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第三章-⑹ サトルと菜々美とモーリス
モンスターはどっちだ
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「え……?」
「サトル、気付いてる? あたしがこのデカブツと対決し始めてからの今までの時間で……!! はあ……あんたが、頑張れの一言すらかけてないことにさ!」
ゾーイはボロボロなくせに、そういう時こそ君は笑う。
怖いぐらいに笑いながら、ゾーイはサトルにそう問いかけた。
そんな場合じゃないだろうと、頭ではわかってて様々なことが駆け巡っているのに、なぜか俺はひどく冷静でゾーイの言っていることは、正しいなんてことを考えていた。
俺、真由、レオは、ゾーイが例のピッドブルとの対決を始めた時から、必死の懇願や応援を繰り返していたのだが、サトルは応援どころか、それから一言も発さずに黙って俯いたままだった。
「随分と薄情なのね、王子様!」
「ゾーイ、何を……」
「そもそも! あんたを怪しいと思い始めたのは……始めたのは! あんたのその目が原因よ? 目を離すと、すぐに空を睨んで、今すぐにでも特定の誰かを殺したいと願うようなその目! あと、それから……!!」
ピッドブルの攻撃を避けながら、ゾーイはサトルに暴言を浴びせた。
俺はその時、あの日の……ジェームズとコタロウと仲直りした、あの浜辺の夕日の景色を思い出していた。
ゾーイが言う通り、あの時のサトルは確かに空を睨んでいた……ゾーイも、気付いてたんだと、なぜか俺はホッとしてしまう。
一方で、サトルのは口元を震わせており、その姿はまるで……
「初めて出会った時から、あんたは常に怯えてたわ!」
「……ぼ、僕が……何を怯えるの……!?」
そう、サトルは怯えるように、逃げ出したいのにそれが許されないこの状況を必死に耐えるように、これでもかと腰に差してる剣を握りしめる。
サトルが怯えてることは、嫌でもわかったが、理由は何だ……?
「ナサニエルの墜落事故。あれの犯人をあんたはずっと、自分のイカれた叔父の仕業だって思ってたんじゃないの?」
「……ッ、もう返す言葉もないよ……」
ピッドブルの鋭い剣の攻撃を、寸前のとこをギリギリで避けながら、ゾーイはサトルに淡々と問いかける。
それを受けたサトルは、あっという間にその場に崩れ落ちて……予想してなかった答えに、俺は声が出なかった。
「全部、僕のせいなんだ……僕の存在が誰かをまた……!!」
「自惚れんじゃないっての!」
しかし、そんな絶望のど真ん中で、場違いすぎる呑気な声を上げたのはいつの間にか、ピッドブルの頭部にしがみつくような体制になっていた、ゾーイだ。
その呑気な声に、俯きっぱなしだった俺達やサトルと、まるで勝利を確信したように含み笑いを浮かべるフウタとモーリスは、一斉にゾーイを見上げた。
「こんな無駄に大掛かりで回りくどいこと、一人の人間を殺すためだけにするわけないでしょ? あんたのことを殺すだけなら暗殺者雇った方が確実よ。わざわざ、空島を一つ墜落させるなんて正気の沙汰じゃないし、それぐらいのことわかれ。このドアホ!」
「え……?」
「サトル。まず、あんたはいつも目の前のことに集中してないの。その代表例が菜々美ね? あんたは、菜々美を通して救えなかった母親のことを見てるの。そしてついでに、あんたは父親のことさえ忘れられていないから、結局は家族に未練タラタラなのよ」
「……待って?」
「それに、何よりもあんたは世の中に冷めてる! すぐに、どうにもならないことがあるって、諦める。態度には決して出してはないけど、無意識のうちに言葉として発しているのよ? その証拠が、あんたがあたしを応援しないっていうこの状況よ!」
