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第三章-⑸ クレアとハロルド

混ぜるな危険だ突き放せ

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「イッタタ……あー、体が痛すぎる」
「え、昴くん、大丈夫か!?」


 掃き掃除の最中に、体のあちこちを摩りながら小さく悲鳴を上げた俺に、血相を変えたハロルドが駆け寄って来る。


「あ、ごめん……ありがとう。全然、大したことないから」
「しかし、体が痛いとは……少しハードワークなのではないか!?」
「いや、本当に大丈夫なんだ。夜まで望と話し込んでてさ? そのまま二人して寝ちゃったらしくて……それで、朝には見事に床に投げ出されてたってわけ」
「……望くんの寝相は、変わらずということなんだな」


 けど、せっかく駆け寄って来てくれたのに理由が理由なだけに、俺は申し訳なくなる。
 ハロルドも俺の不調の理由を聞いた途端に、遠い目をして静かに頷く。
 きっと、望に蹴飛ばされて寝不足になった日々のことを、思い出しているのだろう……男子は、全員被害者だしな。


「珍しいわね? そんな夜中まで、何を話し込んでいたの?」


 すると、そんな俺とハロルドが気になったのだろうか、クレアが少し驚いた様子でそう質問してくる。


「あ、いや……くだらないことだよ」


 けど、俺はクレアの質問にとっさに嘘をついた。
 昨日の夜に、俺と望が話していたのはゾーイとのそれぞれの進展状況についてのことだ。
 俺があの日に覗き見をしていたことを知らない望は、包み隠さずにあの屋上でのことを話してくれた。
 知っているんだ、ごめんなと何度も心の中で謝っていた俺だけど、そんなこと言えるわけもなく……
 俺は望にお詫びも兼ねて、これまた申し訳ないけど、デルタのプリン事件のことを詳しく話した。
 そうすると、アランのことも必然的に話をした。
 まあ、そういうわけで、内容が内容だし、あの日から微妙な感じのゾーイとアランの名前をクレアにバカ正直に言うことができるわけもなく、俺は嘘をつく羽目になったというわけだ。


「あー、男同士の話ってことね?」


 まあ、とりあえずは、クレアに変に勘ぐられないなら、それで良しだ。
 笑ってるし、納得もしてるようだし。


「しかし、本当に二人は最初の頃が嘘のように、良好な関係を築いてるな!」


 そして、まったく関係ないけど、納得してくれたハロルドが、俺と望のことをそう褒めてくれる。


「本当にね? 兄弟は仲がいいのが一番よ。安心したわ」
「あはは……その節は、本当にご迷惑をおかけしました」


 そのハロルドに続いて、クレアは俺を見て、満足気に頷く。
 俺は、何とも言えない気持ちで二人に答え、そのまま掃き掃除を始めた。
 二日前から新しい週が始まり、今週の俺の当番はクレアとハロルドと一緒に教会の掃除だった。
 今は、この教会の一番広い場所、礼拝堂の掃除中だ。
 俺達がここに来る前は、教会の掃除は一か月に一回のペースだったようだ。
 けど、それじゃ叶う願いも叶わなくなりそうだとゾーイが言い出し、約半年間寝泊まりしていた教会から引っ越したその日に、ゾーイは俺達に教会の毎日掃除を言い渡したのだ。
 まあ、確かに、この教会のあちこちに思い入れがないってわけじゃないし、教会への恩返しとしようというクレアの素晴らしいまとめにより、俺達は教会も管理することになったのだった。
 最近の俺達の仕事って、何だか急に増えすぎじゃないか? 
 そんなことを俺が、密かに心の中で不満を漏らしていると……


「思ったんだけど、今って掃除の真っ最中じゃないの?」
「それなら、また出直すだけだ」


 今の俺が聞きたくない声のランキングツートップの、ご登場だった。
 誰もいない教会の廊下は、声がよく通っているから聞き間違いはないだろう。


「あの声は、ゾーイとアランではないだろうか?」


 どうやら、ハロルドも俺と同じ考えのようで……ますます、状況は絶望的だ。
 俺が恐る恐るでゆっくりと、クレアのことを振り返ると……


「……隠れましょう」


 クレアは、ゾーイとアランが歩いてやって来るであろう廊下を見つめて、そう告げた。


「え?」
「今……何と?」


 そして、まさかのクレアの言葉に俺とハロルドは、ほぼ反射的に聞き返す。


「そこ、椅子の下に潜って。早く」


 けど、クレアはそんなぼんやりしてる俺とハロルドは構わず、まっすぐに礼拝堂に設置された指差して、急かす。
 しかもだ、さっきまでとは打って変わってクレアの顔に笑みがなかった。
 俺とハロルドは、そんなクレアに従う他なく……俺達は黙って大人しく、椅子の下に潜り込んだのだった。


「また、このパターンかよ……」


 望とデルタの現場に引き続き、今度はアランときた。
 俺は礼拝堂の椅子の下から、柄にもなく祈りを捧げてる。
 どうして、俺ばっかりこんなにも間が悪いのでしょうかと……
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