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第三章-⑶ ジェームズとコタロウ
お腹と背中がくっつくぞ
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「借りとか、一石三鳥とか余計なこと言わないで、レオ達に素直に助けてくれてありがとう、生活がもっと楽になることを教えるよとか言えばいいのに……」
「そうね。けど、その言い方はちょっとゾーイらしくないと思うな」
「何をコソコソと、イチャついてんだ」
真由がそう言いながら、クスクスと楽しそうに笑う。
そこに真由とは逆隣に座る望が、ニヤニヤしながら話しかけてきた。
「イチャ……!? そ、そんな、あの、俺達は別にイチャついてなんか……!!」
「そうよ。何をバカなことを言ってるのよ? ゾーイの話をしてたの」
「おう、そうか……何か悪かった……」
バッサリと否定され、俺はショックを隠しきれなかった。
その流れを見た望はいたたまれなくなったのか、素直に謝ってくる。
それも俺の肩に手を置きながら……
「ねえ、望も思わない?」
「何がだよ?」
「ゾーイの回りくどい優しさのこと!」
「あー、それか……」
真由のその言葉を聞いて、望はいまだレオとモカと謎に攻防を続けるゾーイを見つめる。
溶けてしまいそうなほど、愛しいものを見つめる目で。
けど、この目をゾーイに向ける人物を俺はあと一人知ってる。
そして、俺は向かい側に座るデルタに視線を移す。
すごく優しくて、穏やかで、陽だまりのようなそんな目だった。
二人のゾーイを見つめる目は、見てるこっちが照れくさくなるほどの愛しいと叫ぶようなそんな目だ……
ゾーイが二人の気持ちに気付いているのかは、はっきりしていなかった。
二人に対する態度は出会った頃から変わってないしな……
けど、いろんなことに鋭いゾーイのことだから、とっくに気付いていてあえて同じ態度で接してるとか……
「何が、生き残って頂点に立つだよ。猛獣がうようよしてて何かと物騒だから、少しぐらい危機感を持てって、普通に言えってんだよ」
「その意見、俺も賛成だわ。文明進めろは大げさすぎるよな?」
望の悪態をついたような、からかうような言葉にデルタも乗っかる。
そうすると、二人はわかち合ったように笑い合うのだ。
まあ、今は当人達が平和なら、俺はそれ以上は何も言わないけどね。
「けど、きっとゾーイは、そうやって文明を一気に進めて、レオ達の生活を豊かにすることで、自分達のことを受け入れてくれたことへの恩返しと、人類の罪滅ぼしをしようとしてくれてるんだよね」
ソニアはそう言いながら、すごいなととても小さな声で呟いていた。
「そうね……ゾーイは自分を、わざと悪役じゃないけど、何か失敗した時に自分に矛先がくるようにしてる。そうすることで、レオ達には思い切って挑戦してほしいってことなんだと思う」
「何歩先を歩いているんだろうな……」
真由の穏やかな声に、俺は誰かに聞かせるでもないような音量で呟いた。
単純に見えて、ゾーイはいくつもの可能性を持っている。
自分のことしか考えていないように思わせて、最終的には人のことばっかり考えているよな……
「あ、そうだ! 男子全員で、他の作業は後回しでいいから、冷蔵庫の制作よろしく! 期限十日ね? あ、一秒でも過ぎた場合は三日間三食抜きなので、文字通り死ぬか生きるか頑張ってね?」
うん、やっぱり全部だ、この一連の言葉は全部、前言撤回します。
ゾーイは史上最悪の自己中です。
「三日が何時間か、何分か、何秒か、数えたことはあるのかあああ!!!!」
「そんな無茶ぶりあるかよ!? せめてこの楽しい空間ではまだ言ってほしくなかったあああ……!!」
ハロルドは天に叫び、シンは床に平伏して泣いていたかもしれない。
とにかく、二人の体勢が真逆で、当事者でなかったら、爆笑していただろう。
うん、当事者でなかったらな……
「罰が下手すりゃ命に関わるぞ! 何をどう考えても重すぎだろ!」