サトルは困惑して、何度もゾーイに聞き返してたが、俺はそのゾーイの言葉でサトルへの違和感や、ずっと感じていた嫌な予感などの、全てが抜け落ちていくような感覚に陥っていた。
俺達への、サトルの一歩引いたような態度や、橘さんへの視線。
それら全ては、サトルが抱えていた罪悪感と憎悪と、そして愛情の飢えだったのだ。
ゾーイは、それを見抜いていた……サトル本人すらも、気付いていなかったことにだ。
本当に君は、普通の人間が飛ぶことが困難なハードルを、余裕で超えて行く。
「あんたは根っからの王族よ、それは立派なことだわ。今だって、あたしのことを助けるために、そこのバカ犬と陰気眼鏡の話に頷こうか、ずっと迷ってたんでしょ? 知らぬ間に、波風を立てない選択肢を選ぶようになったんでしょ?」
さらなるゾーイの追求に、サトルは言葉を失った。
その様子から、図星だったようだ。
「けど、あたし思うのよね! とっくに波風は立ちまくりだから、新しく波風が立っても、変わらないだろうってね!」
しかし、ゾーイはまた、まるで他人事のように緊張感のない空気の中で、その爆弾発言をする。
本当に無茶苦茶で、時々ヒヤッとするけど、ゾーイの言葉には、希望が溢れてくるような気が、いつもした。
「……ゾーイ、頼みがある」
「何?」
それは彼も同じで、小さく呟いた後にサトルは意を決したように、ゾーイを見据えた。
「そいつに勝ってくれ!」
「……その願い聞き入れた!」
それからは一瞬の出来事で、正直俺には何が起きたかは、あまり理解できなかった。
ゾーイは、ずっとしがみついていたピッドブルの頭部に足を固定し、そのまま挟むようにして首を絞めた。
そしてゾーイは、そのピッドブルが気を失う寸前という時に、首を絞めていた自分の足の拘束をといて、ピッドブルの巨大な剣を持つ方の腕に飛び移り、そのまま遠心力に任せてピッドブル本人にその剣の威力をくらわせたのだった。
そう、唯一、確かにわかることは、それまではボコボコだったのに、あっさりとゾーイは、その怪物に勝ってしまったということだけだった。
「サトル、気付いてる? あたしがこのデカブツと対決し始めてからの今までの時間で……!! はあ……あんたが、頑張れの一言すらかけてないことにさ!」
ゾーイはボロボロなくせに、そういう時こそ君は笑う。
怖いぐらいに笑いながら、ゾーイはサトルにそう問いかけた。
そんな場合じゃないだろうと、頭ではわかってて様々なことが駆け巡っているのに、なぜか俺はひどく冷静でゾーイの言っていることは、正しいなんてことを考えていた。
俺、真由、レオは、ゾーイが例のピッドブルとの対決を始めた時から、必死の懇願や応援を繰り返していたのだが、サトルは応援どころか、それから一言も発さずに黙って俯いたままだった。
「随分と薄情なのね、王子様!」
「ゾーイ、何を……」
「そもそも! あんたを怪しいと思い始めたのは……始めたのは! あんたのその目が原因よ? 目を離すと、すぐに空を睨んで、今すぐにでも特定の誰かを殺したいと願うようなその目! あと、それから……!!」
ピッドブルの攻撃を避けながら、ゾーイはサトルに暴言を浴びせた。
俺はその時、あの日の……ジェームズとコタロウと仲直りした、あの浜辺の夕日の景色を思い出していた。
ゾーイが言う通り、あの時のサトルは確かに空を睨んでいた……ゾーイも、気付いてたんだと、なぜか俺はホッとしてしまう。
一方で、サトルのは口元を震わせており、その姿はまるで……
「初めて出会った時から、あんたは常に怯えてたわ!」
「……ぼ、僕が……何を怯えるの……!?」
そう、サトルは怯えるように、逃げ出したいのにそれが許されないこの状況を必死に耐えるように、これでもかと腰に差してる剣を握りしめる。
サトルが怯えてることは、嫌でもわかったが、理由は何だ……?
