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第三章-⑷ アランとシンとレオとモカ

そこは処刑台であった

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「……お前、何が言いたいんだ」


 鋭く睨みながらゾーイに吐き捨てるアランの言葉は、これまた凍りついたその場の全員の総意だっだと思う。
 ダメだ、ゾーイが何を言いたいのか全然わからないんだけど……


「ほらほら、それも君がコミュニケーション不足だからよ? 普段から、おしゃべりしてたら簡単なことよ? 本当に察しが悪すぎよね~!」
「……俺はな、回りくどいのがこの世で一番嫌いなだけだ」


 本当に何がしたいんだよ!?!?
 会話になってないどころか、アランがブチ切れるまで五秒前ですみたいな顔をしてるんだけど!?!?
 俺の心は、正真正銘荒れ狂っていた。
 そんな俺達の心の叫びを露知らず、ゾーイは話を続ける。


「あら、失礼? それじゃ、単刀直入に申し上げますわね?」
「さっさとしろ。そもそも俺は、こんなふざけた場所から一刻も早く……」
「怯えてるんでしょ」


 アランの言葉を遮り、ゾーイは含んだ笑顔でそう告げた。
 そのゾーイの言葉に、出会ってから初めてアランは動揺を見せたのだ。


「……何だと?」
「聞こえたでしょ? アラン、あんたは地上での生活に慣れること、つまり平和ボケして、空島に帰って家を継いだ時に自分が使い物にならなくなってしまうことに怯えてる。もっとわかりやすく言うと、あんたは残酷さを失って、自分が優しくなることに怯えてる。だから、王国の改革作業に関わるのも避けてる」


 ゾーイの言葉が、俺は、それはきっと他のみんなもだと思うけど、理解することができなかった。
 優しくなることに怯えてるって……
 それの何が問題なのか、俺にはまったく理解できないまま、どんどんゾーイとアランの話は進んでいった。


「けど、必死に隠してるつもりのところ悪いけど、あんたはもう既に絆されてるわよ? その証拠が今回の事件」
「……あいにくだが、お前の妄想話に興味はねえな。今回のことは、俺がむしゃくしゃしていた時に、偶然そこのクソ間抜けどもがいた。だから、殴った」
「へー、じゃあ、さっきの拳銃で襲うの話はなんだったのよ?」
「偶然聞こえたんだ。それで、とっさに罪を軽くするための言い訳に使った。さっきまで忘れてたぐらいだ」
「逃げた理由は? あたしが言ったこと否定しなかったじゃん?」
「それすら面倒だったからだ。逃げたのは、この腑抜けた毎日に少しスリルが欲しいと思ったから。それだけだ」


 アランのその言葉を最後に、ゾーイは黙り込んで俯いてしまった。
 え、どうなるんだよこれ? 誰もが様子を伺うように沈黙していたその時……


「アッハハハ! アラン、あんたやっぱり無口の方がいいね! 喋った途端に嘘バレバレだもん! あー、最高!」


 ゾーイが森中に響くような大声で、アランに向かって爆笑し始めたのだ。


「……壊れたか」


 さすがのアランさえ、そんな急展開に俺が見てもわかるほどに、眉間にしわを寄せて困惑してるようだ。
 まあ、困惑してるのは全員だけど……


「無理! お腹痛いわ! あんたの今の生活のどこに、むしゃくしゃする要素があるってのよ? むしろ、今のあんたの生活は今までの人生の中で一番の黄金期ってぐらいに、平和なんじゃん? 嘘が下手くそすぎるでしょうよ!」
「あ?」
「あんたは、正義感強すぎるんだか、物騒すぎるんだか、極端なのよね? もう既に、昔のアラン・ロジャーはいないのよ?」
「お前、何を……」


 昔のアラン・ロジャーはいないのよ。
 そのゾーイの言葉に、それまでずっと無表情のままだったアランの顔色が変わった。
 目を見開いた後で、すぐにゾーイのことを今までの何十倍もの鋭さで睨む。
 思わず、そのアランの気迫に、俺達は一歩ずつ後退りするほどだ。
 けど、怯える俺達とは正反対にゾーイはそんなアランを見ると、笑うことをやめたのだ……


「暴力で守るしか脳のない自分にはこの世界は綺麗すぎるって、そこの部分も怯えてるんだろうけど、アラン・ロジャーは、父親とは別の人間なの。いくら、裏社会のボスに君臨してるからって、それを真似しなきゃいけないなんていう決まりはないでしょ?」
「……黙れ」
「わざわざ、軽蔑する人間のようになる意味ある? こうでなきゃいけないって決まりはないの。自分の思った通りのやり方を試せばいいじゃん」
「黙れって言ってんのが、テメーは聞こえねえのか!!!!」


 ついに、我慢の限界に達したアランは恐れていた行動に出た。


「アラン!! それだけはやめろ!!」
「イヤアアアアア……!!」
「落ち着けって!! 頼む、早まるな!!」


 怒りに狂ったアランは、ゾーイの首を両手で絞め上げたのだ。
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