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第三章-⑹ サトルと菜々美とモーリス
すいみんすいみん不足
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「この調子だと、案外早くナサニエルに到着できそうだな?」
「……そうね」
俺は隣に座る真由に、なるべく自然にそう問いかけたが、その真由の顔から険しさがとれることはなかった。
ぐるりと周りを見渡すが、後ろに座る望とサトル、向かい側に座るアランとシン、その後ろに座るデルタとソニアも顔色は暗く、前に座るレオとモカや、他の犬族と猫族達も耳が垂れ下がったままだった。
俺達を含めた王国に残る兵士達や、戦えそうな男連中全員は今、それぞれがバスでナサニエルに向かっている。
ローレンさんや、王国に残る全員に見送られて、太陽が一番高い時に俺達は王国を出発した。
あれから、通信機に何度となく話しかけてもクレア達や、ましてやフウタやモーリスと繋がることはなかった。
俺達は罠だと知った上で、そして何の情報も知らないまま、敵地に乗り込もうとしていた。
そりゃ、全員が不安や恐怖で、顔色が悪くなることは不思議じゃないだろう。
「……しかし、この状況でよくもまあ爆睡できるよな」
まあ、ここにはそんな緊張感とは無縁の人間もいるけどね。
シンの呆れたような呟きに、俺達全員は一斉に後ろを振り返る。
そこには、一番後ろの一番広い席を独り占めして気持ち良さそうに眠るゾーイの姿。
そう、君だけはいつも変わらないね。
「あいかわらず、大物だよな」
「いやいや、コイツの場合、ただ単に感情がぶっ壊れてるだけだろ」
そんなゾーイの姿を見たデルタは肩を竦め、望は嫌味交じりで返す。
けど、その二人の顔はどこか安心したように綻んでいて、ふと見た向かい側の窓際に座るアランも口角を上げている。
他のみんなも、どこかしょうがないなという雰囲気を醸し出すのとともに、空気が柔らかくなるのを感じる。
君のその変わらない姿に、いつだって俺達は救われている……そう思考の渦に沈んでいた時だ。
「……到着かな?」
バスが止まり、レオが俺達の顔を見て確認を取るように問いかける。
そして、俺達は窓の外を覗き込む。
そこに広がってるのは、俺達のかつての学び舎である、ナサニエル。
「久方ぶりの帰還だわね」
しかし、久しぶりの光景に、特に感情の整理もつかぬままに、その突然の言葉に俺達は窓から視線を外して、一斉に振り返った。
「え、ゾーイ……!? いつ起きたの!?」
「今だけど? それより全員、しっかり寝たの? 中に何が待っているのか全然わからないんだから、使い物にならなかったら眼球えぐり出すわよ?」
俺の叫びに、ゾーイはマイペースに伸びをしながら呑気にそう答える。
え、五分前まで爆睡してなかった!?