「昔から言うでしょ? 赤信号みんなで渡れば怖くないってさ?」
「赤信号は怖くないけど、みんなで空腹の待つ未来は地獄しかないけど!?」
「菜々美~? ハーブチキン取って」
望とデルタに挟まれて、これでもかと罵詈雑言を浴びせられてるのに、ゾーイは見事にサラリと受け流していく。
そして、返事をすることすらもやめてしまって橘さんにハーブチキンを強請るという始末だ。
ちなみに、モーリスはお茶を飲んでおり、アランは既にその場にいなかった。
どうやら、考えることをやめたり、最初から聞かなかったことにするという選択をそれぞれ選んだようだ。
「これは、明日から大変だな……」
けど、この男だけは違うようで……
「サトル? お前、もしかしてちょっとワクワクしてないか?」
「あ、バレた?」
「呆れたな。お前にとって、ゾーイからの無茶ぶりはゲーム感覚か?」
「何事も、人生は経験だってば」
「そうかよ……俺は今のうちに食事を楽しんどくとするよ」
サトルのポジティブなバカっぷりには呆れを通り越して、感心すらする。
俺はテーブルの奥にある手羽先を取りに行くために、立ち上がる。
けど、手羽先よりも先に目に止まった人物に俺は話しかけた。
「ジェームズ、具合悪いのか?」
「え? あ、昴くん……」
「大丈夫か? 何か、ほとんど食べてなくないか?」
目に止まったのは、取り皿が綺麗なままになっていたジェームズだった。
そういえば、さっきからずっとジェームズの声を聞いてなかったような……
「食欲ないんだよね……」
「けど、一口ぐらい食べないと……」
「そうだよね……ごめん、もう寝ようと思う」
それだけ言うと、ジェームズはフラフラな足取りで奥に消えてしまった。
***
全員の知恵と体力を振り絞り、俺達は本当に十日で冷蔵庫を完成させた。
三日間の三食抜きなんて本来なら人間のやることではないけど、あのゾーイは常識で当てはめてはいけないというのがアランを抜いた全員の総意だった。
まあ、そんなわけで死にものぐるいで完成させた。
けど、この冷蔵庫によって、あんな事件に発展すると誰が想像できたか……
それは、冷蔵庫が完成してから五日目の夕方だった。
「おい! 食料が荒らされてるぞ!」
「そうね。けど、その言い方はちょっとゾーイらしくないと思うな」
「何をコソコソと、イチャついてんだ」
真由がそう言いながら、クスクスと楽しそうに笑う。
そこに真由とは逆隣に座る望が、ニヤニヤしながら話しかけてきた。
「イチャ……!? そ、そんな、あの、俺達は別にイチャついてなんか……!!」
「そうよ。何をバカなことを言ってるのよ? ゾーイの話をしてたの」
「おう、そうか……何か悪かった……」
バッサリと否定され、俺はショックを隠しきれなかった。
その流れを見た望はいたたまれなくなったのか、素直に謝ってくる。
それも俺の肩に手を置きながら……
「ねえ、望も思わない?」
「何がだよ?」
「ゾーイの回りくどい優しさのこと!」
「あー、それか……」
真由のその言葉を聞いて、望はいまだレオとモカと謎に攻防を続けるゾーイを見つめる。
溶けてしまいそうなほど、愛しいものを見つめる目で。
けど、この目をゾーイに向ける人物を俺はあと一人知ってる。
そして、俺は向かい側に座るデルタに視線を移す。
すごく優しくて、穏やかで、陽だまりのようなそんな目だった。
二人のゾーイを見つめる目は、見てるこっちが照れくさくなるほどの愛しいと叫ぶようなそんな目だ……
ゾーイが二人の気持ちに気付いているのかは、はっきりしていなかった。
二人に対する態度は出会った頃から変わってないしな……
けど、いろんなことに鋭いゾーイのことだから、とっくに気付いていてあえて同じ態度で接してるとか……
「何が、生き残って頂点に立つだよ。猛獣がうようよしてて何かと物騒だから、少しぐらい危機感を持てって、普通に言えってんだよ」
「その意見、俺も賛成だわ。文明進めろは大げさすぎるよな?」
望の悪態をついたような、からかうような言葉にデルタも乗っかる。
そうすると、二人はわかち合ったように笑い合うのだ。
