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第三章-⑸ クレアとハロルド

恋をして気付いたこと

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「さてと、僕達は異常がないか見回りをしてくるよ」
「あ、俺も行くよ!」
「昴は休んどけって。お前ら人間は、俺達と違ってすぐに倒れるからな」


 欠伸をしながらも、見回りをしに行くと言い出すレオに俺も行くと答える。
 しかし、それはコタロウの不器用な気遣いによって阻まれる。
 そうだねと笑うレオとコタロウを見ると、最初の頃の敵意むき出しだった頃が遠い昔のことのようだ。


「ゾーイっていう例外もいるけどね?」


 けど、モカの言葉に笑っていた俺達は一瞬で固まり、呆れたように笑う。
 数えきれないほどにいろんなことがあったっていうのに、ゾーイだけは本当に出会った時から変わらないよな……
 それが羨ましいと思う俺は、まだまだ君には遠いんだろう。


「……あいつのことは、人間だと思ってねえよ。ゾーイってジャンルだ!」
「あらら、コタロウってば、上手いこと言うじゃないの」
「というか、ゾーイってさ、ここ数週間寝てないんじゃないかな……」


 コタロウの言い切った言葉に、モカは納得したように頷く。
 一方で、レオは心配そうにゾーイのことを見つめた。
 レオの視線の先のゾーイは、アランとまだ何かを話しており、いつも通りに笑っている。
 ゾーイへの不平不満が溢れ出すのと同時に、全員がこれはゾーイがいなきゃ成し遂げられなかっただろうと、絶対声に出さずとも思っていた。
 常に、この電気開通工事の中心には君の姿があって、リアルにいつ寝てるのかと心配になるほどだった。
 ゾーイなら、多少は人間寝なくたって死なないでしょとか言いそうだな……
 

「よし、じゃあ、お前らは仲良くやってくれよな!」
「え? 何のこと……真由?」


 気を取り直したようにコタロウは俺に後ろを指差して、そう言う。
 何のことだよと振り返れば、そこには小さく手を振る真由がいた。
 ニヤリと笑う三人に苦笑しながら別れを告げ、俺は真由のもとへ向かった。
 

「真由、どうした? 橘さんと王国を回ってみるんじゃなかったのか?」
「あー、ちょっとね?」
「何だよ?」
「……あっちよ。ほら、見て?」


 誤魔化すような返事に不思議に思って聞き返すと、真由はニヤリと笑う。
 そして、俺の顔を掴んで向かせた方向には橘さんと……サトルがいた。


「ああ、そういうことか……」
「菜々美、ずっと頑張ってたし、やっと実った恋だもの。邪魔できないよ」


 真由は見守るような暖かい視線を、橘さんとサトルに向けていた。
 この二か月間で変化したことは、まだ他にもある。
 まず、俺と真由は恋人になり、時期を見て話そうということになったが、その日に即効でバレた。
 それも、ゾーイにやっとくっ付いたのと急に言われたことで、二人揃って動揺したのが原因だ。
 何でわかったのだとゾーイに聞く前に全員にもみくちゃにされ、まだ理由は聞けていないが……そんな経緯があり、俺と真由の関係は周知の事実となった。
 それからすぐだったと思う、橘さんとサトルが恋人になったのは。
 

「本当によかった。雨野だったら、菜々美のこと大切にしてくれそうだし!」
「あー、そうだな……」
「え? 何か微妙な返事なんだけど?」
「そ、そんなことないって!」


 思わず、煮え切らない返事をしてしまって、真由には案の定怪しまれる。
 慌てて、誤魔化すように取り繕った。


「さては……雨野のことを盗られて、寂しいとか?」


 けど、なぜか俺の彼女はあらぬ方向に話を進めようとする……


「はあ? バカ言うなよ。俺は、湖中真由一筋だっての」
「……不意打ちは卑怯だ」
「何言ってんだか……行くぞ。せっかく記念すべき日だ、王国一周しようぜ」
「う、うん! 一周する!」


 赤くなって頷く真由に満足して、俺は真由の手を取って歩き出す。
 俺の少し後ろを、すっかり火照った顔を冷ましながら真由は着いてくる。
 申し訳ないけど、今の顔を見られたくはないから好都合だった。
 多分俺は、ホッとした顔をしてる。
 真由に言ったことは本心だけど、話を変えるために言ったことでもある……
 俺は横目で、仲良さそうに腕を組んで歩くサトルと橘さんを見る。
 傍から見たら、美男美女のお似合いの恋人にしか見えないが……俺は、最近のサトルに違和感があった。
 これは多分、真由と恋人になった今の俺だからわかる……サトルは、心から笑っていない。
 しかも、それはきっと、前からだ。
 恋をしている人間の顔には、何か共通点みたいなものがあると俺は思う。
 真由、橘さん、望、デルタ……多分それは俺もだ。
 ふとした瞬間に、幸せでたまらなくて満たされたような顔をする時がある。
 サトルはそれがないし、むしろ……


「あれ、シャノンさんかな?」
「え?」


 真由の声に、俺は思考の渦から引き戻されて顔を向ける。
 それは、多分だけど、ローレンさんが家に帰ろうとしている姿だった。


「こんなにおめでたい日なのに、もう帰っちゃうのかな?」
「けど、あの人は一人が好きだろ?」
「それはそうだけど……でも!」
「真由? それはお節介だと思うぞ?」
「わ、わかったよ……」


 少し拗ねた真由の頭を撫で、俺達はローレンさんと逆方向に歩き出す。
 あの人って……どんな人だっけな?
 俺は、言葉にできない不安を振り切るようにして、光の玉の中に飛び込んだ。
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