そんな風にゾーイの寝起きの良さに驚きつつも、答えの内容の物騒さに身の危険を感じて、俺は背筋が凍っていく感覚に陥った。
ゾーイには出発する時、余計なことは考えずにとにかく寝ろとしつこいほど言われていた、全員が。
きっと、俺達が揃って、昨夜からよく眠れていないことを察しての言葉だったのだろうけど、やっぱり眠れないものは眠れないのである。
まあ、そんなわけで、ゾーイ以外の大半が睡眠不足のまま、ナサニエルに到着してしまったのだ。
しかし、この心配は、最悪な形で解消されることになるのであった……
「他のバスも着いたっぽいわね? とりあえず、下りるわよ」
そして、ゾーイの言葉を皮切りに、俺達は続々とバスを下りていく。
そこには、他の犬族と猫族達を乗せた六台のバスも到着しており、合流する。
バスは、少しナサニエルからは離れた場所に停車していた。
今回、王国からは三百を超える人数がこの救出作戦に参加している。
「じゃあ、作戦通りよ。それぞれ武器を持って配置につき、潜入を開始して。あと、何度も言うけど、銃は最後の手段だってことを忘れないでね?」
ゾーイは全員の前に立つと、はっきりと、念を押すように宣言をする。
そして、それぞれがその言葉に重く頷き、バスのトランクに積まれた大量の剣と銃を持ち出していく。
そう、俺達は救出作戦のために、封印していた武器庫を開けた。
改めて整備をし、全員分の拳銃や、ライフルにバズーカまでもを、バスに詰め込んだ。
ゾーイの言う通り、銃はあくまでも護身用である。
むしろ、これを使うことになるような事態は避けたいというのが、この場の全員の総意だ。
しかし、ゾーイが武器庫を開けようと言い出した時に、誰も反対をする者が誰一人いなかったのも事実だ。
それぐらいの危険が、ここにはある。
「全員に行き渡ったわね? じゃあ、解散。健闘を祈るわ」
「……全員、無茶はしないでくれ!」
武器が行き渡ったのを見計らって、ゾーイは静かに、レオは絞り出すように全員に告げた。
それを受けると、犬族と猫族達はそれぞれの配置に散らばって行くのだった。
そして、俺達もゾーイとレオを先頭にして周りを警戒しながらも、ゆっくりとナサニエルに近付いて行く。
ナサニエルの周りは俺達が出て行った半年前と何ら変わらなかった。
まあ、強いて言うなら、雑草が伸びたぐらいかな……と、どこか呑気に周りの景色を観察していた時だ。
「ストップ!」
先頭を歩いていたゾーイが、突如の宣言とともに足を止めた。
「え? あ、ゾーイ?」
「聞いて」
俺達はゾーイのその急停止に戸惑いを見せ、何だどうしたと顔を見合わせる。
そんな俺達を代表してレオがゾーイに問いかけるが、ゾーイはまったくもって答えにならない一言告げると……
「全員、倒れる時は受け身をとって」
俺達に背中を向けたまま、そんな風にわけのわからないことを呟く。
どういう意味なのだと問いかけようとした時に、なぜか俺の視界が揺らぐ。
そして、次の瞬間には俺達は、全員で地面に倒れていた――
「……そうね」
俺は隣に座る真由に、なるべく自然にそう問いかけたが、その真由の顔から険しさがとれることはなかった。
ぐるりと周りを見渡すが、後ろに座る望とサトル、向かい側に座るアランとシン、その後ろに座るデルタとソニアも顔色は暗く、前に座るレオとモカや、他の犬族と猫族達も耳が垂れ下がったままだった。
俺達を含めた王国に残る兵士達や、戦えそうな男連中全員は今、それぞれがバスでナサニエルに向かっている。
ローレンさんや、王国に残る全員に見送られて、太陽が一番高い時に俺達は王国を出発した。
あれから、通信機に何度となく話しかけてもクレア達や、ましてやフウタやモーリスと繋がることはなかった。
俺達は罠だと知った上で、そして何の情報も知らないまま、敵地に乗り込もうとしていた。
そりゃ、全員が不安や恐怖で、顔色が悪くなることは不思議じゃないだろう。
「……しかし、この状況でよくもまあ爆睡できるよな」
まあ、ここにはそんな緊張感とは無縁の人間もいるけどね。
シンの呆れたような呟きに、俺達全員は一斉に後ろを振り返る。
そこには、一番後ろの一番広い席を独り占めして気持ち良さそうに眠るゾーイの姿。
そう、君だけはいつも変わらないね。
「あいかわらず、大物だよな」
「いやいや、コイツの場合、ただ単に感情がぶっ壊れてるだけだろ」
そんなゾーイの姿を見たデルタは肩を竦め、望は嫌味交じりで返す。
けど、その二人の顔はどこか安心したように綻んでいて、ふと見た向かい側の窓際に座るアランも口角を上げている。
他のみんなも、どこかしょうがないなという雰囲気を醸し出すのとともに、空気が柔らかくなるのを感じる。
君のその変わらない姿に、いつだって俺達は救われている……そう思考の渦に沈んでいた時だ。
「……到着かな?」
バスが止まり、レオが俺達の顔を見て確認を取るように問いかける。
そして、俺達は窓の外を覗き込む。
そこに広がってるのは、俺達のかつての学び舎である、ナサニエル。
「久方ぶりの帰還だわね」
しかし、久しぶりの光景に、特に感情の整理もつかぬままに、その突然の言葉に俺達は窓から視線を外して、一斉に振り返った。
「え、ゾーイ……!? いつ起きたの!?」
「今だけど? それより全員、しっかり寝たの? 中に何が待っているのか全然わからないんだから、使い物にならなかったら眼球えぐり出すわよ?」
俺の叫びに、ゾーイはマイペースに伸びをしながら呑気にそう答える。
え、五分前まで爆睡してなかった!?
