73 / 257
第三章-⑶ ジェームズとコタロウ
友達が友達を誘拐しました
しおりを挟む
「ジェームズ、何か言ってくれ! 何か理由があるのだろう!?」
「そうよ、話して? 全部聞くわ!」
ハロルドとクレアが、手にランプを持って照らしながら必死に檻の中のジェームズに話しかけている。
そう、今のジェームズは俺達が最初に入れられた、あの檻の中だ。
「コタロウ、お願い! こんなのあんまりだよ……ジェームズのこと、檻から出してあげてよ!」
「そうだよ! さすがに、ここまでやるのはやりすぎだってば!」
「ジェームズも反省してるし! こんなこと絶対、二度とさせないからさ!」
「あ、ああ、そうだ! 俺達からもよく言い聞かせるからよ……!!」
ジェームズを檻にぶち込んだ張本人であるコタロウに対して、橘さんとソニアは涙声で、デルタとシンは頼み込んで必死に訴えかけている。
「じゃあ、お前達が代わりに入るか」
けど、コタロウは俺達をこれでもかと睨みつけて、そう吐き捨てる。
そうなると、誰も何も言えず、俯いてしまうばかりだった。
「こんなこと、争いごとを望まず、平和を重んじるあなたらしくありません」
意外なことに、あのあまり他人に興味を示さないモーリスまで、今回のことには驚いているようだった。
同じアーデルのメンバーとして、何か思うことがあるのだろうか……
けど、どんなに話しかけても、檻の中のジェームズは返事をしなかった。
ずっと、檻の奥で俯いたままだ……
「……寝る」
「え、アラン!?」
しばらくして、アランは不機嫌なことを隠そうともせず、そう呟いた。
そして、振り返ると、ソニアの呼びかけには応答せず、足早に教会に戻るアランの背中がそこにはあった。
まあ、予想通りの展開だけど……
「チッ……薄情な野郎だな」
そんなアランを見送りながら、俺の隣にいた望がそう悪態をつく。
うん、お前の言い分はわかるけど……
「望は人のこと言えないでしょ?」
「はあ!? 一緒にすんなよ!」
「いやあ、ちょっと前までの望くんは同じような感じだったけど?」
まあ、すかさず俺が思っていた通りのことを真由が指摘する。
すぐに望は反論するが、あっさりとサトルからからかうような言い回しで否定されていた。
「こいつら……おい、昴!」
「え? あー、その……ゾーイ?」
分が悪くなったことで、助けを求めるように望に俺は名前を呼ばれる。
どうしようかと辺りを見渡すと、それまで珍しく黙って見ていたゾーイが檻に向かって歩くのが目に入った。
「おーい、ジェームズ?」
ゾーイが檻に近付くと、ハロルドとクレアは檻の前から自然と避ける。
そして、ゾーイはジェームズのことを呼ぶが、やっぱり反応はなかった。
「……まあ、いいや。とりあえず、今日は頭冷やしな。あ、冬本番がまだとは言え、冷えてきたから風邪ひかないように気を付けてよね?」
「え、ゾーイ、それだけなのか!?」
檻の前をさっさと去り、あっさりと教会に戻ろうとするゾーイに、たまらずハロルドが声をかける。
けど、そのハロルドの言葉がほぼ俺達の総意だと思う。
正直、ゾーイならジェームズから理由を聞き出そうと、あの手この手で追い詰めると思っていたから……
何より、コタロウにいつも通りに神経を逆撫でするようなことを言って、無理矢理にでもジェームズを檻から出すと思っていた。
その証拠に、あからさまにゾーイを警戒していたコタロウの今の顔は、拍子抜けしたと書いてあるようだ。
「は? 逆に何かある? 本人はだんまり決め込んでて、檻の中で一夜過ごすことに異論ないっぽいじゃん。ついでに食べすぎで気持ち悪くて動けないみたいだし。これ以上はいくら事態を進展させたくても、進展しようがないでしょ?」
「そ、それは……しかしだ!」
「あたしは寝るから。それじゃ、また明日もよろしく~!」
ハロルドの次の言葉を待たずして、ゾーイは誰にも有無を言わせずに、その場を立ち去ったのだ。
そして、俺達もジェームズの頑なな黙秘にどうすることもできず、檻の中で寒くないようにと毛布を与えて、その日は解散となったのだ。
