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第三章-⑹ サトルと菜々美とモーリス
友情と愛情と深まる謎と
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「親友だと思ってた。それは、今だって変わらないよ」
「……そう、か」
サトルは少しだけ驚いたように目を見開いた後で、真顔で答えた。
表現と言葉が合ってなくないか?
そう思ってしまった俺は、変に言葉が上ずってしまう始末。
「昴は、僕の初めての友達なんだ。昴と一緒にいると、すごく落ち着いて素を出せる。それは多分、昴だからだってことと、昴が僕の父さんに似てるからなんだと思う」
「え、俺が?」
そんな密かに落ち込む俺を誰一人知る由もなく、話は進む。
何よりも、サトルからの言葉にまた俺は驚いて、多分表情が二転三転していたと思う。
だってさ、サトルの父さんっていうことは、国王様ってことだろ?
「国王ってさ、安心させるような器の大きい人物像が求められるんだ。けど、僕の父さんはまるで真逆な人だった。本当に国王に向いていない国王でさ、いつだって危なっかしくて不安な印象を覚えるような人だった」
そんな俺の戸惑いっぷりを理解したように、サトルは苦笑いで話を進める。
あれ? 何か、遠回しに俺のこと……
何てことを思ったのだが、父親のことを話すサトルの表情が、あまりに柔らかくて懐かしそうだったから、俺は何も言えなくなった。
「けど、僕はそんな父さんのことを誰より尊敬してたんだ。いつ何時も、自分の身を最優先にしなきゃいけないのにも関わらずに、父さんは僕や母さんのことを守るために一切の迷いも見せないような人だったんだ。だから、昴のことは薄々感ずいていたけど、地上に落ちてからそれがはっきりした」
「……え?」
「昴は無意識かもしれないけど、湖中や望くんのことを最優先にしてるよ。自分自身のことより、あの二人の安全のことを第一に考えて行動してる。そういうところが、父さんとそっくりなんだ……」
「あ、ああ……そうか……」
サトルは目を閉じて、美しい思い出に浸るように話をしていた。
だから、突然に俺の名前を呼んだ時は驚いて、思わず聞き返していた。
すると、サトルは俺の目を見て、胸に抱えた切ない思い出を飲み込むように吐き出した。
そんなサトルを前にして、俺にできることは目を逸らさないことぐらいだ。
「昴……黙っていて、本当にごめん!」
けど、サトルはやっぱり、俺よりも何倍も大人だった。
どんなに謝っても、サトルの両親が生き返るわけじゃないし、今回のことでサトルはいたずらに思い出したくないことを何度も思い出した。
そんなギリギリの状態で、人に謝れるということが、俺にはすごいと思う。
もし、俺だったら、人のことなんて考えられないと思うから……
「もういいよ。というか、俺はショックは受けていたけど、最初からサトルに怒ってはいなかったんだぜ?」
「え、そうなのか……?」
「まあな? けど、お前も俺と同じく親友だって思ってくれてたことが、結構嬉しかったから、どっちみち今回のことは許してやるよ」
俺が、サトルの過去を知ったから、受け止めたからといって、何ができるかはまだわからない。
けど、サトルにぶつけた言葉は、全て俺の本心だ。
驚いているサトルの顔が間抜けでおかしかったが、俺は一つ決心した。
サトルには嘘はつかないと……それが今のまだまだ世間を知らない俺にできる精一杯のことだと思う。
「結果まとめると、あんたは親の愛情を求めて、縋ってたのね」
まあ、美しく、丸く、この場が収まることがないってことはわかってたよ。
「そうだね……僕は根っこの部分で、親離れできていなかったんだ」
「無理もないよ! ある日突然、両親を失って、それで親離れしろだなんて、できるわけないよ……!!」
