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第三章-⑹ サトルと菜々美とモーリス

上品なのは見た目だけか

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「出るって、どうやってだよ?」


 ゾーイの言葉に俺達を代表して反応をしたのは、困惑気味のシンだ。
 その疑問は、俺達の総意だった。
 地下であろうこの食料庫兼檻には、小さな窓すらついておらず、必然的に俺達の出口は正規の出入り口しかない。
 しかし、当たり前だけれどその出入り口はしっかりと施錠されている。
 しかも、催眠ガスで眠らされた時に武器を根こそぎ奪われたみたいで、ここにあるのは真由が持ってきた救急箱のみ。
 ピッキングできるようなものは何一つとして持ってないし、人間の力で鉄格子をこじ開けるなんて不可能。
 そんな状況を打破する方法は、俺にはわからなかったが……ゾーイは俺達の視線を背中に浴びても微動だにせず、鉄格子を見たまま何かを考えていた。


「ねえ、ここって、見回りとかは来たりしないの?」


 すると、前触れもなく、いつも通りにゾーイは突拍子もないことを言い出す。


「え? あ、見回りというか、三回は食事を運びに来るけど……」
「それって、何時ぐらい?」


 少しだけ驚いた後に、気を取り直して慣れたように返事をする、クレア。
 そのクレアに、さらにゾーイは質問を重ねる。


「そうね。多分、もうすぐ……」
「人間ども! 食い物だ!」


 けど、クレアが言葉を続けようとした瞬間、嫌な威圧的な声が響く。
 とっさに、ゾーイ以外の全員は、鉄格子から身を引く。


「しかし、増えたな? 本当に、餌代の無駄になってしょうがねえよ!」


 そう言って、檻の前で皮肉たっぷりに笑うのは、初対面の犬族だった。
 その犬族は、シルバーグレーの単色の毛色で、頭は先細りで長く、耳は垂れており、目は小さくて、瞳は明るいブルーグレー。
 これは確か……高貴な印象を与える犬種で……あ、ワイマラナーだ!
 その今まで出会ったどの犬族とも違う雰囲気のそいつは、レオ達が普段身に付けている中世ヨーロッパのような服装とは似ても似つかない服装だ。
 何だったっけな、この服装……?
 そんな風に、突然の見慣れない犬族の登場に俺達が動揺してた時……


「お前、その服装って……まさか、百鬼夜行 ひゃっきやぎょうの……!?」
「ヒャッキヤギョウ?」


 レオが真っ青なまるでこの世の終わりのような顔で、その犬族に問いただす。
 そんな見たことのないレオの動揺っぷりに戸惑いつつ、モカにどうしたのか事情を聞こうと振り返ると、モカもワナワナと尋常じゃないほど震えていた。


「確か百鬼夜行って、日本の説話などに登場する深夜に徘徊をする鬼や妖怪の群れのことよね? あ、それで和服?」


 しかし、そんな静まり返った雰囲気などを気にすることなく、ゾーイは相手の犬族にさらに問いただす。
 和服……あ、そうだ! このワイマラナーの犬族の服装、和服だ!
 けど、何か違うよな……? 黒い着物はまだいいけど、その下とか、袴じゃなくて黒いパンツだし、草履じゃなくてブーツだし……なんちゃって和服か?


「百鬼夜行は、ここら一帯を嗅ぎ回る荒くれ集団だよ……」


 すると、レオが顔を強ばらせながら鉄格子に近付き、そう答える。
 そういや、少し前に聞いた気がする。
 殺し以外は何でもやる、絶対どこの集落にも属さない物騒な集団がいるって。


「どうして、お前達がここにいる!」
「ああ、お前がレオか? フウタから話は聞いてるぜ? 人間なんかと仲良く馴れ合う、駄犬だってな? ククッ……」
「フウタが……!? 何で……」
「よりにもよって、百鬼夜行にゾーイ達のことを話すなんて……!!」


 レオは警戒しながら、目の前の犬族に話しかける。
 しかし、犬族は、そんなレオのことを面白そうに見つめて、さらに煽るような態度をとり続けて、その名前を出した。
 フウタ……その名前を出せば、レオとモカが動揺するだろうと、わかっていたのだろう……
 レオが苦痛に満ちたような表情を浮かべる一方で、モカは怒りに満ちていた。


「半信半疑だったが、フウタの言ってた通りに、人間の味方なんだな? どうかしてるんじゃねえのか? 相手は人間だぞ? 俺達を飼い殺してた奴らだぞ?」
「それはもう千年も前の……!!」
「うるせえ!! 何年経とうが、この人間どもが、俺達、犬や猫を飼い殺し、自由を奪っていた事実は変わらねえ!!」


 そんな二人のことを見て、その犬族は驚きつつ、軽蔑の目を向ける。
 それにレオが反応しようとしたところに、突然その犬族は怒鳴り声を上げた。
 思わず、レオは押し黙り、俺達も静まり返った。


「まあ、それも過去の話だ。そうなった大きな原因は、千年前の俺達が人間に圧倒的に劣っていたからだ。しかし、今の俺達はどうだ? 人間と対等、あるいは身体能力的には人間以上だ!! これが何を意味するかわかるか?」


 そんな俺達を嘲笑うように、犬族は俺達に煽るように問う。


「次はお前ら人間が、飼われる番なんだよ!! ククッ……ハハハハハ!!」


 そして、そいつは勝ち誇ったのように高笑いを上げた。
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