しかし、この一連の流れは嵐の前の静けさにすぎなかったのだと、翌日に俺は思い知ることになる――
***
「全員追いかけろ! そして、必ず捕まえろ!」
「どっちに行った!?」
「草の根分けてでも、捜し出せ!」
昼ご飯を食べ終わり、一息ついた時に外からコタロウや兵士達の慌てたような怒ったような声が響いてきた。
俺達は不審に思って、外に出る。
すると、前後左右あちこちで、犬族と猫族の鎧を着た兵士達が王国中を走り回っていたのだ。
「は? 何かあったのか……?」
「お~い!! みんな~!!」
俺がそう呟くと、向こうからレオが猛スピードで走って来るのが見えた。
「はあ……はあ……あ、あの……ね!」
「れ、レオ!? まずは、落ち着いて?」
そして、俺達の前までやって来ると息吐く間もなく、苦しそうにしながらも慌てたようにまくし立てる。
とりあえず、俺達はレオの息が整うのを待つことにした。
「レオ、大丈夫か? 落ち着いたか?」
「ごめん……僕はって……あ、ここには全員揃ってるか!?」
「え? まあ、ジェームズ以外は……あれ? ゾーイはどこ行った?」
我に返ったようなレオのすごい剣幕に押されて、俺は辺りを見渡す。
そこで俺は初めて、どこにもゾーイが見当たらないことを確認した。
「あれ……さっきまで、一緒にご飯を食べていたはずなんだけど……」
「本当に、油断ならねえよな……」
真由や望も、全員がキョロキョロと目的の人物を捜すが、ゾーイはどこにも見当たらなかった。
「やっぱりか……聞いてくれ、ゾーイのことで話がある!」
途端に真剣な顔を見せたレオが、そう切り出す。
「今さっきゾーイが檻の前にいた見張り番を縛り上げて、ジェームズのことを誘拐した!」
「そうよ、話して? 全部聞くわ!」
ハロルドとクレアが、手にランプを持って照らしながら必死に檻の中のジェームズに話しかけている。
そう、今のジェームズは俺達が最初に入れられた、あの檻の中だ。
「コタロウ、お願い! こんなのあんまりだよ……ジェームズのこと、檻から出してあげてよ!」
「そうだよ! さすがに、ここまでやるのはやりすぎだってば!」
「ジェームズも反省してるし! こんなこと絶対、二度とさせないからさ!」
「あ、ああ、そうだ! 俺達からもよく言い聞かせるからよ……!!」
ジェームズを檻にぶち込んだ張本人であるコタロウに対して、橘さんとソニアは涙声で、デルタとシンは頼み込んで必死に訴えかけている。
「じゃあ、お前達が代わりに入るか」
けど、コタロウは俺達をこれでもかと睨みつけて、そう吐き捨てる。
そうなると、誰も何も言えず、俯いてしまうばかりだった。
「こんなこと、争いごとを望まず、平和を重んじるあなたらしくありません」
意外なことに、あのあまり他人に興味を示さないモーリスまで、今回のことには驚いているようだった。
同じアーデルのメンバーとして、何か思うことがあるのだろうか……
けど、どんなに話しかけても、檻の中のジェームズは返事をしなかった。
ずっと、檻の奥で俯いたままだ……
「……寝る」
「え、アラン!?」
しばらくして、アランは不機嫌なことを隠そうともせず、そう呟いた。
そして、振り返ると、ソニアの呼びかけには応答せず、足早に教会に戻るアランの背中がそこにはあった。
まあ、予想通りの展開だけど……
「チッ……薄情な野郎だな」
そんなアランを見送りながら、俺の隣にいた望がそう悪態をつく。
うん、お前の言い分はわかるけど……
「望は人のこと言えないでしょ?」
「はあ!? 一緒にすんなよ!」
「いやあ、ちょっと前までの望くんは同じような感じだったけど?」
まあ、すかさず俺が思っていた通りのことを真由が指摘する。
すぐに望は反論するが、あっさりとサトルからからかうような言い回しで否定されていた。
「こいつら……おい、昴!」
「え? あー、その……ゾーイ?」
分が悪くなったことで、助けを求めるように望に俺は名前を呼ばれる。
どうしようかと辺りを見渡すと、それまで珍しく黙って見ていたゾーイが檻に向かって歩くのが目に入った。
「おーい、ジェームズ?」