「そうね。あたし達には想像できないほどの辛いこととか、苦しいこととか、サトルは経験したんだと思う。けど、それを理由にして、他人を傷つけていい理由にはならないでしょ?」
ゾーイの鋭い言葉に、サトルは再び体を小さくして弱々しく答えた。
とっさに俺は、フォローをしようと割って入ってみたが、そんな俺の甘えた言葉は、ゾーイによって木っ端微塵に砕かれたのだ。
正しすぎて、俺は何も言えなかった。
「……君の言う通りだよ。何より、そのことに気付けたのはゾーイ、他ならぬ君のおかげだ。本当にごめん、こんなケガまでさせて……!!」
サトルはまた、深く深く頭を下げて背中を震わせた。
「別に? そもそも、あたしは、許す許さないとかどうでもいいの」
「え?」
「これまで通りに、あんたが使える奴のままでいてくれれば、それでいいの」
「ゾーイ……!!」
しかし、その深い謝罪に対してのゾーイの反応は、不釣り合いなものだった。
出た、ゾーイの遠回しの実は優しい言葉シリーズ。
何も気にしなくていいよと、きっとゾーイはそう言いたいのだと思う。
それがわかったのか、サトルは感極まっていて、我慢していた涙が溢れ出そうになっていた。
「それじゃ、話は終わりよね?」
「あ、え!? ま、待って! ゾーイ!」
「今度は何?」
「どうして、君には、僕の考えていることが当てられたの……!?」
しかし、そんな感動もひっくり返るほどのゾーイのあっさりと帰ろうとする姿勢に、サトルは待ったをかける。
その振り返ったゾーイの顔は夢に出てきそうなほどの迫力だったが、サトルの質問のおかげで、それは収まる。
「今までのサトルってさ、誰にでも平等と見せかけて、一歩線を引いてるようにそこからは誰も自分のテリトリーの中に入れないでしょ?」
「あ、うん……」
「それが、あたしと似てるからよ」
すると、ゾーイは少し考えてから、サトルに問いかける。
サトルは反射的に頷くが、次のゾーイの言葉に、俺達二人の息は止まった。
「この答えじゃ、ご不満? まあ、これ以上の質問は受け付けないけど」
そう言うと、ゾーイはさっさと部屋を出て行ってしまった。
サトルと似ているなら、君は一体、何を抱えているの……?
「……そう、か」
サトルは少しだけ驚いたように目を見開いた後で、真顔で答えた。
表現と言葉が合ってなくないか?
そう思ってしまった俺は、変に言葉が上ずってしまう始末。
「昴は、僕の初めての友達なんだ。昴と一緒にいると、すごく落ち着いて素を出せる。それは多分、昴だからだってことと、昴が僕の父さんに似てるからなんだと思う」
「え、俺が?」
そんな密かに落ち込む俺を誰一人知る由もなく、話は進む。
何よりも、サトルからの言葉にまた俺は驚いて、多分表情が二転三転していたと思う。
だってさ、サトルの父さんっていうことは、国王様ってことだろ?
「国王ってさ、安心させるような器の大きい人物像が求められるんだ。けど、僕の父さんはまるで真逆な人だった。本当に国王に向いていない国王でさ、いつだって危なっかしくて不安な印象を覚えるような人だった」
そんな俺の戸惑いっぷりを理解したように、サトルは苦笑いで話を進める。
あれ? 何か、遠回しに俺のこと……
何てことを思ったのだが、父親のことを話すサトルの表情が、あまりに柔らかくて懐かしそうだったから、俺は何も言えなくなった。
「けど、僕はそんな父さんのことを誰より尊敬してたんだ。いつ何時も、自分の身を最優先にしなきゃいけないのにも関わらずに、父さんは僕や母さんのことを守るために一切の迷いも見せないような人だったんだ。だから、昴のことは薄々感ずいていたけど、地上に落ちてからそれがはっきりした」
「……え?」
「昴は無意識かもしれないけど、湖中や望くんのことを最優先にしてるよ。自分自身のことより、あの二人の安全のことを第一に考えて行動してる。そういうところが、父さんとそっくりなんだ……」
「あ、ああ……そうか……」
サトルは目を閉じて、美しい思い出に浸るように話をしていた。
