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第四章-⑵ ナサニエル墜落事件の真相

他人の空似なんてよくある

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 どうにかこうにか、俺なりにゾーイの話を自分の頭の中で整理し、必死に理解をしてきたつもりだ。
 夕方に、ゾーイが突然図書室を飛び出した理由は、このマネキンの仕掛けを作って配置したり、ローレンさんをおびき出すための嘘の話をするためだろう。
 そして、二十三時なんて時間に俺達を呼び出したのは、こんな騒ぎを他の人間に聞かれたらパニックになるから、混乱を避けるために大抵の人間が寝静まるだろう、この時間にしたのだろう。
 しかし、今度のゾーイの話を理解することは、なかなかできなかった。

 マイルズ・ローレンとは、現空島の首相で名実ともに空島の最高責任者だ。
 突如、空島の政界にて頭角を現したマイルズ・ローレンはその後の数々の革新的な政策と、それまでの政治家にはなかった歯に着せぬ言動が話題を呼び、圧倒的な空島の国民の支持を得て当選し、最年少で首相に就任。
 支持率は、脅威の八十五パーセント超えを維持しており、現在にいたるまでの十三年間に及ぶ歴代一位の長期政権を誇っている。
 そんなマイルズ・ローレンの孫娘が目の前の、これまで寝食を共にしてきた少女の、シャノン・ローレンさん?
 しかも、その事実に加えて荻凛太郎の手記に書かれていた神変動説なるものを唱える反乱分子の中心の一族の名が、ローレン家?
 ゾーイは、何を言っているのだろう。


「待って、ゾーイ……あの、話があまりにも飛躍しすぎてて、理解が……」
「お願いですから、順を追って説明してくれませんか……!!」


 きっと、ゾーイとローレンさん以外の全員が俺と同じ心境だったに違いないだろう。
 声の震えが抑えられないほどの混乱マックスな状態で、クレアとモーリスは俺達を代表してゾーイに問いかけた。


「は? シャノンのこと見なよ? 現空島の首相のマイルズ・ローレンにそっくりじゃん」


 しかし、ゾーイから返ってきた返事は気の抜けるほどに適当なもので、俺達は落胆する他なかった。


「そ、その……首相の人に似てるの?」
「あー、似てると言われれば?」
「しかし! ローレンという姓に関しては同じであるし、可能性は……」
「名前が同じ奴とか五万といるだろ」


 モカの苦笑しながらの質問に、菜々美は曖昧に自信なさげに答える。
 それに続いて、ハロルドはゾーイの言葉をフォローしようとしたのだが、それはあっさりとコタロウのご最もな意見に否定されてしまっていた。
 マイルズ・ローレン首相は、その外見の良さからも国民の人気は高かった。
 確かに、ローレンさんも十分なほど外見は整ってるし、目の色は同じような気さえするし、名前も一緒だけど……


「……何のことかしら」
「え、えっと……ローレンさん?」
「私が首相の孫娘? フフッ、あなたは本当に面白いことを言うわね? そんなまさか……私は赤の他人よ?」


 すると、俺達の微妙な空気を裂くようにして言葉を発したのは、他ならぬローレンさんだった。
 突然の言葉に対し、どこか怯えた様子のジェームズが、ローレンさんに声をかけた。
 その問いかけに続いてそれまでとは違って、ローレンさんはとても余裕のある笑みを浮かべて、ある人物を見つめた。


「あっそ。じゃあ、何で、マネキンを殺害する事態になったの?」
「それは……ゾーイ、あなたが言ってたじゃないの。このままだと、私が犯人にされそうだったから、身代わりになってもらおうとしたの。けど、そんな考えは愚かだったわ……罪深かった」


 そのある人物……ゾーイは、態度や表情を変えるはことなく、淡々とローレンさんに問いかける。
 それに対して、ローレンさんは少し考えてから、後悔したように憂いを見せた表情で答えていた。
 正直、俺の中でローレンさんは、もう黒だ……ナサニエル墜落事件に、何らかの関わりがあることは明らかだと、この場の誰もが思っているだろう。
 けど、今ローレンさんを追求できるだけの証拠はなくて……ローレンさんが答えなければ、真実は闇の中だ。
 それになぜだか、ここに来てローレンさんは自信を取り戻したようで余裕を見せてるし……


「ほほう。あくまで、白を切るって方向にシフトチェンジってわけね?」


 けど、そんなローレンさんを見て、ゾーイはそれは面白そうに笑ったのだ。


「……ッ!! 何がそんなおかしいの……ゾーイ・エマーソン!」


 そんなゾーイに、ローレンさんはまた冷静さを欠いて……いや、これは自分の心を保つための虚勢の叫びだな。
 すると、ローレンさんにつられたのとゾーイのただならぬ雰囲気で、全員の表情が一気に固くなるのがわかった。
 この次を、何を考えてる、君は……?

 
「真由、菜々美。レントゲンがあるとこまで、案内してくれないかな?」


 けど、全員が次に出るゾーイの言葉を待ってたのだが、これがまた君から出てきたのは予想外の言葉だった。


「えっと……は?」
「れ、レントゲン……?」


 おかげで、名前を呼ばれた当人の真由と菜々美は間抜けな声を上げていた。
 本当に何を考えているだろうか……?
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