ゾーイが檻に近付くと、ハロルドとクレアは檻の前から自然と避ける。
そして、ゾーイはジェームズのことを呼ぶが、やっぱり反応はなかった。
「……まあ、いいや。とりあえず、今日は頭冷やしな。あ、冬本番がまだとは言え、冷えてきたから風邪ひかないように気を付けてよね?」
「え、ゾーイ、それだけなのか!?」
檻の前をさっさと去り、あっさりと教会に戻ろうとするゾーイに、たまらずハロルドが声をかける。
けど、そのハロルドの言葉がほぼ俺達の総意だと思う。
正直、ゾーイならジェームズから理由を聞き出そうと、あの手この手で追い詰めると思っていたから……
何より、コタロウにいつも通りに神経を逆撫でするようなことを言って、無理矢理にでもジェームズを檻から出すと思っていた。
その証拠に、あからさまにゾーイを警戒していたコタロウの今の顔は、拍子抜けしたと書いてあるようだ。
「は? 逆に何かある? 本人はだんまり決め込んでて、檻の中で一夜過ごすことに異論ないっぽいじゃん。ついでに食べすぎで気持ち悪くて動けないみたいだし。これ以上はいくら事態を進展させたくても、進展しようがないでしょ?」
「そ、それは……しかしだ!」
「あたしは寝るから。それじゃ、また明日もよろしく~!」
ハロルドの次の言葉を待たずして、ゾーイは誰にも有無を言わせずに、その場を立ち去ったのだ。
そして、俺達もジェームズの頑なな黙秘にどうすることもできず、檻の中で寒くないようにと毛布を与えて、その日は解散となったのだ。
しかし、この一連の流れは嵐の前の静けさにすぎなかったのだと、翌日に俺は思い知ることになる――
***
「全員追いかけろ! そして、必ず捕まえろ!」
「どっちに行った!?」
「草の根分けてでも、捜し出せ!」
昼ご飯を食べ終わり、一息ついた時に外からコタロウや兵士達の慌てたような怒ったような声が響いてきた。
俺達は不審に思って、外に出る。
すると、前後左右あちこちで、犬族と猫族の鎧を着た兵士達が王国中を走り回っていたのだ。
「は? 何かあったのか……?」
「お~い!! みんな~!!」
俺がそう呟くと、向こうからレオが猛スピードで走って来るのが見えた。
「はあ……はあ……あ、あの……ね!」
「れ、レオ!? まずは、落ち着いて?」
そして、俺達の前までやって来ると息吐く間もなく、苦しそうにしながらも慌てたようにまくし立てる。
とりあえず、俺達はレオの息が整うのを待つことにした。
「レオ、大丈夫か? 落ち着いたか?」
「ごめん……僕はって……あ、ここには全員揃ってるか!?」
「え? まあ、ジェームズ以外は……あれ? ゾーイはどこ行った?」
我に返ったようなレオのすごい剣幕に押されて、俺は辺りを見渡す。
そこで俺は初めて、どこにもゾーイが見当たらないことを確認した。
「あれ……さっきまで、一緒にご飯を食べていたはずなんだけど……」
「本当に、油断ならねえよな……」
真由や望も、全員がキョロキョロと目的の人物を捜すが、ゾーイはどこにも見当たらなかった。
「やっぱりか……聞いてくれ、ゾーイのことで話がある!」
途端に真剣な顔を見せたレオが、そう切り出す。
「今さっきゾーイが檻の前にいた見張り番を縛り上げて、ジェームズのことを誘拐した!」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
戦艦大和、時空往復激闘戦記!(おーぷん2ちゃんねるSS出展)
俊也
SF
1945年4月、敗色濃厚の日本海軍戦艦、大和は残りわずかな艦隊と共に二度と還れぬ最後の決戦に赴く。
だが、その途上、謎の天変地異に巻き込まれ、大和一隻のみが遥かな未来、令和の日本へと転送されてしまい…。
また、おーぷん2ちゃんねるにいわゆるSS形式で投稿したものですので読みづらい面もあるかもですが、お付き合いいただけますと幸いです。
姉妹作「新訳零戦戦記」「信長2030」
共々宜しくお願い致しますm(_ _)m
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる