしらね」
そんなソニアのことを大切そうに、優しく抱き締めながら、レオとモカは切なそうに笑う。
「悪いな。俺達には、地上でやることがある」
そして、一方で、コタロウはソニアの頭を不慣れな手つきで撫でながら、そう告げるのだ。
それを聞いた瞬間に俺は上を……光り輝く、少し滲んだ星の空を仰いだ。
ソニアも、本当に変わったと思う。
第一印象は菜々美と似て、天真爛漫な子なのかと思ったが、それは仮の姿。
兄のデルタとともに、暗くて汚い世界を知っているからこその自己防衛の一つとして、そう演じていたのだ。
子どもの頃に子どもらしくいられなかったからか、どこかソニアはひねくれており、残酷だった。
けど、今のソニアは違う……子どものように純粋に別れを慈しむことができるまでになった。
そんなことを、俺はこの状況で不謹慎にも考えていた……そうしなきゃ、涙が零れそうだったから。
「無理なこと言って、あんまり三人のこと困らせるなよ? ソニア?」
すっかりしんみりして、挙句の果てに誰かの鼻をすする音すらも聞こえてきた時に、場の空気を変えたのは、意外なことにデルタだった。
「何が、よ! 兄貴は、黙って……」
「みんな、本当に悪いな。妹がせっかくのパーティーを、さらに耐え難い空気にしちまって」
「はあ!? 元はと言えば、昴が……!!」
「そこで、兄としてお詫びに、俺から重大な報告をさせてもらう!」
指摘されたソニアはすぐさまデルタに食ってかかるが、それを兄として華麗にスルーするデルタ。
その見事なスルーっぷりに、ソニアが言う通り、元はと言えば俺が作り出した空気だけに、申し訳なさしかなかった。
けど、デルタにしては珍しく、そんなソニアをお構いなしに、力強く立ち上がってまで、俺達にそう告げるのだ。
「報告? 何だよ、それ?」
俺達を代表し、デルタにはシンがそう尋ねていた。
突然の報告だったけど、どうもみんなの顔を見渡す限りでは、誰もデルタの言葉に検討もついてないようだったが……
「ずっと考えててさ、それでようやく決心したんだよ……俺は将来、自分の店を持つ! 絶対に!」
そう言ったデルタは、照れ臭そうに顔を赤くしてたけど、すごく誇らしそうだった。
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