まあ、今は当人達が平和なら、俺はそれ以上は何も言わないけどね。
「けど、きっとゾーイは、そうやって文明を一気に進めて、レオ達の生活を豊かにすることで、自分達のことを受け入れてくれたことへの恩返しと、人類の罪滅ぼしをしようとしてくれてるんだよね」
ソニアはそう言いながら、すごいなととても小さな声で呟いていた。
「そうね……ゾーイは自分を、わざと悪役じゃないけど、何か失敗した時に自分に矛先がくるようにしてる。そうすることで、レオ達には思い切って挑戦してほしいってことなんだと思う」
「何歩先を歩いているんだろうな……」
真由の穏やかな声に、俺は誰かに聞かせるでもないような音量で呟いた。
単純に見えて、ゾーイはいくつもの可能性を持っている。
自分のことしか考えていないように思わせて、最終的には人のことばっかり考えているよな……
「あ、そうだ! 男子全員で、他の作業は後回しでいいから、冷蔵庫の制作よろしく! 期限十日ね? あ、一秒でも過ぎた場合は三日間三食抜きなので、文字通り死ぬか生きるか頑張ってね?」
うん、やっぱり全部だ、この一連の言葉は全部、前言撤回します。
ゾーイは史上最悪の自己中です。
「三日が何時間か、何分か、何秒か、数えたことはあるのかあああ!!!!」
「そんな無茶ぶりあるかよ!? せめてこの楽しい空間ではまだ言ってほしくなかったあああ……!!」
ハロルドは天に叫び、シンは床に平伏して泣いていたかもしれない。
とにかく、二人の体勢が真逆で、当事者でなかったら、爆笑していただろう。
うん、当事者でなかったらな……
「罰が下手すりゃ命に関わるぞ! 何をどう考えても重すぎだろ!」
「昔から言うでしょ? 赤信号みんなで渡れば怖くないってさ?」
「赤信号は怖くないけど、みんなで空腹の待つ未来は地獄しかないけど!?」
「菜々美~? ハーブチキン取って」
望とデルタに挟まれて、これでもかと罵詈雑言を浴びせられてるのに、ゾーイは見事にサラリと受け流していく。
そして、返事をすることすらもやめてしまって橘さんにハーブチキンを強請るという始末だ。
ちなみに、モーリスはお茶を飲んでおり、アランは既にその場にいなかった。
どうやら、考えることをやめたり、最初から聞かなかったことにするという選択をそれぞれ選んだようだ。
「これは、明日から大変だな……」
けど、この男だけは違うようで……
「サトル? お前、もしかしてちょっとワクワクしてないか?」
「あ、バレた?」
「呆れたな。お前にとって、ゾーイからの無茶ぶりはゲーム感覚か?」
「何事も、人生は経験だってば」
「そうかよ……俺は今のうちに食事を楽しんどくとするよ」
サトルのポジティブなバカっぷりには呆れを通り越して、感心すらする。
俺はテーブルの奥にある手羽先を取りに行くために、立ち上がる。
けど、手羽先よりも先に目に止まった人物に俺は話しかけた。
「ジェームズ、具合悪いのか?」
「え? あ、昴くん……」
「大丈夫か? 何か、ほとんど食べてなくないか?」
目に止まったのは、取り皿が綺麗なままになっていたジェームズだった。
そういえば、さっきからずっとジェームズの声を聞いてなかったような……
「食欲ないんだよね……」
「けど、一口ぐらい食べないと……」
「そうだよね……ごめん、もう寝ようと思う」
それだけ言うと、ジェームズはフラフラな足取りで奥に消えてしまった。
***
全員の知恵と体力を振り絞り、俺達は本当に十日で冷蔵庫を完成させた。
三日間の三食抜きなんて本来なら人間のやることではないけど、あのゾーイは常識で当てはめてはいけないというのがアランを抜いた全員の総意だった。
まあ、そんなわけで死にものぐるいで完成させた。
けど、この冷蔵庫によって、あんな事件に発展すると誰が想像できたか……
それは、冷蔵庫が完成してから五日目の夕方だった。
「おい! 食料が荒らされてるぞ!」
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