そんな風にゾーイの寝起きの良さに驚きつつも、答えの内容の物騒さに身の危険を感じて、俺は背筋が凍っていく感覚に陥った。
ゾーイには出発する時、余計なことは考えずにとにかく寝ろとしつこいほど言われていた、全員が。
きっと、俺達が揃って、昨夜からよく眠れていないことを察しての言葉だったのだろうけど、やっぱり眠れないものは眠れないのである。
まあ、そんなわけで、ゾーイ以外の大半が睡眠不足のまま、ナサニエルに到着してしまったのだ。
しかし、この心配は、最悪な形で解消されることになるのであった……
「他のバスも着いたっぽいわね? とりあえず、下りるわよ」
そして、ゾーイの言葉を皮切りに、俺達は続々とバスを下りていく。
そこには、他の犬族と猫族達を乗せた六台のバスも到着しており、合流する。
バスは、少しナサニエルからは離れた場所に停車していた。
今回、王国からは三百を超える人数がこの救出作戦に参加している。
「じゃあ、作戦通りよ。それぞれ武器を持って配置につき、潜入を開始して。あと、何度も言うけど、銃は最後の手段だってことを忘れないでね?」
ゾーイは全員の前に立つと、はっきりと、念を押すように宣言をする。
そして、それぞれがその言葉に重く頷き、バスのトランクに積まれた大量の剣と銃を持ち出していく。
そう、俺達は救出作戦のために、封印していた武器庫を開けた。
改めて整備をし、全員分の拳銃や、ライフルにバズーカまでもを、バスに詰め込んだ。
ゾーイの言う通り、銃はあくまでも護身用である。
むしろ、これを使うことになるような事態は避けたいというのが、この場の全員の総意だ。
しかし、ゾーイが武器庫を開けようと言い出した時に、誰も反対をする者が誰一人いなかったのも事実だ。
それぐらいの危険が、ここにはある。
「全員に行き渡ったわね? じゃあ、解散。健闘を祈るわ」
「……全員、無茶はしないでくれ!」
武器が行き渡ったのを見計らって、ゾーイは静かに、レオは絞り出すように全員に告げた。
それを受けると、犬族と猫族達はそれぞれの配置に散らばって行くのだった。
そして、俺達もゾーイとレオを先頭にして周りを警戒しながらも、ゆっくりとナサニエルに近付いて行く。
ナサニエルの周りは俺達が出て行った半年前と何ら変わらなかった。
まあ、強いて言うなら、雑草が伸びたぐらいかな……と、どこか呑気に周りの景色を観察していた時だ。
「ストップ!」
先頭を歩いていたゾーイが、突如の宣言とともに足を止めた。
「え? あ、ゾーイ?」
「聞いて」
俺達はゾーイのその急停止に戸惑いを見せ、何だどうしたと顔を見合わせる。
そんな俺達を代表してレオがゾーイに問いかけるが、ゾーイはまったくもって答えにならない一言告げると……
「全員、倒れる時は受け身をとって」
俺達に背中を向けたまま、そんな風にわけのわからないことを呟く。
どういう意味なのだと問いかけようとした時に、なぜか俺の視界が揺らぐ。
そして、次の瞬間には俺達は、全員で地面に倒れていた――
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