「ナサニエルの墜落事故。あれの犯人をあんたはずっと、自分のイカれた叔父の仕業だって思ってたんじゃないの?」
「……ッ、もう返す言葉もないよ……」
ピッドブルの鋭い剣の攻撃を、寸前のとこをギリギリで避けながら、ゾーイはサトルに淡々と問いかける。
それを受けたサトルは、あっという間にその場に崩れ落ちて……予想してなかった答えに、俺は声が出なかった。
「全部、僕のせいなんだ……僕の存在が誰かをまた……!!」
「自惚れんじゃないっての!」
しかし、そんな絶望のど真ん中で、場違いすぎる呑気な声を上げたのはいつの間にか、ピッドブルの頭部にしがみつくような体制になっていた、ゾーイだ。
その呑気な声に、俯きっぱなしだった俺達やサトルと、まるで勝利を確信したように含み笑いを浮かべるフウタとモーリスは、一斉にゾーイを見上げた。
「こんな無駄に大掛かりで回りくどいこと、一人の人間を殺すためだけにするわけないでしょ? あんたのことを殺すだけなら暗殺者雇った方が確実よ。わざわざ、空島を一つ墜落させるなんて正気の沙汰じゃないし、それぐらいのことわかれ。このドアホ!」
「え……?」
「サトル。まず、あんたはいつも目の前のことに集中してないの。その代表例が菜々美ね? あんたは、菜々美を通して救えなかった母親のことを見てるの。そしてついでに、あんたは父親のことさえ忘れられていないから、結局は家族に未練タラタラなのよ」
「……待って?」
「それに、何よりもあんたは世の中に冷めてる! すぐに、どうにもならないことがあるって、諦める。態度には決して出してはないけど、無意識のうちに言葉として発しているのよ? その証拠が、あんたがあたしを応援しないっていうこの状況よ!」
サトルは困惑して、何度もゾーイに聞き返してたが、俺はそのゾーイの言葉でサトルへの違和感や、ずっと感じていた嫌な予感などの、全てが抜け落ちていくような感覚に陥っていた。
俺達への、サトルの一歩引いたような態度や、橘さんへの視線。
それら全ては、サトルが抱えていた罪悪感と憎悪と、そして愛情の飢えだったのだ。
ゾーイは、それを見抜いていた……サトル本人すらも、気付いていなかったことにだ。
本当に君は、普通の人間が飛ぶことが困難なハードルを、余裕で超えて行く。
「あんたは根っからの王族よ、それは立派なことだわ。今だって、あたしのことを助けるために、そこのバカ犬と陰気眼鏡の話に頷こうか、ずっと迷ってたんでしょ? 知らぬ間に、波風を立てない選択肢を選ぶようになったんでしょ?」
さらなるゾーイの追求に、サトルは言葉を失った。
その様子から、図星だったようだ。
「けど、あたし思うのよね! とっくに波風は立ちまくりだから、新しく波風が立っても、変わらないだろうってね!」
しかし、ゾーイはまた、まるで他人事のように緊張感のない空気の中で、その爆弾発言をする。
本当に無茶苦茶で、時々ヒヤッとするけど、ゾーイの言葉には、希望が溢れてくるような気が、いつもした。
「……ゾーイ、頼みがある」
「何?」
それは彼も同じで、小さく呟いた後にサトルは意を決したように、ゾーイを見据えた。
「そいつに勝ってくれ!」
「……その願い聞き入れた!」
それからは一瞬の出来事で、正直俺には何が起きたかは、あまり理解できなかった。
ゾーイは、ずっとしがみついていたピッドブルの頭部に足を固定し、そのまま挟むようにして首を絞めた。
そしてゾーイは、そのピッドブルが気を失う寸前という時に、首を絞めていた自分の足の拘束をといて、ピッドブルの巨大な剣を持つ方の腕に飛び移り、そのまま遠心力に任せてピッドブル本人にその剣の威力をくらわせたのだった。
そう、唯一、確かにわかることは、それまではボコボコだったのに、あっさりとゾーイは、その怪物に勝ってしまったということだけだった。
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