だから、突然に俺の名前を呼んだ時は驚いて、思わず聞き返していた。
すると、サトルは俺の目を見て、胸に抱えた切ない思い出を飲み込むように吐き出した。
そんなサトルを前にして、俺にできることは目を逸らさないことぐらいだ。
「昴……黙っていて、本当にごめん!」
けど、サトルはやっぱり、俺よりも何倍も大人だった。
どんなに謝っても、サトルの両親が生き返るわけじゃないし、今回のことでサトルはいたずらに思い出したくないことを何度も思い出した。
そんなギリギリの状態で、人に謝れるということが、俺にはすごいと思う。
もし、俺だったら、人のことなんて考えられないと思うから……
「もういいよ。というか、俺はショックは受けていたけど、最初からサトルに怒ってはいなかったんだぜ?」
「え、そうなのか……?」
「まあな? けど、お前も俺と同じく親友だって思ってくれてたことが、結構嬉しかったから、どっちみち今回のことは許してやるよ」
俺が、サトルの過去を知ったから、受け止めたからといって、何ができるかはまだわからない。
けど、サトルにぶつけた言葉は、全て俺の本心だ。
驚いているサトルの顔が間抜けでおかしかったが、俺は一つ決心した。
サトルには嘘はつかないと……それが今のまだまだ世間を知らない俺にできる精一杯のことだと思う。
「結果まとめると、あんたは親の愛情を求めて、縋ってたのね」
まあ、美しく、丸く、この場が収まることがないってことはわかってたよ。
「そうだね……僕は根っこの部分で、親離れできていなかったんだ」
「無理もないよ! ある日突然、両親を失って、それで親離れしろだなんて、できるわけないよ……!!」
「そうね。あたし達には想像できないほどの辛いこととか、苦しいこととか、サトルは経験したんだと思う。けど、それを理由にして、他人を傷つけていい理由にはならないでしょ?」
ゾーイの鋭い言葉に、サトルは再び体を小さくして弱々しく答えた。
とっさに俺は、フォローをしようと割って入ってみたが、そんな俺の甘えた言葉は、ゾーイによって木っ端微塵に砕かれたのだ。
正しすぎて、俺は何も言えなかった。
「……君の言う通りだよ。何より、そのことに気付けたのはゾーイ、他ならぬ君のおかげだ。本当にごめん、こんなケガまでさせて……!!」
サトルはまた、深く深く頭を下げて背中を震わせた。
「別に? そもそも、あたしは、許す許さないとかどうでもいいの」
「え?」
「これまで通りに、あんたが使える奴のままでいてくれれば、それでいいの」
「ゾーイ……!!」
しかし、その深い謝罪に対してのゾーイの反応は、不釣り合いなものだった。
出た、ゾーイの遠回しの実は優しい言葉シリーズ。
何も気にしなくていいよと、きっとゾーイはそう言いたいのだと思う。
それがわかったのか、サトルは感極まっていて、我慢していた涙が溢れ出そうになっていた。
「それじゃ、話は終わりよね?」
「あ、え!? ま、待って! ゾーイ!」
「今度は何?」
「どうして、君には、僕の考えていることが当てられたの……!?」
しかし、そんな感動もひっくり返るほどのゾーイのあっさりと帰ろうとする姿勢に、サトルは待ったをかける。
その振り返ったゾーイの顔は夢に出てきそうなほどの迫力だったが、サトルの質問のおかげで、それは収まる。
「今までのサトルってさ、誰にでも平等と見せかけて、一歩線を引いてるようにそこからは誰も自分のテリトリーの中に入れないでしょ?」
「あ、うん……」
「それが、あたしと似てるからよ」
すると、ゾーイは少し考えてから、サトルに問いかける。
サトルは反射的に頷くが、次のゾーイの言葉に、俺達二人の息は止まった。
「この答えじゃ、ご不満? まあ、これ以上の質問は受け付けないけど」
そう言うと、ゾーイはさっさと部屋を出て行ってしまった。
サトルと似ているなら、君は一体、何を抱えているの……?
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